中堅・中小、サステナビリティ対応で海外に挑む「環境」「ビーガン」「健康」対応のおからバーで米国に進出

2024年11月5日

パン屋を営むラパン(本社:大阪府吹田市)は、自社開発した、おからを原料とするエナジーバーを、国内だけでなく米国などの海外にも輸出する。素材だけでなく、生産工程でも環境を意識し、新商品開発に取り組み続ける同社の久保恵理副社長に話を聞いた(2024年10月9日までに取材)。

パン屋の廃棄ロス削減のため、串カツ屋をオープン

同社(1999年創業、社長は久保晃一氏)は、大阪府吹田市を拠点に、パン屋を1店、串カツ屋を1店経営している。同社のパン屋で生産するパンには、添加物が一切含まれていない。消費期限が当日中となるため、創業当初、売れ残ったパンを毎日廃棄していた。久保副社長は、日々廃棄するパンの量に罪悪感を抱き、パンの廃棄ロスをなんとか減らせないかと考え、売れ残ったパンをパン粉にし、新たに串カツ屋を開店。現在では、自社のパンの廃棄を100%削減することに成功している。また、串カツは、吹田市のふるさと納税の返礼品としても取り扱われている(執筆時点)。

おからを原料としたエナジーバーを開発

同社は、自社で廃棄されるパンだけでなく、ほかの食品から出る廃棄にも目を向ける。同社は2020年、おからパウダーを原材料にした食品ブランド「OKARADA」(「おから」+「体」)を立ち上げた。「おからは日本古来のスーパーフード(注1)。おからは豆腐製造時に発生する副産物であるが、その一部は廃棄されている」(久保副社長)という。同社では、廃棄されるおからを乾燥させたおからパウダーを活用して、エナジーバー「ファイバーバー」(以下、おからバー)を製造している。同社によると、おからパウダーの栄養成分の50.1%は食物繊維、22.4%は大豆たんぱく質が占め、栄養価が高い。また、糖質が6.2%と低いことも特徴だ。


おからを原料とする「ファイバーバー」(ラパン提供)

久保副社長によると、一般的なおから製品には、喉に詰まる食感や、糖質の高い小麦粉や米粉が混ぜられていることが課題として挙げられるという。そこで、同社では、おからの独特な食感を改善し、低糖質という素材の良さを最大限に生かすために、小麦粉や米粉を使用しない商品開発を進めた。また、同社のパン屋近くの大学に通う大学生からは、「歩きながら食べられるものはないか」「部活のときに食べられるものはないか」というニーズも寄せられていた。そこで、スナック感覚で食べられ、炭水化物を原料としない、おからバーを開発した。喉に詰まりにくく、年配の人でも食べやすいように、食感も工夫を加えた。

おからバーはフードロス削減につながっており、地球にやさしいアップサイクル食品だ。また、おからを原料とするエナジーバーは珍しい。おからバーの「地球にやさしい」「オリジナル感がある」という特徴に着目した複数の大手企業から、「自社のノベルティグッズに使いたい」との提案を受け、同社は商品を提供するなど連携をしてきた。

原料を生おからに切り替えることで、CO2排出削減に貢献

久保副社長は、おからバーの好評価に手応えを感じているものの、現状に満足しているわけではない。同社のおからバーは乾燥おからを原料に使用しているが、「生おからを乾燥おからにする工程で、水分を多く蒸発させる必要があり、多くの二酸化炭素(CO2)を排出している」(同副社長)という。日本豆腐協会によると、生おからは80%程度が水分である。対して、乾燥おからは水分が10%以下のものが多く、水分を抜いて乾燥させる際に熱エネルギーを使う。おからバーの原料の生産工程で生じるCO2排出をできるだけ削減するため、乾燥おからではなく、生おからから直接おからバーを作れないか、1年間かけて検討を重ねてきた。それにより開発した商品が、「オートミールと生おからともちむぎのエナジーバー」で、2024年から販売を開始している。しかも、生おからを原料とするだけでなく、日本のビーガン認証も取得し、グルテンフリーかつ添加物フリーの商品だ。


オートミールと生おからともちむぎのエナジーバー
(ラパン提供)

焼き立てのオートミールと生おからともちむぎの
エナジーバーと、久保社長(ラパン提供)

「TOFU」の搾りかすが原料である点をPRして米国で販売

同社は2022年から、おからバーを米国、香港、オーストラリアに輸出している。海外では現地産の他社のエナジーバーが多く販売されているが、差別化の観点から、おからを原料にしていることをアピールしているという。豆腐は世界主要国で、日本語そのままの発音「TOFU」ですでに認知され、販売されている(ジェトロ農林水産物・食品「品目別現地市場価格調査」参照)。久保副社長によると、米国はビーガン市場の規模が大きく、「TOFU」はビーガン食材として広く知られているが、おからはまだまだ知られていない、という。米国におけるビーガンなど植物由来食品の市場規模(2022年)は80億ドルとなり、過去3年間で44.5%増加している(ジェトロ「米国向け農林水産物・食品の輸出に関するカントリーレポートPDFファイル(4.3MB)」参照。)。

ただ、ビーガン対応食品であれば何でも売れるわけではなく、適切なマーケティングが必要だ。米国で販売実績を重ねてきた久保副社長は、「例えば、米国では『グラノーラ・ガール』(Granola girl、注2)という環境意識の高い女性などをターゲットに販売していきたい。ただ、米国で販売する際は、環境への配慮だけでは消費者に選ばれない。健康や美容への配慮も必要だ」と述べる。

久保副社長は、ビーガン対応、環境への取り組み、健康・美容以外の切り口でも、米国市場に着目している。「米国ではサバイバルフードと呼ばれ、非常事態に備える『プレッパー』(prepper、注3)の市場が伸びている」(同副社長)。米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の2023年の全国世帯調査(注4)によると、災害・緊急事態に備えて直近1年間で準備したことを尋ねたところ、「備蓄品を揃えたり、(消費期限との関係で食品などを)更新したりする」が最大で全回答者の48%だった(複数回答)。2022年度調査の回答率(同33%)よりも大きく伸びた。

欧州や中東への輸出にも関心

今後新たに展開してみたい地域として、欧州や中東を挙げる。「当社商品は日本より物価が低い国・地域での展開は難しいと考えている。欧州は市民の環境意識が高く、日本食にはスーパーフードのイメージがある。また、ドバイなどでは健康食の需要が高まっている」(同副社長)。

同社が積極的に海外展開を行う背景について、久保副社長は次のように語る。「日本の中小企業が海外で活躍すれば、日本社会全体の『力』につながる。日本のモノづくりの良さに加え、昨今の円安で、海外輸出に追い風が吹いている。この追い風を生かして、海外に展開していくべき」。将来的には、日本からの輸出だけでなく、現地生産への切り替えや、生産ノウハウを売る方向にビジネスをシフトしていきたいという。

おから以外の副産物で商品開発にチャレンジ

同社は、おからだけでなく、ビールの搾りかすを原料とする商品も販売している。ほかにも、ワイン、日本酒、酢などの搾りかすを活用した商品開発も検討している。「廃棄されている食品副産物を、食品として商品にしたいと考えている。例えば、おからは食品以外に再利用されることがあるが、できれば自社では食べられるものに作り変えたい。それにより、日本の食料自給率の引き上げに貢献したい」(同副社長)。

同社はフードロス削減を意識して、おからバーを開発し、生産時のCO2排出削減のため、生おからを原料にした商品も開発した。また、環境への取り組みだけでなく、海外の消費者が求めるビーガン対応や「健康的」という要素も満たすことで、米国などへの海外進出を進めてきた。同社はこれまで、おからバー以外にも、グルテンフリーのカヌレ、ビーガンのピザ、おからのマフィンなども商品化してきた。誠実な商品を作ることを信念とする同社は、国内外の消費者や地球にまっすぐに向き合い、今後も新たな商品を開発し、海外市場に挑み続ける。


注1:
栄養価が高く、健康成分が多く含まれる食品のこと(2020年3月13日付ビジネス短信2022年1月24日付地域・分析レポート参照)。
注2:
健康志向で、派手でなく、アウトドアを楽しみ、地球に優しい生活を送る女性を指す。
注3:
prepare+pepperの造語で、自然災害などによる最悪の事態を想定し、備蓄などに取り組む人を指す。
注4:
FEMAが2017年以降、毎年実施している災害対応に関する全国世帯調査。2023年度の調査実施期間は2023年2月1日~3月14日。米国全土を対象にウェブサイト上で調査を実施(言語は英語とスペイン語)。有効回答数は7,604世帯。災害・緊急事態に備えて前年に準備したことに関する設問では、「備蓄品を揃えたり、更新したりする」以外の選択肢では、「計画を作成する」(37%)、「自宅の安全対策を講じる」(36%)、「(各種)警戒警報への登録」(36%)などの回答が続く(選択肢は全部で12)。
執筆者紹介
ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。
執筆者紹介
ジェトロ神戸
鈴木 萌々(すずき もも)
2022年、ジェトロ入構。農林水産食品部事業推進課にて、農林水産物・食品分野の海外展開に従事。2024年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ大阪本部
稲上 芳郎(いながみ よしろう)
民間企業で日本産食材・日本酒輸出に従事。2013年からジェトロ大阪本部に勤務。農林水産物・食品分野の輸出支援において、和牛・青果物の輸出解禁国への商流構築支援を担当。2023年から国内コーディネーター(農林水産物・食品)。