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特集

世界の貿易自由化の新潮流

2000年代、世界的にFTA締結や、高度な地域経済統合を進める動きが加速してきた。しかし2016年以降、「内向き政策」への支持が拡大するなど、世界の貿易自由化の流れに変化が見られる。他方、急速な技術進歩の結果、貿易に関連する国際ルールの整備が急務となるなど、ルール形成の世界にも変化が訪れている。

本特集では、このような現状を概観した上で、貿易自由化とルール形成における新潮流を読み解く上で注目すべき論点を取り上げる。

2017年10月16日

貿易自由化の新潮流を読む

2000年以降、FTAや地域経済統合を中心に発展を遂げてきた世界の貿易自由化は、英国のEU離脱表明、米トランプ政権の発足などの逆風にさらされ、その先行きには不透明感が強まっている。しかし、反グローバリズムの主張が勢いを得るなかにあっても、貿易自由化の流れを前に進める動きは着実に進展しつつある。自由貿易の灯は消えたわけではない。

世界のFTA概観

2016年に世界で新たに発効したFTAは計10件であった。14年連続で2桁の発効件数となったが、大型のFTAは少なく、日本・モンゴルFTA、韓国・コロンビアFTAなど比較的小規模なものにとどまった。メガFTAでは、唯一署名済みの環太平洋パートナーシップ(TPP)協定から米国が2017年1月に脱退を表明、残る11カ国による発効に向けた交渉が新たに開始された。その他のメガFTAは、日EU・EPAが同年7月に政治レベルの大枠合意に達したが、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日中韓FTAは交渉が続く。米国とEUによる環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)も、米トランプ政権の発足やEU域内での反対市民運動などを背景に、交渉が停滞している。この結果、主要国・地域のFTAカバー率(当該国の往復貿易額に占めるFTA締結相手国・地域の割合)に大きな上昇はみられず、日本の同カバー率も22.5%と前年並みの水準にとどまった(注1)。

米英を中心に台頭する反グローバリズム

一服感はみられるものの、欧米では2016年から2017年にかけて、EU離脱支持派が勝利した英国民投票を端緒に、米大統領選における「米国第一主義」「公正貿易」を掲げるトランプ氏の勝利、フランス、ドイツなど西欧各国の選挙における反EU、ナショナリスト勢力の躍進、英国のEU離脱交渉開始など、従来のグローバル化に逆行するような大きな政治的事象が続いた。

中でも米トランプ大統領は就任直後のTPP脱退表明を皮切りに、その後も北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓FTAを含む締結済み貿易・投資協定の見直し、1962年通商拡大法232条(鉄鋼・アルミニウム輸入と国家安全保障への脅威)や1974年通商法301条(中国の技術移転策や知的財産権の侵害)に基づく調査の開始といった大統領令・覚書を次々打ち出している。これら既存の通商法、あるいはWTOで認められたアンチダンピング(AD)など貿易救済措置の徹底した運用を通じ貿易赤字の是正を目指す考えとみられる(注2)。ただ、これまでに発令された大統領令・覚書を受けて開始した調査はいずれも継続中であり、実際の輸入制限発動に至るかは不透明である。

他方、英国のEU離脱協定締結交渉については、(1)在英EU市民および在EU英国市民の権利保全、(2)ビジネスの安定性・透明性維持、(3)アイルランドと英国・北アイルランドの特別な関係の確保といった原則では、英国とEU双方のスタンスはおおむね一致している(注3)。ただ、企業の関心の高い通商協定の交渉開始時期を巡っては主張に隔たりが大きく、EU離脱協定交渉期限である 2019年3月末までに、その後の英国とEUの通商関係の方向性が定まるか不確かな状況にある。

こうした「内向き政策」が支持を集める背景には所得や雇用の格差の広がりがあるとされる。World Wealth and Income Databaseのデータによると、米国においては、1966~2014年の間に総所得に占める所得上位10%の富裕層の構成比が31.6%から46.9%に拡大した一方、同下位50%の層の構成比は、19.6%から10.1%に低下した。格差拡大の要因については、経済のグローバル化よりも、ITなど技術進歩の影響が大きいとの見方が一般的だが、欧米の一部ではその要因をグローバル化に求める主張が生活水準の低下に不満を募らせる層から支持を得た(注4)。戦後の国際貿易秩序形成を主導してきた欧米先進諸国において、反グローバリズムの主張が支持を集めた事実が国際社会に与えた衝撃は大きい。

世界の自由貿易体制強化に向けた新たな動き

以上でみたように主要国・地域のFTAカバー率に大きな上昇はみられず、米英を中心に欧米の一部ではグローバル化への強い逆風が吹く。しかし、こうした状況下にあっても、世界の自由貿易体制の強化につながる新たな動きはみられる。主な動きを以下で概観していく。

日EU・EPA:

日本とEUは2017年7月、G20首脳会談を前に、日EU・EPAの政治レベルの大枠合意に達した。グローバル化への懐疑論が台頭するなか、世界経済の28.4%、世界貿易の36.8%を占める両者が貿易自由化を進める意思を国際社会に示した意義は大きい。公表された合意内容によると、工業製品についてEU側は貿易額ベースで81.7%、日本側は同96.2%の関税を即時撤廃する。両者とも最終的な関税撤廃率は100%に達する。両者間で貿易額の多い自動車・同部品、食料品などの関税が削減、撤廃される見通しである。また、貿易ルールの分野においても、政府調達でWTO協定上の約束を上回って互いの市場(鉄道など)を開放するほか、貿易の技術的障害(TBT)では従来のFTAを上回る水準の約束がみられる。日・EUは今後、残る投資紛争解決などの交渉を進め、早期の発効を目指す考えである。

新興・途上国:

新興・途上国においては、地域経済統合の取り組みが進展しつつある(注5)。太平洋に面する中南米4カ国(チリ、コロンビア、メキシコ、ペルー)が加盟する太平洋同盟は、2016年5月に発効した「枠組み協定の追加議定書」に基づき、すでに9割超の域内関税を撤廃した。今後は2030年までにすべて撤廃する見通しである。また、同同盟は域外に開かれた統合を掲げており、日本を含む50カ国がオブザーバー登録する。2017年6月には同盟拡大に向けた準加盟国に関する指針を発表した。同じ南米の南部共同市場(メルコスール)と関係強化を図るほか、カナダ、豪州、ニュージーランド、シンガポールとのFTA交渉開始を発表しており、実現すれば、同同盟としては初の対外FTAとなる。

アフリカにおいては2028年の設立を目指すアフリカ経済共同体(AEC)構想が進展をみせる。AECへのロードマップは全部で六つのステージから成るが、2017年を目標年とする現行のステージ3では、東南部アフリカ市場共同体(COMESA)、東アフリカ共同体(EAC)、南部アフリカ開発共同体(SADC)に加盟する計26カ国が3機関自由貿易圏(TFTA)の設立に署名した。加盟国は、60~85%の品目の関税を発効時に撤廃する。TFTAの署名を受け、アフリカ連合加盟54カ国を含む大陸自由貿易圏(CFTA)交渉が開始されており、最終的なAEC設立に向けた動きが今後も続く見通しである。このように過去には貿易自由化の潮流から取り残されていると指摘されたアフリカでも独自の取り組みが進む。欧米など主要国も近年、アフリカ諸国との経済関係強化を図っている。

電子商取引(EC):

貿易ルール形成の分野では、電子商取引(EC)の急拡大を受け、ECに関するルール策定の機運が世界的に高まっている。ECの普及は貿易への参入を容易にした一方で、ビジネスの障壁となり得るデータ関連規制も各国・地域で急増した。代表的な規制の一つとして、「データ・ローカリゼーション」が挙げられる。同規制は、オンライン事業者に対しサーバーや保有データの国内設置を義務付けるもので、事業者にとってはコスト増の要因となり得る。こうした規制の増加に対し、WTOやFTAでルールを規定する動きが進展しており、世界で約60のFTAがEC関連章を設ける。中でも目下、最も包括的な規定を有するのがTPP協定である。同協定では、国境を超える情報移転の自由、コンピューター関連設備の設置要求禁止など新たなルールを定めた。ECの重要性が高まるなか、同協定が定めた高水準のルールを世界展開していく意義は大きい(注6)。

世界貿易機関(WTO):

WTOについては、これまで加盟国の多さ(164カ国・地域)や、全会一致の原則ゆえに合意形成の遅れが指摘されてきたが、2017年2月に貿易円滑化協定が発効した。全加盟国が参加する新協定の発効は1995年のWTO発足後初である。通関手続きの簡素化や透明性向上が期待できることから、WTOは同協定の完全履行で世界の貿易コストの14.3%を軽減できると見積もる(注7)。貿易円滑化協定に先立つ2016年7月には有志のWTO加盟53カ国・地域が情報技術協定(ITA)の関税撤廃拡大を開始した。新たに201品目のIT製品の関税を撤廃するもので、合意した約束は交渉参加国に限らず、すべてのWTO加盟国に等しく適用される。拡大ITAの対象品目は世界貿易額の約1割を占め関税撤廃の意義は大きい。

また、ECのルール形成もWTOの役割が期待される分野である。ECに関するWTOの議論は、1998年の閣僚宣言を機に始まり、電子コンテンツの売買で生じる対価の分類や、電子送信に対する関税不賦課などが主な論点となってきた。ECの急拡大を踏まえ、2016年7月からはEC特別会合での本格的な議論が始まった(注8)。2017年12月に予定する第11回WTO閣僚会議では大きな進展は見込みにくいと指摘されるものの、途上国を含め多数の加盟国から国際ルール確立に向けた提案がなされており、議論は活発化している。

合意形成の遅れが指摘されてきたWTOであったが、このように近年、物品市場アクセスや貿易ルール形成の面で着実に成果を挙げつつある。2017年に入り、途上国から投資円滑化についてWTOでルール化する提案が出されたこともWTOの意義を示す新たな動きといえる。グローバル化から取り残された人々も含め、あらゆる人々がその恩恵を受けられる「包摂性」が世界的な課題として注目を集めるなか、異なる発展段階にある多様な国・地域がルール作りに参加するWTOの重要性が増している。

世界貿易の拡大は経済厚生の向上に寄与

2016年の世界貿易額は、前年比3.1%減(ジェトロ推計)と2年連続の減少を記録した。貿易量を示す実質伸び率も2014年から鈍化を続け、2016年は前年比0.2%減とマイナスの伸びであった。より長期の視点でみると、世界の貿易量の伸びは1985年以降、経済危機の時期を除き一貫して世界の実質GDP成長率を上回ってきた。しかし、2012年以降は貿易量の伸びがGDP成長率を下回る「スロートレード」現象が続いており、世界貿易の伸び悩みが目立つ(注9)。

国際通貨基金(IMF)の分析によれば、スロートレードの理由の3/4程度は、世界的な需要減少(景気循環)だが、貿易自由化の停滞など貿易政策も一定の影響を及ぼす。貿易は比較優位に基づく国際分業を通じ、一時的な調整を伴いつつも、最終的に各国・地域の経済厚生を向上させる効果を持つとされる。近年は欧米の一部で調整が長引く局面もみられるが、世界貿易の拡大を促すため、反グローバリズムの圧力に対抗するとともに、上述したような世界の自由貿易体制の強化につながる新たな動きを推し進める必要がある。


注1:
2017年版ジェトロ世界貿易投資報告 49~51ページ参照。
注2:
同報告 65~68ページ参照。
注3:
同報告 60~61ページ参照。
注4:
同報告 55~57ページ参照。
注5:
同報告 52~54ページ参照。
注6:
同報告 93~94、96~98ページ参照。
注7:
同報告 82、85~87ページ参照。
注8:
同報告 94~96ページ参照。
注9:
同報告 8~15ページ参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課長
米山 洋(よねやま ひろし)
1997年日本貿易振興会(当時)入会。北海道貿易情報センター、マニラ事務所(調査担当)、海外調査部国際経済課課長代理などを経て、2017年4月より現職。共著『南進する中国とASEANへの影響』、『ASEAN経済共同体』、『FTAガイドブック2014』、『分業するアジア』(ジェトロ)など。

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