アフリカ進出、外資との連携は有望か

2018年2月26日

日本企業が外資と連携してアフリカ市場を攻める動きが活発化している。日本の対アフリカ貿易・投資額は、欧米や中国と比べて低い水準にとどまるが、市場で先行する外国企業と手を組むことで巻き返しを狙う企業も出てきた。外資との連携におけるメリットとリスクとは。

連携の背景にはリスク回避や販路拡大が

外資と連携してアフリカ市場への新規参入や事業を拡大させる日本企業の動きが加速している(表)。連携で得られるメリットはさまざまだが、リスク回避や販売網の拡大からパートナー企業の必要性を説く企業もみられる。ある商社のアフリカ担当者は、「新規事業に参入する場合、アフリカのリスクは多様化しており、数十年間ビジネスを展開してきた当社でさえ予測が難しい。一社単独ではとてもリスクに対処できない」と指摘する。

アフリカビジネスで想定されるリスクは、急な制度変更にはじまり、クーデターによる政権交代、民衆蜂起、資源価格に大きく左右される経済変動、外貨不足など枚挙にいとまがない。過去には、政変に伴い新政権から事業中止を言い渡された日系企業が、パートナー企業である北米・アジア企業と共に、それぞれの本国3カ国政府を通じて現地政府に働きかけたことが問題解決につながった事例もあった。

豊田通商は2012年にアフリカ専門のフランス商社CFAOを買収し、北・西アフリカ地域でのネットワークを傘下に入れた。同社幹部は、連携による販路拡大や新規事業の立ち上げなど事業面でのメリットもさることながら、「買収後に気付かされた最も大きな成果はアフリカで20年、30年を超える豊富な経験を持つ人材を手に入れたことだった」と語った。こうした人材が現地での新規ビジネス獲得や、リスク回避における目利き役となることは想像に難くない。

専門的なノウハウを有する外国パートナーと組んで、市場拡大の足場を築くケースもある。三井物産は2017年にグーグル、南アフリカ共和国(以下、南ア)の情報通信技術(ICT)投資ファンド、国際金融公社(IFC)との4者連携で、アフリカ都市部での光ファイバー網を用いた高速通信事業を手掛ける企業への出資を明らかにした。

同社担当者は連携のメリットとして、グーグルについてはアフリカの通信産業に先行投資しており、技術的なプラットフォームを確立している点だとしている。IFCについては、ファイバーや通信タワーなどICTの幅広い分野にポートフォリオを有しており、同分野での豊富な事業経験を持っていること。また、現地事情には、南アを拠点に投資活動を行っている南アの投資ファンドが精通している。一方、三井物産の強みは「出資メンバーの中で幅広い産業ポートフォリオを持っており、投資国の政府との関係構築や新興国への展開の切り口から市場参入を考えた際に、多様な産業で横断的な経験の蓄積があること」と述べた。

表:日系企業の第三国企業との連携事例
企業名 連携相手国 発表日 発表内容
損害保険ジャパン日本興亜など 南アフリカ、モロッコ 2017年10月 南アの金融・保険グループサンラム、モロッコの金融グループサハムグループと損害保険事業において包括業務提携契約を締結。
住友商事 モロッコ 2017年9月 モロッコ最大の商業銀行アティジャリワハ銀行とアフリカ諸国での新規事業開拓を共同検討する覚書締結。
インド 2010年12月 インドのエンジニリング会社ワバックと水事業で提携し、エジプトなどで新規の水事業を開発。
三井物産 米国、南アフリカ 2017年5月 グーグル、南アの通信系投資ファンド、国際金融公社(IFC) と光ファイバー網を用いた高速通信事業を手掛ける企業に共同出資。
プラスワン・マーケティング サウジアラビア 2017年2月 サウジアラビアのユニコムと業務提携しエジプト400店舗以上でスマートフォン販売。
豊田通商 フランス 2016年10月 ボロレ・トランスポート&ロジスティックス(ケニア)、日本郵船と共同でケニアにおける完成車物流会社を設立。
フランス 2013年5月 子会社の仏商社CFAOが仏カルフールとアフリカでのショッピングセンターの展開で提携。
出所:
各社プレスリリースより作成

フランス企業との連携を有望視

外資との連携で、現地の日系企業が有望視する企業の国籍はどこか。ジェトロは2017年にアフリカ進出日系企業を対象にアンケートを実施し、「アフリカビジネスでパートナーとなる企業の国籍」を聞いた。この結果、回答企業302社のうち、65社(21.5%)がフランス企業との連携が最も有効だと回答した(図1)。次いで、インド、南ア、英国、中国と続いた。

フランスとの連携については、西アフリカ諸国への進出パートナーとして、言語や文化、法制度の面での優位性を指摘するコメントがあった。インドとの連携については、「同国とアフリカの市場の特性や市場成熟度が類似していることから、インド企業のビジネスモデルを活用できる」などの指摘があった。

図1:連携パートナーとなる国(複数回答)
出所:
ジェトロ「アフリカ進出日系企業実態調査(2017年度)」

日本の対アフリカ投資残高は中国の約4分の1

連携相手を検討する際に指標のひとつとなる、各国の対アフリカ貿易・投資額の動向をみる。世界の対アフリカ輸出額は増加しており、その規模は2006年の2,900億ドルから2016年には4,800億ドルと、約1.6倍に拡大した。国別シェアでは中国が圧倒的首位を占め、この10年間で輸出額を3.2倍増加させている。携帯電話、衣類・履物、機械類や二輪車を中心に、大量の中国製品がアフリカ市場に流入している。第2位はフランスで、中国の3割強程度。これに米国、ドイツ、南アが続く。

一方、輸入は資源価格低下の影響で、2006年の3,600億ドルから2016年には3,500億ドルに減少した。輸出と同じく中国が首位だが、輸出の800億ドルに対して輸入は345億ドルと、大幅な貿易黒字を出している。中国の輸入品目はアンゴラからの原油、南アからのダイヤモンド、プラチナ、鉄鉱石が中心だ。2位の米国は2006年には首位だったが、原油輸入が減少し、シェアを低下させた。第3位以下はインド、フランス、スペインの順となった。

対アフリカ直接投資残高では、2010年と2015年を比べると上位3カ国の顔ぶれは米国、英国、フランスと変わらない(図2)。2015年には米国が640億ドル、英国が580億ドル、フランスが540億ドルとなっている。続く中国は350億ドルで首位米国の半分強となっている。中国はこの5年間で投資残高を3倍近く拡大、南アを抜いて4位に浮上した。インドは170億ドルで中国の半分、日本は90億ドルで中国の4分の1程度だ。首位の米国は日本の7倍、英国やフランスは日本の6倍以上の投資残高に上る。

図2:対アフリカ投資残高トップ10カ国(2015年)
出所:
UNCTAD

投資件数では中国企業が最多

アフリカへのグリーンフィールド投資(拡張を含む)では、「フィナンシャル・タイムズ」紙の調査部門fDiインテリジェンスによると、2012~2017年10月までに累計で4,081案件あった。国別の件数は、米国513件、英国430件、フランス328件、南ア248件、中国211件、インド159件、イタリア67件など。投資対象業種をみると、ビジネス・金融サービス、ソフトウェアITサービス、鉱業(原油・天然ガス、鉱物・金属資源)などで多くの案件が見られた。投資の相手国は南ア、モロッコ、ケニア、ナイジェリア、エジプトの5カ国が中心だ。

主要国企業の動きはどうか。米国からの投資ではゼネラル・エレクトリック(GE)による投資が17件と最も多く、IBM、オラクル、ウーバーテクノロジーズ、マイクロソフト、物流・倉庫セコ・ワールドワイド、農業機械アグコ、ダウ・ケミカルなどが続いた。英国はスタンダードチャータード銀行による支店開設など10件のほか、ユニリーバ、法律事務所ノートンローズフルブライト、温度制御機器大手アグレコなど。フランスからの投資は、海運大手CMA・CGMによる物流・倉庫事業8件のほか、エンジー(GDFスエズ)、保険グラ・サヴォア、オレンジ(フランステレコム)、自動車大手グループPSAなどによる投資が見られた。

中国はファーウェイ・テクノロジーズによる通信事業18件と、単独企業の投資件数では最多だった。そのほか、中国電視台(CCTV)、シノトラック、中国銀行による投資がみられた。インドはバーティ・エアテルによる12件のほか、バロダ銀行、電気施工業者スターリング・アンド・ウィルソン、アイソン・ビジネスプロセスアウトソーシング、マヒンドラ・アンド・マヒンドラ、アポロ病院グループ、ジンダルスチール・アンド・パワーなどによる投資が見られた。

現地法制度の未整備が連携のリスクを招くことも

外資との連携では特有の難しさもある。アフリカ進出日系企業へのヒアリングでは、コンプライアンス意識の相違により連携のための契約まで至らないことや、どちらが事業を主導するかで主張が食い違い出資比率の折り合いがつかないことなどが指摘されている。アフリカでは現地の法制度が未整備であることも多く、現地法に照らして判断できないことも企業間の見解の相違を生じさせている。

「欧州企業と組んで現地の製造工場を運営しているが、工場設備について当社が徹底した管理を目指す一方、パートナー企業は設備が壊れてから対処すれば良いとする考え方の違い、賃上げや労務管理に対する考え方の違いなどが職場での摩擦を生み、ひいては従業員による労働ストを招いた」、そう実情を語る日系企業の関係者もいる。こうしたトラブルが発生した場合、アフリカでは調停制度が機能していない国も多く、問題解決を難しくしている。

他方で、アフリカでは新たな資源開発や経済成長に伴うインフラ整備などで過去に例を見ない規模での投資ニーズが生じている。国内市場の縮小傾向を受け、中間層が台頭する新興諸国での市場シェア拡大の必要性も高まっている。こうした点に鑑みれば、第三国企業との連携は避けては通れない検討課題のひとつでもある。パートナー企業の先行分野や投資手法を見つつ、将来の連携可能性について見極める必要があろう。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課 課長代理
高崎 早和香(たかざき さわか)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ熊本、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所(2007~2012年)を経て現職。共著に『FTAガイドブック』、『世界の消費市場を読む』、『加速する東アジアFTA』など。