中国EV・車載電池企業のグローバル戦略BEV市場を席巻する中国メーカー(ブラジル)
2024年12月13日
ブラジルでは、2023年にバッテリー式電気自動車(BEV)の販売が大幅に伸び、中国メーカーのシェア拡大が顕著だった(2023年12月18日付地域・分析レポート参照)。2024年にはその傾向がさらに強まり、中国企業のBEVがブラジルの電気自動車(EV)市場を牽引している。
現時点では、小型トラックなどを除き、国内で販売されているBEVは全て輸入車だ。長城汽車や比亜迪(BYD)などの中国企業は既にブラジル国内生産計画を進めているが、これらの工場の生産開始は繰り返し延期されており、輸入車の販売増加が続いている。これに対し、国内生産拠点を持つ自動車メーカーは業界団体を通じて、輸入関税減免措置の即時廃止を要求している。本稿では、こうした状況の背景や概要について報告する。
BEVのシェアはいまだ低いが、中国メーカーに牽引され急増
ブラジルでは、BEVの普及率はまだ低い。ブラジル自動車部品工業会(Sindipeças)が4月4日に発表した資料によると、2023年末時点で流通している自動車台数のうち、電動車〔BEV、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)の合計〕が占める割合は0.4%にとどまった。しかし、2021年以降、電動車の販売台数が急増しているとSindipeçasは強調する。そのうち、BEV販売台数の増加は特に大きい。ブラジル電気自動車協会(ABVE)のデータを見ると、その傾向は明らかだ(図1参照)。

出所:ABVEサイト情報を基にジェトロ作成
全国自動車製造業者協会(ANFAVEA)が発表した2023年のエネルギー別販売台数(乗用車、軽商用車)統計によると、BEVの割合は0.9%にとどまり、HEVやPHEVよりも低い。ただ、2024年1~9月のデータを見ると、BEVのシェアは2.6%に達し、HEVとPHEVと同水準となった。これにより、BEVは、2023年以前に電動車のカテゴリーでトップシェアだったHEVを上回った(表1参照)。
表1:エネルギー別の新車販売台数(乗用車、軽商用車)
燃料の種類 | ガソリン | BEV | HEV | PHEV | フレックス燃料 | ディーゼル | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
台数 | 60,569 | 19,277 | 42,440 | 32,191 | 1,809,864 | 215,889 | 2,180,230 |
シェア | 2.8% | 0.9% | 2.0% | 1.5% | 83.0% | 9.9% | 100.0% |
燃料の種類 | ガソリン | BEV | HEV | PHEV | フレックス燃料 | ディーゼル | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
台数 | 70,833 | 45,658 | 38,647 | 38,243 | 1,388,120 | 170,666 | 1,752,167 |
シェア | 4.0% | 2.6% | 2.2% | 2.2% | 79.2% | 9.7% | 100.0% |
注:フレックス燃料車は、ガソリンとバイオエタノールを混合・燃焼して走行する車両。ブラジルではサトウキビ由来のバイオエタノール燃料が普及している。
出所:ANFAVEAサイト情報を基にジェトロ作成
こうしたBEV拡大に最も寄与しているのは中国自動車メーカーだ。2024年1~9月のBEV販売台数上位10車種のうち、1~5位は中国自動車メーカーの車種だった(表2参照)。販売台数全体のシェアでは、85.7%を占めている(図2参照)。
順位 | 車種 | メーカー | 販売台数 | シェア |
---|---|---|---|---|
1 | ドルフィン・ミニ | BYD | 15,014 | 32.8% |
2 | ドルフィン | BYD | 12,929 | 28.3% |
3 | Ora 03 | 長城汽車 | 4,774 | 10.4% |
4 | シール | BYD | 2,814 | 6.2% |
5 | 元 | BYD | 2,055 | 4.5% |
6 | EX30 | ボルボ | 2,049 | 4.5% |
7 | E-JS1 | 安徽江淮 | 994 | 2.2% |
8 | クウィッド | ルノー | 801 | 1.8% |
9 | XC40 | ボルボ | 671 | 1.5% |
10 | C40 | ボルボ | 628 | 1.4% |
出所:ANFAVEAサイト情報を基にジェトロ作成

注:中国企業には、BYD、長城汽車、安徽江淮、奇瑞汽車、東風汽車、上海汽車、国金汽車、斯威汽車、Henrey、Sokonが含まれている。
出所:ABVEサイト情報を基にジェトロ作成
中国メーカー、輸入関税減免措置のフル活用とブランド認知度向上に注力
長城汽車とBYDはブラジルで生産拠点を建設する計画を進めているが、工場の生産開始が繰り返し延期されている(注1)。そのため、国内販売されているBEVは全て輸入車だ。連邦政府は2023年11月、2014年に導入された電動車の輸入関税減免措置の段階的廃止を決定した。これにより、2024年1月1日以降、BEVの輸入税率は10%、PHEVは12%、HEVは15%となり、7月1日以降の輸入税率は、BEV18%、PHEV20%、HEV25%と引き上がった。現在は輸入関税が上がりきる前にできるだけ多く輸入しようという動きもあり(注2)、電動車販売台数は増加し続けている(2023年12月5日付ビジネス短信参照)。
こうした中、中国のBEVメーカーは、ブラジルの消費者を取り込むため、新たな戦略に挑戦している。長城汽車やBYDは、従来型の自動車ディーラーのみならず、ショッピングモール内にも販売店舗を構え、モール内の駐車場で試乗の機会を提供している。これまではショッピングモールでの自動車展示自体はあったが、試乗・販売は行われていなかった。長城汽車のアレシャンドレ・オリベイラ販売・店舗網開発担当者は現地紙「エスタード」(6月25日付)のインタビューで、「(ブラジルでは)長城汽車のブランドは新しいので、顧客がいる場所まで行かなければならない。(街中で)店舗を開いても、ブランドを知らない人が多く、誰も入ってこないリスクが高い」と説明している。
BYDは2023年1月以降、中国配車サービス大手の滴滴出行(DiDi)傘下の99社と連携し、99社の契約運転手に対して、同社のBEVを購入・リースする際の優遇キャンペーンを実施している。7月31日には米配車サービス大手ウーバーとも同様のプログラムを欧州や中南米で導入すると発表した。各国での詳細は未発表だが、ブラジルでも実施される予定だ。8月2日付の現地紙「グローボ」によると、こうした連携はBYDにとって大きな宣伝効果が期待できる。
ブラジル進出目指す中国メーカーはさらに増加
長城汽車とBYDの販売台数拡大に伴い、2024年には中国大手BEVメーカーの零跑汽車(リープモーター)、ジーカー(Zeekr)、合衆新能源汽車(Hozon Auto)、広州汽車集団(GAC)の4社も、ブラジル進出を計画している。
リープモーターは8月7日、自動車大手ステランティスと連携し、小型車「T03」とスポーツ用多目的車(SUV)の「C10」をブラジル市場に投入する計画を発表した。ステランティスとリープモーターは、2023年10月に中国以外の地域での製造・販売を担う合弁会社、零跑国際(リープモーター・インターナショナル)を設立している。ブラジルでの店舗網構築が進行中で、2025年までに販売が開始される予定だ(2024年8月22日付ビジネス短信参照)。
中国の大手自動車メーカー吉利汽車や、ボルボを傘下に持つ吉利控股集団(ジーリー)傘下のBEVメーカーZeekrも8月22日、ブラジル市場への参入を発表した。報道によると、最初に導入する車種はクロスオーバーの「001」とSUVの「X」の2種類。「001」の販売は2024年10月10日に開始した。Zeekrは、BYDが中流層をターゲットとしているのと異なり、富裕層をターゲットとしている(2024年9月2日付ビジネス短信参照、注3)。
リープモーターとZeekrの場合、現時点で工場建設の計画は発表しておらず、輸入車販売が中心となる。一方、5月1日には中国の自動車メーカーHozon Autoが手がけるEVブランド、哪吒汽車(NETA)がブラジルでの工場建設計画を発表した。8月9日にはブラジル市場に導入予定のBEVの3車種、SUVの「AYA」と「X」、スポーツカーの「GT」を紹介した。これらの輸入車は11月に販売を開始する予定だ(2024年8月19日付ビジネス短信参照)。
また、中国のEVメーカーのGACも6月24日にブラジルでの工場建設計画を発表した。今後5年間で10億ドルを投じ、工場や研究開発センターに加え、補修部品用の倉庫も建設する予定だ。ただし、現地報道によると、GACは国内生産を開始する前に輸入車の販売を行い、BEVの「アイオンY」がブラジル市場へ導入される可能性がある(2024年7月12日付ビジネス短信参照)。
国内メーカーに危機感、関税減免措置の即時撤廃を要求
ブラジル国内に生産拠点のある自動車メーカーを代表するANFAVEAは、9月30日にブラジル貿易審議会(CAMEX、注4)に対して、電動車の輸入関税減免措置の即時廃止を正式に要求した。CAMEXは現在、その要求について審議している。
政府が電動車の輸入関税減免措置を段階的に廃止する計画を決定した際、ANFAVEAは理解を示したものの、今回は「米国、欧州、カナダなどが電動車の国内生産を保持・促進するために、中国企業の製品に制限的な措置をとっているため、余剰分がブラジルに流入している。2024年には中国からのEVの輸入が大幅に増加した」と危機感をあらわにした。HEVやBEV生産に向けて、ホンダ、三菱自動車、ステランティス、トヨタ、現代自動車、フォルクスワーゲン(VW)、ゼネラルモーターズ(GM)、ルノー、日産、BMWなどの主要メーカーが相次いでブラジル国内への投資計画を発表しているが(2024年9月2日付地域・分析レポート参照)、ANFAVEAによると、「発表された投資計画の実現には、安定していて予測可能なビジネス環境が必要だ。最近の(中国電動車の)動きにより、その環境が乱れている」とのことだ。また、ANFAVEAのマルシオ・レイテ会長は10月7日の記者会見で、「現時点では(中国電動車)の輸入が超過気味で、港や運搬船がそちらを優先していることから、(国内生産拠点を持つ)メーカーは海運で必要な部品を輸入することができず、空運を利用することが多くなり、生産コストが上昇している」と指摘した。
一方、長城汽車ブラジル法人のディエゴ・フェルナンデス最高執行責任者(COO)は自動車業界情報サイト「オートモーティブビジネス」が9月30日に開催したセミナーで、「予測可能性は極めて重要だ。今年(2024年)1月から(電動車に係る)輸入税が段階的に引き上げられ始めたが、電動車の輸入関税減免措置の即時廃止によって、そのスケジュールの予測可能性が失われる」と、ANFAVEAの主張に反論した。一方で、ABVEのリカルド・バストス会長は同情報サイト(10月3日付)のインタビューで、「(連邦政府が)決めたスケジュールには変更がないものと確信している」と述べた。今後、ANFAVEAとABVEの主張に対して政府がどのような対応をとるかが焦点となる。
- 注1:
- 長城汽車がサンパウロ州で建設中の工場の生産開始は、2023年初から2023年下半期、2024年5月1日、2024下半期、2025年初と、繰り返し延長されている。BYDがバイーア州で建設中の工場の生産開始も、2024年下半期から2024年末~2025年初へと延長されている。
- 注2:
- 7月1日付の現地紙「エスタード」によると、7月の輸入税率引き上げによる価格上昇を抑えるため、BYDなどの電動車メーカーは事前に大量の電動車を輸入し、2~3カ月分の在庫を用意した。また、ANFAVEAの公式プレスリリース(9月5日付)によると、中国メーカーには8月時点で8万1,000万台の電動車の在庫があった。
- 注3:
- 中流層向けの自動車は12万~25万レアル(約324万~675万円、1レアル=約27円)で、Zeekrの001は42万8,000~47万5,000レアルだ。
- 注4:
- ブラジル国内で課される関税率を決定する権限を持つ開発商工サービス省傘下機関。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンパウロ事務所
エルナニ・オダ - 2020年、ジェトロ入構。現在に至る。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・サンパウロ事務所
中山 貴弘(なかやま たかひろ) - 2013年、ジェトロ入構。機械・環境産業部、ジェトロ三重、ジェトロ・サンティアゴ事務所、企画部海外地域戦略班(中南米)、内閣府などを経て、2023年7月からジェトロ・サンパウロ事務所勤務。