2024年のアジア大洋州におけるEVの動向政府支援策がEV増加を後押し、日本からの輸入増加(オーストラリア)

2024年10月30日

オーストラリアでは、2024年のバッテリー式電気自動車(BEV)の新規登録台数が2年連続で前年比2倍以上に拡大した。また、BEVの輸入額も前年比2.3倍と著しく増加した。なかでも中国からのBEV輸入が全体の72.5%を占めるほか、日本からの輸入額を見ると、BEVは前年比6.8倍、ハイブリッド車(HEV)は42.3%増、プラグインハイブリッド車(PHEV)は8. 1倍と前年から大幅に増加した。一方、オーストラリア国内ではHEVがBEVよりも販売台数の伸びが大きいことが確認されている。

BEV登録台数は前年より倍増

インフラ・交通・地方開発・通信・芸術省によると、2024年1月31日時点の国内における乗用車登録台数は1,569万9,852台で、このうち、HEVなどを含む電気自動車(EV)は、前年比46.8%増の63万8,747台(構成比4.0%)だった(表1参照)。このうち、HEVは前年比32.1%増の47万9,289台で、BEVは2.2倍の15万9,394台となった。登録台数は依然としてHEVがBEVを上回っているが、BEVは2年連続で2倍以上の増加を記録している。

表1:EV登録台数(乗用車)の推移(単位:台、%)
項目 2022年 2023年 2024年 2024年の対2023年比
台数 増減率
BEV 33,731 72,174 159,394 87,220 120.8
FCEV 46 57 64 7 12.3
HEV 276,453 362,798 479,289 116,491 32.1
合計 310,230 435,029 638,747 203,718 46.8

注1:各年1月31日時点で道路走行車両として登録されている乗用車の台数を示す。
注2:HEVはPHEVを含む。
出所:インフラ・交通・地方開発・通信・芸術省(2024年7月時点)

オーストラリア連邦自動車産業会議所(FCAI)によると、新車販売台数に占めるHEV(PHEVを含む)の割合は、2023年6月の7.8%から2024年6月の14.4%へと大幅に増加した。一方、BEVの販売割合は8.8%から8.0%に減少した。オーストラリアではEVの購入意欲がある消費者は一定程度存在するものの、消費者にとってはまだ価格が高いことが課題だ。シドニー大学運輸物流研究所が2024年3月に発表した「運輸オピニオン調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、注1」によると、回答者1,030人のうち、EVの購入について「購入または注文済み」との回答割合は4%、「今後1年以内に購入を検討している」は11%、「今後5年以内に購入を検討している」は27%となった。一方、「購入する余裕がなく、注文を検討していない」は44%、「購入する余裕はあるが、興味がない」は15%だった。EVの中でも、HEVはBEVほど車両価格が高くないこと、航続距離の不安がないことに加え、充電インフラの普及が進んでいないなどの理由からBEVよりもHEVを選ぶ消費者がまだ多い。

2024年1月31日時点の国内におけるBEVおよび水素燃料自動車(FCEV)の乗用車登録台数をメーカー別にみると、テスラが1位で前年比2.0倍の8万9,235台(構成比56.0%)となった(表2参照)。2位は中国EV大手の比亜迪(BYD)で前年比6.5倍の1万6,013台(同10.0%)となり、2023年の5位から急上昇した。3位は中国の上海汽車(SAIC)傘下のMGモーターで8,908台(同5.6%)と前年比3.1倍だった(表2参照)。日本のメーカーでは、日産が9位で4,379台(同2.7%)と前年から30.4%増加した。なお、販売台数では、テスラは、EVだけでなくガソリン車も含めた2023年のメーカー別販売台数でみても、トップ10位圏内に躍り出た(2024年6月19日付地域・分析レポート参照)。なお、FCEVで登録されたメーカー(車種)は、現代自動車(ネッソ)、トヨタ(ミライ)の2つだった。

表2:BEVとFCEVのメーカー別登録台数(乗用車)(単位:台、%)(-は値なし)
順位 メーカー 2022年 2023年 2024年 前年比
台数 増減率
1 テスラ 22,256 45,501 89,235 43,734 96.1
2 BYD 27 2,478 16,013 13,535 546.2
3 MGモーター 1,480 2,847 8,908 6,061 212.9
4 現代自動車 2,939 5,259 7,782 2,523 48.0
5 ボルボ 238 1,959 5,880 3,921 200.2
6 メルセデスベンツ 1,075 2,179 5,380 3,201 146.9
7 BMW 534 1,871 5,013 3,142 167.9
8 起亜 271 1,243 4,495 3,252 261.6
9 日産 2,516 3,358 4,379 1,021 30.4
10 ポールスター 34 1,721 4,093 2,372 137.8
その他 2,407 3,815 8,280 4,465 117.0
合計 33,777 72,231 159,458 87,227 120.8

注:各年1月31日時点で道路走行車両として登録されている乗用車の台数を示す。
出所:インフラ・交通・地方開発・通信・芸術省

BEVの7割強は中国、HEVの6割強は日本からの輸入

2024年8月時点において、オーストラリアは自動車をすべて輸入に依存している。こうした中、2023年のBEVの輸入額は前年比2.4倍の34億9,643万米ドルに拡大した(表3参照)。特に、中国からの輸入額が25億3,642万米ドルと前年比2.2 倍に増加したことが拡大に寄与した。中国からの輸入額は全体の72.5%を占め、次いでドイツ、韓国、日本の順となった。日本からの輸入額は前年の6位から4位に上昇し、8,838万米ドル(輸入額全体に占める構成比2.5%)で前年比6.8倍と大幅に増加した。

表3:BEV(870380)の国別輸入額の推移(2021~2023年)(単位:1,000米ドル、%)
順位 国名 2021年 2022年 2023年 前年比
増減率
1 中国 526,938 1,152,645 2,536,421 120.1
2 ドイツ 99,479 119,498 349,453 192.4
3 韓国 71,029 135,490 334,122 146.6
4 日本 12,834 12,932 88,386 583.5
5 米国 525 15,426 48,983 217.5
6 英国 13,233 21,676 44,840 106.9
7 ハンガリー 0 4,114 30,349 637.7
8 イタリア 97 754 18,895 2,405.4
9 メキシコ 0 29 14,817 50,899.1
10 ベルギー 1,682 7,708 12,109 57.1
合計 727,861 1,475,475 3,496,432 137.0

出所:グローバルトレードアトラス

HEVについて、2023年の輸入額は前年比53.0%増の28億3,962万米ドルとなった(表4参照)。1位は日本で、前年比42.3%増の18億837万米ドルとなり、全体の63.7%を占めた。次いで、米国、中国、スロバキア、メキシコの順となった。日本に加え、3位の中国(前年比2.5倍)、4位のスロバキア(2.8倍)、6位の英国(全増)なども輸入増に寄与した。

表4:HEVの国別輸入額の推移(2021年~2023年)(単位:1,000米ドル、%)
順位 国名 2021年 2022年 2023年 前年比
増減率
1 日本 1,339,080 1,270,857 1,808,372 42.3
2 米国 199,314 261,901 322,079 23.0
3 中国 13 67,602 168,325 149.0
4 スロバキア 13,306 47,335 130,453 175.6
5 メキシコ 112,712 100,749 113,830 13.0
6 英国 33 0 103,198 全増
7 韓国 15,768 39,569 75,697 91.3
8 ドイツ 51,721 57,831 64,600 11.7
9 イタリア 5,375 9,054 39,841 340.0
10 スウェーデン 43 0 11,987 全増
合計 1,737,386 1,856,493 2,839,628 53.0

注:HSコード870340,870350。
出所:グローバルトレードアトラス

PHEVについて、2023年の輸入額は前年比3.7倍の3億8,884万米ドルとなった(表5参照)。1位は日本で8.2倍の9,142万米ドルと大幅に増加し、全体の23.5%を占めた。次いで、中国、米国、スペイン、ドイツの順となった。日本のほか、3位の米国(6.9倍)、4位のスペイン(5.2倍)、6位のタイ(全増)、7位の英国(7.2倍)なども輸入増に寄与した。

表5:PHEVの国別輸入額の推移(2021~2023年)(単位:1,000米ドル、%)
順位 国名 2021年 2022年 2023年 前年比
増減率
1 日本 15,371 11,185 91,423 717.4
2 中国 9,330 40,639 50,543 24.4
3 米国 3,255 6,483 44,423 585.2
4 スペイン 0 7,984 41,658 421.8
5 ドイツ 16,684 16,899 30,010 77.6
6 タイ 0 0 24,823 全増
7 英国 254 2,643 18,904 615.2
8 韓国 5,467 4,421 18,845 326.3
9 スロバキア 4,797 9,088 17,797 95.8
10 メキシコ 0 0 13,443 全増
合計 69,241 105,401 388,842 268.9

出所:グローバルトレードアトラス

連邦政府、州政府による充電設備整備の支援策

EV普及に欠かせない充電インフラについて、オーストラリア国内に、公共のEV充電設備は全国に2,392カ所、4,943基ある(2022年末時点)。このうち、公共の直流(DC)急速および超急速充電設備(施設数)は同年末に464カ所だったところ、2023年末には812カ所まで増加している。中でも、新車販売台数に占めるEVシェアが国内でも高い、ニューサウスウェールズ州(シェア6.8%)、クイーンズランド州(6.5%)、ビクトリア州(6.0%)では急速充電施設が100カ所を超えた(表6参照)。しかし、EUや米国などの先進国・地域と比べてもまだ普及が追いついておらず、また、地域によって偏りがあることが課題だ。

表6:州別の公共EV急速充電(DC)設備設置数(単位:カ所)
急速
充電設備
超急速
充電設備
合計
首都特別地域 8 4 12
ニューサウスウェールズ州 164 65 229
北部準州 6 0 6
クイーンズランド州 125 26 151
南オーストラリア州 42 43 85
タスマニア州 38 5 43
ビクトリア州 160 47 207
西オーストラリア州 40 39 79
合計 583 229 812

出所:オーストラリア電気自動車協会2023

連邦政府が、2023年4月に発表した国家EV戦略(2023年5月10日付ビジネス短信参照)では、EVやFCEVインフラ構築を目標の1つに掲げており、具体的な施策として、ドライビング・ザ・ネイション・ファンド(Driving the Nation Fund)を挙げている。同施策では、5億オーストラリア・ドル規模(約495億円、豪ドル、1豪ドル=約99円)の基金により、連邦政府と現地自動車保守・修理サービス企業であるNRMAとが共同で、国内の主要高速道路沿いに117基のEV急速充電設備を整備するほか、国内の自動車販売代理店や整備工場でのEV充電設備の設置などを支援している。

また連邦政府は、FCEVについて、州政府と共同で主要道路に重量車対応の水素ステーションを設置する「水素ハイウエー」を計画している。オーストラリア連邦科学産業研究機構(CISRO外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると(2024年7月12日時点)、現在操業している水素ステーションは6カ所で、うち乗用車用ステーションが3カ所、重量車用が1カ所となっている。また、計画中または建設中の水素ステーションは22カ所ある。

州レベルでは、首都特別地域、ニューサウスウェールズ州、北部準州、クイーンズランド州、南オーストラリア州、ビクトリア州、西オーストラリア州の各州政府がEV充電施設の整備支援施策を実施している。例えば、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州、西オーストラリア州で、高速道路でのEV充電設備の整備が計画されている。このうち、クイーンズランド州では、テスラやNRMAなど充電インフラ設備を提供する企業と共同で、2024年末までに州内46カ所に急速充電設備を整備する予定だ。加えて、州政府は州内に全長5,386キロメートルのEV対応の高速道路「クイーンズランド・エレクトリック・スーパー・ハイウエー」の建設を計画しており、この高速道路沿いに2024年末までに53基の急速充電設備を設置する予定である。

また、FCEVの水素ステーションに関しては、ニューサウスウェールズ州とビクトリア州が共同で、シドニーとメルボルンを結ぶ高速道路のヒューム・ハイウエー沿いに整備する「ヒューム水素ハイウエー」事業を計画している。この事業では、4カ所のグリーン水素による水素ステーションの設置と、水素燃料電池長距離輸送トラック25台の導入を支援し、2025年までの稼働を予定している。

現地企業、充電設備サブスクリプションビジネスを立ち上げ

電気自動車の普及に取り組む企業による業界団体であるオーストラリア電気自動車協会(EVC)によると、EVCのメンバーのうちEV充電設備を提供する企業は25社ある。そのうち、メルボルンを拠点とする地場企業ジェットチャージ(JET Charge)は、前述の西オーストラリア州のEV対応の高速道路プロジェクトで、5,300キロメートルにわたり98基の充電設備を設置する予定だ。また、2024年3月には、地場物流企業グローバルエクスプレスと協力し、同社へのEVトラック60台の導入とその充電設備の整備サポートを行うことも発表した。さらに、同社は、EV充電の新しいビジネスである「チャージング・アズ・ア・サービス(CaaS)」事業を通じて、今後3年間で3,160基の充電設備の設置を目指している。2,490万豪ドル規模となるこのCaaS事業には、連邦政府機関の再生可能エネルギー庁(ARENA)がドライビング・ザ・ネイション・ファンドから1,200万豪ドルの支援を行う。CaaS事業では、EV保有者は充電設備を自ら保有するのではなく、サブスクリプション契約で充電設備サービス会社へ月額料金を支払うことで、充電サービスを受けられる。そのため、EV保有者は初期費用やメンテナンス費用などを抑えることができる。

その他、オーストラリアでは、温室効果ガス(GHG)排出削減のため、Uberなどのライドシェアサービス部門のEV化も官民共同で進められている。例えば、ライドシェアサービスの運転手向けに車両レンタルや車両サブスクリプションサービスを提供する地場企業スプレンド(Splend)は、連邦政府のクリーンエネルギー金融公庫(CEFC)から2023年に2,000万豪ドルの融資を受けて、6カ月足らずで約500台のEV車両を導入した。その後、CEFCは2024年8月1日に、スプレンドへの2,000万豪ドルの追加融資を発表した。CEFCは同日付プレスリリースで、「ライドシェアサービスにおけるEVの増加は、EV充電インフラの需要をさらに高めるほか、(ライドシェアで使われていたEVが中古車販売市場に流通し)個人への販売を通じた中古EV市場も拡大できる可能性がある」とEV普及の期待を述べた。

政府の支援策で企業によるEVリースが増加

2021年以降、EVの登録台数が急増している理由の1つに、連邦政府や州政府がEV普及を目的としたEV普及支援策(2023年9月29日付地域・分析レポート参照)を打ち出していることがある。例えば、自動車リース市場でもEV利用が増加している。オーストラリアン・ファイナンシャル・レビュー(AFR)(電子版2024年5月13日)によると、自動車リース大手フリートパートナーズの新規リース契約(ノベーテッドリース契約、注2)のうち、EVを選択する顧客の割合が、2024年3月に過去最高の63%に達したという。これには、連邦政府が2022年から導入した、EVに対するフリンジ・ベネフィット税(FBT、注3)の免税が影響している。自動車リースにおいては、企業がノベーテッドリース契約で社用車をリースし、福利厚生の一環で従業員に提供する場合がある。この場合、企業がガソリン車のリースを選択すれば、従業員の福利厚生に対してFBTが課税されるが、EVのリースを選択すれば免税される。従業員側から見た場合も、ノベーテッドリース契約では、毎月定額のリース料金が従業員の給与から天引きされ、その分だけ税引き前給与所得が少なくなるため、所得税の支払額が減額されるメリットがある。

2023年4月の国家EV戦略にもとづき、EVを含めた低排出車を国内に普及していくため、2025年1月からは、連邦政府の「新車効率性基準(New Vehicle Efficiency Standard:NVES)」が導入される(2024年6月19日付地域・分析レポート)。これにより、各自動車サプライヤーはこれまで以上に二酸化炭素(CO2)排出量が低い車を輸入することが求められる。消費者にとっては低排出車の選択肢が増えることが期待される。

EVの普及に向けて政府と民間が協力して様々な取り組みを進めているが、国土の広大なオーストラリアでEVが普及していくためには、更なる充電インフラの整備が必要だ。また、購入にはEV価格が依然として高いことや航続距離の不安などの課題が残るため、ライドシェアやリースなどの購入以外のオプションを設ける方法でEV普及を同時に進めている。


注1:
シドニー大学運輸物流研究所が18歳以上の成人、約1,000人を対象に毎年実施している調査。2024年3月1~10日にオンラインで実施し、1,030人からの回答をベースに同大学が取りまとめたもの。
注2:
ノベーテッドリース契約とは、企業、その従業員、リース会社の3者でリース契約を結ぶオーストラリア特有の契約形態。
注3:
フリンジ・ベネフィット税(FBT)とは、雇用主が従業員に支給する福利厚生に対して、雇用主が支払う税金。EVのFBT免税対象は、新車かつ高級車にかかる奢侈(しゃし)自動車税(Luxury Car Tax)の課税対象外(2024年度は車両価格9万1,387豪ドル未満)の車種で、BEV、PHEVが対象。なお、2025年4月1日からPHEVに対するFBTの免税は対象外となる。
執筆者紹介
ジェトロ・シドニー事務所
青島 春枝(あおしま はるえ)
2022年6月からジェトロ・シドニー事務所勤務(経済産業省より出向) 。