高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来外国人材の提案力、企業成長や職場活性化に一役(福井県・小野谷機工)

2024年10月21日

小野谷機工外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(本社:福井県越前市)は、タイヤ交換機や空気圧センサー、廃タイヤ処理機械など、タイヤ関連機械の企画・開発、製造、販売を行う国内唯一のメーカーだ。過去に一度断念した海外進出に再び挑戦することを目指し、高度外国人材の採用・育成に力を入れる。人材定着の取り組みや今後の計画について、高橋義男常務取締役、大河内栄誉執行役員・総務管理本部長に聞いた。また、2018年に入社したフィジー出身のリネル氏にも、来日や同社に就職したきっかけ、今後の目標について聞いた(インタビュー日:2024年9月2日)。

将来的な海外進出に向け、外国人社員と働く環境を当たり前に

小野谷機工は、ガソリンスタンドやカー用品販売店など、タイヤの点検や交換などを行う事業者向けの機械などを製造・販売する国内ではオンリーワンの企業だ。昨今の自動車向けサービス業界の人手不足などを受け、タイヤサービスの自動化・省力化を実現できる同社製品への需要が高まっているという。2024年7月には、東京証券取引所プロマーケットへの上場を果たした。

従業員数は関連会社も含めると約300人。高度外国人材は12人が在籍し(2024年9月時点)、出身地はバングラデシュ、ベトナム、フィジー、中国とアジアが中心だ。同社が高度外国人材の採用を始めたきっかけは、2017年ごろに検討していた海外進出を断念したことだ。ジェトロの新輸出大国コンソーシアム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを活用し、自社製品の潜在需要が高いアジア地域での生産拠点設立を目指し、3度の海外視察で工業団地や自動車関連企業を回った。その結果、海外展開には人脈作りが重要なことを痛感したという。当時は社内に英語でコミュニケーションができる人材がおらず、人脈形成に必要なリソースがそろっていないと判断し、断念するに至った。

この海外進出断念の経験を契機に、将来的な海外展開に向けた体制作りの一環として、高度外国人材の積極採用に取り組むことになった。高橋常務は「海外進出は諦めていない。そのためにも、外国人社員と働くことが当たり前の環境にしたい」と話す。2018年に2人の高度外国人材が入社したことを皮切りに、毎年1~2人程度の採用を続けている。現時点では海外ビジネスを行っていないため、募集職種は開発・生産関連の技術職に限定している。


左から高橋氏、大河内氏(小野谷機工提供)

同社では、石川県の北陸先端科学技術大学院大学など近隣大学の教授や外国人社員による紹介などを通じ、採用を行っている。大河内氏は「福井県内は生産年齢人口の減少が著しく、大企業も含めて人材確保競争が激化している」と指摘する。そのため、同社は一定水準の日本語能力などの制約を設けず、門戸を広げて採用活動を行っている。「日本語能力以上に、頭の良さやバイタリティーなど、将来性を重視している」という。

長く働いてもらうため、サポート体制充実

同社は高度外国人材に対して「今後、生産技術の要になり、先頭に立って引っ張っていける存在」として期待を寄せる。長く働いてもらうため、外国人社員向けのサポートの充実を図っている。その1つが、日本の文化に慣れ親しんでもらうことを目的に始めた社内プロジェクト「つぼみプロジェクト」だ。過去には茶道や華道など伝統文化の体験や、消防・防災に関する研修などを行ってきた。月に1回程度、外国人社員のみを対象に業務時間内に実施している。また、社内の各種制度の改定などがあった際には、英語の通訳を介した説明会を別途行い、外国人社員の日本語レベルに配慮した対応を行っている。

技術習得のためのサポートを目的とした新プロジェクトも立ち上げる。具体的には、各生産工程の手順書やマニュアルを映像化し、外国人社員の母国語の字幕を付けたトレーニング用の動画を作る計画だ。日本語が得意でない特定技能資格のベトナム人の指導・育成で、通訳などのサポートをしているベトナム人社員からの提案が元になったという。「紙ベースの手順書やマニュアルでは細かなニュアンスが伝わりづらい」という課題に対し、実際の作業や操作を何度も繰り返し見ることができる動画で解決し、より効果的な技術習得につなげる狙いだ。プロジェクトチームには発案者のベトナム人社員も参加し、外国人目線での意見も反映させる。

大学の紹介で入社、チャレンジ後押しする社風が魅力

2018年に入社したリネル氏は、フィジー出身。日本の文化、特に日本人のものの考え方に強い興味があり、2005年から2年間、東京の大学に留学した。留学後は母国に戻って働いていたが、「『日本人の考え方の深み』を知るには、2年間の留学では足りない」と感じ、2012年に再来日、石川県の北陸先端科学技術大学院大学に進んだ。日本の働き方にも深い関心を持ち、日本での就職を決意。研究分野だったプログラミングやソフトウエアの知識を生かせる職種として、大学院から紹介を受けた小野谷機工への就職を決めたという。


2018年に入社したリネル氏(ジェトロ撮影)

日本語が堪能なリネル氏だが、「10年以上日本に住んでいても、日本語の習得は難しい」という。留学中は英語を話せる大学の担当者のサポートがあり、苦労はあまり感じなかったが、「就職後の環境変化にはある種のショックを受けた」と振り返る。「つぼみプロジェクト」で茶道を体験し、一つ一つの所作を丁寧に行うことを学び、日本の考え方の原点に触れたというリネル氏は「日本人とのコミュニケーションでは、丁寧さを常に意識して話すように心がけている」という。

現在は開発部門で、主任として機械のプログラミングなどを担当している。同社の社風について「チャレンジしたいという気持ちを後押ししてくれる」と話す。入社6年目を迎え、自分に自信が持てるようになり、新しいプロジェクトにも積極的に関われるようになった。今後は「自動化」という世界のトレンドに合う新たなシステムを開発したいという目標を持っている。将来の基幹人材として、さらなる活躍が期待される社員の1人だ。

提案力とバイタリティーが魅力

高橋常務は外国人材の魅力について、「提案力とバイタリティーがすさまじい」と評する。実現可能性にこだわらず、日本人では考え付かない提案も臆さずにしてくるという。例えば、配偶者や家族がいる外国人社員から「社員の家族のコミュニティーを作りたい」との提案を受け、会社として場所の提供や配偶者の日本語教育の支援などを行った。幼い子供たちも遊ばせることができ、外国人社員の家族が会社や地域に早く溶け込むことができると好評だという。業務に直結することだけではなく、社内環境整備やネットワークづくりなど側面的な観点からの提案も多く、気づかされることが多いという。

また、自分のキャリアは自分で切り開こうという意欲も高い。こうした外国人社員の姿勢について、「シャイではどうにもならない。日本人社員にもいい影響を与えてほしい」と期待する。高度外国人材が多く活躍する同社は、地元の越前市でも先進的な企業という評価を得ている。

2050年には日本の人口は約1億人まで減少すると予測される(注)。「2050年を迎えても成長を続け、誇れる会社を後世に残すためにも、外国人材に先頭に立ってもらいたい」と強調する。将来的には、関連会社も含めて500人体制を目指す中、外国人材は2割(約100人)を目指したい考えだ。

小野谷機工は、将来の海外展開、今後の企業成長の原動力として、高度外国人材を位置づけ、さらなる体制の整備・強化に取り組む。


注:
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 参照。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。