分断と協調-岐路に立つ国際ビジネス米中関係から見る貿易構造の変化(米国、中国、世界)
2024年10月10日
WTOは、2024年と2025年の世界貿易量の伸び率を3%前後と予測。同時に、地政学リスクがもたらす負の影響に警鐘を鳴らしている。
2018年ごろからは、米中貿易摩擦に伴い、地政学的緊張の高まりが顕在化した。これを背景に、各国・地域では産業政策や貿易管理の強化など、保護主義的な措置が目立ち始めている。貿易統計でも、近年の世界の貿易構造に変化が生じていることが確認できる。
米国、中国の貿易を中心に、貿易の動きを分析する。
欧米で貿易の中国依存が低下
2023年の世界貿易〔輸出金額ベース、ジェトロ推計値(注1)〕は、前年比4.9%減(23兆1,144億ドル)だった。輸出数量(注2)も0.6%減。金額、数量とも、2020年以来3年ぶりに減少したことになる。主な要因は、(1)インフレ圧力による需要の低迷や、(2)前年に著しく急騰していた一次産品価格の下落、などが考えられる。
その反動もあり、WTOは今後の世界貿易量(輸出入平均)が増勢に転じると予測した(2024年伸び率は前年比2.6%増、2025年同3.3%増)。しかし、同時に「地政学的緊張と政策の不確実性が、将来の貿易回復の幅を狭める可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
目下、地政学リスクとして注目される動きの1つが米中関係だ。そこでこの記事では、米中間の貿易を軸に、貿易の変化を追う。
まず、米国の貿易統計によると、2023年の米中間の貿易額(輸出額+輸入額)は5,750億ドル。過去最高だった前年(6,903億ドル)から16.7%減少した。内訳は、米国の対中輸出が4.0%減(1,478億ドル)、中国からの輸入が20.3%減(4,272億ドル)だった。輸入の減少幅は、過去10年間で最大。米国にとって中国は、2003年から2022年まで最大の輸入相手国だった。しかし2023年は、メキシコが首位に浮上、中国は2位だった。
一方、貿易実績を横断的に確認可能なデータベースから、2023年通年の中国からの輸入額上位10カ国・地域を確認すると、データが取得できる国・地域(香港除く)のうち、米国、日本、韓国、オランダ、ドイツ、インドの順に多い。当該6カ国・地域に台湾を加えた7カ国・地域のうち、輸入総額に占める中国の構成比は2023年、韓国(22.2%)、日本(22.1%)、台湾(19.6%)、インド(14.9%)で前年から増加した。対して、オランダ(15.1%)、米国(13.9%)、ドイツ(6.9%)では、減少している(図1参照)。
特に米国は、前年比2.7ポイント減。米中貿易摩擦が顕在化した2018年と比較すると、実に7.4ポイントも減少した。2024年上半期(インド、オランダ、ドイツは1~5月)では、米国(12.7%)とオランダ(13.3%)の構成比が、2023年通年と比べさらに1ポイント以上減少している。
欧米諸国では、貿易面で中国依存を低下させる取り組みが進展している。貿易赤字を解消し、経済安全保障を確保することなどが、その狙いだ。戦略分野の特定製品などに追加関税を賦課するのが典型例と言える。そうした措置が影響したと考えられる(2024年6月18日付地域・分析レポート、2024年7月8日付ビジネス短信参照)。
米中間貿易は部分的に回復
ここで、米中間の貿易(輸出ベース)を四半期ごと、商品別に確認しておく。
米国から中国への輸出総額は2024年第2四半期(4~6月)、前年同期比で横ばいだった。輸出上位品目のうち、原油(HS2709.00)や医薬品(HS3004.90)などの減少が目立った。半面、プロセッサー・コントローラー(HS8542.31)は、3.1倍と大きく伸びた(表1参照)。
商品名(HSコード6桁) | 2023年 | 2024年 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | Q1 | Q2 | |||
金額 | 構成比 | 伸び率 | ||||||
輸出総額 | 38,745 | 33,910 | 33,345 | 41,778 | 36,856 | 33,901 | 100.0 | △ 0.0 |
民間航空機・エンジン・部品(880000) | 1,702 | 1,780 | 1,613 | 1,714 | 2,360 | 2,918 | 8.6 | 63.9 |
原油(270900) | 3,603 | 3,654 | 3,116 | 2,907 | 2,123 | 1,934 | 5.7 | △ 47.1 |
乗用車(シリンダー容積1,500~3,000立方センチメートル)(870323) | 872 | 994 | 1,288 | 1,165 | 975 | 1,369 | 4.0 | 37.7 |
免疫産品(混合、投与量・包装していないもの)(300215) | 1,397 | 1,186 | 335 | 1,265 | 1,474 | 1,366 | 4.0 | 15.2 |
プロセッサー・コントローラー(854231) | 706 | 426 | 611 | 770 | 904 | 1,306 | 3.9 | 206.6 |
半導体デバイスまたは集積回路製造用の機器(848620) | 570 | 673 | 1,083 | 1,278 | 1,009 | 946 | 2.8 | 40.5 |
液化石油ガス(271112) | 671 | 648 | 535 | 831 | 925 | 912 | 2.7 | 40.7 |
銅のくず(740400) | 463 | 452 | 539 | 639 | 696 | 680 | 2.0 | 50.5 |
その他の集積回路(854239) | 507 | 479 | 573 | 567 | 553 | 616 | 1.8 | 28.5 |
医薬品(小売用の形状又は包装にしたもの)(300490) | 953 | 792 | 896 | 892 | 468 | 539 | 1.6 | △ 31.9 |
注1:米国の統計を原典とするデータ。
注2:HSコード6桁ベースで輸出金額上位10品目。
注3:2024年第2四半期の伸び率は、前年同期比。
出所:Global Trade Atlas(S&P Global)
対して、中国から米国への輸出総額は2.5%増。小幅ながら増加したことになる(表2参照)。
上位品目のうち「ノートパソコン」(HS8741.30)や「スマートフォン」(HS8715.13)で、前年同期比減が続く。特にノートパソコンは、2022年第4四半期(10~12月)から7期連続減だった。
一方、「一定額未満の小口貨物」(HS9804.00)(注3)は、前年同期比42.4%増だった。当該品目は2023年半ばごろから増加が目立つ(その結果いまや、HS6桁分類で「ノートパソコン」「スマートフォン」に続く輸出第3位に成長した)。中国発の越境ECプラットフォーム「シーイン(SHEIN)」や「テム(Temu)」の利用者数が米国で増加していることなどが背景にあると考えられる(注4)。
品目名(HSコード6桁) | 2023年 | 2024年 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | Q1 | Q2 | |||
金額 | 構成比 | 伸び率 | ||||||
輸出総額 | 115,248 | 128,195 | 133,365 | 129,213 | 110,144 | 131,348 | 100.0 | 2.5 |
ノート型パソコン(重量10キログラム以下)(847130) | 7,417 | 10,489 | 9,020 | 7,594 | 6,714 | 8,721 | 6.6 | △ 16.9 |
スマートフォン(851713) | 8,772 | 6,766 | 8,968 | 13,860 | 6,058 | 6,663 | 5.1 | △ 1.5 |
一定額未満の小口貨物(980400) | 2,745 | 3,778 | 4,531 | 5,732 | 4,239 | 5,380 | 4.1 | 42.4 |
リチウム・イオン蓄電池(850760) | 3,262 | 2,868 | 3,198 | 4,137 | 2,909 | 2,937 | 2.2 | 2.4 |
玩具(車輪付玩具、人形、その他玩具、娯楽用模型等)(950300) | 1,907 | 2,280 | 3,646 | 2,534 | 1,847 | 2,204 | 1.7 | △ 3.3 |
データ(音声、画像その他)の受信、変換、送信、再生機械(851762) | 2,017 | 2,006 | 1,993 | 2,106 | 1,375 | 1,730 | 1.3 | △ 13.8 |
その他のプラスチック製品(392690) | 1,408 | 1,366 | 1,393 | 1,400 | 1,335 | 1,468 | 1.1 | 7.5 |
機械部品・附属品(847330) | 923 | 1,052 | 981 | 969 | 899 | 1,101 | 0.8 | 4.7 |
モニター(パソコンに接続して使用るもの)(852852) | 616 | 813 | 1,009 | 781 | 699 | 956 | 0.7 | 17.5 |
電話機およびその他の機器の部分品(851779) | 547 | 518 | 599 | 777 | 803 | 914 | 0.7 | 76.4 |
注1:中国の統計を原典とするデータ。
注2:HSコード6桁ベースで輸出金額上位10品目。
注3:2024年第2四半期の伸び率は、前年同期比。
出所:表1に同じ
米中双方が代替パートナーと関係強化
では、米国、中国の貿易(輸出+輸入)額はどう変化してきたのか。
ここでは、いわゆる戦略品目が多く含まれる商品群(注5)に限り、主要国・地域ごとの増減を確認する(図2参照)。具体的には、2018年第1四半期(1~3月)から2024年第2四半期まで、四半期ごとの貿易額を指数化した(2018年の四半期貿易額平均を100として計上)。
図2:米国と中国の戦略品目貿易
直近の動きをみると、米国の対中貿易と中国の対米貿易がいずれも、2022年第4四半期ごろから低下しているのが確認できる。2024年第2四半期時点では、米国の対中貿易は81、中国の対米貿易は96だ。ここのところ、100を下回る水準が続く。
米国視点では、対中貿易の減少とは対称的に、台湾、インド、ASEANとの貿易増が顕著だ。
他方、中国では2023年以降、米国に加え、韓国や日本との貿易が減少傾向にある。片やメキシコとの貿易は、輸送機器を中心に顕著に伸びている。メキシコを経由した米国への輸出や中国企業によるメキシコ進出が増加したと考えられる。
米中間貿易額は、他国・地域との貿易以上に高い水準を維持している。しかし、主に半導体関連や電気自動車(EV)などに対する貿易管理措置を背景に、貿易構造に変化が表れてきたということだろう。
なお、米国と中国の双方でASEANやインドとの貿易が順調に伸びていることにも、注目すべきだろう。つまり、貿易パートナーとしての存在感を高めたことになる。グローバル企業のサプライチェーン多元化やリスク分散の観点から、戦略的な重要性を示したかたちだ。
そう考えると、米国ビジネス、中国ビジネスの観点からも、ASEAN・インドは重要だ。その両拠点をいかに活用するか、戦略を再構築する余地があるだろう。
- 注1:
- Global Trade Atlas(S&P Global)を基にジェトロが推計。推計方法は、「2024年ジェトロ世界貿易投資報告」資料付注2「2023年の世界貿易額の推計について」(995KB)を参照。
- 注2:
- WTO Stats(2024年5月15日ダウンロード)。
- 注3:
- 中国税関が2024年2月1日に発表した「ビジネス相談質問(中国語)」への回答によると、HSコード9804には「国境地域における特殊な貿易形態による商品、C級特急貨物(5,000元以下の貨物)、越境ECの直接購入で輸出される貨物など」を含む。
- 注4:
- 「2024年ジェトロ世界貿易投資報告」第1章第2節「世界の貿易」(844KB)18~19ページ参照。
- 注5:
-
本文と図2で言う「戦略品目が多く含まれる商品群」は、次の各類(HSコード上2桁)合計。IMFが2024年4月に発表した結果に基づく。
第28類(無機化学品)、第29類(有機化学品)、第30類(医療用品)、第38類(化学工業生産品)、第84類(一般機械)、第85類(電気機器)、第87類(輸送機器)、第88類(航空機・部品)、第90類(光学機器)、第93類(武器類)
- 執筆者紹介
-
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり) - 2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。