地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向在トルコ日系商社に聞く
紅海危機に関する物流の最新動向(3)
2024年10月1日
2023年11月以降、イエメン武装組織フーシ派による紅海での船舶攻撃が多発し、世界の物流状況に大きな打撃を与えていることを受け、トルコおよび日系企業それぞれの視点から、トルコを取り巻く物流状況について話を聞いた。リスクを回避し、安定的な供給を重視する日系製造業の企業に比べ、この時代の潮目で新しいビジネスの好機を探すトルコ企業。今回はその第3弾として、在トルコ日系商社から話を聞いた(取材日:2024年9月13日)。
- 質問:
- 紅海危機以降、現在にかけて貴社のビジネスへの影響はどうか。
- 答え:
- 例えば、化学品や資機材を取り扱う輸送が特に影響を受けている。日本発、アジア発、中東発の輸送は、海上輸送ですべて喜望峰ルートを利用するようになった。
- 質問:
- 中央回廊(注1)ルートを使う陸上ルートなどは使っているか、あるいは使う選択はあるか。
- 答え:
- 喜望峰回りの海上ルートを使っており、中央アジアルートは使っていない。というのも、現在取り扱い中の日本発の貨物輸送をあえて陸上経由にするメリットはなく、東南アジア発の場合も同様。カザフスタンの鉱物資源を輸送するなど、中国内陸発や中央アジア発の輸送であれば利点があり、これまでと同様に利用されているケースがあると思う。一方で、中央アジアを起点とする欧州向け輸送においては、カザフスタン~ジョージア間はトレーラーと鉄道での輸送が活発だ。特に、カザフスタンからアゼルバイジャン~ジョージアは中央アジア・コーカサスにおける物流のメッカ(中心)となっており、往路復路ともに混みあってきている。トルクメニスタン経由の陸路ルートは復路で空きが多くなるケースもあり、復路で輸送料の値引きがされる例もあると聞いている(図参照)。
- 質問:
- 中東発の輸送について、喜望峰回りの海上輸送とのことだが、陸上輸送は利用しないか。
- 答え:
- 輸送日数を喜望峰ルートと同じくらい見ておかないといけないため、利用を検討したことがあるが、現在まで活用できていない。例えば、サウジアラビア東部の工業地帯から、内陸部を横断し西部ジッダの港から紅海に抜けるルートは、活用可能なトレーラーの数量などの制約もあり、また、一度に大量の輸送ができないため、サウジアラビア内の横断だけで2、3週間は見ておく必要がある。トルコ企業はイラク南部向けの輸送に北部クルディスタン自治州を経由して運んでいる例をよく聞くが、弊社ではその逆のルートでトルコ向けに運んだことはない。
- 質問:
- イラク南部の港とトルコを結ぶ「開発道路プロジェクト」(注2)が進められているが、それについてはどう思うか。
- 答え:
- トルコは周辺諸国との外交を通じて国としてもよく情報を持っており、企業も実際の輸送を通じて現地の状況をよく把握し、リスク分析をしているので、イラク経由でのルートに注力するのは大いにありうると思う。
- 質問:
- 喜望峰ルートを利用する際の問題はなにか。
- 答え:
- 航路が延長されることにより、時間もかかり、当然ながら輸送単価が上がる。船の手配も以前より難しくなっている。輸送期間の長期化による品質劣化疑いのケースも食品で出ている。また、輸入者にとってみれば、輸送に時間がかかることから、発注から品物受領までの期間が長期化するため、契約条件にもよるが、販売・資金回収までのファイナンスコストがこれまで以上にかかっているケースがあると聞く。
- 物流から話はそれるが、最近の情勢の影響もある。例えばトルコの金融政策、すなわちインフレ抑制のための金融引き締め策のトルコ輸入者への影響。輸入者は高金利で、外貨資金調達のキャッシュマネジメントが以前より難しくなっており、追加コストもかかっている。特に中小企業にとっては、大きな問題である。厳しい市場環境のもと競争力と利益を追求する中、市況に影響される商品であればあるほど不規則かつ投機的な調達に活路を見いだす傾向も散見され、安定的な取引を継続したいメーカーや輸出者にとって悩ましい市場環境となっている事例もある。商品単価が高くても1週間もせずに届く近隣国からの調達が有利となる傾向も時に見られる。
- 質問:
- サプライチェーン変更など対処法として考えられることは何か。
- 答え:
- 状況の収束を待つのと同時に、重要になってくるのは顧客とのコミュニケーションである。取引数が減少していない中、現在の状況下で、調達先、供給先ともに対処方法を考えているので、双方と密にコミュニケーションをとり顧客ニーズを実現していくことかと思う。
- 注1:
- 中央回廊:トルコ、ジョージア、アゼルバイジャン、カザフスタンを経由して欧州と中国とつなぐカスピ海横断国際輸送ルート
- 注2:
- 開発道路プロジェクト:トルコ、イラク、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)の4カ国による新しい輸送ルートの確立を目的としたプロジェクト(2024年4月24日付ビジネス短信参照)。
紅海危機に関する物流の最新動向
- 執筆者紹介
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ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ) - 日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。