イノベーション・消費動向が注目される中国経済と新政権発足後の韓国経済
世界主要国・地域の最新経済動向セミナー報告 中国・韓国

2018年2月14日

ジェトロは2017年12月11日、東京で「中国・韓国最新経済動向セミナー」を開催した。同セミナーでは、ジェトロの北京、上海、広州、ソウル事務所の各所長が、中国、韓国の経済動向や現地の最新事情などについて講演した。中国については、デジタル化の進展、「コト消費」の浸透、広東省深セン市を中心としたイノベーションの動向が、韓国については、新政権発足後の経済状況や日本の対韓投資動向などが紹介された。

6%台の成長でも1,000万人の雇用が可能

ジェトロ・北京事務所の堂ノ上武夫所長は、中国のマクロ経済動向や現地最新事情について解説した。

中国経済は今後も5~6%程度の成長を続けていくとの見方が多い。成長率は鈍化しても前年同期の基数が大きくなっているため、毎年の国内総生産(GDP)増加額の絶対値は縮小していない。2015年から2016年にかけてのGDPの増加分(約8,828億ドル)はトルコやオランダのGDPに匹敵する。2017年第3四半期の成長率は6.8%、1~9月は6.9%であり、2016年(6.7%)を上回って推移している。第4四半期に成長率が多少鈍化したとしても、2017年の目標(6.5%前後)は達成可能と見込まれる。

以前は1,000万人の雇用を新しく創出するために毎年8%程度の成長が必要だったが、サービス産業の発展により、今では6%台でも同程度の雇用を生み出すことが可能になった。成長率に対する最終消費支出(消費)の寄与度が高まり、また、GDPに占める第3次産業の構成比も上昇するなど、中国経済は消費主導型になっている。


ジェトロ・北京事務所の堂ノ上武夫所長(ジェトロ撮影、以下同)

スマホアプリで便利な生活が可能に

中国では携帯電話のアプリを通じてさまざまなサービスを利用することができる。アリババの「支付宝(アリペイ)」もしくはテンセントの「微信支付(ウィーチャットペイ)」があればコンビニから露店までほとんどの店舗で決済ができる。アプリ決済の浸透により、同決済を使ったサービスの市場も拡大している。オンライン出前市場は2016年の市場規模が約3兆円に増加、アプリに登録して利用する方式のシェア自転車もここ1年ほどで急速に発展した。

一方、出前アプリで注文を受けた商品を配達したり、乗り捨てられたシェア自転車を元の場所に戻したりする仕事は依然として人力に依存している。オンライン出前業界では、商品を配達する出稼ぎ労働者の人件費が上昇しており、収益を上げにくくなっている。

若年層は日本と変わらない消費を謳歌(おうか)

続いてジェトロ・上海事務所の小栗道明所長が中国の消費の現状やデジタル化が進む中国経済について紹介した。

中国では、文化に関連する産業が順調に発展している。2016年の文化および文化関連産業の付加価値額は前年比13.0%増の3兆785億元(約52兆3,345億円、1元=約17円)となった。2017年7月、上海市で開催されたゲーム関連イベント「中国国際デジタル娯楽展覧会(China Joy)」には日本企業も参加して売り込みを行った。一体1万円以上もするフィギュアが、特に若い男性の注目を集めていた。また、2017年11月には、同じく上海市で日系企業が主催する「アジア・ファッションモデル・コンテスト」が開催された。同コンテストは一般の子供がモデルのようにランウェーを歩く体験ができるイベントで、参加費が680元(約1万1,560円)、見学する場合は入場料180元(約3,060円)という価格にもかかわらず数百名の参加者と来場者を集め大盛況であった。

最近では「1人・2人用のカラオケボックス」が流行している。ショッピングモールにはほぼ必ず設置されており、カップルや女性同士で利用する光景をよく目にする。クレーンゲームも2016年以降ヒットしている。また、大規模なジャングルジムのような室内遊具施設も各地の商業施設に入っている。「コト消費」が流行する中、日本と変わらない消費を中国の消費者も謳歌(おうか)している。

中国経済のデジタル化をビジネスチャンスに

毎年3月の全国人民代表大会において公表される「政府活動報告」に新しく登場する言葉に注目すると、最近の中国経済にはデジタル化という変化がみられる。2015年は「中国製造2025」「インターネット+(プラス)」「大衆による起業・革新の場」「スマートシティー」、2016年は「シェアリングエコノミー」「光通信普及都市」、2017年は「数字家庭(デジタルホーム)」「数字経済(デジタルエコノミー)」などが新語として登場した。中国政府も「スマートホーム」の標準化を進めるチームを組織した(通商弘報2017年12月27日付)。テンセント研究院の「中国インターネット+(プラス)デジタル経済指数(2017)」レポートによると、デジタルエコノミーは、1級都市(北京市、上海市、広州市、深セン市の4都市)よりも、2級都市や4級都市において進展が早く、経済のデジタル化が中国全土で進行していることが分かる。

2017年5月25~28日、貴州省貴陽市でビッグデータに関する博覧会が開催されたが、会場で「貴州省のビッグデータ産業の友達の輪」を示す図の中に、グーグル(Google)やアマゾン(Amazon)が入っている中、日系企業は1社も入っていなかった。また、デル(Dell)の展示スペースには「在中国為中国(中国で中国のために)」というスローガンが掲げられていた。米国企業はしたたかに中国ビジネスを取りに行っている。日本企業も中国のデジタル化をビジネスチャンスと捉えてほしい。


ジェトロ・上海事務所の小栗道明所長

中国のイノベーションをけん引する都市、深セン

ジェトロ・広州事務所の天野真也所長は、中国のイノベーションについて、その最先端とされる深セン市の動向を中心に解説した。

深セン市は中国で最も起業(スタートアップ)が盛んな都市であり、2016年の同市の新規登録企業は前年比28.9%増の38万6,704社と全国(552万8,000社)の約7%を占め、中国主要都市の中で最多となった。同市の1人当たりの新規登録企業数は上海市の2.6倍、北京市や広州市の3倍以上である。

また、深センのベンチャー企業の経営者は、(1)「80後(1980年代生まれ)」世代で、(2)理工系大学の出身者が多く、(3)最高経営責任者(CEO)よりも最高技術責任者(CTO)に近いというような特徴を持ち、中国国内外から優秀な人材が集まるといわれる。

世界のドローン市場で8割のシェアを占めるDJIも深セン企業であり、経営トップのフランク王氏もそうした特徴をもつ経営者だ。同社は深センのITの産業集積からドローンという製品を生み出し市場開拓を成功させた代表的な企業であり、同社の成功は深センでしかなし得なかったともいえる。

深セン市は中国のイノベーションをけん引する都市でもある。2016年の中国の国際特許出願件数は米国、日本に続く3位だが、うち約半分(46.6%)が深セン市でさらにその約半分を同市の南山区が占め、R&Dセンターが集積している。深センのROYOLEは、世界最薄のカラー・フレキシブル・ディスプレーを開発したことで有名で、BYDの車「秦」の曲面ダッシュボードにその技術が採用されるなど、新たに自動車分野に参入するベンチャー企業が注目されている。

日本企業は深センの特徴を理解しうまく活用すべき

深センの特徴は、世界最高レベルの電機・電子産業の集積にある。市内の華強北エリアには電機・電子関連の店舗が約2万店集積し、毎日約50万人が訪れている。特に携帯電話や液晶ディスプレー、電子部品の生産が盛んで、携帯電話は深センだけで4億台を生産、東カン市と合わせると7億台の生産を誇る。また、サプライチェーンについては、珠江デルタ、とりわけ、香港に隣接する深セン、東カンでは、午後、トラックで香港に運びだせば、その晩の船便、航空便で、日本または世界に製品を届けることが可能な、世界で最も利便性の高いサプライチェーンが完備されている。

また、深セン市には250カ所以上のメイカースペース(注1)が存在し、外資系アクセラレーター(注2)も増加している。例えば、米国HAX(ハードウエア系のアクセラレーター)は年間で30のプロジェクトに対し、株式の6~9%を取得することと引き換えに10万ドルを支援している。深セン市にはベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)なども集積しており、ベンチャー企業に対する資金供給システムも充実している。

深セン市政府の役割も重要だ。ベンチャー企業を支援する各種の補助金が用意されているが、企業の経営に対して口出しはほとんどないという。深セン市は土地が高騰していることが問題になっているが、ベンチャー企業に対しては、土地やオフィスが比較的安い料金で提供される。市政府自身も、ピッチコンテスト(短時間で自社の製品や技術について紹介するイベント)を主催するなど起業を積極的に支援している。

現在、日本企業もこうした深セン市の企業動向に注目しはじめているが、大切なのは、日本として深センのコミュニティーとかかわること。成功率が極めて低いベンチャーにかかわる動向を情報収集するには、コミュニティーとしてかかわることが極めて有効で、欧米、韓国企業も積極的な活動を展開している。深センには多くの日本企業が進出しているが、事業集約、現地化を進める中、日本人を減らしていく傾向にある。ただ、このような新しい動きを追うためには積極的に人員を配置するなどの検討も必要だ。


ジェトロ・広州事務所の天野真也所長

新政権発足で対日関係に変化の兆しも

最後に、ジェトロ・ソウル事務所の保科聡宏所長が新政権誕生後の韓国経済の動向や日韓経済関係の現状について語った。

2017年5月9日に文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生した。2018年6月の地方選挙が終わるまでは内政が優先で、新政権の対日政策が明確に打ち出されるのはそれ以降とみられるが、同政権は政治・経済のツートラック戦略を打ち出しており、対日関係でも潮目が変わったのではないかとみられている。国民との対話を重視する姿勢や、北朝鮮対応などが支持され、文政権の支持率は一時80%を超えていた。

2017年の経済成長率見通しは各機関の見通しが全て3%台となっており、2016年を上回る見込み。2018年は韓国銀行の予想では2.9%(各機関の予測は2.8%)。設備投資や建設投資が急減すると予測されている点が懸念材料。2018年の韓国経済を展望すると、半導体以外の産業は売り上げが前年比横ばいか減少を見込む。2018年の韓国経済に関するプラス要因としては消費改善や大統領交代による国内政治の安定が、マイナス要因としては米韓自由貿易協定(FTA)再交渉や北朝鮮リスク等が挙げられる。

韓国の合計特殊出生率は1.17で、少子高齢化が急速に進行している。国内の失業率の高止まりから海外で就職する若者が増えており、今後さらに少子化が進むと見込まれている。若年層の失業率は2017年10月時点で8.6%と韓国全体の3倍近くあり、政府も若者の雇用を重視している。2017年12月に可決された2018年の予算案でも、雇用、人的資源開発、災害予防などが重点分野として挙げられた。


ジェトロ・ソウル事務所の保科聡宏所長

2017年は日本のコンテンツやIT産業の対韓投資が増加

日本は直接投資残高では最大の対韓投資国である。2017年第1~3四半期の日本の対韓国投資は申告ベース、実行ベースいずれも前年比で増加した。2017年に入ってコンテンツ・ITといった業種による投資が増えている。これが第6回目の日本企業による対韓投資ブームになるかどうかが注目される。投資環境上の課題としては、最低賃金の上昇や徴税の強化などがある。最低賃金は2020年までに1時間当たりの最低賃金を1万ウォンまで引き上げる目標を出しており、2018年1月から2017年の6,470ウォンから16.4%増の7,530ウォン(約753円、1ウォン=約0.1円)に引き上げられることになった。

世論調査では、日韓両国民とも相手国民に対する感情に改善傾向がみられる。日本から韓国への訪問者は減少している一方、韓国からの訪日客は2017年1~10月で584万人と2016年の水準を上回り、過去最高となった。


注1:
共通の興味を持つメイカーのコミュニティーとして運営されるワークスペース。
注2:
スタートアップ企業を成長させるプログラムを提供する企業。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
小宮 昇平(こみや しょうへい)
2013年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課に配属。2016年3月より1年間の海外実務研修(中国・成都事務所)を経て、2017年3月より中国北アジア課に所属。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
田中 琳大郎(たなか りんたろう)
2015年4月、ジェトロ入構。同月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
清水 絵里子(しみず えりこ)
2016年4月、ジェトロ入構。海外調査部海外調査計画課を経て、2017年6月より現職。