アフリカでのビジネス事例エプソン、中東・アフリカの教育市場を開拓
2025年3月14日
増加を続ける人口や、厚い若年層といった点から成長市場として期待される中東・アフリカ。国連の「世界人口推計2024」(注1)によれば、中東・北アフリカ(注2)地域の人口は、2024年時点の約5億8,000万人から2050年には約7億9,000万人、2100年には約9億9,000万人まで増加することが予測されている。サブサハラ・アフリカ地域では、2024年の約12億4,000万人から2050年に約20億9,000万人、2100年には2.7倍の約33億5,000万人まで増加するとの見通しだ。また、2024年の年齢中央値は中東・北アフリカ地域で26.1歳、サブサハラ・アフリカ地域では18.2歳と若く、今後も内需の拡大が予想される。
2024年度にジェトロが実施した「海外進出日系企業実態調査(中東編)」および同「アフリカ編」によれば、中東に拠点を置く日系企業の49.7%、アフリカでは57.0%が今後1~2年で事業を拡大する予定と回答した。また、その理由として、両地域ともに「現地市場ニーズの拡大」を挙げた企業が約7割と最も多かった。一方で、フロンティア市場であることによるビジネス面での障壁も多い。投資環境としての課題について、中東では、人件費や不動産賃料の上昇に加えて、「法制度の未整備や不透明性」「突然の制度導入や変更」などが上位に挙がった。アフリカでは、約6割の企業が「規制・法令の整備、運用」や「財政・金融・為替面」「不安定な政治・社会情勢」を課題と感じているとの結果が出た。
拡大する中東・アフリカ市場で商機をつかむためのヒントを、同地域で事業を展開する日本企業の事例から考えていきたい。ジェトロは、中東・アフリカ地域でプリンターやプロジェクターなどの製品・サービスを展開する、エプソンのアラブ首長国連邦(UAE)法人エプソン・ミドルイースト(Epson Middle East)に、同地域での取り組みについて話を聞いた。(インタビュー日:2025年2月5日、取材対応者:ビジネスオペレーション・バイスプレジデントの立森亮氏、コマーシャルオペレーション・バイスプレジデントのスアット・オズソイ氏、マーケティングディレクターのナタリー・ハリソン氏、セールスディレクターのジェイソン・マクミラン氏)
- 質問:
- 貴社の中東・アフリカ地域での事業概要は。
- 答え:
- 1996年からUAE・ドバイでオペレーションを開始しているが、2023年に中東・アフリカなど(注3)の地域を統括する機能を欧州から移転する目的で、ドバイに地域統括販売会社「エプソン・ミドルイースト」を設立。2024年10月から独立して操業を開始した。エプソン・ミドルイーストとして管轄地域に10の支店を持ち、南アフリカ共和国でも一部の統括機能を担っている。主な事業はプリンターやプロジェクターの販売・サービス提供で、管轄地域全体でおよそ80カ国に展開しており、178のディストリビューターと取引を行っている。
- また、現地の教育機関と連携し、学校にプリンターやプロジェクターを導入する取り組みも行っている。中東では、UAEやサウジアラビア、バーレーン、カタールで、現地教育省からインタラクティブ教育(電子黒板などを活用した双方向型の教育)における最適なソリューションを提供する企業として高い評価を受けている。サウジアラビアの公立学校に5年間で6万台を超えるプロジェクターを販売した。アフリカでは、セネガルやマダガスカル、モロッコなどでの活動実績がある。学校など教育機関の設置が行き届いていない地域での、オンライン授業のサポートなどの取り組みも実施している。
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エジプトの教育支援現場へのプリンター導入の
取り組みの様子
(エプソン・ミドルイースト提供)
ケニアの小学校へのプリンター、プロジェクター
導入の取り組みの様子
(エプソン・ミドルイースト提供) -
直近の取り組みとしては、2025年2月にドバイのフリーゾーンである「ドバイ・プロダクション・シティ」にイノベーションセンターを開設した(2025年2月24日付エプソンプレスリリース参照
)。同センターでは、顧客へ自社製品のデモンストレーションや、パートナー(代理店など)への教育・訓練などを行うことができる。
- 質問:
- 中東・アフリカ地域における貴社の強みは何か。
- 答え:
- 各国政府から、独自の技術や商品を用いたインタラクティブ教育の実践などの側面で一定の評価を得ている。また、エプソンの耐久性や低消費電力(注4)などに強みを持つプリンターやプロジェクターの製品を用い、電力インフラが未発達なアフリカでの需要に応えるなどの取り組みも行っている。ドバイに地域統括会社を設置することで、より地域に即したサービスを提供し、環境負荷低減等の強みを細やかに届けるなどの取り組みを行っていきたいと考えている。
- グローバルサウス諸国の企業からは低価格で性能が良い商品が出てきているが、修理の際に部品が不足したり、現地の規格を満たせなかったりするなどのケースがある。中東・アフリカ地域の顧客においても、製品に信頼性を求める姿勢は変わらないという印象を受けている。エプソンとして、同地域のアフターサービス体制を用いながら、製品と併せて、顧客からのアフターサービスへの信頼にも応えていくことが重要だと感じている。
- 質問:
- 中東・アフリカ地域におけるビジネス上の課題は何か。また、それに対してどう対応しているか。
- 答え:
- 突然の制度変更や、現地のインフラ未整備などの課題はあるが、現地政府とも適宜連携しながら、顧客の需要に沿ったソリューションを模索している。特にUAEやサウジアラビアでは現地政府との細やかなコミュニケーションがキーポイントであると感じている。
- 質問:
- 今後の事業の展望は。
- 答え:
- 自社の中東・北アフリカ(MENA)地域のプレゼンスは高い。アフリカは次の50年で最も人口が増加するという予測があり、若年層も多いことから、教育市場の拡大が期待できる。特にアフリカでの事業は中長期的な視点で考えるようにしており、幼い時期からエプソンの製品に親しんでもらうことは将来の顧客獲得にもつながるため、今後も教育分野での取り組みを通して存在感を示していきたいと考えている。
- 注1:
- 本稿で紹介している各年の人口と年齢中央値は7月1日時点のもので、中位推計値を利用している。
- 注2:
- アルジェリア、エジプト、リビア、モロッコ、スーダン、チュニジア、アルメニア、アゼルバイジャン、バーレーン、キプロス、ジョージア、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、パレスチナ自治区、シリア、トルコ、UAE、イエメンを含む。
- 注3:
- エプソン・ミドルイーストの管轄対象地域は中東、アフリカ、中東アジア、コーカサス地域、モルドバ、トルコ、ウクライナとなっている。
- 注4:
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エプソンでは、熱を使わずにプリンターのインク吐出を行う「Heat-Free Technology」などの技術により製品の省電力化を行っている。「Heat-Free Technology」の詳細は同社ウェブサイト
も参照。

- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課 リサーチマネージャー
久保田 夏帆(くぼた かほ) - 2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。