中堅・中小、サステナビリティ対応で海外に挑む輸出を意識し、風呂敷の素材などのSDGs対応に着手(日本)
2024年11月5日
風呂敷メーカーの山田繊維(本社:京都府京都市)は、「むす美」というブランド名で、国内販売だけでなく欧米を中心に輸出もしている。風呂敷の素材や生産工程などで、サステナブルな取り組みを進める同社の山田芳生代表取締役に話を聞いた(2024年9月2日までに取材)。
多彩なデザインとSNS発信で人気
同社の風呂敷のデザインは500種類にも上る。浮世絵や友禅染、鳥獣戯画などの伝統的な和柄から、海外デザイナーが描くモダンな花柄など、商品によって全く異なる印象を与える。広げた状態だと未完成の絵柄でも、結んだり立体的に仕上げたりすることで絵柄が完成するタイプの風呂敷もある。また、風呂敷の使い方は、日常の包装だけでなく、ギフト用のラッピング、ストール、マフラー、カバンなど用途は多い。
同社の風呂敷は、風呂敷の結び方や使い方などの動画を中心としたSNSでの積極的な発信が功を奏して海外でも人気で、欧米を中心に40カ国に輸出している。日本語で発信しているアカウントと、英語で発信しているアカウントがあり、いずれからでも海外専用EC(電子商取引)サイトにアクセスできるようにしている。
「風呂敷」を「四角い布」と捉え直し、再び海外を意識
同社が最初に海外市場を意識し始めたのは2009年ごろ。海外市場に関心を持ち、海外の主要な展示会を視察したものの、「当時はまだ風呂敷というアイテムは海外では知られていなかった。海外の展示会視察を通じて、『(風呂敷を使う)異国の文化を買ってもらうのは難しい』ということがわかった」と、山田代表取締役は当時を振り返る。同社はそれ以降、海外ビジネスからしばらく遠ざかっていた。
山田代表取締役はその数年後、日本に来ていた20代のフランス人女性に、風呂敷を知っているか尋ねる機会があった。その女性からは、「アニメで登場するため、風呂敷を知っている」という意外な反応が返ってきたという。この反応をきっかけに、「海外の人にも、アニメを通して風呂敷などの日本の文化や日本のものをすでに知ってもらえているというのは、(海外販売と国内販売とで)ベースは変わらないのだな」と感じたという。
また、山田代表取締役は「風呂敷でなくても、四角い布を使う文化は、日本に限らず、海外のどこにでもある」とも気づいた。それ以降、「風呂敷という日本の文化を伝えなければならない」と深刻に捉えるのではなく、海外の人に対して「自国の(四角い布を使う)文化を見直してみてはどうですか」という提案が気軽にできるようになった。そう思ったら、「もっと海外展開をきっちりやろう」と考えるようになり、海外展開への再挑戦を決めた。
欧州で言われて初めて気づいた「風呂敷=エコ」
海外展開をきっちりとやろうと決めて出展した、インテリアとデザイン関連の世界最大級の展示会「メゾン・エ・オブジェ」(2018年1月開催)は、サステナビリティ対応に取り組む転機となった。欧州の来場者に対して、風呂敷の説明をした時に相手から言われた「(包装材を使い捨てなくて済む風呂敷は)すごくエコなアイデアだね」という一言がきっかけだった。日本では風呂敷をエコな商材と捉える人は少なかったが、その一言で、風呂敷を使うことがサステナブルな取り組みであることに気づかされたという。
同展示会への出展で、風呂敷をエコと捉える外国人がいることを認識した同社は次に、風呂敷の素材もエコなものにしようと考えた。コットン(綿)素材へのニーズが高い外国人向けを想定し、オーガニックコットンを素材にした風呂敷を開発し、満を持して翌年(2019年1月)のメゾン・エ・オブジェに出品した。ただ、「(オーガニックコットンと知っても)欧州の来場者は誰もが『ふーん』と当たり前の感じの反応だったのは意外だった」と山田代表取締役は振り返る。欧州ではオーガニックコットンは一般的に使われており、必ずしも珍しい素材ではなかったようだ。
同社によると、国内の消費者は機能性を重視する傾向があり、日本人ユーザーには、オーガニックコットンよりも、機能的なポリエステル素材の撥水(はっすい)性の風呂敷が人気だという。他方、外国人の訪日客は、オーガニックコットンを好む傾向があるが、撥水性の風呂敷の特徴をきちんと説明すると、反応が変わり評価され購入につながるという。
ただ、「外国人ユーザーは、ポリエステル素材を評価しない傾向がある」(山田氏)ため、同社ではバージン素材のポリエステルではなく、リサイクル素材である再生ポリエステルを使った撥水性のある風呂敷の販売を2023年から開始した。同社が風呂敷素材でサステナビリティ対応を着々と進める背景には、同対応を強く求める外国人の存在が大きく影響しているといえる。
同社は風呂敷の素材だけでなく、その生産工程でも環境に配慮した取り組みを行っている。例えば、生産時に出る端材などの廃棄物のリサイクルがある。風呂敷の生産時に生じたポリエステルの端材は、従来、廃棄していたが、協力企業に依頼して再生燃料にリサイクルしている。綿の端材は、同様に強化プラスチック用にリサイクルしている。そのほかの各種繊維の端材も、別の協力企業に依頼してアップサイクルしてもらい、同社でギフト用に使うシールとして生まれ変わらせている。また、商品の包装時に使っていたシールの素材も、透明のプラスチックから紙素材にも変更するなど、製品以外で使う素材も見直した。
同社商品の包装には、以前は店舗販売でプラスチックであるポリプロピレン(PP)の包装を使っていたが、現在は使用しておらず、EC販売のみでの使用に限定しているという。「ECサイトで販売する商品は、汚れ対策(清潔感)やバーコードの表示(他の包装素材では表示しづらい)の観点で、PPの包装を利用せざるを得ない。他方、店舗販売では、風呂敷を目で見て触って商品を選ぶ消費者が多いため、PPの包装に梱包(こんぽう)して店頭に並べると、消費者がそれをできなくなる」(同氏)。店舗販売用の商品に包装材を使わないのは、環境への配慮だけでなく、消費者の店舗での消費行動も踏まえたものであったようだ。
できるところから取り組み、それをきちんとPRすることが重要
同社は中小企業でありながら、環境に配慮した様々な取り組みを進めている。どのような思いで取り組んでいるのだろうか。山田代表取締役は「当社の取り組みはまだまだ不十分。(綿の)畑をオーガニックにするのに時間はかかるし、化学染料も使っている。いきなり最初から100%サステナブルな素材やビジネスに切り替えるのは不可能。当社の現在の取り組みが正しいのかどうかはわからないが、当社のような中小企業でもSDGs(持続可能な開発目標)関連で、できるところから少しずつ取り組むことでいいと思っている」と話す。続けて、「重要なのはそれを対外的にきちんとPRすることだと思っている」(同氏)。同社のウェブサイトには、SDGsへの取り組みについて一覧できるページがあり、素材や包装に関する情報だけでなく、障がいのあるアーティストとのコラボレーションなど、様々な取り組みをPRしている。
同社がサステナビリティ対応を進めるにあたり、外部環境の変化が追い風にもなっているようだ。同社が風呂敷にリサイクル素材やオーガニック素材を使うことができたのは、大手アパレル企業のサステナビリティ対応の推進が影響しているという。「日本の大手アパレル企業を含む大企業が、サステナビリティ対応を調達先に求めるムーブメントを作ってくれた。その要請に対応する取引先が増えたことで、当社も同様の調達先を確保しやすくなった面もある。こうした環境の変化に乗っかれるところは乗っかって、企業が変わっていけばいいと考えている」と山田代表取締役。
同社はこれまで、顧客やユーザーからのコメントにヒントを得ながら、日本のアニメの海外での浸透や大手アパレルによるサステナビリティ対応など、外部環境や時代の変化にうまく乗りつつ、海外ビジネスに取り組んできた。2024年7月には外国人社員を新たに採用するなど、海外向け販売の社内体制を強化している。同社のサステナビリティ対応はまだ道半ばとのことだが、今後のさらなる海外販売拡大も視野に、できるところから少しずつ取り組みが進められるだろう。
- 執筆者紹介
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ジェトロ企画部企画課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく) - 2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長、中小企業庁海外展開支援室(出向)、海外調査部国際経済課などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)、共著「FTAの基礎と実践」(白水社)。
- 執筆者紹介
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ジェトロ大分
山本 菜摘(やまもと なつみ) - 2021年、ジェトロ入構。企画部海外事務所運営課を経て、2023年10月から現職。
- 執筆者紹介
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ジェトロ京都
難波 ゆきみ(なんば ゆきみ) - 2020年、ジェトロ入構。同年4月から現職。