勢い増すアジアのスタートアップ・エコシステム最前線スマート製造業・スタートアップ拠点として飛躍、深セン(中国)

2024年3月28日

ハードウェアのシリコンバレー(The Silicon Valley of Hardware)とも呼ばれてきた中国・深セン。北京市、上海市と並び、中国の3大スタートアップ・エコシステムの一角をなしている。世界最大級のエレクトロニクスの集積地として広範なサプライチェーン、マーケットへのアクセスの良さ、ハイレベル人材の厚み、活発なベンチャーキャピタル(VC)投資によって、国内外のスタートアップを引きつけてきた。最近では、人工知能(AI)を活用したスマート・ハードウェアの研究開発が進み、エコシステムはさらに進化を続けている。

本稿では、深セン市のスタートアップ・エコシステムをとりまく行政支援の現状を概観するとともに、海外のスタートアップとの連携で先行する同市のハードウェア系アクセラレーターのiMakerbase(大公坊創客基地)および概念実証(PoC)やパイロットプロジェクトを手掛ける深圳清華大学研究院(RITS: Research Institute of Tsinghua University in Shenzhen)の取り組みについて、関係者へのインタビューをもとに紹介する(インタビュー実施日:2024年1月16日)。

ハードウェアのスマート化が加速

香港の対岸に位置する深セン市は、改革開放以降の40年余り、小さな漁村から国際都市へと急成長を遂げてきた。中国の他の政治・経済の中心地「一線都市」(北京市、上海市、広州市)と比べると、比較的新しい都市だ。ハードウェアのシリコンバレーとも称され、世界最大級のエレクトロニクスの集積地として、スタートアップのアイデア・技術の商用化に必要な製造業のサプライチェーンが形成されている。

深セン市で有名な起業事例としては、第1世代(1980年代)である通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、第2世代(1990年代)のデジタル大手のテンセント、自動車の比亜迪(BYD)、続く第3世代(2000年代以降)として、ドローン大手の大彊創新科技(DJI)が有名だ。CBインサイツによると、中国のユニコーン数(2023年10月時点)は172社で、地域別では、多い順に北京市(63社)、上海市(41社)、深セン市(19社)の3都市にユニコーンの7割が集中している。深セン市のユニコーン企業は、業種別に分けると工業が8社でもっとも多く、ついで消費材・小売り(5社)が続いた。工業系としてはDJIのほか、ECOFLOW(ポータブル電源)などが含まれる。深セン市のエコシステムは「ソフトウェア×ハードウェア」を組み合わせたものづくりを強みとしており、近年は中でもAIを備えた、国内外のスマート・ハードウェア系スタートアップが多い。

中国の民間シンクタンク・投中研究院によると、2023年の中国のVC・PE(プライベート・エクイティ)投資件数は、前年比12%減の8,534件(1,675億ドル)であった。2021年の1万1,561件をピークに、2年連続で減少した。このうち、省・市別の内訳では、深セン市を含む広東省のVC投資案件が1,380件でもっとも多く、江蘇省(1,324件)、北京市(1,059件)、上海市(1,027件)が続いた(注1)。

中国のスタートアップ・エコシステム関係者へのヒアリングに基づく、深セン市のエコシステムの強みは、主に次に集約できる。

(1)
製造業のクラスター、裾野産業が発展している。ファーウェイやテンセントなどの大企業が多く、テクノロジーの応用シーンが豊富であり、大企業からスタートアップへの投資も活発に行われている。
(2)
ベイエリアに位置し、物流や貿易手続きの面で利便性が高い。世界のマーケットにアクセスしやすい。
(3)
エンジニア・ハイレベル人材の層が厚い。エンジニアの人数を見ても、深セン市で専門知識・技術を有する技能人材(熟練工)は400万人超、高度技能人材が147万人に上る(2022年末時点、注2)。市民(常住人口)の平均年齢は、32.5歳(2020年時点)と中国全国の労働人口の平均年齢である38.8歳(2019年時点)を大きく下回り、若者が多く集まっている(注3)。
(4)
中国の3大VC市場の1つとして、2,000社以上のVC・PEが深セン市で活動しており(注4)、金融市場で資金を調達しやすい。
(5)
経済特区としての歴史や香港への近接性から、国際的なビジネス環境が整備されている。また、移民の街として発展した歴史から、「深センに来たら、もう深セン人」をキャッチフレーズとするオープンなビジネス文化が特徴である。地元出身者であるか否かに関係なく、外地から深センに来た企業や個人も、誰もが挑戦できる環境を有する。

世界最大級の電子部品マーケット、深セン市・華強北(ジェトロ撮影)

また、深センの科学技術のイノベーションについては、研究開発(R&D)における民間企業のプレゼンスが大きい。この点が他の都市と異なる。深セン市の(1)研究開発機関、(2)研究開発人材、(3)研究開発資金、(4)職業発明による特許、(5)重大科学技術プロジェクトの発明特許について、全体の90%以上が企業によるものである。 さらに、深セン市の(6)研究開発投資に占める企業の割合は94.9%に達している(注5)。

ハイレベル人材誘致、産業補助金により、イノベーションを下支え

研究開発は民間主導で行われているものの、中央政府・地方政府による優遇税制、産業補助金、資金調達支援といった行政支援が企業活動を下支えしている。深セン市政府は不必要に企業活動に干渉しないという姿勢を保ちつつも、企業の声をよく聞き、支援を具体化する実行力を有しており、企業関係者からも支持されている。

2006年に設立され、その後上場を果たした深セン市のある精密機器メーカーに話を聞いたところ、次のとおり、創業初期、スケールアップ、上場後の3段階において、行政支援に助けられたという。

「創業当初は、政府からはハイレベル人材採用時の補助金支給、プロジェクトへのR&D資金の助成を受けた。スケールアップ段階では、政府調達に採用されたことで受注を確保することができた。また、展示会出展時にも出展支援を受け、自社製品の販路開拓につなげることができた。2016年に黒字化するまで、政府からの補助がなければ、当社は資金繰りに困り、製品開発を続けられなかっただろう。上場後も、研究開発費にかかる企業所得税の税額控除や深セン市の戦略的産業「20+8」に対する支援策など、各種の恩恵を受けている。」(2024年1月17日筆者取材に基づく)

深セン市のスタートアップに対する行政支援のうち、特筆すべきは、海外からハイレベル人材の誘致を行う「孔雀計画」である。2011年に計画をスタートし、海外の名門大学卒業者など、条件を満たしたハイレベル人材を対象に、深セン市に移り住んで就労する場合に、奨励金として160万元、200万元、300万元、600万元のいずれかを、5年間に分割して支給している。特に優秀な人材には雇用者が雇用一時金を申請できるほか、さまざまなインセンティブを提供し、ハイレベル人材の招致につなげてきた(注6)。そうした人材がエコシステムの随所で活躍していることが、スタートアップの発展を支える強固な基盤となっている。

スタートアップに対する行政支援は、中央政府による国レベルの政策が土台にあり、その上に地方レベルの独自の支援策が設けられる、2層式となっている。実際には国の支援スキーム・資金をもとに、各地方政府が定めたルールにより運用される部分や地方独自の支援が付加される部分があり、明確な線引きが難しいところもある。

中央政府の支援策には、主に(1)ハイテク企業に対する企業所得税の軽減(25%から15%に引き下げ、科学技術部が所管)、(2)研究開発費用の加算控除範囲拡大を通じた企業所得税軽減、などの税制面でのインセンティブのほか、(3)専門性が高く、優れた中小企業を指す「専精特新(小さな巨人)」企業に対する助成金(工業情報化部が所管)、(4)資金調達(融資)を奨励するための助成、が挙げられる。

前述(3)の「専精特新」は、国レベルの「専精特新(小さな巨人)」企業(以下、小さな巨人企業)と省レベルの「専精特新」中小企業の2つに分類される。小さな巨人企業に認定されるためには、省級「専精特新」中小企業の認定を受けた後、申請を行い、省および工業情報化部による2段階の審査を通過する必要がある。2023年までに中国全体で1万2,950社の小さな巨人企業が認定された。省・直轄市別の内訳では、深セン市を含む広東省が1,539社で全国トップとなり、江蘇省(1,509社)、浙江省(1,462社)、山東省(1,071社)が続いた(注7)。2023年の深セン市における小さな巨人企業は新たに309社増加し、累計742社となった。深セン市における上記(1)の制度の利用企業数を見ると、ハイテク企業は2万4,000社を突破した。

2023年6月に深セン市工業情報化局から公表された「専精特新」制度の手順書によれば、小さな巨人企業に最高50万元の奨励金を支給し、深セン市の「専精特新」中小企業に最高10万元の奨励金を支給する。また、新規上場を支援するため、新規株式公開(IPO)を目的として持ち株制度改革を完了させた企業に対して最高50万元の奨励金を支給するとしている(注8)。

深セン市発展改革委員会は、2022年6月に、次の「20+8」の戦略的新興産業クラスターおよび未来産業に関する育成計画を発表した(表参照)。これらの20+8の産業振興に向けて、深セン市政府は、対象業種に関連した新しい技術・製品の応用促進、登記・認可・認証支援など、具体的な奨励策を打ち出し、実施してきた。2023年に深セン市における戦略的新興産業の付加価値は、前年比8.8%増の1兆4,500億元に達し、同市の域内総生産の4割を占めている(注9)。2024年3月には、これらの産業の「質の高い発展」をさらに加速するための「戦略的新興産業クラスターおよび未来産業の質の高い発展をさらに促進するための新質生産性開発加速実施計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(中国語)」が深セン市から発表されている(注10)。

表:深セン市「20+8」の戦略的新興産業クラスターおよび未来産業

20の戦略的新興産業クラスター
項目 内容
新世代電子情報 ネットワーク通信、半導体・集積回路、超高精度ディスプレイ、スマートデバイス、スマートセンサー
デジタルとファッション ソフトウェア・情報サービス、人口知能(AI)、デジタルクリエイティブ、現代ファッション
ハイエンド設備 ハイエンド産業設備・計測器、ドローン・航空宇宙、スマートロボット
グリーン・低炭素 新エネルギー、安全・省エネ環境保護、スマートコネクテッドカー
新材料 高機能素材
バイオ医薬とヘルスケア バイオ医薬、ハイエンド医療機器、ヘルスケア
海洋 海洋経済
8の未来産業
項目 内容
5~10年以内に産業規模を倍増 合成生物、通信光コンピューティング、AIロボット、細胞・遺伝子
10~15年以内に中核産業に発展 脳科学・脳コンピューター工学、極地深海、量子コンピューティング、最先端素材

出所:深セン市工業情報化局の発表を基に作成

深セン市政府系ファンドが投資を振興

深セン市のVC市場では、以前は海外資本が多かったが、最近は減少傾向にある。代わりに増えているのが、地方政府からの出資である。深セン市は、市政府の出資により1999年、政府系VCの深セン創新投資集団外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(SCGC)を設立した。SCGCは2024年2月末までの累計で、1,799件のプロジェクトに1,078億元を投資し、投資先の264社が上場を果たしている。さらに、深セン市政府は他都市に先駆けて、エンジェル投資向けのマザーファンド、深セン天使母基金(Shenzhen Angel FOF)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(中国語)を2018年に設立。以降、総額100億元を出資し、新興企業の資金調達を支援している。江蘇省蘇州市、常州市、天津市など他の都市でも深セン市のマザーファンドを参考に、同様のエンジェル・ファンド・オブ・ファンズを設立した(注11)。

また、深セン市は「20+8」産業に特化したマザーファンドを2023年に立ち上げ、関連企業の資金調達面においても支援を行っている。マザーファンドは、深セン市引導基金会社が運用し、新エネルギー、バイオ医薬、AIセンサー、合成バイオなど、各産業別の子ファンドがそれぞれ15億~50億元規模で造成された(注12)。

ここまで見てきた通り、国レベルの行政支援に加えて、各省、各市、各区などのレベルで支援策があり、企業はそれぞれ利用可能な支援策を並行して活用している。深セン市南山区では、科学技術系スタートアップに対し、各種審査の早期化などの便宜が図られている。一定の条件を満たした場合に、生産ラインの設置補助などを出す都市も多い。前述の精密機器メーカーでは、広東省の対象プロジェクトに認定された後、深セン市からも一部補助を受け、所在する南山区からも追加で一部補助を得られるケースも多いという。

南山区を例に挙げると、同区が独自の産業振興策を実施すると同時に、同区のさらに下の階層の行政単位として「街道」があり、南山区桃源街道が運営する西麗湖人材サービスセンターで、ハイレベル人材の受け入れ、インキュベーション施設の提供、および産学連携に向けたコミュニティ形成などのサポートを行っている。中央政府から末端の街道まで、各行政機関が総動員される形で、創業・イノベーション支援の網の目がくまなく張り巡らされている。


南山区桃源街道が運営する西麗湖人材サービスセンター(ジェトロ撮影)

ハードウェアの試作品開発をサポートするiMakerbase

深セン市科学技術創新局ウェブサイト(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、深セン市内のインキュベーター 169カ所と創業スペース 327カ所の各リストが公開されている。本稿では、日本企業を含む海外スタートアップの支援に積極的に取り組む2つの施設、ハードウェア系アクセラレーターのiMakerbase外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(大公坊創客基地)および概念実証(PoC)やパイロットプロジェクトを手掛ける深圳清華大学研究院(RITS: Research Institute of Tsinghua University in Shenzhen)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを取り上げる。

iMakerbaseは、2013年に深セン市に設立された、ハードウェア系スタートアップを支援するアクセラレーターだ。深セン市政府によって「深セン10大グローバルイノベーションセンター」および「深セン市イノベーション創業モデル基地」に認定されている。主に海外企業向けに、入居オフィス、R&Dシステム、サプライチェーンという3つのプラットホームを提供している。iMakerbase のデザイナーとエンジニアが、サプライチェーンを活用しながら、スタートアップ企業が量産前に試作品(プロットタイプ)を作る支援サービスを提供する。これまで支援した案件の中には、英国McLEAR外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの非接触型決済用スマートリングや韓国のスマート枕Ahnonも含まれ、海外スタートアップによる商品化の一翼を担ってきた。

同社最高経営責任者(CEO)の丁春発氏は、深センメイカー・サプライチェーン協会を設立し、50社強の中核企業をはじめ、3Dプリンター、射出成形、組み立てなどハードウェアの試作品製造に関わる500社に及ぶ企業のコミュニティを運営。ハードウェア製作の担い手と幅広いネットワークを形成し、スタートアップのものづくりを支えてきた。同社は、韓国とイタリアに事業拠点を有するほか、カナダ、米国、日本、マレーシア、シンガポールなどに連絡拠点を設置した。海外のスタートアップには無料で入居スペースを提供し、支援するスタートアップの数は毎年35~40社に上る。2024年1月時点では、イタリア、英国、日本、韓国などのスタートアップが入居している。中でも、韓国系スタートアップが積極的に利用しているという。ソウル特別市、浦項(ポハン)市などの自治体が費用を補助する枠組みを用いて、韓国系スタートアップが深センでの試作品生産を行うケースが増えている。

iMakerbase は2022年以降、深セン企業の海外進出も重点事業として取り組みを始めている。日本や韓国、欧州、米国などの海外市場開拓の支援を行っており、特に日本のエコシステムに進出を希望する深センのスタートアップ企業が多いという。


サプライチェーンを強みに、試作品開発をサポートする
iMakerbase、CEOの丁春発氏(ジェトロ撮影)

先端技術のPoCやパイロット試験を行う深圳清華大学研究院(RITS)

RITSは、名門大学の清華大学と深セン市政府が1996年に共同で設立した科学技術研究機関である。清華大学における科学技術成果の商用化を図ると同時に、ハイテク技術の産業化や科学技術のイノベーションを牽引することにより、広東省地域の経済・社会発展を促すことを目的としている。RITSの主な機能は、技術の概念実証(PoC)、パイロットプロジェクトに対するエンジニアリング、人材サポート、ファイナンス、インキュベーションサービスである。設立以来、計3,000社以上のベンチャー企業のインキュベーションを行い、31社の上場企業の育成に携わってきた。投資した企業は累計で500~600社に及ぶ。

深セン市の戦略的新興産業クラスターおよび未来産業において、PoCを行うラボを140以上有している。主な分野としては、次世代情報技術、バイオ・ヘルスケア、新材料、安全・環境保護、エネルギー新技術・ダブルカーボンなどがある。国内外の大手企業との共同研究も積極的に進めている。ドイツのシーメンス・エナジーとの間ではエネルギー・デジタル化や水素エネルギーの応用などの分野で、また日本のダイキン工業との間では空気質や省エネ、エネルギー分野で、それぞれ共同研究センターを設けている。また、地場系コングロマリットの華潤集団とは戦略的協力関係にあり、同集団傘下の華潤科学と2019年に化学系材料のラボを設置したほか、最近では2023年11月に傘下デベロッパーの華潤隆地とスマートシティや新エネルギーに関する共同研究をキックオフした。

PoCに続くステップである、パイロットプロジェクトにも力を入れており、分子化学を用いた創薬や集積回路、スマートセンシング、カーボンニュートラルなどの分野でプラットホームを設けている。また、人材面の支援としては、外国人材や高度人材、革新的な起業家の誘致・育成に取り組み、これまで120人あまりの博士号取得者の起業や就業を支援した。さらに資金面では科学技術成果の実用化および創業インキュベーションの成功率をベンチマークとするファンドを多数運営しており、PoCやパイロットプロジェクトに投資するほか、RITSが設立母体の1つとなった、科学技術イノベーションサービスの深セン力合科創(Leaguer)(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにも出資している。

深セン市以外には、珠海、仏山、恵州など広東省内の複数都市にインキュベーション施設を置き、珠江デルタ地域全体で数万社の企業に支援を提供している。海外には、米国、英国、ドイツ、イスラエル、日本など8カ所に事業拠点を有する。直近では2023年にサウジアラビア(ジッダとリヤド)に設立した。


ベンチャー企業3,000社超を支援してきたRITS、
日本企業支援を担当する王羽項目総監(ジェトロ撮影)

iMakerbaseでは、深セン市ならではの製造業の強みを生かして、国内外スタートアップの試作品開発・販路開拓につなげている。RITSでは、先端産業に関連したPoC、パイロットプロジェクト支援などにより、現在の上場企業を含む多くのスタートアップの育成に携わってきた。両機関が海外事業の強化を進めているが、深セン市でも、中国全体のトレンドと同じく、中小企業の「出海」(海外進出)が重要テーマとなっている。2023年11月17日、深セン市政府は「専精特新企業海外進出サービス基地」を設置し、海外進出を目指す専精特新企業に対する知的財産権、税関手続き、技術、金融などのワンストップ窓口を設置した(注12)。従来、イノベーション・海外進出の中核を担ってきた大手企業だけでなく、高い技術を持つ中小企業の発掘、育成策を重点的に強化し、海外販路開拓へと着実に結びつけていく政府・支援機関の取り組みが一層拡充されている。


注1:
投中研究院「2023年中国ベンチャーキャピタル・プライベートエクイティ市場統計分析報告」(2024年1月)。
注2:
人民ネット(2023年5月9日付)。
注3:
深セン市衛生健康委員会ウェブサイトおよび中央財経大学「中国人力資本報告2021」。
注4:
深セン市プライベート・エクイティ・ファンド産業協会「深セン市プライベート・エクイティ・ベンチャー・キャピタル・ファンド産業2022年発展報告」。
注5:
新華社(2006年3月19日付)および人民ネット深セン特区報(2024年2月18日付)による。
注6:
深セン市人力資源と社会保障局「深セン市ハイレベル人材奨励金交付のさらなる改善に関する事項についての通知」(2022年3月21日)。
注7:
広州嘉権専利商標事務所「中国・専精特新政策」資料に基づく。なお、中国工業情報化部の「『第14次五カ年計画』中小企業発展促進計画に関する通知」によると、2021~2025年の間に、10万社の「専精特新」中小企業、1万社の専精特新「小さな巨人」企業の形成を推進するとしている。
注8:
「深セン市国民経済・社会発展第14次5カ年計画と2035年長期目標綱要」および「深セン市工業情報化局 民間中小企業発展プロジェクト支援スキーム運営手順書」(2023年6月25日)。
注9:
深セン市発展改革委員会「2023年深セン市国民経済と社会発展計画実行状況および2024年計画草案」。
注10:
深セン市政府「戦略的新興産業クラスターと未来産業の高品質発展をさらに促進するための新質生産性発展加速実施計画」。
注11:
深セン天使基金ウェブサイトおよび証券時報ネット(2023年5月26日付)。
注12:
深セン市中小企業サービス局発表(2023年11月20日)に基づく。
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
森 詩織(もり しおり)
2006年、ジェトロ入構。ジェトロ広島、ジェトロ・大連事務所、海外調査部中国北アジア課などを経て現職。