地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向トルコ国際輸送協会に聞く
紅海危機に関する物流の最新動向(4)

2024年10月7日

2023年10月にハマスとイスラエルの武力衝突が発生して以降、イエメンの武装組織フーシ派による紅海での船舶攻撃が多発し、世界の物流状況に打撃を与えている。トルコ物流インタビューの最後(第4弾)として、国際輸送ロジスティック・サービス協会(UTİKAD)のビルゲハン・エンギン理事長に聞いた(インタビュー実施日:2024年7月23日)トルコおよびトルコを取り巻く物流状況の話を紹介する。


UTİKAD理事長のビルゲハン・エンギン氏(UTİKAD提供)
質問:
紅海危機の発生後、トルコの物流状況はどうか。
答え:
紅海危機の発生当初は、この物流混乱は一時的なもので、クリスマス休暇が明けるまでに終わると思っていたが、今も続いている。スエズ運河を経由する輸送は海上コンテナ輸送全体の12%を担っていたので、世界貿易への打撃は大きいが、新型コロナウイルス禍ほどの打撃ではない。この状況は、米国の大統領選後も続くと考えられるので、米国が新体制になってから、まず対処すべき問題の1つと考えている。貨物定期船の大多数は消費者向けの商品輸送で、紅海危機後、多くはスエズ運河ルートから(南アフリカ共和国の)喜望峰ルートに変更し、輸送日数が12~14日プラスでかかるようになったため、コストが上昇している。例えば、中国からドイツ・ハンブルクなど、欧州へ送るメインルートの海上輸送をする場合、紅海危機前にコンテナ1TEU(1TEUは20フィートコンテナ換算)に対し、3,000ドルだったものが、7,000ドルになっている。ただ、新型コロナ禍のときは1万8,000ドルまで値上がりしたので、その時ほどの影響はまだない。
質問:
スエズ運河の状況をどうみているか。
答え:
スエズ運河を渡航する輸送船はゼロになったわけではなく、渡航量は半分に減ったとはいえ、利用している海運会社もある。新型コロナ禍の混乱時、ビジネス好機と捉えて事業拡大した海運会社もあり、中国からの受注が増量した。特定の地域に強いトルコ物流会社など、今回の危機をマーケット獲得の大きなチャンスと捉え、リスクを取ってスエズ運河を渡航し、コストと輸送時間を抑えている。
質問:
トルコとアジア各国との間で活発に貿易が交わされているが、紅海危機がトルコにどのような影響をもたらしているか。
答え:
シェルなどの石油会社はリスク回避のため、喜望峰ルートを使っているので、輸送時間が延びており、海上保険料は2倍に跳ね上がっている。トルコはエネルギー資源が少ないこともあって燃油価格は高いが、それでも欧州各国の価格より安い。欧州向け輸送で、アジアからメタル製品、特に中国製品の取引の比率が上がっているが、果物などの農産物の取引もまだ多くを占めているので、サプライチェーンの変更はトルコにとって大きなチャンスになるとみている。
質問:
中国を含め、アジアからの物流取引で、中央回廊ルート(注)を使うことがあるか。
答え:
中国との取引が活発化する中、中央回廊ルートを握ることは重要だが、イラク南部の港とトルコ、欧州を結ぶ「開発道路プロジェクト」が進んでおり、新型コロナ禍と紅海危機で打撃を受けた世界の物流に良い影響を与えると思う。中央回廊ルートは、カザフスタン、トルコ、アゼルバイジャン、ジョージアと通過国が多く、各国の接続の問題が発生する点でも、この新しいルートは画期的なルートになると思う。また、メルスィンにある大きな2つの港はトルコ・シリア大地震で施設に打撃を受けたこともあり、停止状態になって機器や金属材の輸送が止まり、激しい渋滞が発生していたが、紅海危機では影響を受けておらず、地震で受けた被害も改善した。
質問:
トルコの鉄道についてはどうか。
答え:
民間企業が建設に乗り出していたが、鉄道敷設は政治的問題で、重要度が下げられた。再び規則が変わり、突然また計画が進む可能性もある。
質問:
どのセクターが最も打撃を受けたか。
答え:
強いて言うなら、自動車セクターだろう。というのも、新型コロナ禍や紅海危機により、トルコで生産した自動車製品の欧州輸出に影響があった。とはいえ、トルコには陸上ルート、マルマラ海ルートという重要な海上ルートがあり、空路輸送拠点としてイスタンブール空港は欧州をつなぐ重要な役割を担う空路ルートもあり、中国やインドからきた自動車部品などの製品もイスタンブールで振り分けられ、バルカン半島など東欧各国へ輸送されている。

注:
中央回廊ルート:トルコ、ジョージア、アゼルバイジャン、カザフスタンを経由して欧州と中国をつなぐカスピ海横断国際輸送ルート(TITR外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ)
日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。