高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来成長を牽引するスマート農業と外国人リーダー(さかうえ・鹿児島)

2025年3月3日

さかうえは、鹿児島県志布志市において、野菜の契約栽培事業、牧草飼料事業、畜産事業を展開する農業法人だ。従業員160人のうち、高度外国人材が15人(取材日時点)と約1割を占めており、生産管理のチームリーダーとして活躍する。今回は、さかうえでの高度外国人材採用の背景や活躍について、本部の坂上宏一郎部長に取材した。また、ベトナム出身の生産部主任2級のホアン・バン・ハン氏に同社への入社の背景や今後のキャリアプランを聞いた(取材日:2024年12月25日)。


左から、ハン氏、坂上部長(ジェトロ撮影)

先駆的なスマート農業と攻めの人材戦略

さかうえは1995年の設立以来、野菜の契約栽培を中心に事業を展開している。国内市場でシェア2%を占めるピーマンに加え、ナス、キュウリ、ケールなどの栽培を行っている。野菜は同社の売り上げの約8~9割を占め、全国展開するスーパーマーケット、レストラン、加工メーカーなど、全国に50社以上の取引先を有する。また、耕作放棄地の有効活用や地域資源の循環型農業の一環として、牧草飼料事業やブランド牛「里山牛」の畜産事業も手掛けており、国内外での市場拡大を目指している。

同社がここまで大きく急成長した背景には、先駆的なスマート農業の実現、および攻めの人材戦略が大きく関わっている。独自に設計した農業工程支援システムを活用し、10年以上前からITを駆使した農業を実現している。データに基づき効率的な生産管理や未来予測を行うことで、従業員一人ひとりが自身の役割を明確に理解し、効果的に業務を遂行することが可能となっている。野菜の契約栽培事業では、14〜15年間にわたるピーマンの栽培経験をもとに、顧客との対話の中で需要を捉え、マーケットインの考え方を取り入れた栽培計画を実施。ピーマンの出荷量においては日本最大規模を誇り、9地区で合計6ヘクタールに及ぶピーマン専用の生産施設・ピーマンハウスを展開している。また、大学との連携を通じて、放牧牛の動態管理、遠隔での飼養管理にも取り組んだ実績がある。

さらに、高齢化が進んでいる日本の農業法人の中で、平均年齢が39.1歳と圧倒的に若く、若手人材を取り込むことができていることも、同社の特徴だ。2019年には従業員数51人だった同社は、2020年に営業部を創設し主体的な営業活動を開始してから、耕地面積や事業規模が急速に拡大。それにあわせて高度外国人材をはじめとする外国籍社員の採用を強化している。現在では従業員は160人となり、うち多くは生産管理の人員が占める。

会社の急成長に伴い外国人材を積極採用

さかうえは、2018年から技能実習生、2019年8月から高度外国人材の受け入れを開始した。高度外国人材の採用のきっかけは、「技能実習生への指導や通訳ができる人材の必要性を感じたことや、生産拡大のため生育、工程、農場の管理ができる人材を育成することが急務となったため」だという。現在はベトナム、インドネシア、インド、ネパールからの15人の高度外国人材が勤務している。

表1:外国人材の内訳と役割
外国人材の在留資格 高度外国人材 特定技能 技能実習
人数内訳(計56人) 15人(社員全体の9.3%) 24人(社員全体の15%) 17人(社員全体の10.6%)
国籍 ベトナム12、インドネシア1、インド1,ネパール1 ベトナム5、インドネシア12、ミャンマー6、インド1 ベトナム17
学歴
  • 農学
  • 食品工学
    を専攻する大卒以上
    (もしくは10年以上の実務経験)
問わず 問わず
役割
  • 生産管理のチームリーダー(管理職候補)
  • 営業における管理職候補
  • 生産および技能実習生の管理
  • 生産
今後の受け入れ方針 今後も増員予定 今後も増員予定 今後は受け入れない

出所:インタビューを基にジェトロ作成

表2:高度外国人材の最終学歴と勤続年数
No 性別 最終学歴 勤続年数
1 ベトナム農業大学 食品科学技術学部(注) 2年8カ月
2 ベトナム カントー大学 農業科学 農業技術コース 2年5カ月
3 ベトナム タイグエン農業林業大学 2年0カ月
4 ベトナム タインリエム A 高校 1年9カ月
5 ベトナム国家農業大学 農業学部 栽培品種学科 1年8カ月
6 ベトナム国家農業大学 生物学 1年8カ月
7 ベトナム農業学院 1年8カ月
8 ベトナム農業学院 畜産専攻 0年10カ月
9 インドネシア ボゴール農業大学 0年9カ月
10 ベトナム国家農業大学 食品技術学部 品質管理・食品安全学科 0年8カ月
11 ベトナム国家農業大学 食品技術学部 品質管理・食品安全学科 0年8カ月
12 ベトナム国家農業大学 農学部 栽培品種学科 0年8カ月
13 ベトナム国家農業大学 経済農村開発学部 農業経済学科 0年8カ月
14 ネパール マヘンドラ・ラトナ・マルチプル・キャンパス 0年8カ月
15 インド パンジャブラオ・デシュムク・クリシ・ビジャピート大学 0年7カ月

注:現在のベトナム国家農業大学。
出所:さかうえ提供資料からジェトロ作成

当初は、会員となっている日本農業法人協会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの総会で出会った関係者からの高度外国人材の紹介をきっかけに、採用に至った。2020年にはジェトロの支援もあり、ベトナムまで渡航し、高度外国人材のマッチングイベントに参加した。現在は紹介会社経由での採用がほとんどだという。選考は履歴書審査ののち、ウェブ面談を重ね、最終的には約1.5日間かけて、同社での対面の面接と筆記試験、農業体験を踏まえて、合否を決めている。ミスマッチがないよう、時間や回数を重ねてじっくり審査を行っているという。

高度外国人材活用による生産現場の革新と成長

さかうえでは、日本の大卒の人材と同様に、リーダーや管理職、さらには経営層になってもらうことを目的に、農業や食品工学の知識を持つ高度外国人材を採用している。現在、在籍する高度外国人材は生産現場のリーダーとして活躍しており、技能実習生や特定技能社員への指示や監督をしている。収穫時期には20人ほどのチームを束ねることもあるという。坂上部長は「高度外国人材のおかげで生産現場における組織としての管理能力が向上し、品質や収量が安定的になり、増大する契約栽培の需要にも応えられるようになった」と話す。同社の売り先は営業部の活躍で急増しており、収量が上がれば会社のさらなる成長につながるという。


生産現場で活躍する外国籍社員(さかうえ提供)

また、高度外国人材には現場レベルで、業務改善にも取り組んでもらっているという。これまで口頭ベースでのみ存在していたルールや手順を高度外国人材が文書化し、外国籍社員向けに母国語に翻訳した。また、会社の制度の分かりにくい部分や要改善点について、実習生や特定技能社員の意見を吸い上げて、管理職に報告してくれるという。坂上部長は、高度外国人材の強みについて「多くのことに目が行き届き、アイデアや気づきが多いと感じる」と語る。例えば、今回インタビューしたベトナム出身のハン氏は、2023年3月に入社し、生産部主任としてさかうえで活躍している。入社後、ピーマンハウスの作業を担当し、すぐにチームリーダーに昇格。2024年の夏からピーマンの生産現場のリーダーとして、さらに最近では大型農業機械の操作も任されている。ハン氏は非常に向上心が高く、将来的にはベトナムに戻り、自身の農業プロジェクト活動計画を実現させたいと考えている。ベトナムも遊休農地が増えているため、畑や田んぼを借りて野菜やコメを作ったり、大企業と連携して生産物を安定供給したりするなど、新たな取り組みにもチャレンジしたいという。さかうえで学んだ知識と経験を生かして、ゆくゆくは中小規模の農業法人に成長させたいとのことだ。


インタビューに回答するハン氏と坂上部長(ジェトロ撮影)

また、坂上氏は「技術者として生産管理ができる人材は貴重」と高度外国人材を高く評価した。作業の流れだけを管理するのは容易だが、さかうえが手がけるような大規模生産には、管理者が土壌や栽培のメカニズムを理解している必要があり、大学やこれまでの職務経験で学んだ知識や技術が生かされる機会が多いという。高度外国人材の登用により、さかうえでは社内コミュニケーションが活性化し、若い人材が増えることで活気が出て、現場の雰囲気も良好に保たれている。さらに、品質や収量の安定化により取引先企業からの信頼も高まり、農地の活用面積が増え、地域社会にも貢献している。

課題を乗り越え、農業の担い手育成を目指す

事業拡大に伴い高度外国人材の活躍機会が増え、順風満帆に見えるさかうえだが、2021年に複数の外国人材が同時期に退職するという苦い経験もした。コミュニケーション不足が原因で、外国人材が会社の戦略や方針を十分に理解できず、不安や不満を抱えることも多かった。そこで、定期的なヒアリングやレクチャーの機会を増やすなど、外国人材の悩みや不安を解消する取り組みをおこない、コミュニケーションを改善したところ、退職は大幅に減ったという。

また、長く勤めてくれる中堅の外国人材を育成し、定着させていくことも今後の課題だ。経営理念の浸透や不満への対応、やりがいや昇進機会、キャリアパスの明確化など、外国人材にとって魅力的な職場になるように工夫や改善をしている。今後は評価制度についても、外国人材にも受容されやすいジョブ型の考え方などを一部取り入れて、更新していく方針だ。さかうえは、生産管理や営業職、総務職、農業機械の整備技術職など、多様な職種で高度外国人材の採用を継続し、国内事業の拡大とアジアを中心とした海外販路開拓も目指している。

さらに、自社の人材育成にとどまらず、「農業全体の担い手を育成したい」と意気込む。同社は農業の担い手不足という地域社会の課題を解決したいという思いから、農業従事者を目指す人に対し、生産技術や農業経営を学べるプログラム(2年間)(注1)を提供している(農業をはじめる.JPウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同プログラムを修了した優秀な生産者とパートナー契約を結び、生産作物の販売で連携している。坂上部長は「農業界は、優秀な技術者がフリーランス農家(注2)を目指すという潮流にあり、そうした高度外国人材も増えてくるだろう。東南アジアは個人事業主が多く、高い経営能力を持っていると思う。さかうえが農地や機械、資金面でのバックアップをおこなうことも検討していきたい」と今後の展望を語った。


注1:
都道府県等認定研修機関としてプログラムを提供。
注2:
雇われずに個人事業主として活動する農業経営者。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
馬場 安里紗(ばば ありさ)
2016年、ジェトロ入構。ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課/途上国ビジネス開発課、ビジネス展開・人材支援部新興国ビジネス開発課、海外調査部中東アフリカ課、ジェトロ・ラゴス事務所を経て、2024年10月から現職。

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