海外発トレンドレポート

中国における日本伝統工芸品市場レポート(3)西南地域、歴史的に他文化を受け入れる素地あり
(中国・成都発)

2023年2月14日

中国の日本伝統工芸品市場についてシリーズで紹介をする。第3 回は四川省成都市に拠点を置く「成都万匠文化発展有限公司」(以下:成都万匠)の周洪氏を取材し、同社事業と四川省成都市及び隣接する直轄市である重慶市を中心とした中国西南地域の日本産伝統工芸品市場について話を聞いた。

西南地域の工芸品市場について語る周洪氏(ジェトロ撮影)

周洪氏は日本の大学に留学中に、茶道を体験したことをきっかけに、日本文化や伝統工芸品に関心を持った。成都市に戻ってから日本産伝統工芸品の輸入・販売事業を開始。現在は日本の多くの工芸士と繋がりを持ち、陶器、鉄器、漆器、織物等150品目を取り扱っている。

織物が浸透する成都

成都万匠が取り扱う製品の中で、人気商品はシルクスカーフ等の織物。京都の染師が手作りで制作したカラフルなシルクスカーフが主力商品である。中国の西南地域は古くから織物産業が盛んで、四川省の四川刺繍と四川蜀錦、重慶市の栄昌夏布は中国を代表する工芸品のひとつである。市内には多数の織物店が軒を連ね、日常のファッションとしてスカーフを身に着ける人も多い。成都万匠が取り扱う織物製品も当地の20~40代の女性を中心に人気である。

「四川美人」という言葉が一般的になっているとおり、四川省や重慶市には容姿端麗な女性が多い。特に成都市は2020年「新ファッション都市指数報告」の都市別ランキングでは中国全土1位になるなど、ファッションに敏感な人が多く、アパレルに対してお金を惜しまないと言われる。ジェトロが実施した調査によると、2019年の中国人1人当たりの消費支出内訳は、上海市民のアパレル消費支出は支出全体の4.5%であるのに対し、成都市民はこれが8.5%と比較的高い数値を示した。これは上海市民の平均住居費が支出全体の33%を占めるのに対し、成都市民は21.1%と低く抑えられており、住居費を安く抑えられる分アパレルにより多くのお金を回す余裕があるためであると考えられる。

表1:2019年上海市、成都市の居住者の消費支出(単位:元)
都市 上海 成都
1人当たり消費支出 45,605 - 29,720 -
住居 15,046 33.0% 6,269 21.1%
アパレル 2,072 4.5% 2,520 8.5%
食品・タバコ・酒類 10,952 24.0% 9,692 32.6%
生活用品 2,123 4.7% 1,648 5.5%
交通・通信 5,356 11.7% 3,561 12.0%
教育・文化・娯楽 5,495 12.0% 3,214 10.8%
医療・健康 3,205 7.0% 1,658 5.6%
その他 1,356 3.0% 1,158 3.9%

工芸品は高価であるため、飾るものというイメージを持つ人も多いが、織物は身にまとって普段使いができる。周洪氏は「身にまとう工芸品」をコンセプトにして、同社の織物を積極的に日常使いすることを推奨する。例えばシルクスカーフは使えば使うほど経年変化によって色落ちや変色が表れる。その変化を否定的に捉えるのではなく、むしろ美しさとして楽しむ。周洪氏が学生時代に茶道を通じて学んだ「わびさび」の魅力を、同社が販売する織物を通じて中国西南地域の人々に伝えていきたいと語る。

成都万匠が取り扱う京都産のシルクスカーフ(成都万匠提供)

対日貿易は不慣れだが、異文化を積極的に受け入れる気質の西南地域

西南地域は日本から地理的に遠く、対日貿易に慣れていない土地柄である。当地には日本から直接商品を輸入できるバイヤーは多くない。西南地域で流通している日本産工芸品の大半は上海、大連といった沿岸部都市で輸入されたものが、仲介業者を経由して当地へ流通される。そのため中間手数料、流通コストが余計にかかり、沿岸部よりも高価格帯で販売されることになる。

表2:2021年40ftコンテナ平均輸送費用(単位:米ドル)
対日輸入 対日輸出
成都市 1546 1546
重慶市 1546 1546
上海市 600 900
大連市 294 804

物流コストの面からすれば不利となる西南地域ではあるが、市場としてのポテンシャルは高い。四川省は明代末期に戦乱や疫病等により人口の9割が死亡。清代初期にかけて、「湖広填四川」と呼ばれる移民運動が起こり、湖南省、湖北省、広東省など周辺都市から大量の住民が四川省へ移住した。有名な四川料理も、辛くて有名な湖南料理をベースに広東料理、湖北料理等の他地域の料理が融合されて作られたものだと言われる。こうした歴史的背景から、四川省、重慶市は他文化の良いものを積極的に受け入れ、新しいもの文化を作り上げる気質がある。今日においても日本を始めとする海外の良いものを受け入れ、市民の生活に浸透している。

成都市内には古くから店舗を構えるイトーヨーカ堂に加え、近年ではロフト、蔦屋書店、ニコアンドといった工芸品、日用雑貨を販売する日系小売店の進出が加速しており、人々が日本産伝統工芸品を実際に手に取る機会が増えている。重慶市も一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会が運営するギャラリー兼ショップの青山スクエアが2019年にオープンしている。当ショップの海外店舗はフランス・パリに続く2店舗目であり、中国では初店舗である。重慶市にオープンさせた理由について、店舗関係者は「北京、上海、重慶の3ヵ所が候補地に挙がっていたが、重慶は人口が3,300万人と多く、生活に余裕のある富裕層が一定数以上いる。また古くから伝統織物、刺繍等の生産が盛んな都市で、市民の暮らしに工芸品が根付いているから」と述べた。

重慶市は2018年に「重慶市伝統工芸振興計画」を定め、重慶市の伝統工芸の振興を図っており、政府主導で多数の工芸品イベントを開催している。重慶市の政策により、日本の伝統工芸品が受け入れられやすい下地がある。


作成
ジェトロ・成都事務所
執筆
寺田俊作
レポートの利用についての注意・免責事項
本レポートは、日本貿易振興機構(ジェトロ)成都事務所が作成し、2023年2月に入手した情報に基づき作成したものです。掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。本レポートはあくまでも参考情報の提供を目的としており、提供した情報の正確性、完全性、目的適合性、最新性及び有用性の確認は、読者の責任と判断で行うものとし、ジェトロは一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロが係る損害の可能性を知らされていても同様とします。

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