中堅・中小、サステナビリティ対応で海外に挑むパウダー野菜で世界のフードロス削減に貢献(日本、フランス)

2024年11月5日

「サステナブル消費」を考える上で、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品「フードロス」の削減は1つの大きなテーマだ。本レポートでは、フードロス軽減につながるビジネスを展開する村ネットワーク(本社:大分県豊後大野市)を紹介する。野菜を乾燥させて粉末状にしたパウダー野菜を生産・販売している同社は、従来廃棄していた規格外の野菜も含めて、パウダーにすることで、フードロス軽減につながるビジネスを展開している。海外輸出も行う同社の應和(おうわ)春香代表取締役社長に話を聞いた(2024年7月12日までに取材)。

農家が抱える課題がビジネスのきっかけ

村ネットワークは、地元の農家が抱える規格外野菜に関する課題に着目し、それを解決したいとの思いが同社立ち上げにつながった。農家が抱える課題について、應和社長は「農家が生産する野菜からは、市場への出荷基準を満たさない規格外品(例:袋に入らないような曲がったキュウリなど)が3割程度発生する。規格外品はそのままでは市場に出回りにくい。農家には、市場に出回らない野菜を他の販売店に売りに行く時間の余裕がない。また、規格外品を別の商品などに生かす戦略を練る時間もない」と話す。「規格外品でも味に問題はなく、おいしいものはおいしい。そのままでは市場に出回らなくても、パウダーに加工してしまえば、規格は関係なくなり、廃棄されずに済む」と考え、同社は「規格フリー(規格なし)」という概念の下、規格外も含めた野菜をパウダーにした「ベジマリパウダー」を生産し、販売を行っている。同社のパウダー化ビジネスは受託加工や業務用販売が中心だ。同社がまとまった量の野菜を調達するため、調達先の農家にとっては計画生産が容易になる。

生産現場の「体験」で、海外バイヤーに手応え

現在の販売先は主に国内だ。ただ、市場規模でみると、国内より海外の方が大きい。常温保存が可能で、消費期限が約2年と長いパウダー野菜の特徴を生かし、同社は輸出にも取り組んでいる。同社の最初の輸出先はフランスだった。同社は2019年、ジェトロが国内で開催した商談会に参加したが、この商談会に参加したフランスのバイヤーは「当初、当社の商品には全く関心を示していなかった」(應和社長)という。ただ、商談会翌日に、複数の海外バイヤーが国内食品事業者を視察・見学するツアーがあり、その行程の1つに同社の生産工場訪問が組み込まれていた。工場に来て生産現場をみてもらい、同社の取り組みについて説明すると、バイヤーの反応が急によくなり、ツアーに参加していたフランス人バイヤーに輸出できた。その後も、台湾やオーストラリアなどに輸出を拡大させている。

同社のパウダー野菜は、パッケージに梱包(こんぽう)して店先に置いておくだけでは、商品に込めた思いやこだわりを全て伝えることが難しいため、上述のフランス人バイヤーの当初の反応と同様、消費者やバイヤーなどに関心を持ってもらうには工夫が必要、と應和社長は自己分析する。ただ、その商品の生産現場を体験(注1)してもらうことで、そのこだわりや思いの部分を知ってもらうことができ、体験してもらった人へのパウダー野菜の訴求は早い、とも應和社長は感じている。そのため、同社では、誰でも生産現場の様子がわかるよう、同社ウェブサイト上で工場見学バーチャルツアーのページを設け、生産工程の様子を動画で紹介している。


色鮮やかなパウダー野菜(村ネットワーク提供)

海外でなじみのない野菜もパウダーにして輸出

同社のビジネスは、市場規格上は廃棄されるはずの野菜を活用している点で、フードロスの回避や削減に貢献するサステナブルな取り組みだ。同社のビジネスモデルについて、国内の事業者からは「活動に共感できる」「応援したい」と評判はいいという。

他方、食の地産地消の流れは国内だけでなく、海外でも進む。海外で地産地消が進む中でのパウダー野菜の輸出について、應和社長は「当社商品を『日本ブランド』として海外向けに販売しようとしても、輸送費などを含めると、販売価格は高くなってしまう。また、海外でも地産地消が進む中、現地事業者にとっては『どこでも入手できるもの(野菜)であれば、その土地周辺の商品を調達すればいい』となる。ゴボウやレンコンなど、海外であまりなじみのない野菜も売り、差別化するようにしている」と話す。「例えば、ゴボウは食物繊維の多さでは野菜の中でトップクラスだ。ゴボウを食べる文化は日本など一部のアジアの国のみのため、海外では『根っこ』と解釈し、そのまま食べることを敬遠する人もいると聞くが、味覚や食感だけでなく、栄養価などの効能を意識して食べる、ヘルシー志向の海外消費者には訴求力がある商材だ。また、パウダーにしてしまえば、『根っこ』感が出ず、見た目も気にならない。栄養価などを意識して食材を選ぶ消費者が多い市場などに輸出していきたい」(應和社長)と、今後について語った。

最初に輸出したフランスのバイヤーの話によると、現地シェフがこのバイヤーから3種類のパウダー野菜を購入した際、その1つとしてゴボウが選ばれたという。食文化の違いもあり、そのままの状態では海外でのニーズを掘り起こしにくかったゴボウなどの野菜も、フードロス削減に貢献するパウダー野菜にしたことで、輸出商材の1つに加えることができたといえる。

近年、先進国の環境意識の高い店舗などで、常温保存可能な食材の量り売りを行っているという事例も耳にする。自分が必要なときに必要な数量だけ購入できるため、廃棄の懸念が少なく、自宅から容器などを持ち込むため、購入時に包装や容器を無駄に消費せずに済むことから、サステナブル消費に関心の高い消費者などに利用されている(ジェトロの地域・分析レポート特集「現地消費者のサステナブル消費の実情」参照)。應和社長は「当社と同じような思いを持つ同業者などと組んで、生野菜とともにパウダー野菜も量り売りができる仕組みを、スーパーマーケットの中に入り込むかたちで導入していきたい」と話す(注2)。應和社長によると、パウダー野菜は、料理の手軽さや栄養が凝縮されている点などが魅力だ。体積比でみると、パウダー野菜は生野菜の10分の1程度(應和社長情報)になるとのことで、生野菜と同じ重量のパウダー野菜を食べると、より多くの「野菜」(栄養)を摂取したことになる。「パウダー野菜の利点はあまり知られていない。その点をもっと消費者に認識してもらい、パウダー野菜が日常的に使われるようになればいい。全世界のスーパーマーケットに同様の仕組みが入るといい」と應和社長は述べる。また、「パウダー野菜を売るだけでなく、作る技術も、関心を持つ人にアドバイスしていきたい。この価値観や考え方を広めていきたい」とその思いを語る。

消費者に思い伝える「考えるプロジェクト」

同社のパウダー商品「ベジマリパウダー」には、「考えるプロジェクト」というロゴシールが貼られている。「人によって摂取すべき栄養素の種類やその量は異なるはず。手軽なパウダー商品を使うことで、日々の生活で野菜の下処理などの時間短縮につながる。それによって余裕ができた時間の一部でもいいので、消費者自身がそのとき必要とする栄養価などについて考える時間に充ててもらえればと思っている。食事などについて、考えて生きていくことは重要だ」(應和社長)。同社のビジネスは受託加工や業務用が中心なものの、この思いを消費者に直接伝えたいと考え、小売り事業も手掛けている。それぞれのパウダー野菜に含まれる栄養素が示されているため、消費者は自身のニーズに合わせて野菜を選ぶことができる。スムージーに入れるほか、水やオリーブオイルと混ぜることでソースにしたり、汁物に入れるだけでも栄養を高めることができたりするなど、活用方法はさまざまだ。同社ウェブサイトにレシピを多数掲載することで、「考える消費者」の取り組みをサポートしている。海外の消費者にもこのプロジェクトについて伝えるため、應和社長は将来的には海外消費者向けのECサイトを立ち上げる計画だ。


「考えるプロジェクト」のシールが貼られたベジマリパウダー(村ネットワーク提供)

野菜と人(農家や消費者など)に常に思いをはせる應和社長。海外輸出や新たなビジネスモデルへの挑戦などで、パウダー野菜の価値を国内外に広める同社の活動は今後も続く。


注1:
生産現場に来て生産工程を見るだけでなく、試食をし、同社のこだわりや思いを聞くなど、五感から情報を得てもらいたいという意味で、同代表は「体験」という用語を使う。
注2:
同構想については、「未来のスーパーマーケット」として、村ネットワークウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでイメージ図を掲載している。
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。
執筆者紹介
ジェトロ大分
山本 菜摘(やまもと なつみ)
2021年、ジェトロ入構。企画部海外事務所運営課を経て、2023年10月から現職。