中国EV・車載電池企業の海外戦略ドイツでのビジネス拡大目指す中国EV・車載電池メーカー

2023年12月4日

中国の車載電池メーカーがドイツへの進出を進めている。この背景には、欧州、ドイツで今後、次世代自動車市場がさらに拡大し、車載電池需要も高まるとみられていることがある。中国の電気自動車(EV)メーカーが欧州、ドイツでの販売拡大を目指す動きもある。シェアはまだ低いものの、ドイツ側には、米国テスラが急速にシェアを拡大させたことと同じことが起きかねないとの警戒感がある。

中国の対欧州直接投資は、一時の企業買収(M&A)中心から、グリーンフィールド投資が中心となっている。ドイツの対内直接投資(ストック)でみると、中国のシェアは全体の1%台にとどまる。ドイツは外国企業による企業買収・資本参加について、対外経済法などに基づいて審査する。中国企業による買収・資本参加についても、他国からと同じ審査を行うものの、特に中国企業による買収案件については政治問題化することがある。中国EV・車載電池メーカーのドイツにおける最新動向と、中国の対ドイツ投資の動きを報告する。

中国蓄電池メーカーの工場新設続く

ドイツでは、中国の車載用蓄電池メーカーの工場新設が相次いでいる。リチウムイオン電池大手の寧徳時代新能源科技(CATL)は、ドイツ中部チューリンゲン州エアフルト近郊に工場を新設した(2022年4月19日付ビジネス短信参照)。投資総額は18億ユーロで、最大2,000人を雇用する。2021年第3四半期(7~9月)に車載電池モジュールの生産を開始、2022年12月にはリチウムイオン電池の大量生産を開始した。生産規模は当初は8 ギガワット時(GWh)で、将来的には14GWhまで拡大する。

蜂巣能源科技(SVOLT)も、ドイツ国内に複数の車載電池工場を建設する。1つは、フランス国境沿いにあるザールラント州ユーバーヘルンに建設(2021年11月4日付ビジネス短信参照)。需要に応じて生産能力を徐々に増やし、2023年までに最大24GWhのセルを生産する。同社は同州ホイスバイラーには車載電池モジュール工場も新設する。工場は既存の建屋を一部活用して建設、従業員は約150人を見込む。同社は2022年9月、ドイツ東部のブランデンブルク州ラウフハマーにも車載電池セル工場を建設すると発表した。2025年初めから生産予定で、生産規模は16GWhを見込む。なお、SVOLTは長城汽車(Great Wall Motor)から分社化した企業で、車載用リチウムイオン電池や蓄電池システムなどを手掛ける。

中国のリチウムイオン電池製造大手の国軒高科(Gotion High-Tech)は2022年6月、ドイツ中部のニーダーザクセン州ゲッティンゲンに生産拠点を設立するための開所式を行った(2022年7月7日付ビジネス短信参照)。新拠点は2021年に買収したボッシュの工場で、国軒高科にとって欧州初の生産拠点となる。敷地面積は約17万4,000平方メートル。2023年9月に初の現地生産バッテリー製品が正式に発表された。同工場のバッテリーパック製品には、車載用、エネルギー貯蔵システム用などがある。2025年には完全稼働する見通しで、最大20GWhの生産が可能となる。同社には、2020年にフォルクスワーゲン(VW)が11億ユーロで同社の株式の26%を取得、筆頭株主になった。

欧州で今後拡大する車載電池需要を見込む

中国の車載電池メーカーがドイツに工場を新設する背景には、欧州とドイツで今後、次世代自動車市場がさらに拡大、それに搭載する蓄電池への需要が高まるとみられていることがある。

EUでは2023年5月、2035年に域内での内燃機関搭載車の販売を実質禁止する乗用車・小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正(2023年3月30日付ビジネス短信参照)が発効した。合成燃料(Eフューエル)など炭素中立な燃料のみで走行する車両の扱いが一部留保されたものの、EUで販売される乗用車・小型商用車の電動化がさらに進むことになった。

また、ドイツのオラフ・ショルツ政権は、2030年にドイツ国内で車両登録されたバッテリー式電気自動車(BEV)を少なくとも1,500万台にするとの目標を掲げる。ドイツは欧州最大の次世代自動車市場でもある。2022年の欧州(注1)の次世代自動車(燃料電池車を含む)市場は252万4,872台で、うちドイツは33.0%を占めた。ドイツの2022年の国内新車販売台数に占めるBEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の割合は31.4%で、次世代自動車が新車の約3分の1だった。ただし、2023年7月1日時点で、ドイツ国内で車両登録済みのBEVは全体の2.4%の117万632台にすぎない。目標を達成するには、単純計算で今後、毎年170万台以上のBEVの新規登録が必要となる。これには新車販売の6割以上をBEVにする必要がある。

次世代自動車市場の拡大とともに、車載電池の需要も拡大すると見込まれる。国際エネルギー機関(IEA)は2021年、欧州での車載電池の需要は2025年に144.6~236.2GWh、2030年に355.1~790.5GWhと予測した。2020年は52.5GWhだった。欧州での需要は全世界の約20~25%を占めるとされる。

ドイツ国内のリチウムイオン電池需要の多くは輸入で賄われているのが現状だ。ドイツ電気・電子工業連盟(ZVEI)の発表(2023年6月)によると、ドイツの2022年のリチウムイオン電池の国内生産額は前年比44%増の32億2,000万ユーロだった。輸出額は2%増の約50億ユーロ、輸入額は53%増の134億6,000万ユーロだった。リチウムイオン電池の輸入元を地域別にみると、欧州が65億ユーロ、アジアが68億ユーロで、両地域がほとんどを占めた。アジアでは中国(56億ユーロ)、韓国(8億1,000万ユーロ)、日本(1億ユーロ)からの輸入が多かった。

現時点では、リチウムイオン電池の供給は輸入に頼っているが、今後は欧州での生産にシフトしていくとみられる。フラウンホーファー研究機構システム・イノベーション研究所(ISI)の発表(2022年7月)によると、欧州での蓄電池セル生産能力(車載用・定置用などを含む)は、2030年までに1.5TWhまで拡大し、うちドイツが欧州最大の395GWhとなる可能性があるという。

ISIによると、欧州の蓄電池生産能力は2022年末までに約124GWhに拡大、2025年までに最大600GWhとなり、2030年までには最大1.5TWhになる可能性がある。また、2030年までに欧州が全世界の蓄電池生産能力の約4分の1を占めることになるという。ISIによると、これまでに40を超える蓄電池セルメーカーが欧州での蓄電池工場建設を発表している。

欧州市場攻略を目指し始めた中国のEVメーカー

中国のEVメーカーが欧州、ドイツでの販売拡大を目指す動きもある。主要メーカーのドイツを中心とした欧州でのこれまでのビジネス展開状況と今後の方向性は表1のとおり。多くのメーカーが2022年から2024年にかけて、ドイツでの本格販売を予定している。

表1:中国主要EVメーカーの欧州・ドイツでのビジネス展開
企業名 欧州・ドイツにおけるビジネス展開
Aiways
(愛馳汽車)
  • ベルリン、フランクフルト、ミュンヘンなどに拠点
  • 2019年にドイツでU5〔スポーツ用多目的車(SUV)〕を販売開始
BYD
(比亜迪)
  • 2022年秋から欧州で3モデルを販売(HAN、TANG、ATTO3)
  • 2023年秋にDOLPHIN販売。SEALも欧州で販売
Human Horizons
  • 2024年にHiPhi Xで欧州進出狙う。HiPhi Zも追って販売。
Geely
(浙江吉利控股集団)
  • 2010年に買収したボルボ、ロータスのほか、Polestar、Lynkを展開。
  • 独自のZeekrでも欧州進出目指す。
Great Wall Motor
(長城汽車)
  • ベルリンとミュンヘンにエクスペリエンスセンター
  • 北欧ではなく、最初からドイツで販売
Li Auto
(理想汽車)
  • 2024年末に欧州進出予定
NIO
  • 2022年9月からドイツでET7を販売。2023年3月からドイツでET5を販売
  • 電池交換システム、「NIOハウス」と呼ばれるショールームなどを展開
SAIC/MG
(上海汽車集団)
  • SAICがMG(英国企業)を買収
  • 2022年にドイツで1万5,000台以上販売、アウディと協業
Xpeng
(小鵬汽車)
  • 2024年に欧州進出予定
  • VWが出資、中国市場で協業

出所:各社ウェブサイトと報道などを基にジェトロ作成

中国主要メーカーの特徴の1つは価格競争力の高さだ。ドイツの自動車関連シンクタンクのCAR(Center Automotive Research)によると、中国車の欧州での販売価格は中国よりも平均約4割高いとされる(「ハンデルスブラット」紙2023年4月20日)。それでもなお、ドイツ車に比べ価格競争力は高い。例えば、BYD「DOLPHIN」の販売価格は3万~3万6,000ユーロで、競合するフォルクスワーゲン(VW)の「ID3.」の約4万ユーロよりも安価だ(「ハンデルスブラット」紙2023年4月20日)。また、「ID3.」は小型車載電池〔58キロワット時(kWh)〕と最低限のオプションで価格が4万3,000ユーロ超になるが、同程度のスペックの上海汽車集団(SAIC)の「MG4」はこれより約5,000ユーロ以上安価だという(「ハンデルスブラット」紙2023年7月19日)。

2つ目の特徴は、欧州の主要市場のドイツに参入する前に、欧州での販売テストを兼ねて、ノルウェーを攻略している点だ。例えば、BYDは2021年夏から約1年間、ノルウェーで約2,200台のスポーツ用多目的車(SUV)「TANG」を販売した。同社はこの実績を受けて、本格的に欧州での販売を決断したとされる(「ハンデルスブラット」紙2022年8月24日)。ノルウェーが選ばれた理由としては、BEVの輸入関税がゼロであること(付加価値税は25%)、BEV比率が高いこと(2022年のBEV新規登録台数は13万8,287台で、登録台数全体の79.3%)などが指摘される。

3つ目の特徴は、ドイツメーカーにはない独自のビジネスモデルを提供している企業があることだ。その1つは、NIOが提供する電池交換システムで、BEVの短所の1つとされる充電時間の長さを、電池自体を交換することで解消するものだ。同社の電池交換ステーションなら、5分以内で電池交換が可能だ。NIO は2023年8月、ドイツ国内には7カ所(ベルリン、アウクスブルク近郊、デュッセルドルフ近郊など)の電池交換ステーションを整備したことを発表。同社は2023年末までに欧州で100カ所(うちドイツ約40カ所)の電池交換ステーション設置を目指すという。このビジネスモデルが普及するかどうかは未知数だが、新しい解決策を中国メーカーが積極的に提案している点が面白い動きといえる。

ドイツでの知名度向上や販売網構築目指す

中国EVメーカーが欧州、ドイツで販売台数を拡大するには、知名度向上や販売網の構築が不可避となる。各メーカーはそれぞれの戦略に基づいて対策を進める。1つの方策は現地ディーラーとの協力だ。BYDは2022年8月、ドイツとスウェーデンでの販売について、スウェーデンのディーラーであるヘディン・モビリティー・グループ(Hedin Mobility Group)と協力することを発表した。また、長城汽車は欧州での販売について、スイスの自動車ディーラーのエミルフレイ・グルッペ(Emil Frey Gruppe)と協力する。エミルフレイはドイツ国内で年間10万台以上を販売しているという。

現地レンタカー会社と協力することで、レンタカーとして消費者に乗車してもらい、知名度向上を目指すメーカーもある。例えば、BYDは2022年、ドイツのレンタカー大手シクスト(Sixt)とEV推進の長期協力覚書を締結した(2022年10月18日付ビジネス短信参照)。連携の第一歩として、BYDは2022年10~12月にシクストに数千台のBEVを提供、欧州(ドイツ、フランス、オランダ、英国)でレンタカーとして提供する。BYDは2028年までにシクストにさらに10万台のBEVを提供する予定だ。シクストはドイツ国内で約4割のシェアを占めるレンタカーの最大手で、2021年の売上高は22億8,200万ユーロ。ドイツ以外の欧州各国でも事業を展開しており、特にフランス、スペインなどで強い。

広告戦略も兼ね、ドイツ国内にショールームを整備する企業もある。例えば、NIOは「NIO ハウス」と呼ぶショールームを首都ベルリンをはじめとして、フランクフルト、デュッセルドルフに開設した。「ハンデルスブラット」紙(2023年4月3日)によると、2023年末にはドイツ北部の大都市ハンブルクにも「NIOハウス」を開設する予定だ。

現時点のシェアは相当低いが、今後数年で転機も

ドイツ全体の乗用車市場でみると、中国EVメーカーのシェアはまだ低い。2023年1~8月の国内BEV新車登録台数は35万5,575台で、中国EVメーカーのシェアの上位は、MG(SAIC)が1万2,014台(全体に占める割合3.4%)、GEELY(ボルボBEVとポールスターの合計)1万1,196台(3.1%)、BYDが2,662台(0.7%)、NIOが805台(0.2%)などとなった。なお、2023年1~8月のドイツ国内でのBEV販売上位ブランドは表2のとおりとなっている。ドイツメーカーが強いが、米テスラは首位のVWに肉薄、現代自動車などの外国メーカーも上位を占めている。

表2:ドイツのBEV新規登録台数・上位メーカー(2023年1~8月)(単位:台、%) (―は項目なし)
メーカー・ブランド名 販売台数 シェア 前年
同期比
主なBEV販売車種
フォルクスワーゲン 52,893 14.9 92.9 ID.3、ID.4、ID.5
テスラ 47,192 13.3 90.8 Model Y、Model 3
メルセデス・ベンツ 25,272 7.1 105.7 GLA
現代自動車 21,934 6.2 21.6 KONA、IONIQ 5
BMW 20,877 5.9 47.9 iX1、4er
アウディ 20,160 5.7 28.4 Q4 e-tron
オペル 15,423 4.3 4.1 Corsa、Mokka
合計(その他を含む) 355,575 100.0 55.9

出所:連邦自動車局(KBA)と各社ウェブサイトを基にジェトロ作成

中国EVメーカー自身も、欧州やドイツでのシェアがすぐに拡大するとは考えていないようだ。NIO創業者の李斌(英名:ウィリアム・リー)氏は2023年4月に開催された第20回上海国際汽車工業展覧会(上海モーターショー)で、欧州での拡大は予定よりも時間がかかることを認めている(「ハンデルスブラット」紙2023年4月20日)。また、NIOは欧州での販売について、短期ではなく、10年単位の長期で取り組むとしている(「ハンデルスブラット」紙2023年4月3日)。2023年9月にミュンヘンで開催された国際モーターショー「IAAモビリティー2023」には、BYDをはじめとする中国企業45社が出展した。

ドイツ側には、中国EVメーカーの台頭が欧州、ドイツで起きる可能性もあると指摘する声もある。特にドイツにとって外国メーカーの米テスラの販売増をその証左とする声が多い。テスラはドイツ国内でも販売台数を急拡大させており、BEVではドイツメーカーに勝りつつある。消費者が受け入れれば、今後数年で大きな変化が起きる可能性はあり得る。乗用車比較サイト「carwow」のアンケート調査(2023年5月、1,000人以上が回答)によると、「中国メーカーのEVが選択肢となる」との回答は42%で、前回調査(2022年12月)を12ポイント上回った。大手会計事務所デロイトは2023年8月、2030年のドイツ国内市場での中国EVメーカーのシェアは、シナリオによっては8~18%まで拡大する可能性があるとの予測を発表している。

中国から欧州への直接投資、グリーンフィールド投資が急増

ドイツのメルカトル中国研究所(MERICS)と米国の調査会社ロディアム・グループの調査(2023年5月発表)によると、中国から欧州への直接投資は、一時の企業買収(M&A)中心から、グリーンフィールド投資が多くを占めるようになっているという。中国から欧州への直接投資額全体では、2016年のピーク時の474億ユーロに比べ、2022年はその16.7%の79億ユーロにまで減った。一方、グリーンフィールド投資でみると、2022年は全体の57%を占める45億ユーロで、2016年を上回った。グリーンフィールド投資は主に少数の大規模プロジェクトによるもので、自動車関連分野の車載電池工場の新設が多くを占める。

ドイツ連邦銀行の資料で中国の対ドイツ直接投資残高(ストック)をみると、2021年末では77億7,600万ユーロで、全体(6,153億4,900万ユーロ)の1.3%にすぎない。対ドイツ直接投資元としては欧州が大半を占め(66.2%)、欧州以外では米国が最大で20.5%、日本は5.8%だった。

国内企業の買収・資本参加への審査、中国の割合は約12%

ドイツでは対外経済法と対外経済法施行令に基づき、所管官庁の連邦経済・気候保護省が外国企業による国内企業の買収、または資本参加を審査することができる(注2)。審査対象は、(1)特定の産業分野、(2)その他の産業分野(産業分野の限定なし)に二分される。(1)は、在EU・欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国企業も含めて、防衛・ITセキュリティー関連企業の議決権を10%以上取得する場合、審査対象になる。一方、(2)は、在EU・EFTA加盟国以外の企業が対外経済法施行令の定める産業分野〔インフラ、半導体・人工知能(AI)などの先端技術〕で一定以上(10~20%以上)の議決権を取得する場合、審査される。加えて、産業分野を限定なしに、在EU・EFTA加盟国以外の企業がドイツ国内企業に25%以上の議決権を取得する場合、審査されることがある。

2022年に対外経済法施行令に基づいて審査された件数は306件で、うち(1)は44件、(2)は262件だった。国別では、中国の件数は37件で全体の12.1%だった。最大は米国の110件、次いで英国(チャネル諸島を含む)40件、EU・EFTA加盟国22件、日本19件などと続いた。中国の過去の審査件数は、2021年37件(全体に占める割合12.1%)、2020年27件(16.9%)、2019年22件(20.8%)、2018年27件(34.6%)となっている。

中国企業による買収または資本参加も、他国企業によるものと同じ基準と手続きで審査される。しかし、近年は他国案件に比べて政治問題の側面が目立っている。例えば、2022年には中国国有企業COSCOの子会社CSPLがハンブルク港のコンテナターミナル運営会社トラーオルト(CTT)に出資する案件については、審査の結果、当初の当事者間の合意の35%の出資比率を25%未満まで制限された。また、中国企業傘下のサイレックス・マイクロシステムズがドイツ半導体メーカーのエルモス(Elmos)を買収する案件は、審査の結果、不許可になった。

一方、現在のところ、外国企業によるグリーンフィールド投資に対する審査制度は設けられていない。工場新設による水源といった環境への影響などから、住民が工場新設に反発することはある。だが、グリーンフィールド投資は新しい技術をもたらし、新規雇用を生み出すなど、地元経済にプラスの影響が多いことから、歓迎されることが多い。前述のドイツでの中国企業による車載用などの蓄電池工場の新設も同様だ。

ただし、2023年8月に連邦経済・気候保護省は「投資審査法(Investitionsprüfgesetz)」を新たに制定し、外国企業による投資の審査を強化すべきと提案した(「ハンデルスブラット」紙2023年8月21日)。例えば、クラウドコンピューティング、サイバーセキュリティー、原材料、半導体などの分野での審査の強化や、審査を回避すべく、知財・特許のライセンス取得を通じて実質的に技術を得ることも排除できる仕組みを導入することを考えているという。加えて、外国企業による新設やグリーンフィールド投資についても、安全保障上特に重要な分野の投資は審査することを検討するという。特定国からの投資を対象とするものではないものの、実質的に中国など一部の国の影響を排除しようとする動きともいえ、今後、法制化が進むかに注目が集まる。


注1:
EU27カ国と、EFTA加盟国(スイス、ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)、英国。
注2:
ドイツの外資政策や外資企業によるドイツ企業への出資・買収規制についての詳細は、ジェトロのウェブサイト「外資に関する規制(ドイツ)」を参照。
執筆者紹介
ジェトロ海外展開支援部主幹
高塚 一(たかつか はじめ)
1999年、ジェトロ入構。2009年~2012年ジェトロ・デュッセルドルフ事務所、2020年~2023年ジェトロ・ミュンヘン事務所長、2023年10月から現職。