特集:世界の貿易自由化の新潮流 主要国の対サブサハラアフリカ通商政策:今後を考える視点

2017年10月16日

経済成長の潜在性が高いサブサハラアフリカ諸国。この「最後のフロンティア」に対し、EU、米国、中国、日本の各主要国・地域は通商政策において異なるアプローチをとる。EUは新たにFTAを締結し、米国はAGOAの延長を決めた。中国は官民による経済協力を加速する。各国・地域の政策を検証し、今後の対サブサハラアフリカ政策の行方について考える。

サブサハラアフリカ(SSA)(注)では、域内の経済統合と、域外との対外経済関係の強化がともに着実に進んでいる。まず域内では、2015年6月に東アフリカ共同体(EAC)、南部アフリカ開発共同体(SADC)、東南部アフリカ市場共同体(COMESA)の三つの地域経済共同体間で自由貿易圏(TFTA)が署名に至った。また同年同月には、アフリカ連合の全加盟国が参加する大陸内自由貿易圏(CFTA)の交渉も開始された。2017年中の設立を目指し、参加国は交渉を続けている(詳しくは「2017年版世界貿易投資報告」第II章 「世界の貿易ルール形成の動向」を参照)。

域外との関係では、SSA諸国の中には高成長を遂げている国々があり、今後の人口増加も見込まれることから、最後のフロンティア市場として注目を集める。以下ではEU、米国、中国、日本のSSAとの貿易関係を概観したうえで、これらの国・地域がどのような、貿易協定や特恵関税制度、経済協力を通じ、SSA諸国と関係を構築しているのかを検証する。

中国とSSA諸国の貿易が拡大

表1はSSAの貿易に占めるEU、米国、中国、日本の割合である。2001年以降で大きな変化として挙げられるのは、輸出入ともに中国の台頭がみられることである。SSAの輸入では、2001年時点で中国の割合はわずか3.7%で、EU(36.5%)の約1割であった。中国の割合はその後徐々に上昇を続け、ピークの2015年には17.1%まで拡大した。SSAによる輸出を見ても同様で、2001年時点で2.5%だった中国の割合は2013年のピーク時に15.7%まで上昇した。一方、2001年に36.5%を占めていたSSAの輸入におけるEUのシェアは、同年をピークに低下し、2016年は23.8%となっている。米国、日本のシェアも同様に、それぞれ2001年、2002年をピークにその割合は低下している。

表:SSAの輸出入に占める主要国・地域の割合(%)
輸出元 輸出先 2001 2005 2010 2016
中国 SSA 3.7 6.8 12.5 16.7
EU 36.5 32.1 26.3 23.8
米国 8.4 7.3 6.6 4.8
日本 5.3 4.9 3.9 2.8
SSA 中国 2.5 7.3 12.1 12.8
EU 33.0 27.7 20.4 21.7
米国 17.9 23.8 17.3 7.1
日本 2.1 3.7 2.4 2.0
注:
分母はSSA諸国の全輸出(または輸入)額。
資料:
”DOTS(2017年10月2日版)”(IMF)より作成

各国のSSAへの通商政策

これら主要国・地域の通商政策には異なる特徴がみられる。以下では、各国・地域のSSA諸国に対する通商政策や経済協力、さらには首脳間やビジネスフォーラムなどの対話を含めた経済関係を検証していく。

1. FTAを軸とした通商政策を展開するEU

主要国の中で歴史的にSSA諸国と関係が最も深いのがEUだ。両者間の経済関係の大枠を定めるのが、2000年にEUとアフリカ・カリブ・太平洋(ACP)諸国で結ばれたコトヌー協定である。それまでのロメ協定(1975年)に取って代わったコトヌー協定(詳しくは、調査レポート「EUの対アフリカ戦略 - FTA交渉を中心に -(2013年4月)」参照)は、SSA諸国を含むACP諸国とEU間の通商関係の軸でもある。両者のパートナーシップはEUによる開発協力の意味合いが強いが、その関係は対等で、個々の国の事情にあった発展プロセスの支援を目標とする。

EUのSSA諸国との通商関係の最大の特徴は、このコトヌー協定を基としてFTAを結んでいることである。2016年にはガーナ、コートジボワール、そして南部アフリカ開発共同体の一部の国々とのFTAを発効させた。また、2014年2月に西アフリカ諸国の16カ国と、同年10月にEACとのFTAの交渉を終了させている。さらに現在も、中央部や東部、南部のアフリカ諸国との交渉を行っている。コトヌー協定は2020年を期限としており、それ以降の具体的な政策についてはまだ発表がない。しかし、2015年にEUが発表した「Trade for all」では、SSA諸国とFTAを通じた関係深化を目指す記載があり、引き続き、同様の通商政策が取られることが予想される。

SSA諸国の多くは特恵関税制度を利用する。この中でも特徴的なのがEBA(Everything but Arms)協定である。最貧国(LDC)に分類される国は、武器以外の品目を量的規制なく無税で輸出できる。

2. 米国の対SSA政策はAGOAが中心

米国の対SSA通商政策は、2000年に施行されたアフリカ成長機会法(AGOA)を中心とする。SSA諸国に対し米国の巨大市場へのアクセスを改善させたAGOAは、 2015年に10年の延長が決定し、2025年までの適用が確定した。「市場経済」、「法による統制」、「政治多様性」などの要件を満たす国のみAGOAの利用が可能である。表1に見たように、SSA諸国の輸出に占める米国の割合は近年減少傾向にあるものの、2016年のAGOAを利用した米国の輸入額は前年比14.2%増の105.8億ドルであった。品目別にみると、原油とその調整品が最大の輸入品目である。米国でのシェールガス開発などを背景に輸入量は減少したが、それでもエネルギー関連はAGOA輸入の6割超を占める。

AGOAの特徴としては、特恵関税品目に繊維製品が含まれる、かつそれらに対し柔軟な原産地規則が認められていること、が挙げられる。米国は繊維製品に比較的高い関税率を設けるが、SSA諸国の同産業の輸出競争力の成長、ひいては経済全体の成長に資するという 観点から、AGOA対象国の中でも特定の要件を満たす国からの輸入では関税が撤廃されている。さらに、繊維製品では米国が取り組んできた他のFTAと比べて柔軟な原産地規則を定める。例えば衣服(Wearing Apparel)ではAGOA対象国内だけでなく、特定の工程で最終価格の25%以下であれば対象国外での作業を認めている。また、SSAの中でも発展の遅れている国に対しては、第三国からの材料の輸入も認める。ただし、依然として米国の規則は他国に比べて厳しいとの声もSSA諸国からは聞かれる。

2015年のAGOA延長にあたっては、米国内でAGOAそのものの在り方が精査の対象となった。SSA諸国からの輸入にのみ適用される特恵税率でなく、互恵的なFTAを結ぶべきと指摘する声もあった。実際、ケニアやモーリシャスは米国とのFTA交渉に興味を示した。ただ、2000年代半ばには南部アフリカ関税同盟(SACU)とのFTA交渉がとん挫したという経緯がある。交渉中止の明確な理由は明らかでないが、両国の間で目指す自由化の水準に大きな隔たりがあったことが理由の一つとされる。

AGOAの延長決定から既に2年が過ぎ、延長期限である2025年以降のSSA諸国との通商関係の行方が注目される。2017年1月に発足した米現政権の対SSA政策について、これまで参考となる発言や資料は少なかった。しかし、同年6月に開催された米国・アフリカビジネスサミットで、ロス商務長官はAGOA継続に前向きな発言をした。また、8月に開催されたAGOAフォーラムで、ライトハイザー通商代表が、FTAには言及しないものの、将来的に「より互恵的な」関係を目指すことを示唆した。2025年以降の通商政策についてより具体的な政策の提示が待たれる。

3. 貿易のみならず経済協力においても存在感を示す中国

中国とSSA諸国の関係は、前述のEUや米国のそれとは大きく異なる。共に途上国である両者の関係は国際社会における地位向上という目標を共有した政治的側面が強かった。この関係が中国の経済開放以降、少しずつ変化する。2000年代に入ると中国経済は急成長を遂げ、先にみたようにSSA諸国との貿易も飛躍的に増加した。貿易品目を見ると、中国の輸入で最も多い品目は鉱物性燃料(輸入額の46.4%)で、次いで鉱石(16.0%)、貴金属(12.4%)と続き、エネルギー関連が半分以上を占めることがわかる(いずれも2016年の数値)。中国はGSPのような特恵関税制度は設けないものの、SSA諸国の中でLDCに分類される国に対して440品目の関税を無税としている。

中国は2000年から中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)を3年おきに、中国とSSA諸国で交互に開催し、SSA諸国首脳との対話を続ける。開始当初の第1回、第2回は同会議の情報はあまり公開されなかった。しかし、2006年の第3回から経済協力の内容など、具体的な成果が公表され始めた。2015年12月に開催された第6回FOCACでは、中国が3年で総額600億ドルに上る経済協力を行うことが発表された。過去の経済協力では、SSA諸国に供給した資金で中国企業がプロジェクトの発注を受けて、アフリカでのビジネス拡大を図るといった例も見られた。習国家主席は、両者の関係は引き続き「Win-win」であるべきと強調するほか、初めてSSA諸国の工業化支援を前面に打ち出し、同地域の経済発展に寄与する考えを明らかにした。また、1991年以降、中国外相の海外訪問が毎年アフリカから始まることも、中国が外交面において同地域を重要視していることの現れである。

4. 経済協力を軸とする関係が続く日本

SSAの輸出入における日本の比率は2001年以降、大きな変化はなく、他の主要国に比べ貿易相手としての重要度は劣る。2016年におけるSSAからみた日本の貿易比率は2%台にとどまる(輸出:2.0%、輸入:2.8%)。日本の輸入上位品目は貴金属(32.9%)と鉱物性燃料(17.1%)が半分以上を占める(いずれも2016年)。EUに見られたSSA諸国とのFTAや、米国のAGOAのような特定のSSA諸国に対する特恵制度はなく、日本への輸入には他の途上国と同様にGSPが適用される。日本のGSPでは鉱工業品は一部を除いてほぼすべての品目の関税が撤廃されているほか、LDCからの輸入では農産品も含めほぼすべての品目が無税となっている。

日本とSSAの関係において一つの転機となったのが、1993年に第1回が開催された「アフリカ開発会議(TICAD)」である。第1回TICADの開催は、日本とSSAの関係構築に寄与するとともに、同地域の開発問題に国際社会の目を向けさせた。当初、5年ごとに開催していた同会議は、2013年以降、3年ごとの開催が決定された。2016年のTICADは、第6回にして初めてアフリカ(ケニア・ナイロビ)で開催された。同会議では、安倍首相が官民総額300億ドル規模を、質の高いインフラ整備や保健システムの構築などに投じると発表した。また、日本とアフリカの企業・団体間で70以上の覚書が結ばれた。こうした動きは今後の日本とSSA諸国の経済関係の進展に結びつくと期待される。

主要国の政策理解がSSA進出のカギに

SSAと歴史的に深いつながりを持つEUは、FTAを軸に最も包括的な通商政策をとる。米国では、2000年に発効したAGOAの2025年までの延長が決まった。AGOAは繊維製品に柔軟な原産地規則を設けるなど、米国の他のFTAとは異なる特徴を持つ。SSAとの貿易拡大が顕著な中国は、SSA諸国と「Win-win」の関係を築くことを前面に打ち出し、経済協力と中国企業の事業を組み合わせた独自の政策を展開する。日本は、多くのSSA諸国をGSP対象国とする。GSP以外では、1993年から続くTICADを軸に経済関係を構築する。

今後、主要国の政策に変化はみられるだろうか。EUは発効済みや合意済みのFTAに加え、交渉も継続しており、今後もSSA諸国とFTAを軸とした関係深化を目指すことが予想される。2025年にAGOAが期限を迎える米国は、今後もAGOAと同様の片務的な特恵関税制度を継続するのか、EUのようにFTAを軸とした政策に移行するのか注目される。米国の政策変更は、他国にも影響を及ぼし得る。また、中国は今後も、FOCACなど政治対話の場でどのような議題を挙げるか注目される。日本とSSAの関係は従来経済協力が中心であったが、TICADを契機にビジネス関係の深化もみられる。

主要国のSSA諸国に対する経済政策は過去20年で大きな変化を遂げた。中長期的な視点でSSA諸国とのビジネスを考えるとき、こうした主要国の対SSA政策を理解することが、最後のフロンティア市場とされるSSA進出の一助となろう。

参考表:SSAにおけるEU、米国、日本のFTA・特恵関税制度対象国〇は発効済FTAならびに特恵関税の対象国であることを示す
SSA諸国 EU 米国 日本
FTA EBA GSP AGOA GSP
アンゴラ
ベナン
ボツワナ
ブキナファソ
ブルンジ
カーボヴェルデ
カメルーン
中央アフリカ
チャド
コモロ
コンゴ民主共和国
コンゴ共和国
コートジボワール
赤道ギニア
エリトリア
エチオピア
ガボン
ガンビア
ガーナ
ギニア
ギニアビサウ
ケニア
レソト
リベリア
マダガスカル
マラウィ
マリ
モーリシャス
モザンビーク
ナミビア
ニジェール
ナイジェリア
ルワンダ
サントメ・プリンシペ
セネガル
セーシェル
シエラレオネ
南アフリカ共和国
南スーダン
スワジランド
タンザニア
トーゴ
ウガンダ
ザンビア
ジンバブエ
注:
2017年9月末時点。
資料:
ジェトロ「世界と日本のFTA一覧」(2016年12月)ならびに各国・地域資料を基に作成"

注:
SSAの定義はIMFによる。

※本稿は、当初原稿の内容に補足的説明の加筆・修正を行っております。2017年10月30日

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
長﨑 勇太(ながさき ゆうた)
2016年、日本貿易振興機構(JETRO)入構。