アフリカでのビジネス事例プラスチック製品で在欧など日系企業との連携に期待(モロッコ)

2025年3月17日

モロッコでは2000年以降、自動車や航空機などの分野の外資系企業の誘致により、輸出加工型産業が軌道に乗り始めたが、歴史ある地場の製造関連企業も同国には存在する。縫製産業では一時期、アジアに生産拠点を移転する動きもあったが、近年、モロッコに生産拠点を戻す事例も見られる。輸送コストなどの観点から、欧州市場に近い拠点での生産を望む欧州企業が出てきたことが理由と考えられている。

外資系企業の進出が進む自動車産業などは、労働集約型の低賃金での加工を軸とするビジネスモデルで発展してきたが、部材の多くはアジアなど外国から調達しており、地場企業の輸出加工産業への参入は進んでいない。技術や人材、資金など課題も少なくないものの、調達コストや紛争による物流リスクを考えると、地場製造業は将来、日本企業の有力なパートナーに成長する可能性がある。

今回、日本企業とのビジネス連携に期待を寄せるモロッコのプラスチック製造のリーダー格企業、ル・プラスチック社の社長スーミア・ベナムール氏に、同社のビジネスや日本企業との連携の可能性について話を聞いた(取材日:2025年2月28日)。


ル・プラスチック社のスーミア・ベナムール社長(ル・プラスチック社提供)
質問:
会社概要は。
答え:
当社はモロッコ独立前の1954年に創業したモロッコで最も古いプラスチック製品メーカーだ。射出成型、押し出し成型、ブロー成型技術を得意とする。柑橘(かんきつ)類運搬クレート(かご)の製造を皮切りに、家庭用品や玩具なども手掛けてきた。現在は、BtoBにかじを切り、主な事業は、保管や輸送のための果物や野菜類、工業部品、乳製品、飲料、魚類などの運搬用クレートや、60~250リットルの大型液体容器の製品デザインや生産を行っている。直近の売上高は1,400万ドルで、売り上げの80%は国内だ。

カサブランカ工場の外観(ル・プラスチック社提供)
創業以来、カサブランカに工場を持ち、1999年に南部の港町アガディール、2021年には農業が盛んなメクネスにも拠点を開設した。今後、カサブランカ工場の郊外移転やメクネス工場への追加投資を計画している。
現在の従業員数は110人で、それに季節労働者が加わる。生産では、国際規格ISO9001とBRCGS(注)パッケージ認証を取得している。製造機械はドイツ製が中心だ。製造用金型は欧州から調達している。

工場内で作業する従業員(ル・プラスチック社提供)
質問:
国内外でのビジネスの状況は。
答え:
国内市場では、農業や包装、自動車、建設などのセクターからの需要増加に支えられ、プラスチック産業は持続可能なペースで成長すると見込んでいる。電子商取引を含む小売りセクターの活発化も需要を押し上げるだろう。モロッコのプラスチック消費量は1人当たり年間33キログラム(kg)で、スペインの100kg、トルコの120kgと比較して、成長の余地はあるとみている。
製品は国内流通のみならず、欧州向けの農産品出荷などでも使われている。アフリカ向けは、アガディール工場からモーリタニアやセネガル向けに漁業用トレーを輸出している。
海外市場に関しては、地政学的優位性や欧米との自由貿易協定(FTA)が輸出に有利に働くとみている。プラスチック産業は、特に自動車や航空機関連のセクターでグローバルなサプライチェーンへの統合から恩恵を受けるだろう。 世界的にリサイクルや省エネ技術への関心が高まり、持続可能性のトレンドに影響を受けざるを得ない。使い捨てプラスチックを削減し、循環型経済を推進する政府の取り組みが業界の将来を形作るだろう。
モロッコの製造業者は原材料費の変動や、環境規制、アジアや中東の低コスト生産者との競合に直面しているが、外国からの投資や多国籍企業との提携によって技術の進歩が促され、製品の品質が向上することを期待している。 特にプラスチック製の大型製品などは、ターゲットとする市場に近接したエリアでの生産が優位だ。コスト面から、中国などアジアからの輸送に適さない製品の製造は当社に強みがあると考えている。

大型液体容器(ル・プラスチック社提供)
質問:
国内プラスチック産業の動向は。
答え:
モロッコのプラスチック産業は年間70万トン以上のプラスチックを生産しており、北アフリカ地域で有力な産業の1つと自負している。
主な製品は、プラスチック消費の50%以上を占める包装資材のほか、灌漑システムや温室フィルム、保管容器といった農業用の製品、建設用のパイプや断熱材などの資材、家庭用品、玩具、家具といった消費財、自動車と航空部品だ。
モロッコはリサイクルインフラが不十分で、リサイクル率が約10~15%と低いため、特に使い捨てプラスチックは都市部や沿岸部でその管理が課題となっている。
モロッコでの生産はポリマーと樹脂の輸入原材料に依存しており、世界的な価格変動の影響を受けやすい。原材料の主な供給元は欧州のスペイン、フランス、ドイツと、米国、中東のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、アジアでは主に中国とインドだ。
政府は持続可能な成長を志向し、業界の環境負荷削減のための規制を導入している。2016年には使い捨てプラスチック袋の禁止(法律77-15)を決め、小売店やスーパーマーケットでプラスチック袋の使用が大幅に減少した。
また、製造業者と輸入業者にプラスチック製品の寿命管理の責任を負わせるEPRポリシーの実施にも取り組んでいる。これにはリサイクルと廃棄物管理が含まれる。
当社では基本的に使い捨て製品を作ってはいない。歳月をかけて自社製品の70~80%を再利用している。また、製品の10%はリサイクル素材を使っている。
質問:
事業課題や将来の事業展開は。
答え:
当社はモロッコのプラスチック業界のリーダーとして、射出成型などの大型機械を備えているが、主要顧客の農業分野のニーズは季節に左右されるため、通年での施設の稼働率は十分とは言えない。安定的操業に向けた需要の掘り起こしのため、建築や医療、化粧品、包装、自動車などの高成長分野への進出を計画している。具体的には、(1)建築・建設:インフラプロジェクト向けプラスチック部品、(2)医療:高精度の医療容器と包装、(3)化粧品:美容やパーソナルケア製品向けの包装ソリューション、(4)自動車:軽量で耐久性のある部品、(5)包装:顧客の要望に沿ったカスタマイズされた包装ソリューションなどでの投資計画がある。実現の暁には、季節的な需要への依存を減らし、安定的な操業が実現できると考えており、外部からの技術的、財務的なサポートが必要と認識している。技術的には、高度な製造プロセス、製品開発、イノベーションに関する専門知識が必要だ。

各顧客向けに出荷を待つフレートの山(ル・プラスチック社提供)
質問:
日本企業との連携への期待は。
答え:
日本企業との取引経験はこれまでにはない。
日本は先進技術、高品質基準、持続可能性への取り組みで定評がある。日本企業とのパートナーシップには合弁事業や下請けパートナーシップなど、双方の特定のニーズと目標に応じて、さまざまな選択肢があるだろう。
自動車部品関係では、2000年代後半、モロッコのフランス系自動車メーカー向けに部品供給を行うため、ルーマニア企業の中古機械を移送する話があり、契約まで取り交わしたが、その後ビジネス環境が変わり、取りやめとなった。
私たちは、欧州などにある日系自動車部品メーカー向けの部品製造にも挑戦してみたいので、気軽に問い合わせをしてほしい。
日本企業のメリットは、モロッコに拠点を置くことで、欧州市場との取引にとどまらず、プラスチック製品の需要が急増している西アフリカ地域の成長市場へのシームレスなアクセスが可能となることだろう。
当社は、日本企業との連携を通じた成長を実現したいと考えており、モロッコのプラスチック業界の未来を形作るためにも、協力してもらえるとうれしい。

注:
BRCGS:サプライチェーン全体の食品安全基準の統一を目的に、1996 年に設立された小売業者による業界団体。
執筆者紹介
ジェトロ・ラバト事務所長
本田 雅英 (ほんだ まさひで)
1988年、ジェトロ入構。総務部、企画部、ジェトロ福井、ジェトロ静岡などで勤務。海外はハンガリーに3度赴任。ジェトロ鳥取を経て2021年7月から現職。

この特集の記事

今後記事を追加していきます。

総論・地域横断

日本企業のアフリカビジネス

アフリカ現地企業事例

アフリカ工業団地・フリーゾーン事例