中国EV・車載電池企業のグローバル戦略中国自動車メーカーの進出、EV生産が本格化(インドネシア)

2024年12月13日

インドネシアの自動車市場では、政府の税制優遇策の後押しを受け、バッテリー式電気自動車(BEV)の販売が着実に増加している。2023年は韓国の現代自動車と中国の上汽通用五菱汽車(SGMW)がBEV販売台数の約8割を占めていたが、2024年は中国の比亜迪(BYD)などの新規参入の影響もあり、競争が激化している。また、政府は、世界最大の埋蔵量、生産量を誇るニッケル鉱石を活用し、ASEANおよび世界の電気自動車(EV)用バッテリー生産の中心地となることを目指している。2024年10月には、中国の電池材料メーカーがインドネシアにリチウムイオン電池の原料となる前駆体の工場建設を計画していることを発表するなど、車載電池関連での投資も進む。本稿では、インドネシアへの投資を強める中国の電気自動車・車載電池企業の動向について報告する。

2024年のBEV国内販売、9カ月で2万7,000台超

インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)の発表によると、2023年通年のBEV国内販売台数は1万7,062台だった。2024年は、1~9月に2万7,447台と、前年を上回るペースで推移している(図1参照)。

図1:インドネシアのBEV新規販売台数と国内自動車市場に占めるBEVの割合
インドネシアのBEVの販売台数は、2021年に685台、2022年に10,327台、2023年に17,062台、2024年1~9月で27,477台と右肩上がりに増加。新車販売台数に占めるBEVの割合も、2021年の0.1%から2024年には4.3%と増加した。

出所:インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)からジェトロ作成

2023年に販売台数が多かったのは、前年に現地生産を開始した現代自動車(7,475台、主なモデル:アイオニック5)とSGMW(6,968台、主なモデル:Air EV)の2社で、全体の約8割を占めた。一方で、2024年1~9月に上位を占めた車種は、前年末から同年にかけて新規に販売を開始したBYDのドルフィン、ATTO3、シールや奇瑞汽車(チェリー)のオモダE5などが目立った(表1参照)。

表1:インドネシアのBEV新車販売台数上位10モデル(2024年1~9月)(単位:台、%)(-は記載なし)
順位 メーカー(国名) モデル 販売台数 構成比
1 SGMW(中国) ビンゴ 4,054 14.8%
2 BYD(中国) シール 3,731 13.6%
3 チェリー(中国) オモダE5 3,691 13.4%
4 SGMW(中国) クラウドEV 2,943 10.7%
5 BYD(中国) ATTO3 2,757 10.0%
6 SGMW(中国) エアEV 2,149 7.8%
7 MG(中国) 4EV 1,985 7.2%
8 BYD(中国) M6 1,188 4.3%
9 現代自動車(韓国) アイオニック5 1,092 4.0%
10 BYD(中国) ドルフィン 860 3.1%
合計(その他を含む) 27,477 100%

出所:インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)からジェトロ作成

2024年1~9月のBEVの新車販売台数の上位モデルをみると、中国勢が上位を席巻している。最も販売台数が多かったのは、2023年12月に発売されたSGMWの小型ハッチバック「ビンゴEV(Binguo EV)」で、販売台数は4,054台、シェアは14.8%だった。SGMWによると、販売価格は約3億4,800万ルピア(約330万円、1ルピア=約0.0095円、注1)。また、同社の「クラウドEV(Cloud EV)」(販売価格は約379万円)は4位、「エアEV(Air EV)」(同約170万円)は6位だった。これら3車種は、それぞれの頭文字を取った「EV ABC Stories」として、多様な顧客層や需要に対応できるよう設計されている。


SGMWの小型ハッチバック「ビンゴEV」(ジェトロ撮影)

2位は、中国のEV最大手であるBYDが2024年6月に発売を開始したセダン型モデル「シール」で、販売台数は3,731台(シェア13.6%)だった。同モデルの価格は約7億1,900万ルピア(約683万円)。BYDは、5位にスポーツ用多目的車(SUV)「ATTO3」、8位に3列シートの多目的車(MPV)「M6」、10位に小型車「ドルフィン」がランクインしている。中でも「M6」は同社初の電動MPVで、インドネシア消費者の3列シートへの高い需要に対応する形で投入された。価格は約3億7,900万ルピア(約360万円)と、3列シートでありながら比較的低価格のEVとして、2024年7月に開催されたインドネシア最大の自動車展示販売会「第31回ガイキンド・インドネシア国際オートショー(GIIAS)」でも来場者の注目を集めた。

BYDは、2024年1月にインドネシア市場への参入を発表した。さらに、生産拠点として中部ジャワ州スバンにあるスマートポリタン工業団地でのEV工場建設に13億ドルを投じ、年間15万台を生産することを計画する。2026年1月に生産を開始する予定だ。


BYDのセダン「シール」(ジェトロ撮影)

BYDが発表した3列シート多目的車(MPV)「M6」(ジェトロ撮影)

3位は、中国の奇瑞汽車(チェリー)が2024年2月に販売を開始したSUV「オモダE5」だった。オモダE5は、世界に先駆けてインドネシアで初めて投入された車種で、価格は約4億9,880万ルピア(約470万円)だ。チェリーは2022年7月、2028年までに10億ドルを投じることで生産拠点を設置し、段階的な能力拡大により年間20万台体制とすることを公表した。また、チェリーの販売を手掛けるチェリー・セールス・インドネシアは2024年10月、チェリー製EVへの乗り換えに5,000万ルピア(約48万円)を補助する「ゴー・グリーン・ファンド」プログラムを開始し、総額1,000億ルピアを充てると発表した(チェリーウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同プログラムの実施により、現地での販売攻勢を強める構えだ(「リパブリカ」2024年10月14日)。

インドネシア政府、優遇策を導入しBEVの現地販売・生産を後押し

インドネシア政府は工業大臣規則2022年第6号にて、四輪EVの年間生産台数を2025年までに40万台以上、2030年までに60万台、2035年に100万台とすることを目標に掲げている。インドネシア財務省は同目標達成に向け、国内におけるBEVの販売奨励を目的として、付加価値税率の引き下げ(通常11%が1%に)、奢侈(しゃし)品販売税(通常15%)の免除、輸入関税の免除という3つの優遇措置を発表した(2024年3月5日付ビジネス短信参照)。なお、付加価値税の減免を受けるための要件として、国産化率(TKDN、注2)40%以上を満たす必要がある。

このほか、国内生産奨励を目的とする優遇政策としては、EV車両やその部品を製造する事業者に対する法人税減免の措置がある。2021年2月に施行した投資事業分野に関する大統領規則2021年第10号では、EVの車両やバッテリー、モーター製造などEV関連産業が法人税減免の対象業種とされている。1,000億ルピア(約9億5,000万円)以上の投資を行うプロジェクトに対し、投資金額に応じた期間(5~20年)と割合(50~100%)で法人税が減免される。

中国メーカーによる現地生産が加速

同国では、既に日中韓の自動車メーカーによりBEVの現地生産が開始されているが、前述の税制優遇策などを背景に、新規では特に中国系自動車メーカーによるものが目立つ(表2参照)。

表2:メーカー別BEV生産台数(単位:台、%)(-は値なし)
国名 メーカー 2021年 2022年 2023年 2024年1-9月
台数 台数 台数 台数 割合
中国 上汽通用五菱汽車 8,422 7,423 11,193 53.8
CHERY 4,632 22.3
NETA 999 4.8
MG 80 0.4
SERES 135 140 0.7
東風小康汽車 2 200 660 3.2
韓国 現代自動車 1,865 7,560 2,983 14.3
日本 三菱自動車 110 0.5
合計 10,289 15,318 20,797 100.0

出所:インドネシア自動車製造業者協会(ガイキンド)

表2掲載の自動車メーカー以外にも、中国メーカーでは広州汽車集団(GAC)傘下の広汽埃安新能源汽車(AION)が、2025年第1四半期に現地組み立て生産を開始する計画を明らかにしている。生産が開始されれば、東南アジア内でタイに続いて2カ国目の生産拠点となる予定だ。また、浙江吉利控股集団(ジーリー)も現地生産を計画中であると発表したほか、上海汽車集団(上汽集団)傘下で「MAXUS」ブランドを手がける上汽大通汽車も、同社と独占販売契約を結んでいるインドモービル・エネルギ・バルが今後、高級多目的車(MPV)のEV「Mifa9」を生産すると発表しており、今後、EV市場はさらなる競争激化が予想される。

2024年に入り、中国からのBEV輸入が急増

インドネシアで販売されているBEVのうち、現地生産車のみならず、輸入車も多く販売されている。インドネシアの輸入統計をみると、2024年6月以降、中国からのBEV(HSコード8703.80)の輸入量が急増している。この点、ガイキンドが公表しているデータと照らしてみると、BYDの輸入実績が統計上、カウントされ始めた時期(6月)と一致する。

図2:BEV(HSコード8703.80)の輸入額の推移
2023年は韓国からのBEVの輸入額が最も多かったが、2024年に入って中国からのBEVの輸入額が増加した。

出所:S&P Global

これは、前述の輸入税免除措置の導入の影響が大きいと考えられる。同措置の適用対象は、インドネシア国内で、BEV生産設備を建設する企業、生産設備に投資する企業、新製品投入のため生産能力増強を検討する企業、とされている。これら企業は、遅くとも2026年1月1日までに商業生産の準備を完了させ、2027年までに生産を開始するなどの要件を満たすことが求められる。満たせなかった場合は罰金が科せられるとの定めがあるが、各自動車メーカーは、将来的な国内生産の約束により、輸入BEVであっても税制優遇の恩恵を享受できる仕組みとなっている。

一方、同措置について、各社に先立って現地生産に取り組んできた現代自動車が「インドネシア政府が掲げる国産化推進のため、既にインドネシアに多額の投資を行っている企業にとって、不公平な措置と言わざるを得ない」と指摘(2024年5月14日付「ビスニス」)しているほか、SGMWも「(我々が順守してきた)規制よりも競合他社が緩やかな条件で優遇を受けられる状況は不公平である」として不満を表明している(2024年7月22日付「ビスニス」)。

EVバッテリーのサプライチェーン拠点化を目指す動きも進展

インドネシアは国内に豊富な天然資源を有し、輸出に占める一次産品の比率が高い。政府は、国際資源価格変動の影響を受けやすい資源依存型の経済構造から脱却するため、鉱石の精製や製錬などの国内実施を義務付けるなど、資源の国内加工および川下産業育成の推進も含めた高付加価値化を進めている。特に世界最大の埋蔵量と産出量を誇るニッケル鉱石については、自国での生産・精錬や電気自動車(EV)車両およびバッテリーのサプライチェーン拠点化を目指し、2020年1月から未加工鉱石の全面的な禁輸措置を開始した。

インドネシア政府は2021年3月、EVバッテリーの国内生産を振興するため、国営企業4社の連合で「インドネシア・バッテリー・コーポレーション(IBC)」を設立した。同社は、国営の鉱物資源会社マインド・アイディ―(MIND ID)、ニッケル資源などの開発を行うアネカ・タンバン(ANTAM)、国営石油会社のプルタミナ、電力公社のPLNがそれぞれ25%ずつ出資し設立された。同社は、「EVバッテリーのエコシステム」を育成することを掲げ、2030年までに他社との協力の下で、ニッケル精錬によるバッテリー材料、バッテリーセル、バッテリーパックの製造などを行う。IBCは2024年10月17日、中国車載電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)傘下の寧波普勤時代(CBL)とEVバッテリーセルの製造会社を設立することで暫定合意したと発表した。投資額は総額11億8,000万ドルを見込む。

また、IBCと現代自動車グループ、LGエナジーソリューションの3社の合弁会社「ヒュンダイLGインドネシア(HLI)グリーンパワー」は2024年7月、リチウムイオンバッテリーセルのインドネシア国内生産を開始(2024年7月11日付ビジネス短信参照)。これにより現代自動車は、インドネシアで初めてEV用バッテリーセルから完成車までの一貫生産体制を構築した。7月に国内販売を開始した現代自動車「コナ」には、HLIグリーンパワー製のバッテリーセルが搭載されている。また、2024年10月末には、中国の電池材料メーカー、中偉新材料が、インドネシアにリチウムイオン電池の原料となる前駆体の工場建設を計画していることを明らかにした。投資額は105億ドルに達する見込みで、現在は候補地を探している段階という。

このほか、中国のSGMWは2024年9月20日、2024年中にEV向けバッテリーの現地生産を開始する計画を明らかにした(ウーリンウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。現地紙が伝えたところによると、第1フェーズでの投資額は5億ドルで、既存の西ジャワ州チカランの工場にバッテリー生産設備を設ける予定で、将来的な年産能力は年間2万個を計画している。

BEVの販売台数がどこまで伸びるのか、激化する競争環境にも注目

インドネシアのEV市場では新規完成車メーカーの参入が本格化し、消費者にとって自動車購入時の選択肢が拡大していることは間違いない。一方、EV以外も含む全車種の新車販売台数に目を向けてみると、2024年9月末まで15カ月連続で前年同月比減少となった。ガイキンドは10月25日、2024年の新車販売台数目標を当初目標の110万台から85万台に下方修正するなど、伸び悩みが続いている。伸び悩みが続くインドネシアの自動車市場で、中長期的にはインドネシア政府および中国企業が注力するBEVの市場規模が、今後どこまで伸びるのかが注目される。

また、タイやマレーシアで着実にシェアを拡大し、2024年にインドネシアへの参入を果たしたBYDをはじめとした新規プレーヤーと、早期にインドネシア市場を開拓してきたSGMW、現代自動車など既存プレーヤーとの間で競争が激化することが予想される。


注1:
車両登録証の手数料などを含めた車両価格。
注2:
TKDNの概要は2023年12月27日付地域・分析レポート参照。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ)
2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ・北九州、企画部企画課を経て現職。

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