地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向中東・北アフリカの近年の物流動向、港湾貨物量が増加傾向

2024年9月26日

国連によると、中東・北アフリカ(MENA、注1)の人口は、2024年時点で5億8,148万人だが、2054年には8億1,929万人まで増加する見通しだ(2024年7月19日付ビジネス短信参照)。また、IMFによると、中東・北アフリカ(注2)の経済成長率は、2024年に2.7%、2025年に4.2%となり、世界平均を上回るとの予想だ(2024年5月2日付ビジネス短信参照)。人口増加や経済成長などを背景に、貨物量の増加も見込まれる。さらに、中東では、日本からの自動車輸出が過去最高に達するなど、日本の輸出先としてのさらなる可能性を秘めている。

国際貿易では海上輸送が80%を占めるため、海外展開を目指す企業にとって、海上物流の確保は重要だ。

一方で、イスラエルとハマスの衝突など、地政学的な影響が物流に混乱をもたらす場合もある。直近の中東物流事情については、本特集の他の記事を参照。

本稿では、港湾貨物取扱量などの統計を基に、中東・北アフリカの物流状況を概観する。

中東の港湾貨物量は世界シェア6.5%

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2022年の世界全体の港湾貨物取扱量は前年比0.4%増の8億5,231万TEU(1TEUは20フィートのコンテナ1本分の容量)だった。地域別に見ると、中国、韓国、日本などを含む東アジア、東南アジアの取扱量が多く、2012年から2022年までの増加率も高い。

中東を含む西アジア(注3)の2022年の貨物量は5,576万TEUで、前年比2.5%増、2010年比では55.5%増となった。増加傾向ではあるが、世界シェアは6.5%にとどまる。同地域の貨物量は、アフリカや南アジア、オセアニアよりは多いが、他の地域と比べると少ない状況だ(図1参照)。

図1:各地域の港湾貨物取扱量、2012年と2022年の比較
世界の港湾の海上貨物取扱量を地域別に見ると、東アジアが最多、次いで東南アジア、欧州、北米、中南米、中東、アフリカの順に取扱量が多い。いずれの地域も2012年と2022年の取扱量は増加した。

出所:UNCTAD

国別取扱量はUAEが最多、トルコが急増

UNCTADによると、2022年の中東(西アジア)の国別貨物取扱量の順位は、地域の貿易ハブであるアラブ首長国連邦(UAE)が前年比5.8%増の2,030万TEUで最多となった。これは日本の2,252万TEUと同じような数値だ。2位はトルコで、前年比1.8%減の1,237万TEUだった。次いで、サウジアラビア(同5.9%増)、オマーン(同0.1%減)、イスラエル(同4.1%減)の順で貨物量が多い。産油国や経済規模の大きい国などが上位につけたかたちだ(表1参照)。また、カタールは2022年サッカーワールドカップ(W杯)などの開催に伴うインフラ整備などもあり、2021年時点で2010年比約4.5倍と大幅に伸びた。

なお、北アフリカの2022年の貨物量は、モロッコが最多で、前期比4.5%増の884万TEU、エジプトが同7.5%増の777万TEUだった(2024年8月19日付地域・分析レポート参照)。

表1:中東(西アジア)の港湾貨物取扱量(単位:TEU)(△はマイナス値)
国・地域名 2010年 2020年 2021年 2022年 前年比
増減率(%)
対2010年比増減率(%)
アラブ首長国連邦 15,140,524 18,721,000 19,182,000 20,300,000 5.8% 34.1%
トルコ 5,743,429 11,626,578 12,591,327 12,366,172 △1.8% 115.3%
サウジアラビア 5,312,023 9,330,437 9,875,946 10,459,765 5.9% 96.9%
オマーン 3,893,198 5,141,830 5,235,447 5,228,456 △0.1% 34.3%
イスラエル 2,281,552 2,994,000 3,075,997 2,951,000 △4.1% 29.3%
カタール 346,500 1,412,689 1,543,591 N/A 9.3% 345.5%
ヨルダン 605,659 857,283 765,662 N/A △10.7% 26.4%
レバノン 949,155 832,954 675,077 N/A △19.0% △28.9%
イエメン 390,000 423,393 418,711 N/A △1.1% 7.4%
バーレーン 367,589 464,010 404,904 N/A △12.7% 10.2%
ジョージア 242,433 490,670 401,269 N/A △18.2% 65.5%
シリア 586,283 243,348 N/A N/A △25.1 △58.5%
中東(西アジア)合計 35,859,345 52,538,192 54,413,279 55,758,768 2.5% 55.5%
(参考)日本 20,014,970 21,569,281 22,353,926 22,515,870 0.7% 12.5%

注1:UNCTADの西アジアの定義の国。
注2:カタール・ヨルダン・レバノン・イエメン・バーレーン・ジョージアは2021年、シリアは2020年が最新。
出所:UNCTAD

各国の取扱量は増加傾向、トルコの伸び顕著

UNCTADによる中東(西アジア)の国別の海上貨物取扱量上位5カ国の推移を見ると、おおむね増加傾向だ(図2参照)。UAEは2010年から増加し、2015年に最多を記録した。その後減少に転じていたが、2021年以降は再び増加している。UAEの貨物量は2010年から2022年にかけて34.1%増となった。近年は、日本の貨物量とも近い水準で推移している。

トルコは同期間で約2.2倍の顕著な伸びを見せた。トルコは製造業に力を入れており、自動車・同部品や一般機械類、鉄鋼、電気機器などの輸出が多い(ジェトロの「トルコの貿易と投資」)。欧州との貿易量が多いほか、中東やアジア、ロシアなどとも貿易を行う。

サウジアラビアも、同期間で約96.9%増と大幅な伸びを示した。サウジアラビアはタンカーで輸送する石油製品のほか、貨物としては、化学製品の輸出入、機械類・電気機器・同部品、車両・航空機・船舶等輸送機器の輸入が多い(同「サウジアラビアの貿易と投資」)。

オマーンは増減を繰り返すものの、同期間で34.0%増だった。イスラエルは同期間で29.3%増加した。日本は新型コロナウイルスの感染発生の2020年に貨物量が落ち込んだが、中東では落ち込みは見られず、増加傾向だ。

図2:中東の貨物取扱量推移(上位5カ国)
UAEが2010年から首位を維持しており、おおむね日本の貨物量はとも近い水準で推移している。2位のトルコと3位のサウジアラビアの貨物量は大幅に上昇傾向である。4位のオマーンと5位のイスラエルも増加傾向だ。

出所:UNCTAD

港湾ごとの貨物量ではドバイが世界9位

ここまで地域や国別に見てきたが、次に港湾の状況を見る。港湾や海運に関する世界最古のジャーナルである英国ロイズ・リスト(2024年版)によると、2023年の港湾貨物取扱量の世界1位は中国の上海港、2位はシンガポール港だった。上位10港には中国の7港が入っている。中東・北アフリカでは、前述の国別の貨物取扱量が多かった国の主要港など13港が100位内に入った(表2参照)。

ドバイが世界9位で、前年比3.6%増の1,447万TEUと、中東・北アフリカで最多だった。ドバイのジュベル・アリ港は世界180以上の航路から多くの貨物が集まる。多くの日本企業も利用するフリーゾーンなども隣接するほか、貨物を主に扱うアル・マクトゥーム国際空港とも近く、地域の重要な物流拠点となっている(2024年6月10日付地域・分析レポート参照)。

また、欧州に近く、地中海・大西洋との結節点にあるモロッコのタンジェメッド港は世界19位だった。次いで、サウジアラビアのジッダ港、UAEのアブダビ港、エジプトのポートサイド港が50位以内に入った。トルコは4港が100位以内に入った。トルコは、ボスポラス海峡で欧州とアジア側に分かれていることもあり、各地に海上貨物の物流拠点がある。

なお、2014年時点でもドバイ港は9位だった。一方、タンジェメッド港は47位から急浮上し、当時と比べて2022年には貨物量が約2.8倍となった。自動車や部品などの製造拠点が拡大するほか、港湾が拡張し、同港の貨物取り扱いの効率性も高いという。

2023年の100位内には、2014年の100位圏外から、UAEのアブダビ港、サウジアラビアのキングアブドゥッラー港、および、エジプトのダミエッタ港、トルコの2港がランクインした。サウジアラビアでは、キングアブドゥッラー港のほか、2014年比でジッダ港が32.4%増、ダンマン港が31.9%増となり、各港で大幅な伸びを示した。

表2:2023年の中東・北アフリカの海上貨物取扱港順位(△はマイナス値、-は値なし)
世界
順位
所在国 2023年取扱
量(TEU)
前年比
増加率
2014年比
増加率
2014年
順位
1位 (参考)中国 上海 49,158,300 3.9% 39.2% 1位
2位 (参考)シンガポール シンガポール 39,010,000 4.6% 15.2% 2位
3位 (参考)中国 寧波・舟山(Ningbo-Zhoushan) 35,301,000 5.8% 81.7% 5位
46位 (参考)日本 東京 4,570,000 3.2% △6.6% 29位
68位 (参考)日本 横浜 3,021,068 1.4% 4.6% 53位
72位 (参考)日本 神戸 2,835,518 △1.9% 8.4% 59位
9位 UAE ドバイ(Jebel Ali, Dubai) 14,472,000 3.6% △5.1% 9位
19位 モロッコ タンジェメッド(Tanger Med) 8,614,400 13.4% 179.7% 47位
32位 サウジアラビア ジッダ 5,586,074 12.6% 32.4% 33位
40位 UAE アブダビ(Abu Dhabi) 4,910,000 13.4% 圏外
47位 エジプト ポート・サイド(Port Said) 4,438,900 4.4% 12.1% 35位
52位 オマーン サラーラ(オマーン) 3,790,000 △15.9% 24.9% 48位
64位 トルコ アンバーリ(Ambarli) 3,170,430 10.6% △9.1% 40位
70位 サウジアラビア キングアブドゥッラー(King Abdullah) 2,929,807 0.8% 圏外
82位 サウジアラビア ダンマン(Dammam) 2,305,811 13.1% 31.9% 85位
85位 トルコ コジャエリ(Kocaeli、イズミル) 2,159,160 4.8% 圏外
90位 エジプト ダミエッタ(Damietta、Dimyāt) 1,969,463 60.2% 圏外
91位 トルコ メルスィン(Mersin) 1,942,069 △2.4% 29.6% 95位
100位 トルコ テキルダー(Tekirdag) 1,700,928 △4.1% 圏外

出所:ロイズ・リスト「One Hundred Ports」(2024年8月12日公表)からジェトロ作成

コンテナ効率性でオマーンのサラーラ港が世界2位

中東・北アフリカでは港湾でのコンテナ貨物取扱の効率性が高い国も多い。世界銀行のコンテナ港の効率性に関する報告書「コンテナ・ポート・パフォーマンス・インデックス(CPPI)2023」によると、寄港船の沖待ちも含む入港から離岸までの総滞在時間では、世界405港のうちオマーンのサラーラ港が2位だった(2024年6月6日付ビジネス短信参照)。その他、モロッコのタンジェメッド港が3位、カタールのハマド港が11位だったほか、多くの日本企業も活用するドバイのジュベリ・アリ港は49位だった。中東でのランキング上位は次のとおり。

  • (参考)1位:中国、上海・洋山深水港(前年1位)
  • 2位:オマーン、サラーラ港(同2位)
  • 3位:モロッコ・タンジェメッド港(同4位)
  • (参考)9位:日本、横浜港(前年15位)
  • 11位:カタール、ハマド港(同8位)
  • 16位 :エジプト・ポートサイド港(同10位)
  • 29位:UAE・アブダビ、ハリーファ港(同3位)
  • 30位:サウジアラビア、キングアブドゥッラー港(同17位)
  • 35位:サウジアラビア、ダンマン港(同31位)
  • 43位:バーレーン、ハリーファ・ビン・サルマン港(同73位)
  • 49位:UAE・ドバイ、ジュベル・アリ港(同38位)
  • 58位:サウジアラビア、ジッダ港(同29位)

人口などの経済指標からみる各国の可能性

中東・北アフリカ主要国の状況について、貨物量が世界9位のUAEでは、輸出入額の世界順位も高く、安定的な経済成長や人口増加が見込まれ、引き続き物流拠点としても重要な国といえる(表3参照)。また、UNCTADで貨物量の統計が出ていないイランでも、米国の経済制裁があるものの、経済成長が見込まれ、人口規模も大きい。同じく貨物量統計が出ていないイラクは、治安が不安定なものの、輸出額では世界38位と、同地域内では貿易額が多く、人口は現在4,604万人のところ、2054年までに地域で最も高い伸びを示す見込みだ。今後、治安が落ち着けば、注目国の1つとなるだろう。

直近の2023年から2025年までの実質GDP成長率(予測を含む)を見ると、イラン、トルコ、エジプトなどで安定した高成長の見込みだ。OPEC諸国では、2023年は原油価格の低迷や減産方針のため、石油収入の落ち込みで成長率は低い。一方で、2025年には石油増産も見込み、サウジアラビアが6.0%、イラクが5.3%と高い成長の予測だ。

長期的な人口推移を見ると、エジプト、トルコ、イランの順で、これらの国が30年後の2054年まで中東・北アフリカで1位から3位までを維持する。2054年までの増加率でみると、イラクが64.0%増となるほか、オマーンで55.3%増、ヨルダンで46.8%増の見込みだ。湾岸産油国でも、出稼ぎ労働者や移民も多く、高い伸びが見込まれる。貨物量の多いUAEで45.8%増、サウジアラビアでも46.3%増と、大幅な伸びを示す。一方で、トルコは3.6%、イランは11.4%と、小幅な増加にとどまる見込みだ。

直近の経済成長率の高い国や、長期的に人口が増加する国の貨物量は増加する可能性が高い。

表3:中東・北アフリカ主要国の人口・成長率・経済規模など(△はマイナス値)
国名 貨物取扱量
世界順位
2021年
輸入額
世界順位
2023年
輸出額
世界順位
2023年
2023年
経済成長率
(%)
2024年
経済成長率
(%)
2025年
経済成長率
(%)
名目GDP
(億ドル)
2023年
1人当たりGDP(ドル)
2023年
2024年
人口
(1,000人)
2054年
人口
(1,000人)
2024-2054年
人口増加率
(年率%)
UAE 9位 16位 14位 3.4 3.5 4.2 5,042 51,910 11,027 16,081 45.8
トルコ 17位 20位 29位 4.4 3.1 3.2 11,100 12,850 87,474 90,625 3.6
サウジアラビア 22位 31位 25位 △ 0.8 2.6 6.0 10,700 33,040 33,963 49,704 46.3
モロッコ 26位 50位 61位 3.0 3.1 3.3 1,440 3,890 38,081 43,677 14.7
エジプト 29位 47位 64位 3.8 3.0 4.4 3,939 3,730 116,538 167,204 43.5
オマーン 34位 68位 52位 1.3 1.2 3.1 1,091 21,620 5,282 8,201 55.3
イスラエル 43位 43位 50位 1.9 2.7 4.2 5,095 52,220 9,387 13,703 46.0
カタール 56位 70位 41位 1.6 2.0 2.0 2,342 78,700 3,048 4,361 43.1
ヨルダン 71位 77位 90位 2.6 2.6 3.0 510 4,500 11,553 16,957 46.8
バーレーン 86位 94位 72位 2.6 3.6 3.2 447 28,260 1,607 2,213 37.7
イラン n.a 52位 43位 4.7 3.3 3.1 4,035 4,660 91,568 101,967 11.4
イラク n.a 41位 38位 △ 2.2 1.4 5.3 2,554 5,870 46,042 75,496 64.0
クウェ―ト n.a 77位 44位 △ 2.2 △ 1.4 3.8 1,618 32,640 4,935 6,582 33.4

注:太字は各項目上位3カ国。
出所:UNCTAD、IMF、国連からジェトロ作成

日本の対中東輸出は増加、自動車が過半

日本から中東(注4)向けの商品の動きを見みると、円安の影響や自動車輸出増加により、輸出額が増えている。日本と中東の貿易額(円貨ベース)によると、2023年の輸出額は前年比27.7%増の3兆5,520億円、中東からの輸入額は前年比15.1%減の13兆2,535億円だった(2024年1月25日付ビジネス短信参照)。日本の財務省が2024年1月24日に発表した2023年の貿易統計(速報値)によると、日本の中東主要国向けの輸出額と前年比増加率は以下のとおり。

  • UAE:1兆4,662億円(31.4%増)
  • サウジアラビア:8,925億円(33.6%増)
  • クウェート:2,733億円(31.3増)
  • カタール:1,972億円(20.3%増)
  • オマーン:1,713億円(7.6%増)

また、2024年上半期の日本の中東への輸出額は前年同期比11.1%増の1兆8,304億円となった(2024年7月19日付ビジネス短信参照)。

中東は自動車の輸出先として大きな市場だ。2023年の日本から中東への自動車輸出は前年比32.5%増の1兆8,918億円(約70万台)で、過去最高となった。特にサウジアラビアは、日本からの国別輸出額の世界5位で、前年比39.7%増の5,957億円、UAEは同7位で、30.4%増の5,120億円だった。自動車は中東向け輸出額の53.3%と、半分以上を占める主要輸出品目だ。日本からの自動車輸出の際には、海上輸送となり、海上物流の混乱の際には留意が必要だ。

日系企業は物流、インフラも有望ビジネスの1つと回答

ジェトロの「2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)」によると、現地進出日系企業212社が回答した「有望視するビジネス分野(複数回答可)」では、76社が「インフラ」を有望と回答し、このうち鉄道(35.5%)、港湾(25.0%)、道路(23.7%)、空港(21.1%)を有望と回答した企業もあった(図3参照)。また、212社のうち、「サービス業」が有望と回答したのは36社、そのうち30.6%が物流・海運を有望とした。物流やインフラの整備が進むことをにらんで、有望視する日本企業があることもうかがえる。

図3:今後有望視するビジネス分野
インフラ(複数回答)
日系企業76社が「インフラ」を有望と回答し、このうち35.5%が鉄道、25.0%が港湾、23.7%が道路、21.1%が空港を有望と回答した。

出所:ジェトロ2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)

なお、同地域でのビジネスには、課題もある。同調査によると、「投資環境の課題」(複数回答可)に答えた日系企業194社のうち38.1%が「突然の制度導入や変更」、35.1%が「法制度の未整備・不透明性」、21.6%が「各種手続きが遅い」などを課題として挙げた(図4参照)。通関手続きなどの貿易関連の制度や手続きなどにも、こういった課題がある状況だ。

図4:投資環境の課題(複数回答)
日系企業194社のうち、38.1%が「突然の制度導入や変更」、35.1%が「法制度の未整備・不透明性」、21.6%が「各種手続きが遅い」を課題と答えた。

出所:ジェトロ2023年度 海外進出日系企業実態調査(中東編)

地域情勢により輸送時間とコスト増に留意

中東・北アフリカ地域では、地政学的な影響にも留意が必要だ。最近では、紅海でのイエメンのフーシ派からの船舶攻撃によって、欧州とアジアの輸送に最短のスエズ運河の通行隻数が2024年5月には前年の約3分の1に減少した時期もある。

国際貿易では80%以上が海路で輸送され、うち大部分がコンテナで運ばれている。このため、海上の物流が混乱すると、在庫不足や生産遅延、コスト増などが発生し、ビジネスに影響を及ぼす。

IMFによると、代替ルートとして、南アフリカ共和国の喜望峰回りのルートが大幅に増加している。一方、喜望峰ルートはスエズ運河ルートに比べて時間もコストも増える。海上コンテナ運賃については、アジア発の欧州向け路線や北米向け路線が2023年11月以降急騰し、2024年初期にはいったん下降傾向を示したが、5月に入って再び上昇に転じている。紛争などに起因する海上輸送の混乱が続けば、今後、世界的なインフレ圧力の再燃、それに伴う経済への深刻な打撃を招くリスクも懸念される。

中東・北アフリカの港湾の貨物取扱量は増えており、日本から中東への輸出も伸びているが、コスト増や港湾の混雑などには注意が必要だ。前述の突然の制度変更や不透明な制度などの課題もある。紅海情勢を含む国際的な物流情勢については、次のビジネス短信特集、地域・分析特集を参照。

なお、モロッコ、エジプトなどを含むアフリカの物流事情については、2024年8月19日付地域・分析レポート「アフリカの人口急増と物流・貿易動向」を参照。


注1:
国連の「人口見通し」に関する報告書では、中東・北アフリカは、アルジェリア、エジプト、リビア、モロッコ、チュニジア、イラン、バーレーン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)、イエメンを含む。
注2:
IMFの「世界経済見通し」に関する報告書では、中東・北アフリカは、アルジェリア、バーレーン、ジブチ、エジプト、イラン、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、リビア、モーリタニア、モロッコ、オマーン、カタール、サウジアラビア、ソマリア、スーダン、シリア、チュニジア、UAE、ヨルダン川西岸地区とガザ地区、イエメンの22カ国・地域。イスラエルとトルコは含まない。
注3:
UNCTADの港湾貨物取扱量の統計での西アジア(中東)の定義は、UAE、トルコ、サウジアラビア、オマーン、イスラエル、カタール、ヨルダン、レバノン、イエメン、バーレーン、ジョージア、シリア。
注4:
日本の財務省貿易統計での中東の定義は、イラン、イラク、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、カタール、オマーン、イスラエル、ヨルダン、シリア、レバノン、UAE、イエメン。
執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。