中国EV・車載電池企業のグローバル戦略スマート化・インテリジェント化急ぐ重慶市の自動車産業

2024年12月12日

中国の自動車産業では、ガソリン車から新エネルギー車(NEV)へのシフトが進んでいる。自動車関連の製造業を中心に経済成長を遂げてきた重慶市でも、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などとの連携によるインテリジェント・コネクテッド新エネルギー車(注1)の開発、販売で急成長する自動車メーカーが存在感を高めるなど、大きな変化が起きている。

本稿では、変化する重慶市の自動車産業を取り上げ、同市を本拠地とするNEVメーカーの動向や、海外展開戦略について概観するとともに、これらを後押しする同市政府の施策についても紹介する。

NEVへのシフト進める重慶市の自動車メーカー

重慶市の自動車生産台数は、2016年に315万6,200台を記録して以降、減少を続け、2019年には138万3,000台まで落ち込んだ。しかし、2020年から増加に転じ、2022年には209万1,800台と、再び200万台を突破した。その後も2023年に232万台、2024年上半期には121万4,200台と増加を続けている(表参照)。自動車生産のV字回復を牽引しているのはNEVだ。2023年のNEVの生産台数は前年から3割増の約50万台と、生産台数全体の21.6%を占めた。また、2024年上半期のNEV生産台数は前年同期比2.5倍の39万1,000台となり、NEVの割合は32.2%に急拡大した(図参照)。

表:重慶市自動車生産台数の推移
中国全体
自動車生産台数(万台)
重慶市
自動車生産台数(万台)
シェア(%)
2013 2,212.09 215.06 9.72%
2014 2,372.52 262.89 11.08%
2015 2,450.35 304.51 12.43%
2016 2,811.91 315.62 11.22%
2017 2,901.81 299.82 10.33%
2018 2,782.74 172.07 6.18%
2019 2,567.67 138.30 5.39%
2020 2,532.49 158.00 6.24%
2021 2,625.70 199.80 7.61%
2022 2,713.63 209.18 7.71%
2023 3,016.10 232.00 7.69%

出所:中国統計年鑑、重慶市統計年鑑、各報道

図:重慶市自動車生産台数に占めるNEVの割合推移
重慶市の自動車生産台数は、2019年は約138万台、その内NEV生産台数は約5万台で、約3.6%を占める。2020年は約158万台、その内NEV生産台数は約5万台で、約3.2%を占める。2021年は約200万台、その内NEV生産台数は約15万台で、約7.5%を占める。2022年は約209万台、その内NEV生産台数は約37万台で、約17.7%を占める。2023年は約232万台、その内NEV生産台数は約50万台で、約21.6%を占める。2024年上半期は約121万台、その内NEV生産台数は約39万台で、約32.2%を占める。重慶市の自動車生産台数に占めるNEVの割合は年々増加傾向にある。

出所:重慶市統計年鑑、中国汽車工業年鑑、報道資料からジェトロ作成

スマート化、インテリジェント化の積極推進でセレスが躍進

重慶市の自動車企業は、ガソリン車やディーゼル車からNEVへの切り替えを急速に進めるとともに、車両のスマート化、インテリジェント化も積極的に推進。異業種企業などとの連携を強化する動きもみられる。

重慶市に本社を置く長安汽車は、ファーウェイと車載電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)とともに、インテリジェント電気自動車(EV)のブランド「阿維塔(アバター)」を立ち上げ、2021年5月に子会社の長安蔚来新能源汽車科技の社名を阿維塔科技(アバター・テクノロジー)に変更した(注2)。同社は、2022年にファーウェイが開発した車載システムを搭載した「アバター11」の販売を開始。2024年8月には、ファーウェイの全額出資子会社の引望智能技術の株式10%を取得したと発表しており、さらなる連携を進めている。主力の販売車種には「アバター07」「アバター11」「アバター12」がある。自動車産業調査会社マークラインズのデータによると、2024年1~8月のアバター・テクノロジーのEV販売台数は、2万4,492台だった。

長安汽車は、2022年に自主EVブランドの深藍汽車(Deepal)を立ち上げ、同ブランドで初となるEV車種「SL03」の販売を開始した。さらに、2023年8月にファーウェイと協力枠組み協定を締結し、スマート車種の開発、新車種の投入などで連携している。マークラインズのデータによると、2024年1~8月の深藍汽車の主力の車種の販売台数は10万台を超えた。

同じく重慶市に本社を置く賽力斯集団(セレス、旧重慶小康工業集団)は2021年12月、ファーウェイとともに開発したEVブランド「問界(AITO)」の多目的スポーツ車「M5」を初公開し、その後、共同開発ブランドとして、2022年7月に「M7」、2023年12月に「M9」をそれぞれ発表した。2024年8月、セレスはファーウェイの全額出資子会社の引望智能技術の株式10%を取得したと発表した(2024年9月11日付ビジネス短信参照)。セレスは2024年10月時点で重慶市に3つのスマート工場(注3)を構えている。うち、2024年2月5日に完工した総面積2,700エーカーを超えるギガファクトリーでは「問界(AITO)M9」を生産している。セレスはNEVの部品生産まで含めたサプライチェーンを統率しており、重慶市には駆動モーターを製造する子会社の小康動力、金康動力新能源などが所在する。また、同市に隣接する四川省瀘州市には、トランスミッションを製造する傘下の容大智能変速器が工場を構えている。セレスは10月7日に、2024年1~9月の累計販売台数が前年同期比4.6倍の31万6,713台だったと発表した。


成都国際モーターショーでの長安汽車の
ブース(ジェトロ撮影)

問界(AITO)M5(ジェトロ撮影)

重慶市政府も同市自動車産業のNEVへのシフトとインテリジェント化、スマート化を推進している。2022年9月に「重慶市世界レベルインテリジェント・コネクテッド・新エネルギー車産業クラスターの建設に関する発展規画(2022~2030年)」を発表し、2025年までに中国でインテリジェント・コネクテッド・新エネルギー車の重慶市での生産・販売台数を中国全体の10%以上とする目標を掲げた。さらに、2030年までには、同分野の世界で一流の企業を1~2社(ブランド)育成し、先端技術を有する部品企業を集積させ、世界で一流の産業チェーンエコシステムを形成するなどとしている(2022年9月20日付ビジネス短信参照)。

海外市場開拓も推進、長安汽車は海外比率3割超を目標に

重慶市の自動車メーカー各社は、輸出の拡大と海外での生産拠点の構築にも力を入れている。

長安汽車は2023年4月、タイに同社初となる海外工場を設けると発表し、同年11月に起工式を行った。工場は2期に分けて建設する予定で、右ハンドルのバッテリー式電気自動車(BEV)や、プラグインハイブリット車(PHEV)を生産する予定だ。第1期工場は年間生産能力10万台で、2025年に稼働を始める見込み。第2期工場が完成すると、年間生産能力は合計で20万台に及ぶ見通しで、タイ国内市場への供給のみならず、オーストラリアやニュージーランド、英国、南アフリカ共和国などへの輸出も予定されている(2023年11月20日付ビジネス短信参照)。さらに、長安汽車は2024年9月3日に、ドイツのミュンヘンで子会社を設立したと発表した。市場調査、市場開拓、アフターサービスなどの事業を展開し、欧州市場に向けた製品・技術の現地化の強化を進める姿勢を示している。

2023年の長安汽車の中国国内販売台数は255万3,000台だった。そのうち、NEVの販売台数は前年比69.2%増の48万1,000台、輸出や海外市場での販売台数は43.9%増の35万8,000台だった(「中国汽車報」2024年1月19日)。また、2030年までに年間販売台数500万台達成を目標に掲げている。うち、NEVの販売台数を60%超(300万台超)に、輸出や海外市場での販売台数を30%超(150万台超)に引き上げる方針を打ち出している(「第一財経」2024年10月22日)。2024年9月時点で70カ国・地域以上で販売ネットワークを構築しており、全世界に33カ所の完成車、エンジン、トランスミッションの生産拠点を構えている。

セレスは2023年12月、インドネシアの自社工場でNEVの現地生産を開始した。同社は重慶市から東南アジア向けの輸送ルートの西部陸海新通道を利用して、NEVの部品を重慶工場からインドネシア工場に運んでいるという。セレスも海外販売に力を入れており、中国自動車工業協会は、世界各国のNEV販売状況をまとめた米国メディアのClean Technicaの統計情報として、2024年1~7月の「問界(AITO)M7」と「問界(AITO)M9」の販売台数が全世界で上位20位にランクインしたと述べた。

重慶市政府も自動車メーカーの海外展開を後押ししている。2023年12月、「重慶市における自動車海外進出行動計画」を発表した。同行動計画では、2027年までに同市の完成車輸出台数が中国全土の輸出台数に占める割合を10%に引き上げるとの目標を掲げた。また、企業の輸出能力の向上、輸送ルートの整備、外国市場の法規制への対応、ブランド力の向上など、海外展開強化に向けた取り組み項目を整理した上で、それぞれの項目について責任を持つ担当部門を明確化した。また、重慶両江新区は2024年5月に、中国工業情報化部と共同で、国際新エネルギー車ブランドセンターを設立したと発表し、同センターでNEVの検査・認証基地、貿易基地などを立ち上げ、重慶市自動車企業を含めた中国NEV産業の国際化を強化するとした。

2024年1月の重慶市政治協商会議の記者会見で、重慶市経済情報化委員会の涂興永副主任は「2023年に重慶市で生産された自動車は80以上の国・地域で販売されており、輸出台数は前年比29.8%増の36万8,000台に達した。長安汽車、セレスはASEAN諸国、南米、EU諸国などの市場でも販売しており、工場建設も加速している」と述べた。さらに、国務院発展研究中心マクロ経済研究部の張俊偉研究員は、2024年9月4日付の重慶市経済情報委員会のWeChat公式アカウントで、「重慶市の自動車企業の海外進出は、単なる製品の販売から技術と資本の輸出へと変化してきている。こうした変化は一見、重慶市内のGDPや就業機会の損失につながるように思われるが、企業の競争力を高めると同時に、収益を増やすことにもつながっている」と語った。

重慶市は今後も、長安汽車、セレスといった自動車OEMメーカーを中心に、NEVを軸とした産業の高度化を推進していく方針だ。また、NEVメーカーのほか、NEV向けサプライヤーも重慶市に集積しつつある。駆動システムメーカーでは、既出のセレス子会社の金康動力新能源に加え、長安汽車集団の傘下会社の重慶青山工業が進出している。このほか、比亜迪(BYD)100%出資子会社の車載電池メーカーの弗迪電池、リチウム大手の江西贛鋒鋰業(ガンフォン・リチウム)なども同市に生産拠点を構えており、同市政府としても市内でのNEVサプライチェーン構築に戦略的に取り組んでいくと思われる。

進む過当競争、企業間の優勝劣敗の傾向強まるか

中国の自動車産業はNEVを巡って、生産能力の過剰や価格競争の激化による過当競争の問題に直面している。前述のセレスと長安汽車について、2024年1~9月期の業績をみると、ファーウェイとの共同開発ブランドの販売が好調なセレスは、約40億3,800万元(約848億円、1元=約21円)の純利益を達成し、前年同期の約22億9,400万元の純損失から大幅に改善した。これに対し、長安汽車の純利益は前年同期比約63.8%減の約35億7,985万元と、収益の悪化が顕著となるなど、同じ重慶市企業でも明暗が分かれている。今後も中国NEV市場は激しい競争が続くことが予想されるが、重慶市はその縮図とも言え、政府や企業がいかに対応していくのか引き続き注目される。


注1:
インテリジェント・コネクテッドカーとは、人工知能(AI)や高度の通信技術を導入し、安全性や効率性の高い自動運転を可能とする自動車の総称。
注2:
前身となった長安蔚来新能源汽車科技は2018年に長安汽車と上海蔚来汽車(NIO)によって設立された。
注3:
AIやモノのインターネット(IoT)技術などを活用して効率的な業務管理を行う工場を指す。
執筆者紹介
ジェトロ・成都事務所
王 植一(おう しょくいち)
2014年、ジェトロ入構。2014年11月よりジェトロ・成都事務所勤務。

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