【中国・潮流】知的財産権の活用法

2018年2月14日

地方創生の一環として、海外の活力を地元に呼び込もうとする自治体が増えている。その有力候補地として挙がるのが香港である。昨年の秋には、毎週のように自治体首長が香港を訪れ、地元の農林水産・食品のPRに精を出していた。その際、地元産品の売り込みにばかり関心を寄せ、その商品や地名に対する商標保護の考えが希薄なことが気になった。

古くは、2003年に中国で「青森」の商標が登録され、それを知った青森県の農林水産関係団体が異議申し立てをしたことがあった。その後も、台湾で「讃岐」の商標が地元企業によって登録されていたため、「讃岐」の名称が使えなくなったケースもあった。その際に得た教訓は、海外で先に商標登録をされていると、その取り消しに金銭的、時間的なコストが相当生じる、ということであった。同じ轍(てつ)を踏まぬよう、ジェトロ・香港事務所は地方自治体などが香港で物産振興を行う場合、当地で地域商標を守るためにも商標登録するようアドバイスしている。

ところで、知的財産権で新しい試みをする団体が現れた。山形県酒造組合である。2016年12月に「山形」という名称が日本酒の区分で、都道府県単位として初めて日本の地理的表示(GI)を取得した。GIは国が(その商品が)「正しい産地であること」「一定の基準を満たした品質であること」を保証する制度であり、どこでも簡単に取得できるものではない。現に地域団体商標が617件登録査定されているのに対し、GIは農林水産物で58件、酒類で8件規定されているだけである(2017年12月31日現在。特許庁、農林水産省、国税庁発表)。

山形県酒造組合は香港向け日本酒輸出を拡大させるため、2017年11月に香港で商談会を開催した。その際、「GI山形」の商標登録手続き準備と並行して、山形県産日本酒がなぜGIを取得できたのかをマスコミ、インフルエンサー向けにPRした。香港にはGI制度はないため、「GI山形」日本酒の普及セミナーといっても最初は理解されなかった。ところが、「GI山形」と言えば日本酒であること、またそれが一定の品質基準を満たした商品であることを日本政府が保証してくれていると伝えた途端に目つきが変わった。セミナー終了後の参加13蔵元への引き合いは想像以上に多いと聞く。ただ、その際には「GI山形」のロゴマークを瓶に貼付してほしいとの注文がついている。

一般に、香港人消費者は新しいもの、賞を獲得したもの、著名なものを好む傾向にある。香港の日本酒市場は飽和状態にあり、バイヤーや消費者は他とは違った日本酒を探している。今回の「GI山形」を前面に打ち出した戦略は、香港人のニーズにぴたりとはまったようである。少なくとも、GIを取得している産地の商品を海外展開しようと考えるのであれば、知的財産権は「守り」だけでなく「攻め」にも使えることを教えてくれたイベントであった。

執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所長
伊藤 亮一(いとう りょういち)
1986年、ジェトロ入構。海外調査部、2度のジェトロ・マニラ事務所勤務などを経て、2015年8月から現職。