高度外国人材と創出する日本企業のイノベーティブな未来技術競争下で、社員の意識改革に貢献
インド高度人材の活躍事例(2)

2024年3月27日

半導体の検査装置設計・製造を行う阪和電子工業(本社:和歌山県和歌山市)では、現在1人のインド人エンジニアが活躍している。高度外国人材が同社にもたらした影響について、代表取締役会長の長谷部巧氏、代表取締役社長の澤田真典氏、総合管理部長の西出陽一氏、開発部第二電気開発課のカンダサミー・バラトゥ氏に聞いた(取材日:2024年2月16日)。


右から長谷部会長、バラトゥ氏、澤田社長、西出部長(阪和電子工業提供)
質問:
阪和電子工業の事業内容は。
答え:
半導体の検査装置の設計・製造を行っている。ESD(静電破壊)試験用装置といえば、ご理解いただけるだろうか。製品の約7割は輸出向けであり、東アジアを中心に台湾、中国、シンガポール、インド、米国、欧州などが主な輸出先だ。現状、市場規模では中国が最大だが、今後、インドのシェア拡大がさらに進むと予想している。
質問:
従業員の構成は。
答え:
現在53人の従業員がいるが、その約半分が開発に従事するエンジニアだ。現在、雇用している高度外国人材はバラトゥ1人で、電気回路設計を担当。2021年4月に入社し今年で3年を迎える。以前には、中国出身のエンジニアを雇用していたことがある。その中国人エンジニアは独立し、日本で商社を立ち上げて当社製品の中国輸出を手助けしており、退職後も良好な関係を築けている。
質問:
バラトゥ氏の採用のきっかけは。
答え:
人材不足に直面していたというわけではなく、和歌山県の経営者協会から紹介されたことがきっかけ。技術を有していれば、国籍を問わず採用したいと考えていたため、新卒枠で採用に至った。そのため、通常より給与を高く設定するなどといった、給与・待遇面で特例対応はしていない。また彼は、単身で日本へ勉強しに来ていたため、向上心がある人材であることは間違いなく、当社で活躍してもらえるだろうと思っていた。

社内で広がる「教え合い」の風土

質問:
高度外国人材の採用で期待していたことは。
答え:
製品の7割を輸出している企業というと、一見、海外とのつながりが多いように聞こえるかもしれない。しかし、実際に海外とやり取りするのは社内の一部の人であるため、全社員に対して、「世界と働く」というイメージを持ってほしかった。その文脈で、高度外国人材を登用することで、社内に良い刺激となると考えている。
質問:
バラトゥ氏の入社後に社内でどのような変化があったか。
答え:
入社後は、社内で「教え合う」という風土がより一層加速したように思う。彼自身が、「分からないことがあればすぐに質問する」という姿勢を常に持ち続けていることにも起因しているかもしれないが、素直で真面目に業務に向き合う姿が、他の社員の業務態度にも伝播(でんぱ)していると実感している。技術革新の競争が激化する中、社員にこういった姿勢が波及していることは大変良かった。
質問:
バラトゥ氏が入社を希望した背景は。
答え:
大学在学時から、漠然と海外で働きたいと考えていた。当初は使用言語で英語を想定していたため、就職先として日本は視野に入れていなかったが、10年以上、日本で働く叔父に勧められて来日した。日本での就職の決め手は、日本製品の品質の高さやその背景にある技術力。特に、当社は日本のESDメーカーの中でトップレベルであり、世界と闘う技術力を養うためには、最適な環境であると思ったため、入社を希望した。

日本人エンジニアと肩を並べて、技術力を磨く社内研修の様子(阪和電子工業提供)
質問:
入社後、大変だったことは何か。
答え:
日本語で専門用語を理解することが特に難しかった。2019年5月に大学を卒業後、約1年半、和歌山県内の語学学校に通ったが、学校で習う日本語と実際の職場で使用する日本語が異なることが度々あった。しかし、慣れるまで会社側が十分な時間的猶予を与えてくれたため、着実に理解を深めていくことができた。また分からないことがあった際に、すぐに質問すべきか、自分自身である程度調べてから質問すべきか迷うことも多かったが、全社的に質問しやすい雰囲気があったため、何度か繰り返すうちに要領を得ることができた。最近では、ホワイトボードで図示しながら説明するなど、コミュニケーション方法を工夫することで、業務のさらなる円滑化を図っている。
質問:
仕事でやりがいを感じるポイントは?
答え:
クライアントの要望に合わせて設計した機器が、想定通りに作動したときにとてもやりがいを感じる。また2年前に、出身地に近いタミル・ナドゥ州で当社展示会へ出展した際に、母語であるタミル語で来場者への説明も行い、直接クライアントと話したことは自信につながった。現在、日本のクライアントとは上司を介してやり取りしているが、今後、直接やりとりする機会も増やしていきたい。

アピールポイントは技術力と人とのつながり

質問:
インド国内での日本企業に対するイメージは。
答え:
日本企業へのイメージは総じて良い。他方、エンジニアに関しては、インド国内での就職希望者が多く、海外での就職を希望する場合は、英語圏など言語の壁が低い国・地域を選ぶ傾向にある。特に米国に関しては、ドル建てで給与が支給されることから、為替の影響で給与水準が高く、就職先候補として人気。他方で、そのような中でも、日本の技術力に対する信頼は厚く、「日本製=良質」というイメージは強いため、技術力を高めたいと願うエンジニアにとっては良い環境だと思う。
質問:
日本企業はインド人エンジニアを採用するにあたり、どのようなアプローチを取ればよいか。
答え:
インドでは、どこに就職しても、会社との(プライベート面の)接点は薄い。しかし、日本では同僚や上司とウェットな関係性が築ける点がとてもいいと思う。入社以降、病気になったときや困ったことがあったときは上司がすぐに相談に乗ってくれ、身の回りの生活で困ったことがあれば手助けしてくれたため、とても心強かった。また食事なども誘ってくれるので、ホームシックになる瞬間も少ない。会社で強固な人間関係を築けることは大変魅力的で、会社への帰属意識も高まった。現在では、できるだけ長く当社キャリアを築いていきたいと考えている。

同社は、2024年度から、さらに中国人エンジニアを1人採用する予定としている。今後も外国籍のいかんにかかわらず、技術やモノづくりに関心がある人材に対して積極的に門戸を開いていきたい考えだ。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
深津 佑野(ふかつ ゆうの)
2022年、ジェトロ入構。海外調査部海外調査企画課を経て、2023年8月から現職。