宅配のボトルネック解消に挑む中国

2017年10月16日

インターネットで注文した商品やサービスを消費者の手元に迅速・確実に送り届けるためには、宅配業者をはじめとする物流事業者の存在が不可欠だ。宅配業者は、同業者間の厳しい競争環境の中で、急増する宅配荷物を迅速に配送すると同時に、より高度なサービスの提供が求められている。一方、中国特有の事情等により、宅配サービス向上のボトルネックともなりかねない課題にも直面している。宅配現場の実態と問題解決に向けた取り組みを紹介する。

48時間以内で国内重点都市間配送を目指す

国家郵政局が制定した「宅配業発展十三五計画」によると、2020年の主な目標は、宅配業務量700億件(2015年の実績207億件)、宅配業務収入8,000億元(同2,770億元)、郷・鎮(町・村)の宅配拠点カバー率90%(同70%)、宅配専用貨物機200機(同71機)、宅配電子伝票使用率90%(同55%)、宅配業務収入に占める研究開発費の比率1%(同0.6%)などとなっており、市場の拡大予測に応じたサービスの向上を目指している。また、同計画のうち、産業の能力やイノベーション、サービスの向上については、2020年の目標として以下のような数値目標が設定されており、国際競争力も意識した産業政策の方向性がうかがえる。

  • 年間取扱業務量100億件以上または年商1,000億元以上の宅配企業集団を3~4社設立
  • 国際競争力を有し世界的な知名度の高い宅配ブランドを2件以上育成
  • 宅配業の科学研究基地建設3~5カ所
  • 技能人材総数80万人
  • 重点宅配企業は、国内重点都市間を48時間以内で配送

数多くの発展目標の達成を目指す過程で、宅配サービスの向上に避けて通れない課題の一つが、「最後の1キロ」の通行支障問題である。同計画では各地に対し、宅配車両管理を規範化すること、宅配専用車両に対する都市通行と臨時駐車に便宜を図ること、宅配専用の電動三輪車が都市で提供する宅配サービスの管理規則を実情に応じ制定することにより、ラスト1マイルならぬ最後の1キロの通行問題を解決するよう求めている。

では、宅配現場は具体的にどのような問題に直面しているのか。

都市部の宅配で強みを発揮する電動三輪車

中国では、都市部を中心に、三輪タイプの宅配車両が行き交う光景を目にする機会が多い。宅配荷物の積み替え・仕分け拠点から個別の指定先まで荷物を運ぶために、宅配電動三輪車は小回りが利き、交通渋滞が激しい都市や狭い道路では効率的な配送が可能だ。環境にやさしい点も評価されている。電動三輪車等による1台1日当たりの走行距離は平均70~80キロメートルで、配送荷物は1日100件(ピーク時は200~250件)、重量は1日300~360キログラムというのが現在の相場とされる。これを2~3回に分けて配送する前提で、電動三輪車は二輪のバイクより安定性に優れていることも強みだという。

一方、電動三輪車の運転マナーや交通安全意識の欠如等により、他の車両や歩行者のスムーズな通行に影響を及ぼす問題や、交通事故も頻繁に起きているようだ。例えば2017年8月22日付新快報(電子版)によると、2015年以降に広東省広州市で発生した交通事故の死亡者数のうち、電動車両(三輪タイプ以外を含む)の運転・乗車で交通事故を起こし死亡した人数は4割を超えるという。


写真1:宅配用電動三輪車(ジェトロ撮影)
写真2:時には歩道で荷物を受け渡すケースも(ジェトロ撮影)

このように、電動三輪車は、都市部の個別配送に適した重要な輸送手段でありながら、車両管理上の不備や宅配員の意識不足等による問題も軽視できない状況となっている。

また、多くの地域で電動三輪車の通行規制があることや、住宅やオフィスでは入居者等の限定車両以外の敷地内進入を禁止しているケースもあり、「最後の1キロ」の通行問題の主な要因であるとも指摘されている。

宅配車両に強制的な国家標準導入の動き

このような問題に対し、中央・地方それぞれの政府当局は、宅配業の健全な発展を目指す目標設定や法制度の整備等に取り組んでいる。

国家郵政局は2016年4月、「宅配専用電動三輪車技術要求」の意見徴収稿を公表した。これは、2014年の業界標準(任意)とは異なり、強制的な国家標準の草案である。国家標準の制定により、車両の規格、性能等を統一して、効率性と安全性を高めようというものである。

意見徴収稿によると、最高速度は時速15キロ、最大積載量は180キロで、蓄電池は、車両の軽量化と環境保護の観点からリチウム電池の使用を提案(建議)している。この案の規定に合致した電動三輪車は、アルミ合金等の新材料やリチウム電池の使用、GPSの搭載等によって、現在の車両と比べ生産コストが4,000元(約6万5,000円)程度増加すると試算されている。

同業者間の競争が激しく、人件費、輸送費など宅配業務のコストが増加傾向といわれる宅配業者には、国家標準が原案どおり実施されることによる新たなコスト負担の増加を懸念する声もある。また、速度についても、最高時速が15キロに制限されると、現状(時速30キロ程度)と比べ配送効率が大幅に低下することから、配送車両の増設等で対応せざるを得ず、コスト増をもたらす等の意見もあるようだ。

この国家標準(案)は、今後、企業等から徴収した意見を集約し、専門家による議論等を経て正式に公布される予定だ。

蘇州市では宅配車両の総量規制計画も

地方政府による取り組みとして、例えば北京市は、2016年9月から宅配電動三輪車の管理を強化した。北京市海淀区商務委員会の発表によると、北京市は、宅配車両用の統一標識、管理番号の付与、事業者による保険(車両・人員)の加入、配送員向けの交通安全学習カードの交付等を実施し、2016年末までに市内5万7,000台の宅配三輪車の対応を基本的に完了したという。

江蘇省蘇州市では、公安局、交通運輸局、郵政管理局が、2017年8月に「郵政宅配専用電動三輪車規範管理に関する実施意見」を定めた。同意見によると、(1)国家および省政府が定める管理規則に先駆けて、電動三輪車の総量規制を実施する、(2)国家郵政局が2014年に公布実施した電動三輪車の技術要求に基づき、技術・標識等の要件を統一し、蘇州市宅配協会が通行登録証を発行する、(3)事業者に交通事故保険の加入を求め、宅配車両と人員の安全保障を向上させる、(4)ドライバーの学習管理制度を設置し、事業者に定期的な安全教育の実施を促すといった内容になっている。

また、広州市政府は、非機動車と電動車両の生産、販売、道路通行、駐車管理を強化するための管理規定を制定し2017年9月から実施している。同管理規定によると、本来、電動三輪車は広州市行政区域内の道路通行は認められないが、郵政(新聞を含む)および宅配等の業種は、国家標準に合致する宅配専用電動三輪車を使用すれば配送サービスに従事することが可能である。条件付きで通行問題の解決を図ろうという措置であるが、2017年9月時点では、前述した宅配専用電動三輪車の国家標準が公布されていないため、広州日報によると、「広州市交通警察では、市政府が具体的な管理規則を制定予定」としており、過渡期の段階となっている。

効率と安全双方に配慮した仕組みの試行

先に紹介した「一部の建物(オフィスビルや住居等)では、宅配車両の進入を認めない」という問題に対し、現在審議中の「宅配暫定条例(意見徴収稿)」では、「事業所や住宅の管理部門は、宅配事業者との取り決めにより、宅配荷物の受け渡し場所等を設置する。複数事業者がスマート宅配ボックス等の設備を共同設置しサービスを提供することを奨励する」という条文が草案となっている。

宅配ボックスは大都市を中心に設置が進みつつあるが、管理が十分行き届いているとは必ずしもいえないようだ。同条例案は、このような問題に対処するため、宅配ボックスの設置と権利義務を明確にするべきだという考え方だ。

宅配ボックス設置サービス拡大の最近の事例としては、京東の取り組みがある。京東は2017年6月に豊巣宅配ボックス社を吸収合併した。今後は、誰でも自由に宅配ボックスが使えるようなサービスを提供するという。京東が2013年に宅配ボックスの設置を開始した時点では、京東のプラットホームで購入した商品に限り、京東の宅配ボックスで受け取ることができた。今回の措置は、どのプラットホームや配送業者を利用するかを問わず、送り主、荷受人いずれからも費用を徴収せず、保存期間も一般的な2日間から3日間に延長した。2017年内に26都市で合計1万台の宅配ボックスを設置予定だという。

物流効率やサービスの向上と安全の確保は、どちらを優先するかではなく、どちらも重要度が高い。最後の1キロの配送ボトルネック解消をめぐり、物流現場では政府、企業、地域社会等関係者のたゆまぬ工夫と試行が続く。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
加藤 康二(かとう こうじ)
1987年、ジェトロ入構。日本台湾交流協会台北事務所(1990~1993年)、ジェトロ・大連事務所(1999年~2003年)、海外調査部中国北アジア課長(2003年~2005年)などを経て2015年から現職。