高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来高度外国人材をイノベーションの起爆剤に
インド高度人材の活躍事例(1)

2024年3月19日

「高度人材」といわれる優れた知識や技能を有している人材の獲得競争が国境を越えて激化している。特に生産年齢人口割合の減少が続く日本では、高度外国人材の活躍が急務だ。日本に在留する高度外国人材の国籍では、インドが中国に次ぐまでに拡大。2022年時点で1,044人と、過去5年で2.7倍に達した(図参照)。本シリーズでは、日本企業のさまざまな分野で活躍するインド高度人材の事例を紹介する。

図:国籍別高度外国人材の在留者推移
インドからの高度人材の受け入れは、中国に続く規模で拡大。2022年時点で1,044人となっている。

出所:出入国在留管理庁の公表データを基にジェトロ作成

精密部品の設計・製造を行う高砂電気工業(本社:愛知県名古屋市)では、現在12人の高度外国人材がエンジニアとして活躍している。技術力だけでなく、総合的な人材力の向上に挑む同社の取り組みについて、同社未来創造カンパニーの平谷治之代表取締役社長、採用担当の中野咲樹氏、設計技術課でリーダーを務めるベンカティシュ・アディティヤ氏に聞いた(取材日:2024年2月26日)。

質問:
高砂電気工業の事業内容は。
答え:
精密部品のB to B(企業間取引)メーカーで、主にバルブやポンプなどの設計から販売までを手掛ける。取引先は医療、自動車、航空、化粧品、食品など業界を問わずに幅広く、製品をオーダーメードで1個から受注していることもあってか、研究開発の試作品製造の注文が多い。

未来創造カンパニーを率いる平谷社長(ジェトロ撮影)
質問:
従業員の構成は。
答え:
現在、非正規社員も含めて263人の従業員(全社)がおり、うち33人(高度人材12人を含む)は外国・地域の人材。中国やインド、フィリピン、台湾、ベトナムなどアジア圏の出身者が多い。高度外国人材の採用には、2019年(社内カンパニー制は2020年開始)から取り組んできた。2024年4月からはさらに4人の高度人材をインドネシアから採用する予定だ。

イノベーションは多様性がカギ

質問:
高度外国人材を採用したきっかけは。
答え:
(特定技能実習生など非正規社員も含め)外国人材の採用を始めたのは、人手不足がきっかけ。しかし、イノベーションを起こすには、多様性にあふれる環境が重要という信念の下、採用を積極的に取り組んできた。現在雇用する12人の高度外国人材のうち5人がインド出身で、そのうち4人は2023年採用のインド工科大学(IIT)出身者。2021年に採用したインド人エンジニアのアディティヤは、エンジニアとしての業務だけでなく、2023年入社4人のマネジメント業務も担っている。

リーダーのアディティヤ氏(右端)に相談しながら業務を進める
2023年入社のインド人エンジニアたち(ジェトロ撮影)。
質問:
高度外国人材の採用時のポイントは。
答え:
高度外国人材の採用に当たっては、同社未来創造カンパニーの平谷社長自ら採用面接に赴いている。採用時に重視しているのは「素直さ」と「真面目さ」。文化が異なることから、衝突が起こることも十分に予測できるが、素直であれば、その衝突を解決するために歩み寄りの姿勢を示すことができると考えている。また、高度外国人材を採用する際には、1カ国につき2人以上の採用を意識的に行っている。外国人材は、文化や言語の違いなどから職場で孤立しやすい存在だが、同郷出身者が同じ職場にいれば、困っている際に助け合ったり、愚痴や不満などが出てきた時にも共有できたりするので、孤独に感じる瞬間を減らすことができる。
質問:
インド人材の特徴は。
答え:
インド人材の特徴としては、上昇志向、前向きである点が挙げられる。精密機械の分野では日本はまだリスペクトされる立場にあり、「海外で働きたい。経験を積みたい」と考えているインド人エンジニアの中には、日本の製造業を希望する人材も多いと思う。

ジョブ給制で全社員のやる気のエンジンに

質問:
給与や雇用条件など、インセンティブを設けているか。
答え:
IITは、インド国内でも最高レベルのエンジニアを育成する教育機関だ。しかし、IIT出身のエンジニアを含め、高度外国人材の給与は日本人エンジニアと同水準で、高額な給与設定を行っているわけではない。他方、高度外国人材に限らず、全社員に対して一部ジョブ給(職務給)を取り入れた。これにより、年功序列の意識が強い日本人エンジニアに競争意識を持ってもらうことを期待している。また、高度外国人材に対しても、ひと月当たりの上限回数を設けずにリモートワークを認めており、徹底した成果主義に基づく職場環境づくりを進めている。
質問:
高度外国人材を定着させる上で工夫している点は。
答え:
前提として、高度外国人材の定着率については、気にしていない。日本社会はまだまだ終身雇用制度が主流だが、世界の潮流に鑑みれば、そのシステム自体が既に時代遅れだ。レベルの高い人材はさらに良い条件の仕事を求めて転職を繰り返していくことは普通のことで、定着しないことは折り込み済みで採用活動を行っている。

受け入れ環境づくりは入念に

質問:
高度外国人材の受け入れ準備はどのようにしたか。
答え:
採用に当たっては、人事担当者が現場と密なコミュニケーションを取りながら、「土壌づくり」を行った。高度外国人材の採用受け入れに当たっては、当然のことながら社内の反発が強く、特に技術指導を行う立場の中堅エンジニアから、日本語が話せないという点に強い懸念が示された。そこで、「日本語が話せれば、現場は受け入れてくれるのか(懸念点は言語だけか)」「通訳をつければ、OJT研修を現場で担当してくれるか」など、細かい粒度で懸念点を解消していくことを意識しながら、現場でのすり合わせを行った。また、現場のスタッフには、工場独特の言い回しなどを極力避け、きれいで分かりやすい日本語で話してほしいと指示するなど、摩擦を防ぐために微調整を重ねている。2019年に初めて高度外国人材を採用してから約5年もの間、トライ・アンド・エラーを繰り返し、やっと軌道に乗ってきたと感じることができている。
また、高度外国人材の来日に伴い、人事担当者が47ページにも及ぶ英語のガイドブックを作成、病院紹介やハザードマップ、ごみの捨て方から銀行手続きなど、来日後の生活に支障が出ないよう、可能な限り情報提供を行った。
これまでの経緯を話すと、「高度外国人材の受け入れは大変」という印象を持たれがちだが、骨の折れる作業はありながらも、大変だという認識はまったくなかった。高度外国人材の活躍は、会社にとって有益なことだ。「自分が異国で働く際に困ることはどのようなポイントか」と想像しながら、準備を進めていくことが重要なのではないか。
質問:
高度外国人材を採用後、社内にポジティブな影響があったか。
答え:
社員が英語を学び始めたことや、機械設計のディスカッションをする際に視点が多角化したことが良かったと思う。社員の英語学習については、アディティヤが社内勉強会として英会話講座を主催するなど、実用的な英語に触れる機会が多くなったことも影響しているのではないか。また、異文化への理解を深めることを目的に、インド人材受け入れ前には社内でドーサ(インドの軽食、スナック)を作って試食するなど、工夫を凝らしている。そのかいもあってか、今では休日に外国人材と若手職員がバッティングセンターに行くなど、分け隔てなく仲の良い関係性が築かれている。

将来的には経営幹部も

質問:
今後の採用方針は。
答え:
今後の目標としては、2030年までに51%の社員を外国籍にすることだ。また、海外での法人設立も視野に入れており、その際には現地法人代表を外国人材に担ってもらいたいと考えている。そのため、エンジニアとして技術を磨くだけでなく、マネジメント人材の育成にも積極的に取り組んでいきたい。また、中小企業はまだまだ男性社会で女性社員が働きにくい環境にあることから、国籍や性別を問わず、広く多様なバックグラウンドを持った人材に門戸を開いていきたい。
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
深津 佑野(ふかつ ゆうの)
2022年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て、2023年8月から現職。