変貌する世界の半導体エコシステム米中対立に揺れる韓国半導体産業の現状
有識者へのインタビューから見る実情

2024年5月16日

韓国の半導体産業は、サムスン電子とSKハイニックスを筆頭に世界2位(注1)の地位を確固たるものとしている。両社はともにメモリ半導体のDRAM、NAND型フラッシュメモリを中国国内で大規模に生産している。また、韓国のメモリ半導体の国別輸出入状況に目を移すと、韓国の輸出に占める中国向けの割合は、約4割と最大の仕向け先になっている。輸入においても、台湾に次いで2番目の貿易相手国である(図参照)。このような状況のなか、韓国政府は、2022年7月に「半導体超強大国達成戦略」、さらには2023年3月には「国家先端産業育成戦略」をそれぞれ発表するなど、国内における半導体産業強化の旗色を鮮明にしている(2024年1月11日付地域・分析レポート参照)。

背景には、米中対立を受けたグローバル・サプライチェーンの見直しが挙げられる。2023年2月、米国商務省はCHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)の運用を開始した。同法では、米国政府から補助金を受領した企業は、中国などでの半導体の製造能力拡大を制限する「ガードレール条項」の適用を受けることから、中国と取引のある外国企業は対応に迫られている(2023年9月25日付ビジネス短信参照)。米国商務省産業安全保障局(BIS)は、2022年10月7日に半導体関連製品(物品、技術・ソフトウェア)の輸出管理規則(EAR)を強化していたが(2022年10月11日付ビジネス短信参照)、中国国内に製造拠点を持つサムスンとSKハイニックスからの個別申請に対して、規則適用の1年間の除外措置を与えた。この除外措置の期限が迫る2023年10月13日、BISはEARの一部を改定すると発表(2023年10月16日付ビジネス短信参照)し、EAR上の認定エンドユーザー(VEU)である両社の中国拠点向け製品については、期限を設けずに除外措置を延長した。

図:韓国のメモリ半導体(集積回路)貿易の状況(2023年、100万ドル)

輸出
2023年の韓国の集積回路(HS:8542)の輸出データ。単位は百万ドル。輸出について上位から、中国向けに33,179百万ドル、シェア39%、香港向けに16,480百万ドル、シェア19%、ベトナム向けに11,852百万ドル、シェア14%、台湾向けに8,987百万ドル、シェア10%、シンガポール向けに4,306百万ドル、シェア5%、インド向けに1,912百万ドル、シェア2%、マレーシア向けに1,843百万ドル、シェア2%、フィリピン向けに1,576百万ドル、シェア2%、日本向けに1,145百万ドル、シェア1%、その他の国向けに4,855百万ドル、シェア6%。
輸入
2023年の韓国の集積回路(HS:8542)の輸入データ。単位は百万ドル。輸入について上位から、台湾から17,283百万ドル、シェア33%、中国から16,817百万ドル、シェア32%、日本から5,059百万ドル、シェア10%、シンガポールから2,927百万ドル、シェア6%、米国から2,490百万ドル、シェア5%、マレーシアから2,057百万ドル、シェア4%、香港から954百万ドル、シェア2%、タイから813百万ドル、シェア2%、ドイツから811百万ドル、シェア1%、その他の国から2,475百万ドル、シェア5%。

出所:GTA(グローバル・トレード・アトラス)

サムスンとSKハイニックスは一定の除外措置は得たものの、企業活動が大きな影響を受ける状況に変わりはなく、韓国のチップメーカーはビジネス戦略を見直す必要に迫られている。

台湾の調査会社トレンドフォースによると、2023年第4四半期のDRAMの売上高については、サムスンが79億5,000万ドルで世界シェア45.5%と首位を維持し、2位のSKハイニックスは55億6,000万ドル(シェア31.8%)であったと発表した。また、NAND型フラッシュメモリについても、サムスンが42億ドル(シェア44.8%)で首位となり、次いでSKハイニックスを含むSKグループが24億8,000万ドル(シェア21.6%)であるとした。このように、メモリ半導体において世界で大きな存在感を見せる韓国の半導体産業をどのような方向に導くのか、韓国の半導体産業に関する政府への政策提言や半導体企業に対する支援等も行う複数の専門家へのインタビューから、米国の対中規制による韓国企業への影響、ならびに今後の韓国半導体産業の方向性を探る。

中国政府が経済的威圧を強める可能性に危惧


対外経済政策研究院(KIEP)経済安保チーム
ヨン・ウォンホ・チーム長
(取材日:2023年11月7日、本人提供)
質問:
韓国の半導体産業や貿易の現状は。
答え:
韓国の半導体メーカーは現在、生産量を減らしている状況だ。これにより、2024年第1四半期から値段が上向くと見ている。専門家や市場関係者は2024年第2四半期から回復傾向を見せるのではないかとみられている。一方で、世界景気が良くないので、それに連動する形で韓国経済も全般的に良い状況とは言えない。特に韓国は中国市場に中間財を輸出するモデルであるため、中国経済の減退も韓国経済に影響を与えている。2023年は中国との貿易赤字が拡大する可能性が高い。そのような背景から、韓国企業は米国に対する投資や、米国企業との貿易を増加させている。
質問:
中国政府と米国政府の政策が韓国の半導体産業に与える影響は。
答え:
中国は2つある。1つ目は、中国政府が外交的な観点から経済的威圧を用いる可能性があることに留意している。韓国はクリティカルマテリアルやローマテリアルを中国に依存しているため、これを武器にされた場合の影響は大きい。韓国は2019年に日本から輸出規制を講じられたことで、この分野に関心を持つようになった(2019年7月4日付ビジネス短信参照)。
2つ目は、(国産品優遇などの)中国政府の政策の方向性を注視している。韓国政府が中国に対し融和的な政策を取るとしても、中国は韓国からの輸入を減少させ、国産品に代替するという現在の方向性を変更しないことは明らかである(注2)。これが自由な価格競争の下で行われれば問題はないが、中国政府の政策には透明性に欠ける点が問題である。例えば、2021年には中国との間で尿素を巡る問題も起きている(2021年11月9日付ビジネス短信参照)。韓国政府は現在、早期警告システム(EWS)を使って、どのような品目がサプライチェーン上の課題となり得るのかを調査しているが、該当品目については機密情報に当たるため公開されていない。中国からの輸入依存度90%以上の品目が含まれていると予想でき、そのような品目は原材料であることが多い。
米国については、韓国企業もCHIPSプラス法による米国の補助金を受けたいと考える一方で、引き続き中国市場も維持したいと望でいる。米国への投資においても、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)とサムスンの目的を比較すると明らかに異なる。TSMCの米国投資には、中国を念頭に置いた安全保障関係の取引があったと見ているが、サムスンは米国市場におけるシェアの拡大という経済的観点を目的としている。
質問:
輸出管理政策に関して、韓国政府と企業のコミュニケーションは図られているか。
答え:
全ての企業の動向は把握していないものの、私が仕事をする機会の多い半導体大手メーカーは政府と非常に密にコミュニケーションを取っている。韓国は現在の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権以降、大統領室に経済安全保障担当の秘書官を設置した。秘書官の下で、産業通商資源部(MOTIE)や科学情報通信技術省(MOSICT)などから派遣された職員がコントロールタワー機能を担っている。従来、韓国では独自の輸出規制の制定は法律上認められず、ワッセナーアレンジメントなど国際輸出管理レジームに従うしかなかった。2023年5月にサプライチェーン3法のうち「素材・部品・装備特別法」の改正案が国会を通過し、6月に施行された。これにより、安全保障のために韓国独自の輸出規制ができるようなった(2023年11月15日付地域・分析レポート参照)。政府と企業のディスカッションもかなり頻繁に実施されている。

米国の対中政策の影響で、韓国企業に中国から国内回帰の動き


産業研究院(KIET)新産業室
キョン・ヒクォン副研究委員
(取材日:2023年11月7日、本人提供)
質問:
米国が半導体関連製品の輸出規制を強化している狙いをどのように見ているか。
答え:
米国は露光装置だけではなく、前工程に関連する装置にも輸出規制の範囲を拡大することを狙っていると見ている。最終的には、中国における先端半導体の製造を不可能にすることが目的だろう。NAND型フラッシュメモリであれば、韓国企業には128層や17ナノ以下の先端半導体を中国で製造してほしくないのではないか。
質問:
韓国国内の半導体産業への影響は。
答え:
近年、中国のファーウェイが低価格スマートフォンの販売を増している。同社に部品を供給する韓国企業の中には、サプライチェーンを混乱させる措置ではないか、とみる向きがある。他方、韓国国内への移転が進むことにより、長期的には韓国の半導体産業が成長するための環境整備になるのではないか、と前向きに評価する意見もある。また、米国は2023年度国防授権法(NDAA)により中芯国際集成電路製造(SMIC)、長鑫存儲技術(CXMT)、長江メモリ(YMTC)の製品・サービスの使用を5年以内に禁止する(2022年12月19日付ビジネス短信参照)。中国に進出している韓国企業にも、5年以内に変化が訪れ、韓国国内への回帰の流れは強まるとみている。
質問:
米国のCHIPSプラス法の補助金に対する韓国企業の受け止めは。
答え:
CHIPSプラス法による補助金は、韓国政府の半導体産業への補助金と比較しても非常に高い補助率である。韓国政府が打ち出している半導体の設備投資に関する税額控除の対象は投資額の15%であるのに対して、CHIPSプラス法は、半導体または同製造装置の製造を目的とした施設に掛かる投資額の25%が税額控除の対象となり、加えて、州政府による補助も受けられるケースがある。これは、人件費の高い米国で生産するデメリットを十分に補うものである。米国のユーザーに近い位置に拠点を構えることで、試作品の段階から一緒に取り組むことが可能となる。具体的には、サムスンが発表したテキサス州テイラー郡の拠点は、同州オースティンにある電気自動車(EV)メーカーのテスラ工場まで自動車で20分ほどの距離に位置する。
質問:
今後の中国半導体産業の見通しは。
答え:
中国の半導体産業は、今後5年から6年でレガシー化するとみている。中芯国際集成電路製造(SMIC)、長鑫存儲技術(CXMT)、長江メモリ(YMTC)などの大手メーカーの技術水準の発展度合いを見ると、NAND型フラッシュメモリについては一定水準まで到達可能である。一方、DRAMは難しいのではないか。ただし、中国市場は非常に大きいことから、米国のGAFAM(注3)をはじめとしたビッグテックは無視ができない。全体の方向性としてレガシー化は確実と見ているが、スマートフォンやタブレット端末などに内蔵されるアプリケーション・プロセッサやNANDなどの分野における中国企業のシェアは今後も伸びるとみている。

韓国の半導体産業の発展に向けた課題は人材育成


成均館大学クォン・ソクジュン教授、クォン・ソクボム教授
(取材日:2023年11月9日、本人提供)
質問:
韓国の半導体産業の現状および米国の輸出管理の影響は。
答え:
この1年間、世界の半導体市場は悪化の一途をたどっている。メモリ半導体市場は4四半期連続の赤字となった(2023年11月のインタビュー時点)。中国に進出しているサムスンとSKハイニックスは、2022年10月7日に開始した半導体関連製品(物品、技術・ソフトウェア)の輸出管理規則(EAR)の例外措置の終了が迫っていたが、2023年10月に例外措置の無期限継続が発表され、不透明さがある程度解消された。一方で、引き続き障害といえるのは、(CHIPSプラス法に基づく補助金を受け取る企業は中国における)増産を5年間で5%未満に抑える必要がある点と、中国国内における先端半導体の生産を依然として制限されている点である。
質問:
米国の輸出管理の韓国企業への影響は。
答え:
無期限の例外措置適用による先行きの不透明さが解消できたのはうれしい半面、米中対立の構図など不確実性が依然として残っているのは変わらない。中国に進出したい韓国企業にとっては、根本的に解決できる局面を待っている状況と見ている。さらには、大手企業だけでなく、大手企業のサプライヤーなどとして進出する中小企業への影響も考えられる。大手企業は生産量の調整や生産の移管という対応も可能である一方、中小企業が同様の対応をするのは困難であり影響が大きい。
質問:
今後の韓国半導体産業の方向性は。
答え:
韓国政府は現在、韓国が強みを持つメモリ半導体以外の分野に力を入れる必要性を認識しており、産業界もその方向性に共感している。とりわけ、半導体専門人材の育成が重要である。問題は人材育成に携わる修士号や博士号の取得者を大学教員として誘致する必要がある点と、仮に誘致できた場合においても学生が修士号や博士号まで取得しない点が挙げられる。政府は産業通商資源部などから講師を呼ぶ大型の講座も開催しており、当大学も参画している。2023年度から半導体専門人材育成するための学科を新設し3月から新入生が入学したところ、最終的には年間200~300人の学生の指導を目標としている。
一方、設計ファブレス企業の育成に関しては、完全に実現するのは難しいと考えている。ファブレスは半導体の設計が中心になると思うが、メモリと非メモリといった単純な区分をしない方が良いと考えている。特に、日本や韓国のような製造業に強い国は、強みを持つ分野に合わせて柔軟に設計をしていく形が良いと考えている。
質問:
人材育成で日本との協力可能性は。
答え:
現在の尹大統領は、日本との経済協力に前向きな姿勢を示している。半導体だけでなく、先端分野において日本と協力できることは多い、という認識は韓国政府の共通した立場である。日本は半導体の素材部品装置で世界トップの水準にあり、韓国も半導体産業のなかでもロジックのシェアが高いという特徴を持っていることから、シナジー効果が見込まれると考えている。サムスンが日本の横浜市に半導体の研究開発(R&D)拠点を設立することに加えて、2025年にはR&D拠点を日本各地につくるという話もある。加えて、日本の素材メーカーも韓国への進出には前向きな面もある。韓国企業は日本企業のクライアントでもあることから、現政権も日本企業に対して積極的に支援したいという思いがある。

「半導体メガクラスター」の推進、さらなる産業集積を目指す

韓国政府は2024年1月、ソウル市近郊の京畿道(キョンギド)南部に造成中の「半導体メガクラスター」の造成案を発表した(2024年1月17日付ビジネス短信参照)。造成案では、2047年までに民間投資622兆ウォン(約68兆4,200億円、1ウォン=約0.11円)を通じ、半導体生産工場13カ所、研究施設3カ所を新設予定としている。また、周辺産業も合わせると計346万人の雇用創出も期待されている。非メモリ半導体の育成といった課題も見え始めたなか、今後の韓国半導体産業の行く末に注目が集まる。


注1:
韓国の投資誘致機関であるインベスト・コリア(Invest Korea)によれば、2022年の世界の半導体市場(6,040億ドル)における韓国のシェアは17.7%で、2013年から10年連続で世界2位を維持してきた。
注2:
中国の国家インターネット情報弁公室は2023年5月、メモリ半導体やストレージの設計・開発・製造などを行う米国のマイクロンテクノロジーについて、同社製品の調達を停止すべきとした。この決定に関して、中国のメディア「経済観察網」は、同措置は中国の関連企業にとって有利に働き、メモリの国産化が進むとの見方があるとしていた(2023年5月24日付ビジネス短信参照)。
注3:
GAFAMとは、世界的な影響力を持つ米国ICT(情報通信技術)企業5社の通称。具体的には、グーグル(アルファベットが運営)、アップル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン、マイクロソフト。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
大滝 泰史(おおたき やすふみ)
2014年、ジェトロ入構。総務部広報課、アムステルダム事務所、福井貿易情報センターを経て、2021~2023年に経済産業省通商政策局経済連携課に出向。CPTPP協定の英国加入プロセス等の日本のEPA/FTA交渉および利活用促進のための業務に従事。その後、調査部国際経済課を経て、2023年12月よりジャカルタ事務所において広域調査員として勤務。