欧州最新政治情勢:欧州の行方を見定める注目論点与党支持率は堅調、「極右」から「親EU」に(イタリア)
予算や移民政策など火種も
2024年12月2日
2024年10月22日、イタリアではジョルジャ・メローニ政権誕生から2年が経過した。9月20日時点のイタリアの調査機関デモポリスによる支持率調査(図1参照)では、与党第1党であるイタリアの同胞(FDI)は2年前の2022年9月の総選挙時の得票率と比較すると、26%から29%へと手堅く支持を増やしている。一方で、野党第1党の民主党(PD)も19%から24%へと支持を伸ばすなど、野党の動きも見逃せない。本稿では、欧州議会選挙(2024年6月)を経たイタリアの政治動向およびEUとの関係性の変化などを考察する。
現政権の成果の総括
2024年8月30日、夏季休暇後初の議会における演説でメローニ首相は、失業率の低下、南部イタリアの経済状況改善、移民政策、EUの復興基金「再興・回復のための国家計画(PNRR)」の運営状況などについて現政権の成果を述べた。
イタリア国家統計局(ISTAT)によると、2024年7月の失業率は6.5%と、2008年以来の最低値を記録した。野党などから夏期の季節労働者の大幅な増加という一時的な要因が影響しているなどの指摘があるものの、夏季休暇前の5月も6.8%と低水準が続いている。南部の経済状況については、2024年6月に発表された南部イタリア産業開発協会のレポートによると、2023年の南部のGDP成長率は1.3%と、全国平均の0.9%を上回る結果となった。南部の成長率が他の地域の平均を超えたのは2015年以降初めてである。
また、移民政策の成果については、8月15日の内務省の発表によると、2024年の1月1日から8月15日までの期間について、海からの上陸移民数は前年同期比で63%減少し、2022年同期比でも22%減少している。メローニ首相の演説では、移民の遭難者や死亡者の数が減少していることも強調した。イタリア政府は、難民申請者の審査の迅速化などを図る目的で、アルバニアの2都市に海からの難民を一時収容する施設を建設することを、アルバニア政府と合意している。報道によると、建設費は5年間で6億7,000万ユーロ、年間1億3,400万ユーロが支出される予定。同施設は2024年10月16日に初めて稼働し16人の難民が移送されたが、イタリア国内の司法から介入があるなど、与野党の議論の焦点になっている。
PNRRについては、2024年8月5日に5回目の110億ユーロが支払われた。その結果、イタリアは総財源の58.4%に相当する1,135億ユーロに及ぶ最大額の融資を受けたEU加盟国となった。
欧州議会選挙でも連立与党が圧勝
メローニ首相の強気の演説には、民意の裏付けもある。イタリアで6月8~9日に実施された欧州議会選挙では、政権与党であるイタリアの同胞(FDI)が得票率28.8%で24議席、フォルツァ・イタリア(FI)が9.6%で8議席、同盟(Lega)が9.0%で8議席と、中道右派連合の3党を合わせると47.4%の得票率で圧倒的な勝利を収めた。それぞれのEU議会における会派と獲得議席数は表の通り。一方で、野党の中道左派の民主党(PD)も24.1%で21議席と奮闘した。第3極で、結成当時はポピュリズムと称されることの多かった左派の五つ星運動(M5S)は10.0%で8議席。5つの選挙区のうち、南部を除く4区でFDIが第1党、南部ではPDが第1党となった。
主要政党 |
欧州議会 所属政党 |
獲得議席数 | 得票率(%) | 改選前議席数 | 増減 |
---|---|---|---|---|---|
イタリアの同胞(FDI) | ECR | 24 | 28.8 | 5 | 19 |
民主党(PD) | S&D | 21 | 24.1 | 19 | 2 |
五つ星運動(M5S) | The Left | 8 | 10.0 | 14 | △ 6 |
フォルツァ・イタリア(FI)・我々穏健派(NM)連合 | EPP | 8 | 9.6 | 6 | 2 |
同盟(Lega) | PfE | 8 | 9.0 | 28 | △ 20 |
緑左連盟(AVS) |
Verts/ALE The Left |
6 | 6.8 | 0 | 6 |
欧州合衆国(SUd'E) | EPP | 1 | 3.8 | 1 | 0 |
行動(Azione) | Renew | 0 | 3.4 | — | — |
出所:欧州議会ウェブサイト からジェトロ作成
PDは2年前の政権交代後の2023年2月、同党初の女性かつ当時38歳で最年少のエリー・シュライン氏が党首に就任し、上述の通り支持率を伸ばしているが、M5Sは2022年国内総選挙時の15.5%から2024年9月の世論調査では11.5%へと、支持率が低下している(図2参照)。
また2024年に実施された地方選挙では、州知事選挙については、アブルッツォ州、バジリカータ州、ピエモンテ州、リグーリア州の4州において、FDIおよびFIの候補者が勝利したが、サルデーニャ州、エミリア・ロマーニャ州、ウンブリア州では中道左派の擁立した候補者が勝利している。
主要都市の市長選挙についても中道左派が健闘し、ローマ、ミラノ、ナポリ、トリノのイタリア4大都市を含めた57都市で勝利、2019年の地方選挙での42都市から増加した。一方、中道右派が勝利した都市は、2019年の52都市から40都市に減少した(現地「コリエレ・デラ・セーラ」紙2024年6月25日)。
「極右」から「親EU」へ認識の変化
欧州議会選挙で国政与党が勝利した唯一の主要国として、EUにおけるイタリアおよびメローニ首相のリーダーシップが国内外から大きく期待された。ところが、メローニ首相は、2024年6月28日にブリュッセルで開かれたEU首脳会議において、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の続投是非を問う採択を棄権した。FDIはその理由として、フォン・デア・ライエン氏が掲げた方針が、選挙で示された民意に反するため、としている。2024年1月に開催された初のイタリア・アフリカ首脳会議や、6月にイタリアで開催されたG7サミットにおいて、メローニ首相とフォン・デア・ライエン氏の蜜月ぶりが記憶に新しかったこともあり、驚きや懸念の声が相次いだ。
国内では近年、不動の第1党であるFDIだが、欧州議会で所属するECR(欧州保守改革)はEUにおいては第4会派。一方、連立与党の1つであるFIは、フォン・デア・ライエン委員長が率いる最大会派のEPP(欧州人民党)に所属する。また、連立与党の中では最も支持率が低いLegaは、新たに誕生した極右会派で第3会派となったPfE(欧州の愛国者)に所属しており、いわば、イタリア国内とEUにおける勢力図が逆転している。
Legaのマッテオ・サルヴィーニ党首は反フォン・デア・ライエン体制を掲げており、欧州議会選挙後の7月下旬には、EPP会派で当然ながら同体制の支持を表明するFIのアントニオ・タヤーニ党首を真っ向から批判、同氏もそれに応酬するなど与党内で舌戦が繰り広げられた。
一方で、メローニ首相は自身の会派としての筋は通したものの、論戦からは身を引き、7月下旬にはフォン・デア・ライエン氏と連絡を取り合っているという発言も報道されていた。そして、欧州委員会のイタリア代表を選抜する際には、EPPの代表であるマンフレート・ウェーバー氏を招へい。同会談には、サルヴィーニ氏、タヤーニ氏も同席し、FDIのラッファエレ・フィット現欧州・PNRR担当相を選出することで合意に至っている。
同会談後、ウェーバー氏は現地コリエレ・デラ・セーラ紙(8月29日)のインタビューで、「イタリアを無視して孤立させることはない。親EUの国民を抱えている国で、EU離脱を唱える政党もない。(現政権が勝利する前の)2年前と比べてメローニ首相に対する認識は大きく変わり、メローニ首相の中道右派政府は親欧州であり、信頼できる政府といえる」と発言した。
フィット氏は9月17日、フォン・デア・ライエン氏から欧州委員会の閣僚にあたる結束政策担当の執行副委員長に指名されており(2024年9月25日付ビジネス短信参照)、結果的には、メローニ首相の思惑通りになったといっても過言ではないだろう。
7月26日、フィット氏は執行副委員長指名に先立ち、欧州・南部・結束政策・PNRR担当として、EUにおけるイタリアの方針を示した文書を発表した。文書では、優先事項として「EU加盟国拡大と、拡大のための準備」「経済安全保障と防衛」「移民問題」が挙げられている。EU拡大に関してイタリアは、ウクライナ、モルドバ、ジョージアの3カ国の加盟を支持するとともに、西バルカン半島諸国についても新たな進展を望むとしている。ただし、優先的措置は回避し、加盟プロセスの原則の維持を強調した。また、移民問題は依然として欧州の長期的な課題であり、欧州として統一した対応を要する、としている。
さらに、欧州委員会におけるイタリアのプレゼンス強化についても明記し、EUの2024~2029年の戦略アジェンダ(2024年7月4日付ビジネス短信参照)に、イタリアの優先事項を確実に含めるとしている。
欧州グリーン・ディールに関しては、EUの方針に従い、2040年までの1990年比での温室効果ガス(GHG)排出量90%削減目標や、GHG排出ネットゼロ実現に貢献する技術の生産能力拡大を支援するネットゼロ産業政策を進める。また、ゲノム編集などの新技術による食品や植物に関する規制の提案や、「農場から食卓へ(Farm to Fork)戦略」などの政策への貢献を通じて、EUの農産物・食品分野の競争力向上を目指すことを方針として挙げている。
2035年以降の内燃機関自動車の新車禁止には慎重姿勢
前述の文書では2035年以降の内燃機関搭載の新車販売禁止については言及されていなかったが、2024年9月26日、アドルフォ・ウルソ企業・メイドインイタリー相はEU競争力担当理事会に出席した際に立場を明確にした。以下の3つの条件がそろえば、2035年までに内燃機関搭載の新車販売を終了することが可能としている。
- 自動車のサプライチェーンおよび欧州で生産された電気自動車(EV)を購入する消費者を支援する基金の創設
- バイオ燃料、合成燃料(e-fuel)、水素などを含めた、利用する技術は問わない技術的中立性を重視したアプローチの採用
- 重要な原材料の採掘および加工も含めた、電池生産における欧州の自律性を保証する戦略的な定義
このウルソ企業・メイドインイタリー相の発表は、2024年9月上旬に、イタリア前首相で欧州中央銀行(ECB)総裁を務めたマリオ・ドラギ氏が発表したいわゆる「ドラギ・レポート」(2024年9月19日付ビジネス短信参照)をベースとしており、同相は「自動車産業では多大な雇用が失われる可能性がある。すぐに対応しなければ、数カ月前にEUに対する農業従事者の抗議活動が起こったように、自動車産業の労働者が道路を封鎖するであろう。ドラギ・レポートでも示されているように、情報の隠蔽(いんぺい)やイデオロギーなしに技術的中立性の視点から取り組む必要がある」と強調した。
支持率ではゆるぎない現政権だが、2024年10月15日に閣議承認された2025年予算法や、前述したアルバニアの移民収容施設をめぐる問題など、火種はつきない。
ドラギ前首相も国民の支持率は低くなかったものの、政党間の駆け引きで退陣に追い込まれたことに鑑みると、現メローニ政権も決して安泰ということはない。EUとの関係も含め、今後の動向をさらに注視する必要がある。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ミラノ事務所
平川 容子(ひらかわ ようこ) - 2021年からジェトロ・ミラノ事務所に勤務。