新たなステージに入った世界のカーボンプライシングEU ETSⅡに先駆け、国内独自のETSを導入するドイツ、オーストリア

2024年6月12日

EUでは、火力発電や熱源施設、鉄鋼、セメント、石油精製、製紙、化学品など炭素集約型産業の施設や、一部の航空便を対象に、二酸化炭素(CO2)などの毎年の温室効果ガス(GHG)排出量に上限(キャップ)を設定し、対象施設からGHGを排出する権利である「排出枠」の取引を可能とするEU排出量取引制度(EU ETS)が2005年から導入されている(2024年5月27日付地域・分析レポート参照)。

一方、EU ETSやEUの土地利用・土地利用変化および林業(LULUCF)規則(2022年11月15日付ビジネス短信参照)が適用されない建物や道路輸送、農業、小規模製造設備、ごみ処理などから発生するGHG排出削減については、加盟国による排出削減分担規則により、加盟国別の拘束力ある削減目標が定められている。この削減目標を達成するため、ドイツとオーストリアの2カ国は国レベルでの独自の排出量取引制度を導入している。当初、ドイツの目標は2005年比で38%削減、オーストリアの目標は同36%削減だったが、2023年5月16日に施行した改正規則により、それぞれ50%削減、48%削減に目標値が引き上げられた。

ドイツでは、建物と輸送部門を対象に独自の国内ETSを導入

ドイツでは、国別の削減目標の達成および気候変動対策のさらなる推進のため、EU ETSの対象外である建物と輸送部門の燃料供給事業者などを対象に、ドイツ独自の排出量取引制度(ETS: Emission Trading System、以下ドイツETS)を2021年から導入している(注)。具体的には、ドイツETSの対象事業者から排出されるCO2の排出量に上限(キャップ)を設定し、主としてEU ETSの対象外となっている分野の排出量削減を促す。排出量の上限は、EU加盟国の排出削減分担規則で定められたドイツの削減義務を基に決定される。しかし、2026年までの初期段階においては、ドイツETS対象事業者の実際の需要に合わせた排出枠が販売される。排出枠の価格は、2025年までは固定価格、2026年からは需要に応じて決定される。

また、EU ETSにおいては、対象施設から直接排出される排出量を基準に排出枠負担を算定する「下流アプローチ」を採用しているのに対して、ドイツETSは、市場に投入された燃料の量を基準に排出枠負担を算定する「上流アプローチ」を採用している(後述するEU ETSⅡも「上流アプローチ」を採用)。ドイツETS対象事業者が必ずしも排出するわけではなく、排出自体はその後の段階で発生することも多い。ドイツ政府がこのアプローチを採用したのは、建物における暖房や輸送部門における排出に対する個人の影響力が大きいものの、消費者である個人を排出枠取引に参加させることが現実的ではないとの判断がある。当該燃料を市場に販売する企業をETSの対象とし、対象事業者が販売・サービス価格に反映させることで最終消費者に負担を求めていく仕組みとなった。

ドイツ排出取引局はドイツETSの役割と効果について、2030年までにGHG排出量を建物部門で9,600万トン、輸送部門で2億1,000万トン削減する予測を示し、これは2022年のGHG排出量全体の約40%に相当するとしている。また、ドイツETSは気候変動に配慮した投資の収益性を高め、カーボンプライシングからの収益を増加させ、セクター固有の対策に付随する資金調達や社会的困難の軽減の余地を広げるとしている。

炭素税導入には、基本法の改正が必要との専門家の見解

なお、ドイツでは2019年時点では、環境省の提案により、炭素税の導入が検討されていたこともある。しかし、連邦議会調査局は、同予算委員会に代わり、CO2排出量に対する課税を調査し、連邦議会のウェブサイトに掲載した報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(340KB)の中で、CO2に対する課税が違憲であることを認定した。「CO2排出量に対する課税は憲法上の理由から除外されている」と専門家は指摘した。同報告書は、新しい税制は、所得税、交通税、消費税などの既存税のいずれかに適合する必要があるとした。CO2税はどのカテゴリーにも分類できないため、同税の導入は、ドイツの憲法に相当する基本法に反するというのが専門家の見解であり、基本法を改正するには連邦議会と連邦参議院で3分の2以上の賛成が必要となる。これに対して、環境省の法律専門家らは、環境省には新たな税を創設する意図はないとし、既存のエネルギー税に関し、CO2部分を補う必要があり、明らかに消費税であり、憲法で保護されるものだとしていた。

ドイツETSは2025年までは固定価格で段階的に引き上げ

こうした経緯を踏まえて、ドイツでは炭素税を回避し、排出量取引制度が導入されたという。ドイツETSは実際に、2025年まで段階的な固定価格であり、2026年には55~65ユーロの範囲でオークション形式での市場価格となるが、2026年までの初期段階では上限(キャップ)は設定されていない。2021年にCO2排出1トン当たり25ユーロに設定され、2022年と2023年の30ユーロ、2024年の45ユーロ、2025年の55ユーロまで段階的に引き上げられる(表1参照)。2023年は当初、35ユーロに設定されていたが、経済動向を踏まえて、前年と同額の30ユーロに据え置かれた。2024年の45ユーロを燃料価格に換算すると、ガソリン1リットル当たり約11セント、暖房用天然ガスで1キロワット時(kWh)約0.8セントに相当するという。2025年までの制度設計では、固定価格であるため、実質的には排出量取引制度ではないという見方もあり、炭素税との違いはないとも言えるかもしれない。

表1:ドイツETSの排出枠価格の設定(2021~2026年)
価格
2021年 25ユーロ
2022年 30ユーロ
2023年 30ユーロ
2024年 45ユーロ
2025年 55ユーロ
2026年 55~65ユーロ

出所:ドイツ環境庁排出取引局(DEHSt)提供資料から作成

ドイツETSの対象となるのは、主として石油、ディーゼル、灯油、液化石油(LP)ガス、持続可能基準を満たさないバイオマス、石炭(2023年~)、廃棄物焼却(2024年~)から発生する温室効果ガス(GHG)である。適用対象事業者は、ドイツのエネルギー税法の下で非課税対象となるエネルギー使用が認められているかどうかや、使用する燃料の種類によって異なる。主な対象事業者は、ドイツの課税対象管轄内にある記述した燃料の供給者または受給者で、ガス、石炭、鉱油の供給、廃棄物処理事業者が典型的な適用対象例として挙げられる。

ドイツETS対象事業者に、モニタリング計画書の提出など3つの義務

ドイツETS対象事業者は、(1)モニタリング計画書のドイツ排出取引局(DEHSt)への提出、(2)年間排出量報告書の提出、(3)排出量に応じた排出枠の償却、の3つの義務を負う。

モニタリング計画書は、年次で提出することを求められており、年間(暦年)のモニタリング方法を記載する必要がある。この情報を基に、監督官庁や検証機関が年間排出量報告書で報告されたモニタリング方法や排出量計算が適切に実施されているかを検証することになる。モニタリング計画書はドイツ排出取引局が提供する電子的様式に沿って作成され、承認される必要がある。ドイツETS対象者は、モニタリング計画書の承認後、同計画書に沿って排出量を算定、モニタリングしていくことになる。なお、2021年と2022年については、モニタリング計画書の提出と承認の義務が免除され、2023年から開始されるが、適用は2024年からとなる。2024年に向けて、2023年10月末までに初めてのモニタリング計画書を提出する必要があった。

次に、年間排出量報告書では、2021年と2022年は、上市(市場投入)した燃料と排出量を翌年7月末までに報告するだけだったが、2023年以降は、モニタリング計画書に沿って報告することになった。モニタリング計画書に沿った最初の報告期限は2024年7月末となる。排出量は、燃料の量に一定の係数を乗じて計算する。年間排出量報告書は、ドイツ排出取引局への提出に先立ち、認定検証機関による検証を受ける必要がある。認定検証機関は、EU ETSの下で認定されている認定検証機関、または燃料排出量取引法(BEHG)の下で認定された環境検証機関が該当する。これらの認定検証機関は、モニタリング計画書や燃料に関する税務申告などをはじめとする必要な情報を基に年間排出量報告書の妥当性を検証し、検証報告書を作成する。年間報告書は、検証報告書とともにドイツ排出取引局が提供する指定のプラットフォーム経由で提出されることになる。ドイツ排出取引局は年間排出量報告書を受領後、審査を開始するが、この審査には数カ月を要す場合があるとしている。なお、2021年と2022年の報告書については、検証されない制度設計になっていた。

ドイツETS対象事業者は、年間排出量報告書において報告した排出量に応じた排出枠を償却することが求められる。排出枠の償却にあたっては、ドイツETS専用のレジストリ(登録簿)にアカウントを開設する必要がある。必要となる排出枠は、1トンのCO2当たり1枠で、排出枠の償却状況をドイツETSのレジストリに登録することが求められる。ドイツETS対象事業者は、毎年7月末までに前年の排出量をドイツETSレジストリに登録し、9月末までに償却する必要がある。排出枠は、欧州エネルギー取引所(EEX)が提供する排出枠市場にて直接購入するか、仲介者から購入することが可能である。EEXにおいて取引するには、ドイツETSレジストリへの登録とは別に、EEXにおけるアカウントを開設する必要がある。なお、ドイツETSで償却できる排出枠はドイツETSの下での排出枠であり、EU ETSの下での排出枠では代替できない。ドイツ排出取引局は、毎年10月1日時点の全ての義務対象者の順守状況をドイツETSレジストリの公開領域で公開する。

この一連の手続きの流れを図に整理した。

図:ドイツETSにおける手続きの流れ
2021年に排出枠の販売、ドイツETSレジストリにおけるアカウント開設が開始した。手続きは次の年次サイクルで行われる。ドイツETS対象事業者は、2022年から排出量報告書(2021年における排出量)の提出が必要になる。独立した検証機関が2024年の排出量報告書(2023年における排出量)から検証を開始する。対象事業者は、前年の排出量につき7月31日までに排出量報告書を提出、9月30日までに排出枠を償却する。ドイツ排出取引局(DEHSt)は、排出量報告書の確認および排出量償却に関する執行(不履行時の制裁、罰金手続き)を行う。2023年からは、対象事業者はモニタリング計画書を提出し、これに沿って報告する必要がある。(2024年から適用)ドイツ排出取引局(DEHSt)は、2023年からモニタリング計画書の確認および承認を行う。これは、初期対応で必要に応じて改定される。

出所:ドイツ環境庁排出取引局(DEHSt)ウェブサイトから作成

違反事業者は、ETSレジストリの凍結や罰金の対象に

ドイツETS対象事業者は、毎年7月末までに前年の排出量を登録しなかった場合、ドイツETSレジストリにおけるアカウントが凍結される。また、2026年までの初期段階終了後は、排出報告書が期限までに提出されない場合にも、ドイツETSレジストリのアカウントが凍結される。凍結された期間は、レジストリの一部の機能のみしか使えなくなる。

また、排出量に応じた十分な排出枠が償却されない場合には、罰金の対象となりうる。罰金額は、排出枠価格が固定額で維持される2025年までは、本来償却すべきであった排出枠分の2倍の金額で、その後はEU ETSにおける金額と同等の罰金の対象となり得る。罰金の支払いにより、未償却の排出枠分の償却が免除されるわけではなく、排出枠に応じた償却も求められる。さらに、モニタリング計画書の提出義務違反については、5万ユーロを上限とする罰金、排出量報告書の提出義務違反については50万ユーロを上限とする罰金が科される可能性がある。

ドイツETSとEU ETSⅡとの間の運用に関する制度設計はこれから

EUレベルでも、建物、道路輸送、小規模産業において、燃料供給事業者を対象に、CO2排出量の報告、モニタリング、排出枠の償却を求めるEU排出量取引制度(ETS)Ⅱを創設することが、2023年6月5日に施行されたEU ETS指令の改正に盛り込まれた。開始時期は2027年からとされており、エネルギー価格の異常な高騰が続くようであれば、1年後ろ倒しし、2028年からとする制度設計がなされた。EU ETSⅡのドイツETSへの影響について、ドイツ産業連盟(BDI)でエネルギー・気候政策を担当するシニア・マネージャーのヨアヒム・ハイン氏は、まだ何も決まっておらず、ちょうど議論されているところだとし、EU ETSⅡが将来的にドイツETSに代わるのか、両ETSが併存するのか多くの技術的な議論がなされている、と指摘している。EU ETSⅡとドイツETSが具体的にどのように運用されていくかは2024年3月時点では、まだ決まっていない。

オーストリアでも、建物、輸送、農業などを対象に独自の国内ETSを導入

オーストリアでも、GHG排出コストの透明化と気候変動対策のさらなる促進のため、主としてEU ETSの対象外となっている建物、輸送、農業、廃棄物処理、小規模な産業施策などからのGHG削減を目的に、2022年10月からオーストリア独自のETS(以下、オーストリアETS)が導入された。前述対象分野において、石油、ディーゼル、灯油、天然ガス、液化ガス、石炭などの化石燃料を販売する事業者が適用対象となる。そのため、オーストリアETS対象事業者は、これらの燃料を使って実際にGHGを排出する事業者とは必ずしも一致しない。このような制度設計になったのは、個別の消費者を対象とした場合の手続きの煩雑さを考慮してのことだという。オーストリアETS は、ドイツETS と同様に市場に燃料を販売する事業者を対象に、販売燃料量を基準に排出枠分を負担させる「上流アプローチ」をとっており、対象もEU ETS の下では対象外となっている分野を主な対象としている。

炭素税導入より現実的なETS導入を選択

オーストリアETSの制度設計を担う、財務省の気候チーム課長であるホセ・デルガド氏によれば、国内ETSの導入にあたっての議論は2019年にさかのぼるという。保守政党である国民党と緑の党の交渉において、緑の党は炭素税を導入したかった。ドイツが既にETS導入を決めていたこともあり、欧州委員会でも、ドイツETSの内容をEUレベルで広げるEU ETSⅡの可能性について内部で議論されていた。国レベルで炭素価格システムを導入することは最も論理的な選択肢だったという。最初の提案として、受け入れ可能な炭素価格を導入し、段階的に引き上げていくことは、負担者との関係でも導入しやすい手法だった。オーストリアでETSを導入したのは、すでにドイツが国内ETSを導入しており、アプローチしやすかったことがある。また、国民党が2019年の選挙で税負担を引き上げないことを公約にかかげており、炭素税という言葉の使用は政治的に実現可能な選択ではなかった。ETSとして固定価格で導入していくことがより現実的な選択肢だったという。オーストリアETSは、2022年10月から導入されることになり、2025年までは固定価格でのアプローチで、エネルギー税のようなものとなり、現在はまだ市場価格アプローチへの移行期間にある。2022年の排出価格がCO2換算1トン当たり30ユーロに設定され、2023年は35ユーロに当初設定されていたが、エネルギー価格高騰の影響により32.5ユーロに減額された。2024年は45ユーロ、2025年は55ユーロに設定されている(表2参照)。2026年から市場価格フェーズに移行する計画だが、EU ETSⅡの導入が2027年から予定されており、こうしたEUレベルの動向も考慮して、市場価格フェーズにおける制度設計の詳細が決められていく見通しである。

表2:オーストリアETSの排出枠価格の設定(2022~2026年)
価格
2022年 30ユーロ
2023年 32.5ユーロ
2024年 45ユーロ
2025年 55ユーロ
2026年 オークション形式

出所:2022年国家排出量取引制度に関する法規定から作成

なお、オーストリアETSのカバー範囲とEU ETSⅡのカバー範囲は完全に一致しているわけではなく、オーストリアETSを将来的にEU ETSⅡに整合させるために必要なステップに向けて着手したところだという。財務省のホセ・デルガド気候チーム課長は、EU ETSⅡがオーストリアETSに置き換わる可能性についても指摘している。

オーストリアETSレジストリの開設は2025年初めまで延期

オーストリアETSの詳細については、オーストリア財務省が制度設計を担っているが、オーストリアETSの監督官庁は2022年にオーストリア税関の傘下にオーストリア排出取引局(AnEH)が設置された。オーストリアETSに関する手続きは、排出取引局が提供するプラットフォームを通じて行われるため、同ETSの対象事業者は、所定のプラットフォームにアカウントを開設する必要がある。今後、オーストリアETS レジストリが開設されると、排出枠を発行、取引、償却することが可能になるが、その開設は2025 年初めまで延期されており、これらの詳細については、施行令が制定される予定である。

対象事業者は2025年からモニタリング計画書や年間排出量の報告など3つの義務

オーストリアETS 対象事業者の義務は、フェーズによって異なる。固定価格フェーズのうち、2024 年までの導入フェーズでは、モニタリング計画書の提出が免除されるなど、制度が簡易化されている一方、GHG排出量は四半期ごとに排出枠に応じた金額を支払うことが求められている。2025 年までの固定価格フェーズのうち、2025年からの移行フェーズに入ると、ドイツETS とほぼ類似の制度となり、オーストリアETS 対象事業者は、主として、(1)モニタリング計画書のオーストリア排出取引局への提出、(2)年間排出量報告書の提出、(3)排出量に応じた排出枠の償却、の3 つの義務を負う。

より具体的には、オーストリアETS 対象事業者はモニタリング計画書を準備し、監督官庁による確認、承認を経る必要がある。モニタリング計画書の詳細は今後、施行令で定められる予定である。

次に、オーストリアETS 対象事業者は、排出取引局による承認を受けたモニタリング計画書に沿って排出量を算定の上、年間(暦年)排出量報告書を作成して翌年6 月30 日までに排出取引局に電子的方法で提出することが求められる。この年間排出量報告書準備のため、オーストリアETS 対象事業者には、エネルギー税のサマリーと四半期ごとの排出に関するデータが提供される。もしこのデータに誤りがあった場合には、修正を求めることができる。また、年間排出量に応じ支払われた金額と、年間排出量報告書で報告される実際の排出量に差がある場合には、その差額分につき追加支払いまたは還付を受けることになる。具体的な排出量の計算方法は、原則として販売した燃料量に、燃料の種類別に定められた係数を乗じて排出量を算出する。2024年までの導入フェーズにおいては、排出取引局が四半期ごとの排出量をエネルギー税と燃料の種類に応じた排出係数を基に自動的に計算し、オーストリアETS対象事業者に提供する。同対象者は、この計算結果に基づき、四半期ごとに排出量に応じた金額を支払う。なお、導入フェーズでは、実際の排出枠の発行、購入、償却手続きは行われない。

そして、オーストリアETS対象者は、GHG1トン当たり排出枠1枠を償却する必要があり、対象燃料を販売する前に、排出枠を排出取引局から購入する必要がある。

ETS義務違反には最大5万ユーロの罰金

オーストリアETS の下での義務に違反した場合には、制裁対象になり得る。オーストリアETS に登録しないまま燃料を販売した場合、最大5 万ユーロの罰金が科せられ得る。登録情報に不備があった場合、モニタリング計画書の提出懈怠(かいたい)(義務化以降)、排出量報告書の提出懈怠、必要な修正を行わないといった行為には、最大5,000 ユーロの罰金の対象となり得る。排出枠の償却が不十分であった場合や、オーストリアETS に登録のないまま燃料を販売した場合には、割高の対価支払いを求められる可能性がある。

オーストリアETSの下でのEU ETS対象者向け販売分の排出枠は控除が可能

なお、オーストリアETS 対象者がEU ETS 対象者に販売する燃料分のオーストリアETS の下での排出枠について、事前に控除する方法がある。この場合、オーストリアETS 対象者は、EU ETS 対象者に供給する燃料分の排出枠につき、オーストリアETS の下での購入および償却は不要になる。このため、オーストリアETS 対象者は、EU ETS 対象者である顧客に対して費用負担を求める必要がない。この仕組みを活用するには、オーストリアETS 対象者およびEU ETS 対象者に対して、法定の宣言書や証明書の提出を求める必要がある。

本レポートでは、GHG排出削減のために、CO2排出に対して課税する炭素税を導入している国が多い中で、国レベルでのETSを導入したドイツとオーストリアの取り組みの経緯と現状、制度内容をみてきた。より詳細な情報は、ジェトロ調査レポート「EU ETS の改正およびEU ETSⅡ創設等に関する調査報告書」も参照されたい。


注:
ドイツ語ではnEHS(Nationalas Emissionshandelsystem)。
執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所長
田中 晋(たなか すすむ)
1990年、ジェトロ入構。ジェトロ・パリ事務所、ジェトロ・ブリュッセル事務所次長、欧州課長、欧州ロシアCIS課長、調査部主任調査研究員などを経て現職。著書は「欧州経済の基礎知識」(編著)など。