欧州最新政治情勢:欧州の行方を見定める注目論点極右「国民連合」が欧州議会と下院の両選挙で躍進(フランス)

2024年8月13日

RNが欧州議会選挙で与党連合に大差をつけて圧勝

フランスでは、マリーヌ・ルペン氏らが率いる極右政党「国民連合(RN)」(注1)が2024年6月の欧州議会選挙と、その結果を受けてエマニュエル・マクロン大統領が実施を決めた国民議会(下院)の解散・総選挙で、これまでにない大躍進を果たした。

フランスで2024年6月8~9日に行われた欧州議会選挙では、RNの得票率が31.37%でトップとなり、マクロン大統領を支持する中道の「与党連合」(注2)(14.60%)に大差をつけて勝利を収めた。前回2019年の同選挙では得票率の差は1ポイントの僅差で、獲得議席数は同数だった。しかし、今回は16.8ポイントの差がついた(表1参照)。

表1:欧州議会選挙の結果(―は値なし)
主要政党​ 欧州議会所属
政党グループ
2019年5月(前回)​ 2024年6月​​
得票率(%) 獲得議席数 得票率(%) 獲得議席数
国民連合(RN) 欧州の愛国者(Patriots for Europe) 23.3​ 23 31.4​ 30
与党連合(Ensemble) 欧州刷新(Renew) 22.4​ 23 14.6​ 13
社会党(PS) 社会・民主主義進歩連盟(S&D) 6.2​ 6 13.8​ 13
不服従のフランス(LFI) 欧州統一左派・北欧緑左派連盟(Left)​ 6.3​ 6 9.9​ 9
共和党(LR) 欧州人民党(EPP) 8.5​ 8 7.3​ 6
欧州エコロジー
(EELV​)
欧州緑の党・欧州自由同盟(Greens​/EFA) 13.5​ 13 5.5​ 5
ルコンケット​(再征服)
(Reconquête!)
欧州保守改革(ECR​) ―​ ―​ 5.5​ 5

出所:フランス内務省発表資料からジェトロ作成

極右躍進の結果に危機感を強めたマクロン大統領は、6月9日に下院の解散・総選挙を発表し、与党連合の勢力巻き返しを図ったが、6月30日に行われた第1回投票でRNは29.26%の得票率を獲得。極左「不服従のフランス(LFI)」、社会党、環境派、共産党などの左派政党からなる左派連合「新民衆戦線(NFP)」の28.06%、与党連合の20.04%を抑えて再びトップに立った。

右派「共和党(LR)」のエリック・シオティ党首がRNとの選挙協力を決めて立ち上げた「極右連合(UXD)」(3.96%)と合わせると、RNの得票率は33.22%とこれまでにない高い水準に達した(2024年7月2日付ビジネス短信、表2参照)。

表2:下院第1回投票:政党別得票数・得票率の推移(―は値なし)
主要政党​ 2022年 2024年
得票数 得票率(%) 得票数 得票率(%)
国民連合​(RN)​ 4,248,537 18.68 9,379,092 29.26
左派連合
〔NUPES/NFP(注)〕
5,836,079 25.66 8,995,226 28.06
与党連合​(Ensemble)​ 5,857,364 25.75 6,425,707 20.04
共和党(​LR)​ 2,370,440 10.42 2,106,166 6.57
極右連合(UXD) 1,268,822 3.96

注:前回選挙(2022年)の左派連合の名称は「環境・社会 新人民連合(NUPES)」、今回は「新民衆戦線(NFP)」。
出所:フランス内務省発表資料からジェトロ作成

フランス全域で広がるRN支持の動き

フランス調査会社イフォップ(IFOP)は2024年6月、欧州議会選挙の結果からRNがフランス全域、特に地方の都市部周辺、農村地帯の若者を中心に急激に支持を広げているとの分析結果を発表した。これまでは、ルペン氏が選挙地盤とする北部オー・ド・フランス地域圏や不法移民の流入で揺れる南東部プロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏(特にイタリアとの国境に近いバ―ル県、アルプ・マリティーム県)を中心に支持率を伸ばしてきたが、今回の欧州議会選挙では、歴史的に左派・中道支持者が多い西部ブルターニュ地域圏をはじめ、保守系の牙城ともいえる東部グラン・テスト地域圏や中部サントル・バル・ド・ロワール、中西部オーベルニュ・ローヌ・アルプ地域圏を含むほぼ全域で得票率を大幅に伸ばした。

パリ、ナント、レンヌ、ボルドーなど一部の大都市では中道の与党連合が依然として強く、RNの得票率は20%にも満たなかった。しかし、地方都市の周辺や農村地帯ではRNの得票率が40%を超える県が散見された。IFOPによると、RNが40%を超える得票率を獲得した地域では「RNが持つ世界観、国にかかわる現状認識が当該地域の住民に広く浸透し、党のイデオロギーが当たり前の常識として受け入れられていることを意味する」という。特に前回2019年の選挙から得票率を10ポイント以上増やし、得票率が44~50%に達した無資格・低学歴の若年層、工場労働者・一般従業員(得票率45%)、商業従事者・手工業者(同39%)の間ではRNのイデオロギーが主流となっており、これがマクロン大統領の支持基盤である高学歴層や上級管理職が多い都市部と、農業従事者や自営業者、工場労働者が多い地方との政治的分断につながっていると分析した。

物価高騰、治安悪化、不法移民の流入に対する国民の不安の高まりや、こうした国民生活に密着した問題に打開策を打ち出せないマクロン政権に対する怒りやいらだちが、移民・治安・購買力の3つにテーマを絞って選挙戦を戦ったRNの台頭を後押ししたものとみられる。IFOPの調査によると、RNに投票した人の89%が不法移民対策、88%が治安・犯罪対策が投票先を決める決定要因になったと回答した。また、2023年に暴動や不法移民が絡んだ暴力事件が起こった県で、RNの得票率の伸びが顕著だった。

RNは、マクロン政権に対する批判票の取り込みにも成功した。世論調査会社イプソス(IPSOS)の調査(2024年6月9日付)で、欧州議会選挙では「マクロン大統領とマクロン政権に対し反対を表明するために投票する」と回答した人の割合は39%と前回2019年の調査から3ポイント上昇した。この割合はRN支持者で 68%、極右政党「ルコンケット(再征服)」支持者で54%、極左LFI支持者で53%と多かった。極右と極左政党が、政権批判票の受け皿になったことを裏付けたかたちだ。

RN、下院選では決選投票で失速するも最大議席数を持つ政党に躍進

6月30日に行われた下院選挙の第1回投票は、投票率が66.71%と記録的な水準に達した。RNは937万9,092票(極右連合を含めると1,064万7,914票)と前回2022年(下院選第1回投票)から得票数を2倍以上に増やし、左派連合の899万5,226票、与党連合の642万5,707票を抑えてトップに立った。第1回投票で当選を決めた候補者の数もルペン氏を含めて37人と最多。決選投票による単独過半数獲得とジョルダン・バルデラ党首を首相とする極右政権誕生への期待が支持者の間で膨らんだ。

しかし、これに危機感を強めた与党連合と左派連合は、RNの候補者がトップになった選挙区で候補者を一本化してRNの勢いに歯止めをかける「共和国戦線」で共闘することを決めた(注3)。当初、同戦略の効果を疑問視する声が優勢のように思われたが、7月7日に行われた決選投票の結果、RNは126議席(「極右連合」と合わせると142議席)と改選前(89議席)から議席数を大きく伸ばしたものの、第1回投票後に出された最大300議席という予測から、ほぼ半減した(2024年7月9日付ビジネス短信、図参照)。

フランスアンフォ(ニュース専門公共メディア)の集計によると、第1回投票でRNの候補者がトップとなった258の選挙区のうち、決選投票でRNの候補者が敗れた選挙区の数は154。このうち109の選挙区で、左派連合または与党連合が候補者を取り下げていた。

中道および左派支持者の間では依然、極右政権誕生に対する忌避感が強いことが明らかになったかたちだ。極左LFIと極右RNの候補者が決選投票に進んだ選挙区では、第1回投票で与党連合に投票した有権者の43%がLFIに投票した(RNへの投票率は19%、棄権率は38%)。決選投票でLFI以外の左派政党(社会党、環境派または共産党)の候補者とRNの候補者が対決する選挙区では、第1回投票で与党連合に投票した有権者の54%が左派政党のいずれかに投票した(RNへの投票率15%、棄権率31%)。他方、決選投票で与党連合とRNの候補者が対決した選挙区では、第1回投票で左派連合に投票した有権者の72%が与党連合に投票した。

図:下院議会:改選前と改選後の党会派別構成(議席数)

改選前
改選前の党派別構成は、与党連合が245議席、左派連合が133議席、国民連合が89議席、共和党および民主・独立連合が64議席、その他が46議席。
改選後
改選後の党派別構成は、左派連合が193議席、与党連合が166議席、国民連合が126議席、共和右派が69議席、その他が23議席。

注1:「与党連合」とはマクロン大統領派「共和国連合」、中道「オリゾン」、中道「民主派」で構成される。
注2:改選前の左派連合の名称はNUPES、改選後の左派連合の名称はNFP。政党構成は異なる。
注3:改選後の「共和右派(旧共和党)」は、「共和右派」と中道「自由・独立・海外・領土」で構成される。
出所:国民議会(下院)発表などに基づきジェトロ作成

当地の政治学者や政治コメンテーターから「第1回投票から決選投票までの1週間で露呈したRNの政党としての未熟さが決選投票での失速につながった」と指摘する声も聞かれた。地方出身の公認候補の中には討論会への出席を拒否したり、人種差別的な発言をしたり不適当な言動が多く見られ、素人集団というイメージを与えた。また、決選投票に向けて二重国籍者を公職から追放する方針を発表するなど党の急進的な側面が強調されたこと、年金制度改革の撤廃やエネルギー価格の付加価値税軽減など同党が掲げる選挙公約の実現についてあいまいな発言を繰り返したことなども、RNの政策運営に関して国民の不安をかき立てる材料となったようだ。この点について、バルデラ党首は敗戦の弁で「決選投票での失速は党にも責任があった」と認めた。あわせて、公認を与える候補者の選考を厳格化し、国を統治できるプロ集団に変えていく方針を示した。

ルペン氏、マクロン大統領の早期辞任を要求

下院選挙の結果を受けて、マリーヌ・ルペン氏は7月7日、与党連合と左派連合による反RN戦線を批判しつつ、RNが議席数で下院最大の政党に躍進したことを強調。「勝利は先送りされただけだ」と述べて、次回選挙でのRNの勝利と政権奪取を誓った。

単独過半数に満たない少数派の政党が左派、中道・右派、極右の3つのブロックに分かれて併存する下院では、2024年秋から始まる2025年予算編成やマクロン政権が実施した年金制度改革の撤廃などを巡り審議が難航し、政治混迷がさらに深まる恐れがある。ルペン氏は、下院を再度解散させることは(憲法により)1年間禁止されていることから、「政治混迷の打開は大統領の辞任しかない」と主張している。

対してマクロン大統領は、2期目の就任期間が終了する2027年まで辞任しないと明言。ルペン氏は今後も政治混迷を理由に大統領に早期辞任を求めて圧力をかけていくものとみられる。欧州議会選挙と下院選挙で明らかになったRN支持の広がりを、自身の大統領選出につなげたい考えだ。


注1:
RNの党首をジョルダン・バルデラ氏、下院議会党会長をマリーヌ・ルペン氏が務める。
注2:
「与党連合」は、マクロン大統領派「共和国連合」、中道「オリゾン」、中道「民主派」で構成される。
注3:
欧州議会選挙は比例代表制。
一方、フランスの下院選挙は小選挙区制で、第1回投票で過半数を得票し、かつ有権者の4分の1以上の票を獲得した候補者が当選する。1回目の投票で当選した候補者がいない場合、1回目の投票の上位2人と、1回目の投票で有権者の12.5%以上の票を獲得した候補者が決選投票に進む。そこで最も多くの票を獲得した候補者が、最終的に当選する。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
山﨑 あき(やまさき あき)
2000年よりジェトロ・パリ事務所勤務。
フランスの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。