地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向紅海情勢に関する中東の物流動向、在UAE日系企業に聞く
2024年10月30日
2023年11月以降、紅海でイエメンのフーシ派による船舶への攻撃が発生しており、紅海航路を回避して、南アフリカ共和国の喜望峰経由に迂回する動きが拡大している。これを受けて、ジェトロは、郵船ロジスティクスのアラブ首長国連邦(UAE)法人の入江敬社長に同社の取り組みと中東およびUAEの物流事情について、話を聞いた(取材日:2024年10月17日)。
- 質問:
- 会社概要、事業内容について。
- 答え:
- 郵船ロジスティクスのUAE法人として、ドバイにて2011年に設立した。同国にて、海上貨物、航空貨物並びにフリーゾーン倉庫にて在庫管理サービスを取り扱っている。顧客のニーズをくみ取り、中東のゲートウェイ機能を持つドバイならではの総合物流サービスを提供している。また、郵船ロジスティクスとしてはサウジアラビアなど中東各国に代理店を持ち、各地においても物流サービスを提供している。
- 質問:
- UAEおよび中東市場の特色は。
- 答え:
- UAE 政府はヒト、モノ、カネを集める仕組み作りが上手であり、観光客が多く、国際金融都市としても発展している。モノについても、政府が物流に関するインフラやフリーゾーンの整備などを進めており、中東最大の港であるジェベル・アリ港の他、世界有数のハブ空港であるドバイ国際空港もある。さらに、将来的にドバイの玄関となるアール・マクトゥーム国際空港では、大規模な拡張工事が進行中だ。ドバイ首長国ではEDIによる通関手続きの簡素化が進んでおり、物流ハブにふさわしい環境が整っている。香港やシンガポールにも近い物流ハブと言える。UAEの人口は約1,100万人であり国内市場の拡大には限りがあるが、周辺国など中東域内の他、アフリカの成長地域市場へのゲートウェイとして中継貿易が非常に盛んだ。
- UAEを含む湾岸協力会議(GCC)6カ国では、対外統一関税(多くの品目で5%)が設定されており、GCC内でも国境管理はあるが、1つの市場と捉えることもできる。
- 中東を見渡すと、隣国のサウジアラビア政府は脱炭素社会を見据えた産業の多角化に注力しており、都市開発・観光やリゾート・スポーツなどさまざまな大規模プロジェクト整備が進められている。首都リヤドを本拠地とする新しい国営航空会社のリヤド航空も設立され、世界へのゲートウェイを目指している動きにも注目だ。中東情勢は悪化しているが、UAEなど湾岸諸国では治安の悪化は感じられず安全性が保たれている。
- 質問:
- 紅海情勢悪化の影響は。
- 答え:
- 2024年10月時点で、日本やアジアからUAEへの輸送費、UAEからアフリカまでの輸送費は、平常時と変わらない状況で落ち着いている。一方で、UAEからエジプトのアレキサンドリア港向けでは、スエズ運河経由で輸送日数が2週間程度のところ、喜望峰周りでは50日~70日を要している。輸送日数の増加による人件費や燃料費に加え、フィーダー輸送コストや積み替えコスト増、需要の増加などもあり、スエズ運河経由と比べて輸送費は5倍前後にまで上昇している。トルコ向けも喜望峰ルートを使う際は同様の状況だ。
- また、サウジアラビアでは紅海沿いに位置するジッダ港向け海上輸送貨物量が大幅に減少している。代替ルートとして、サウジアラビアのペルシャ湾沿いに位置するキング・アブドゥルアズィーズ港(ダンマン港)で荷揚げし、約1,300キロを陸路でジッダ方面に輸送する動きとなっている。ダンマン港における荷揚げ量の急増は本船滞在時間の延長、更には本船の沖待ちに繋がっている。これにより、ダンマン港に寄港する定期船の運航スケジュールにも影響を与えている。
- 質問:
- 紅海情勢悪化による陸路の活用は。
- 答え:
- 紅海の代替ルートとしては、平時より、GCC諸国間やヨルダン向けなどで繊維製品や消費財など安価な貨物は陸路で運ばれている。一方で、高価な商品や機械など工業製品の輸送は、積み替え等による取り扱いリスクを考慮する必要があり、ハードルは非常に高いと言える。
- また、UAEから陸路で中国や中央アジア、コーカサス諸国からトルコや欧州間の鉄道への接続は現時点で不可。
- 質問:
- 空路の状況は。
- 答え:
- 紅海情勢悪化以前からドバイでは、航空輸送から海上輸送、海上輸送から航空輸送へ積み替えるなど複合輸送サービスを提供している。輸送コスト、所要日数といった荷主のニーズに合わせたサービスを提供することで、代替手段として利用可能と考えている。
- 2024年10月のイランからイスラエルへの攻撃時には、一時期フライトに影響が出たが、現在は通常通りに戻っている。
- 質問:
- 中東での物流やビジネスに関する留意点は。
- 答え:
- UAEは、7つの首長国で構成される連邦国家であり、外交・軍事・治安・連邦財政・教育・公衆衛生などの管轄権は連邦政府が保持、それ以外の管轄権は7つの首長国それぞれが保持しているため留意が必要(通関、規制品目のライセンス申請等は、各首長国の管轄となる)。
- UAEでは輸出入者資格が必要であり、新規でUAEとビジネスを始める場合には確認が必要だ。品目によってはUAE側の輸入者が事前に首長国政府での手続きを必要とする場合もある。輸入手続きをスムースに進めるため、輸出者からインボイス、パッキングリストを事前に入手し確認している。
- 中東では非常に安定している国・地域もあるが、ビジネスの際は、最新の情報を入手することが重要だ。
参考:ジェトロ国別情報「アラブ首長国連邦(UAE)」ページ
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ) - 2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。