世界のクリーン水素プロジェクトの現状と課題産業集積により需要面のポテンシャルも
メキシコのクリーン水素(2)

2024年11月14日

メキシコには、エネルギーを多消費する産業が集積する。例えば、石油精製、鉱山、製鉄、セメント・ガラス製造などだ。そのほかにも、世界第7位の規模を誇る自動車産業など、対米輸出製造業の集積も大きい。その結果として、電力の需要も伸びている。需要面で水素の利活用するポテンシャルが高いということになる。

しかし、課題もあるのが事実だ。その1つが、国家戦略の欠如と言えるだろう。連載の第2回では、当地でクリーン水素を利活用する需要面のポテンシャルと水素プロジェクトの実現可能性について考察する。

石油精製、鉱山、化学、製鉄などに大きな需要

国際協力銀行(JBIC)は2023年度、ERM(環境・社会コンサルティング会社)に委託して「メキシコにおける水素ビジネスと日本企業参入の可能性に係る調査」をまとめた。その報告書では、世界の主要国を水素の生産ポテンシャルと国内消費ポテンシャルに応じて、(1)地産地消型(生産ポテンシャルも国内消費ポテンシャルも高い)、(2)輸出国型(生産ポテンシャルが高い一方、国内消費ポテンシャルが低い)、(3)輸入国型(生産ポテンシャル低、国内消費ポテンシャル高)、(4)ポテンシャル限定型(双方のポテンシャルが低い)に分類している(図参照)。メキシコは中国、米国、インド、ブラジルとともに(1)に当たる。(2)の典型はオーストラリアとチリ、(3)は欧州工業国(ドイツなど)と日本だ。

図:主要国の水素生産ポテンシャルと国内消費ポテンシャル
世界主要国のグリーン水素の生産ポテンシャルの高低(上が最も高い、下が最も低い)、水素の国内消費ポテンシャル(産業集積)の高低(右が最も高い、左が最も低い)に応じて、主要国のポテンシャルを表した図。右上の区画が「地産地消型」(生産ポテンシャルも国内消費ポテンシャルも高い)、左上の区画が「輸出国型」(生産ポテンシャルは高いが、国内消費ポテンシャルが小さい)、右下の区画が「輸入国型」(生産ポテンシャルは低いが、国内消費ポテンシャルが高い)、左下の区画が「ポテンシャル限定型」(双方のポテンシャルが低い)と分類される。「地産地消型」が中国、米国、メキシコ、インド、ブラジル、「輸出国型」がGCC、オーストラリア、カナダ、アルゼンチン、チリ、「輸入国型」がドイツ、日本、フランス、英国、イタリア、韓国、「ポテンシャル限定型」がノルウェー、ニュージーランド。

出所:JBIC(ERM受託)「メキシコにおける水素ビジネスと日本企業参入の可能性に係る調査」

メキシコには、エネルギーを多消費する工業(注1)が立地。また、北米自由貿易協定(NAFTA)が1994年に発効して以降、対米輸出製造拠点として発展してきた歴史もある(自動車産業が代表的で、いまや世界第7位の生産規模を誇る)。そうした集積から、当地では電力消費のポテンシャルが大きい。前述した産業では、燃料代替として利活用する用途がありそうだ。加えて、発電分野で水素燃料電池(FC)に活用したり、水素だきガスタービン発電(天然ガスとの混焼や将来的な水素専焼)したりする需要が考えられる。

一方、そうした産業が水素を利活用するプロジェクトを実施すると、どのような結果をもたらすことになるのだろうか。メキシコのマリオ・モリーナセンター(環境分野専門の研究所)は2022年3月、当該プロジェクトの実施による温室効果ガス(GHG)排出削減ポテンシャルに関して報告書(注2)を発表した。同報告書では、特定産業の実在する事業所で水素を利活用した場合を想定し、水素需要や水素価格(LCOH)、GHG削減見込み量などを試算した(注3)。ちなみに想定した産業分野は、(1)石油精製、(2)鉱山開発、(3)ブレンディング(注4)、(4)アンモニア生成、(5)製鉄、(6)公共交通〔BRT(注5)〕、(7)メタノール合成だ。これによると、当該7分野で水素を利活用するプロジェクトは、合計で29件ある。そこから生じる水素需要は年間約40万トン、必要な初期投資額は241億ドル。GHG削減見込み量は、CO2換算で年間566万トンになる(表1参照)。

表1:メキシコの産業別水素需要ポテンシャル(-は値なし)
産業 プロジェクト
件数
水素需要
(t/年)
初期投資額
(100万ドル)
LCOH(ドル/kg) GHG削減量
(tCO2/年)
生産のみ 輸送込み
石油精製 6 148,350 9,608.2 6.07 6.20 1,536,789
鉱山 10 107,325 6,092.4 5.70 6.78 1,593,500
ブレンディング(3%) 5 55,877 3,598.5 6.32 6.32 1,672,547
アンモニア生成 2 35,040 2,229.5 6.20 6.26 324,474
製鉄 2 23,932 1,388.9 5.62 6.16 304,949
公共交通(BRT) 3 15,265 866.6 5.82 6.16 164,666
メタノール合成 1 6,400 363.9 5.54 5.61 59,264
合計 29 392,188 24,148.0 5,656,189

注:この表で言う「プロジェクト件数」は、各産業の代表的な事業所で水素の導入を想定した件数。
出所:マリオ・モリーナセンター(Centro Mario Molina)、2022年3月

JBICの調査によると、メキシコ全国32州のうち20州で、(1)エネルギー消費量が多い工業(注1)、または(2)鉱山(鉱業)が存在感を示す。(2)では、重機(特殊大型トラックやショベルなど)を多用するので、やはりエネルギー消費が大きい。(1)や(2)以外でも、バハカリフォルニア州、チワワ州、グアナファト州、メキシコ州、ヌエボレオン州、サンルイスポトシ州、ソノラ州などには、(3)輸出製造業(自動車産業、航空機部品製造、医療機器製造、家電製造など)が集積。(3)では電力消費量が大きいため、発電に当たり水素の活用を見込むことができる。より具体的には、水素だきガスタービン発電や、バックアップ電源として燃料電池を活用することなどを想定できる(表2参照)。

表2:メキシコの州別水素需要ポテンシャル(産業集積)(単位:トン/年、バレル/日、100万ペソ)
州名 重工業集積 規模 電力関連
事業
(注)
生産量 出荷額
アグアスカリエンテス セメント N.A. 6,725 3,899
バハカリフォルニア セメント N.A. 8,707 36,280
チワワ セメント N.A. 5,930 26,299
鉱業 154,703 N.A.
コアウイラ 鉱業 218,011 N.A. 14,951
コリマ 鉱業 637,433 N.A. 10,330
ドゥランゴ 鉱業 250,539 N.A. 9,126
グアナファト 石油精製 116,000 N.A. 25,299
イダルゴ 石油精製 315,000 N.A. 13,471
メキシコ州 鉱業 22,651 N.A. 41,675
セメント N.A. 9,598
ガラス N.A. 19,361
ミチョアカン 鉱業 342,854 N.A. 15,143
ヌエボレオン セメント N.A. 5,830 44,525
石油精製 275,000 N.A.
ガラス N.A. 17,643
製鉄 N.A. 20,976
オアハカ 鉱業 33,731 N.A. 17,911
石油精製 315,000 N.A.
プエブラ セメント N.A. 11,520 21,841
メタノール 6,400 N.A.
サンルイスポトシ 鉱業 96,748 N.A. 31,675
セメント N.A. 9,186
シナロア アンモニア 803,000 N.A. 15,883
ソノラ 鉱業 94,748 N.A. 38,316
タバスコ 石油精製 340,000 N.A. 4,915
タマウリパス 石油精製 106,000 N.A. 23,824
ベラクルス セメント N.A. 8,213 42,953
石油精製 285,000 N.A.
アンモニア 300,395 N.A.
製鉄 N.A. 45,439
サカテカス 鉱業 170,134 N.A. 2,709

注:各州における事業所への電力供給需要を反映する目的で、国民経済統計データ(2022年時点)から各州の発電・送配電事業の粗付加価値を採用した。
出所:JBIC「メキシコにおける水素ビジネスと日本企業参入の可能性に係る調査」,国立統計地理情報院(INEGI)データ(発電・送配電付加価値)から作成

具体的なオフテイカー確保が課題

メキシコ水素協会(AMH2)は2024年10月、報告書「メキシコ水素産業戦略2024」を発表した。この報告書によると、現在、メキシコで計画されているクリーン水素プロジェクトは合計16件。投資額も、合計で200億ドルを超える。内容としては、(1)グリーン水素の生産が7件、(2)グリーン水素の利活用5件、(3)グリーンアンモニアの生産3件、(4) eメタノールの生産1件になっている。

ただし、具体的な詳細は記述されていなかった。そこで、様々な報告書や投資を検討する企業のウェブサイトなどから、ある程度内容が固まっているものをまとめた(表3参照)。

表3:メキシコの主要なクリーン水素プロジェクト(2024年10月末時点)
プロジェクト内容 企業名 企業
国籍
段階 備考
電力供給:P2G2P
(ELCプロジェクト)
HDF フランス 建設中 南バハカリフォルニア 太陽光発電による電力を水素に転換し、貯蔵しておく。必要に応じ、同水素を燃料電池を用いて再度電力に転換し、電力庁(CFE)をオフテイカーとして売却する。なおCFEは、当該電力を南バハカリフォルニア州2万5,000戸に供給する。
ちなみに当州は、電力供給が不安定なことで知られる。プロジェクトの発電量は、年間15GWh。
グリーンアンモニア・肥料製造 Tarafert オランダ 建設中 ドゥランゴ 第1フェーズで年間20万トンのグリーンアンモニアを製造、尿素合成に用いる。
尿素は、年間100万トン生産。ロシアなどからの輸入に代える。
グリーン水素製造、ブレンディング DH2 Energy スペイン 建設前 グアナファト 太陽光発電設備は建設済み。水電解装置はこれから。
水素を年間1万2,600トン製造。天然ガスと混合したパイプライン輸送も想定。
グリーンアンモニア、eメタノール製造 DH2 Energy スペイン 計画段階 シナロア 大規模太陽光発電(容量2.7GW)でグリーン水素を年間42万トン生産。その上で、グリーンアンモニアやeメタノールなど合成燃料に転換。それらを、欧州などに輸出する。
投資額11億ドル超。
グリーンアンモニア製造
(Marengoプロジェクト)
HY2GEN ドイツ 計画段階 カンペチェ 200MWの風力・太陽光発電により、まずグリーン水素を製造。その上で、のグリーンアンモニアを年間20万トン生産する。海水淡水化プラントも設置。
投資規模1億2,200万ドル。
eメタノール製造
(Pacific Mexinolプロジェクト)
Transition Industries 米国 計画段階 シナロア 大規模eメタノールプロジェクト。グリーン水素由来のメタノールを年間30万トン、ブルー水素由来のメタノールを同180万トン、それぞれ製造する。
なおこのプロジェクトには、世銀グループのIFCも資本参加している。
排水処理能力の強化とグリーン水素製造 ISCM ベルギー 計画段階 タマウリパス ベルギーの財団ISCMが州政府とともに進めるプロジェクト。州内8市町村の排水処理能力を強化し、排水をグリーン水素製造に再利用する。
グリーンアンモニア製造
(Helaxプロジェクト)
CIP デンマーク 計画段階 オアハカ 風力(1.2GW)と太陽光(2.1GW)を活用して、グリーン水素を年間18万トン製造。その上で、アンモニアを年間90万トン製造する。
発電(水素混焼GTCC発電) 電力庁(CFE) メキシコ 計画段階 全国 発電所12カ所で、ガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電を実現する(天然ガス75%、水素25%の混焼)。2033~2036年は、合計発電容量5,789 MW。
国家電力系統開発計画(PRODESEN 2024~2038)に盛り込まれた。
石油精製 石油公社(PEMEX) メキシコ 計画段階 全国 米国テキサス州で生産したグリーン水素を、2030年からパイプライン経由で輸入。この水素は製油所で利用する。
さらに2035年からは、国内で生産するグリーン水素を利用する計画。
水素バス(公共交通) メキシコ市政府 メキシコ F/S段階 メキシコシティ BRTのメトロバスを燃料電池車(FCV)に転換。
水素バス(公共交通) ヌエボレオン州政府 メキシコ F/S段階 ヌエボレオン 州内主要都市の公共輸送にFCVを導入。
セメント製造(燃料代替) CEMEX メキシコ 計画段階 全国 国内4カ所のセメント工場で、代替燃料としてクリーン水素を利用。

注:段階欄にある「F/S」とは、実現可能性調査のこと。「計画」と比べ、F/Sの方が成熟度は高い。
出所:ERM,メキシコ水素協会(AMH2)、スペイン貿易投資庁(ICEX)、各社ウェブサイトなどから作成

こうしてみると、多くが非常に初期段階のプロジェクトだ。換言すると、最終投資決定(FID)に至るかどうか不透明なところがある。

大規模なものとしては、欧州系デベロッパーやファンドが計画した輸出向けプロジェクトが多い(アンモニアやeメタノールとして、欧州などに輸出)。メキシコの恵まれた自然環境を利用してグリーン水素を大量生産する計画が、その前提になっている。しかし、それら多くの案件で、具体的なオフテイカー(注6)を確保しきれていない。商業化に向けたFIDに至るには、安定したオフテイカーが必要だろう。

なお、そうした案件の中には、日本企業に目を向ける例もある。(1)DH2〔親会社は、ダーマエナジー(スペイン企業)〕や、(2)コペンハーゲン・インフラストラクチャー・パートナーズ(CIP/デンマーク系)がその例だ。(1)や(2)では、船舶用燃料の需要家などに声をかけているという。

地場企業が主導する大規模案件でも、まだ初期段階にとどまるプロジェクトが目立つ。(1) CFEによる水素混焼発電プロジェクト(後述)、(2)石油公社PEMEXが製油所で使用するグレー水素(注7)のグリーン転換、(3)都市公共交通への燃料電池車両(FCV)導入、(4)セメント製造大手CEMEXの工業用燃料転換などの計画などが、その例に当たる。

もっとも、水素の具体的な利活用方法まで視野に入っているプロジェクトも、一部存在する。例えば、次のようなものがある

タラフェルト(Tarafert)による肥料製造プロジェクト/ドゥランゴ州

オランダとメキシコの企業家が進めてきた。アンモニアから尿素を合成し、さらに肥料を国内生産する。

アンモニアの原料として、元々想定していたのが天然ガスだった。しかし途中から、グリーン水素の活用を考えるようになった。2028年には、グリーンアンモニアの商業生産を開始するという。

パワーツーガスツーパワー(Power to Gas to Power:P2G2P)プロジェクト/南バハカリフォルニア州

南バハカリフォルニア州では、電力供給網が国家統合電力系統(SIN)につながっていない。そのため当州では、電力供給の安定が重要課題になっている。

フランスのHDFが主導するP2G2Pは、その目的に立つものだ。まず、(1)グリーン水素生産、(2)それを貯蔵し、(3)需要に応じて、燃料電池で電気に転換して供給する。オフテイカーは、電力庁(CFE)ということになる。

HDFのクリスティーナ・マルティン・ラテンアメリカ担当副社長によると、建設許可や水利権などは取得済み。ただし、連邦政府が管轄する発電許可や系統接続許可のプロセスが遅れている。

日本企業の技術が生きる分野も

メキシコ進出日系企業も、当地水素プロジェクトへの参画実現を目指している。メキシコ日本商工会議所は2022年8月、社会インフラ委員会の傘下に水素分科会を設置した。この分科会に参加するのは、水素プロジェクトに関心を持つ総合商社や関連技術を持つメーカー、エンジニアリング会社などだ。さらに、ジェトロ、JBIC、国際協力機構(JICA)など日本政府関係機関も加わる。

当地で日本の技術を導入する可能性が高いのは、(1)公共交通へのFCV導入(既に日本では一部実現済み)、(2)燃料電池(FC)を使ったオンサイト発電事業、(3)水素だきガスタービン・コンバインドサイクル(GTCC)発電、(4)製鉄プロセスでの燃料代替、などだろう。このうち(3)と(4)について補足すると、次のとおり。

水素だきGTCC

エネルギー省はGTCCに関し、「国家電力系統開発計画(PRODESEN 2024-2038)」で目標を示している。具体的には、「2033~2036年、CFEの発電所12カ所で〔合計容量5,789メガワット(MW)〕、天然ガス75%・水素25%の混焼発電を実現する」という。

この計画に基づきCFEがGTCC発電所を新たに建設するに当たって、三菱重工が開発した最新型のガスタービンを納入する可能性がある(注8)。同社の技術は、天然ガスだきガスタービンを水素だきに転換する上でも有用だ。タービンを全体的に改造する必要がなく、燃焼器を交換し燃料供給システムを追加するだけで良い。すなわち、本体は流用できるため、改造範囲が最小限で済む(2024年10月28日付地域・分析レポート参照)。

ちなみに、CFEがグアナファト州サラマンカに建設する天然ガスだきGTCC発電所には、当該ガスタービンが導入される。JBICがバイヤーズ・クレジットを提供することにもなっている(2024年3月28日付JBICプレスリリース参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

こうしてみると、CFEの発電所燃料を水素転換する計画では、日本の技術が貢献する可能性が高い。

製鉄分野での水素利活用

メキシコには、電気炉の製鋼所が多い(ちなみに、その主原料は、スクラップ)。そうして製造される鉄鋼の品質を高めるため、DRI(注9)の製造設備を併設する動きがある。

その一例が、テルニウム・メキシコだ。同社には、DRI製造プロセスで利用する天然ガスを水素に転換する計画がある(2023年6月29日付ビジネス短信参照)。これを推進していくに当たり、日系企業の技術を採用する可能性がある。

国家戦略の策定が不可欠

ここまで見てきたとおり、メキシコでクリーン水素を生産する場合、コストが他国に比して低い(本特集「メキシコのクリーン水素(1)恵まれた自然環境で低コスト生産が可能」参照)。また、生産した水素を国内で消費する産業の集積もある。

とはいえ、当地にも課題が無いわけではない。具体的には、エネルギー転換して水素を利活用することに、明確な政策がないことだ。税制インセンティブも、補助金などの支援も一切ない。一部の州政府に、クリーン水素の利用拡大に向けた独自のロードマップを作る動きがあるぐらいだ(注10)。水素が現状で他エネルギー源に比べて割高なことを考慮すると、プロジェクト実現のためには、調達コストを補う政府の支援や政策がやはり不可欠だろう。

そこでジェトロはJBICおよびメキシコ日本商工会議所と、「日墨クリーン水素フォーラム」を共催。2024年9月5日、首都メキシコ市で実施した。狙いは、(1)メキシコのポテンシャル(クリーン水素を生産・貯蔵・輸送・消費し、ひいてはその輸出拠点になる)について共通認識を構築すること、(2)政府が国家戦略を策定する必要性などを訴えること、に置いた(2024年9月11日付ビジネス短信参照)。

このフォーラムには、トヨタ、三菱重工業、三井物産といった日本企業の現地法人がパネリストとして参加。各社は、他国で進めている水素プロジェクトについて紹介した。各パネリストは、「日本企業の参画するプロジェクトがメキシコでも実現する可能性がある」ことを指摘。ただしそのためには、(1)メキシコが国家としての明確な戦略を策定する、(2)水素社会の実現に向けロードマップを整備する、(3)他国で導入されているような政策支援を導入していく、必要性が強調された。


注1:
JBICの調査でいう「エネルギー消費量が多い工業」とは、(1)石油精製、(2)化学(アンモニア、メタノールなど)、(3)製鉄、(4)土石・ガラスなどの製造事業を意味する。
注2:
Centro Mario Molina「Assessment of the Greenhouse Gas Mitigation Potential of Green Hydrogen-An Implementation Roadmap for Mexico」(2022年3月)
注3:
石油精製分野では、現時点まで利用されてきたグレー水素(化石燃料由来)をグリーン水素に転換することを想定。
化学産業については、アンモニアや水素由来の合成燃料など従来の原料である化石燃料(天然ガスなどの炭化水素)を水素に代替することを想定。
その他の産業では、燃料として用いる天然ガス、ディーゼルなどを水素に代替することを想定している。
注4:
ブレンディングとは、天然ガスに水素を混合し、パイプラインで輸送して産業用ガスとして利用する事業。
注5:
バス・ラピッド・トランジット(Bus Rapid Transit:BRT)。連結バスやバス専用レーンなどを組み合わせ、速達性・定時性の確保や輸送能力の増大を可能にする都市大量輸送システム。
注6:
オフテイカーとは、プロジェクトの生産物やサービスを購入し、プロジェクトを成り立たせる役割を担う者のこと。
注7:
グレー水素は、天然ガスの改質により生成する。また、その過程で排出する二酸化炭素(CO2)を分離・回収しない(この点で、ブルー水素と異なる)。
注8:
三菱重工業の当該ガスタービンは、同社の高砂水素パークで水素30%混焼実証に成功した。
注9:
通常の鉄鋼は、高炉で鉄鉱石と炭素(コークス)燃料を一緒に燃焼し、COで還元してつくる。
これに対しDRIは、鉄鉱石に天然ガスなどの還元性ガスを直接吹き付け、還元した鉄。
注10:
例えば北東部ヌエボレオン州は、ドイツ政府の協力を得て同州の水素活用ポテンシャルを調査。2023年初から、州としてロードマップを策定するためにワーキンググループを開催している。このワーキンググループには、産官学から参加がある。
執筆者紹介
ジェトロ調査部主任調査研究員
中畑 貴雄(なかはた たかお)
1998年、ジェトロ入構。貿易開発部、海外調査部中南米課、ジェトロ・メキシコ事務所、海外調査部米州課を経て、2018年3月からジェトロ・メキシコ事務所次長、2021年3月からジェトロ・メキシコ事務所長、2024年5月から現職。単著『メキシコ経済の基礎知識』、共著『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』『FTAガイドブック2014』など。