特集:女性の経済エンパワーメント生理中でも制限のない輝きを(インド)
インドのナプキン市場

2018年3月7日

インドで生理は不浄なものと見なされ、女性たちの生活の妨げとなることが多かった。生理用ナプキンの利用率は都市部でも3割程度と見られており、生理の正しい理解を広げる動きは進みつつある。同市場で日本ブランドの製品を展開するユニ・チャームに、インド市場の特徴、インドの女性の社会進出などについて聞いた。

生理は不浄との観念

2015年度に調査された「国家家族健康調査(第4版)」によると、インドの15~24歳の女性の62%は生理中にナプキンではなく布を利用しているという。ナプキンを買う経済的余裕の無い人の中には、土や灰を利用する人もおり、感染症や子宮がんの原因にもなっている。ヒンズー教では生理は不浄なものと認識されており、都市部や若者層では考えが変わってきているものの、生理期間中の寺院への立ち入りや、家庭でも台所への立ち入りが禁じられる場合もある。また女子学生の中には、生理中に十分な対処ができないため、学校を休むことも少なくないなど、生理はインドの女性の生活を妨げている場合も多い。

インドを救うヒーロー、「パッドマン」

こうしたインドの状況に一石を投じるヒンディー語映画「パッドマン」が2018年2月に公開された。これは、ナプキンを購入する経済力が無い女性向けに、低価格ナプキン製造機を開発、インド全土に広めた社会企業家、アルナーチャラム・ムルガナンタム氏の実話が基になっている。生理中に不衛生な布を利用する妻を案じた主人公の男性が、清潔なナプキンを経済的な価格で女性が利用できるようになるようにナプキン製造機を開発。これを世の中に広めることで、女性の生理に対する正しい知識と理解を深め、ナプキン製造を通じた女性の社会進出支援にも貢献するストーリーだ。

映画の中で強調されていたのは、生理に対するタブー感。既にさまざまな州政府や非政府組織(NGO)がナプキンの無料配布や自動販売機の設置などを進めているが、生理に対する正しい理解が広がっていない場合や、恥ずかしさから狙い通りの効果が得られないことも多いようだ。「パッドマン」の観客には男性の姿も多く見受けられ、地方部で無料上映する計画などもあるようだ。

成長市場、開拓余地大きく

社会的背景から、普及途上のインドのナプキン市場の現状や今後を業界の専門家はどのように見ているのか。2011年からインドで生理用ナプキンを製造・販売している、ユニ・チャームのインド法人の池田裕二ダイレクターに聞いた。

質問:
現在のインドのナプキン市場は。
答え:
近年の都市部の市場は2桁成長を続けている。利用率は伸びているが、都市部でも普及率は3割程度と見られており、地方では1割程と予測される。市場は「ウィスパー」ブランドを展開するP&G、「ステイフリー」ブランドのジョンソン・エンド・ジョンソン、「ソフィ」ブランドを展開するユニ・チャームでほとんどをカバーしている。
広告はテレビ広告に注力している。インドでは商品にブランド力を出す意味でテレビ広告が持つインパクトが大きいこと、購入者が必ずしも利用者本人でない場合も多いので、家族全体を巻き込み幅広い層の目に触れる必要がある。
質問:
インドのナプキン利用の特徴は。
答え:
途上国では全般的に同様の傾向だが、インドも1日の使用枚数が少なく、1日1~2枚程度、1回の生理期間に約8枚を利用することが分かっている。経済的な理由もあるが、そもそも清潔なトイレがあまり無いといった場合もあり、ナプキンの交換頻度が限られる背景がある。そのためインド向け商品は長時間利用しても経血が漏れない吸収力が重要で、サイズも日本のものより大きくなっている。
インドは特に生理に対する正しい理解の欠如が、女性の健康維持、さらには生理を気にせずに活動できる機会の損失につながっている場合も多く、マスメディアを活用し、ナプキンの有用性を広めていくことは重要である。CSR活動として、これまで100校以上の学校の約15万人の生徒に対し、生理やナプキンの正しい理解を広げる授業も実施している。

スマホの普及拡大も鍵に

質問:
インドの女性の社会進出をどう見ているか。
答え:
ここ数年の大きな変化として、スマートフォン(スマホ)の急速な普及がある。これまで女性は周囲に相談しづらい内容は自分の中にとどめておかざるを得ない状況が多かったが、今は安価なスマホが普及しているため、周囲に直接聞きづらい疑問などは、個別にスマホで検索、ソーシャルメディアなどで相談することもできるようになった。これは今後の女性の社会進出の大きな原動力となるだろう。
またスマホの拡大により、さらに広がるであろう「口コミ」もテレビと同様に重要な販売促進のための要因と認識している。
質問:
自社商品の強みは。
答え:
まずは品質。ナプキンを利用する上で最も重要なことは経血が漏れないことなので、その点については製造コストがかかったとしても機能を犠牲にせずに商品を展開している。また、商品のバックボーンとなるブランドが持つポリシーを守ることが重要だと考えている。「ソフィ」は、全世界共通で、女性が生理中でも閉じこもることなく輝き続けることをコンセプトにしており、各国でその地に適した形でのブランド構築や広告で工夫をしている。例えばインドの「ソフィ」のテレビCMの一つでは、都市部の先進的な女性の友人との旅行シーンを舞台に、長時間の移動や人と近くで触れ合っても経血が漏れない、においがしないといったことを強調している。
ユニ・チャームのもう一つの特徴は、競合するP&Gが全世界で共通の製品を展開していることと異なり、各国でその国の状況に応じた製品を開発・供給していることだ。前述のとおりインド市場向けには、インドの利用状況に応じた製品を開発している。
インドは他国と比べて、単に売り上げを上げるだけでなく、そこに哲学があるかどうかが重要視される市場だと感じている。自社商品を通して、インドの女性が生理中でも気にすることなく活発に、さらに社会に進出していくことに貢献したい。

インドのナプキン市場は開拓余地に溢れている。インド全土で生理やナプキンについての正しい理解が進み、女性が更に社会で輝いていくことが望まれる。


「ソフィ」ポスターにはヒンディー語で「私たちは世界の先を行く」というキャッチコピーが(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ニューデリー事務所
古屋 礼子(ふるや れいこ)
2009年、ジェトロ入構。在外企業支援課、ジェトロ・ニューデリー事務所実務研修(2012~2013年)、海外調査部アジア大洋州課を経て、2015年7月からジェトロ・ニューデリー事務所勤務。