中国EV・車載電池企業の海外戦略急拡大する中国新エネ車輸出、欧州やアジアなどでの競争激化
2023年12月4日
中国の自動車輸出台数は、2021年以降、年間で100万台程度増加するなど急速に拡大しており、2023年上半期では日本を抜き、世界1位の輸出国になった。自動車輸出の増加を牽引しているのは新エネルギー車(以下、新エネ車)であり、2023年1~8月の輸出台数に占める割合は約25%と、全体の4分の1を占めた。世界の新エネ車需要の拡大および中国国内市場の競争激化などを背景に大きく伸びているものとみられるが、今後も中国新エネ車メーカーの輸出、現地生産の動きは加速することが予想される。欧州委員会は、中国産の新エネ車について、相殺関税の賦課を視野に調査を開始することを発表しているが(2023年9月14日付ビジネス短信参照)、欧州市場に限らず、今後はアジア、中東などにおいても中国メーカーとの競争が生じると思われる。
本稿では、中国の新エネ車の輸出動向と各社の海外進出、現地生産拠点の設立の動向について分析する。
欧州、ASEAN向け新エネ車輸出が好調
中国の自動車輸出は2021年に201万5,000台、2022年には311万1,000台となり、毎年100万台以上増加している。そのうち新エネ車の輸出台数は、2022年は前年比2.2倍の67万7,000台で、全体の輸出台数の約22%を占め、自動車輸出の増加を牽引した。また、2023年1~8月の新エネ車の輸出台数は前年同期比2.1倍の72万7,000台で、自動車全体の輸出台数の約25%を占めている。既に2022年通年の輸出台数を上回る大幅増となっている。2023年1~8月の新エネ車輸出台数のうち、バッテリー式電気自動車(以下BEV)は前年同期比約20%増の66万5,000台、プラグインハイブリッド(以下PHEV)は73.5%増の6万2,000台となり、BEVの輸出が好調となっている(図1参照)。
欧州向けBEV輸出が増加
国別の新エネ車輸出台数について、中国税関の統計を分析したところ、2022年の輸出先は1位ベルギー、2位英国、3位タイ、4位フィリピン、5位インドの順となった。ベルギーが1位となっているが、港湾での完成車取り扱い台数が世界最大のアントワープ・ブルージュ港を擁するということが大きい。同国に輸出された後、欧州各国に再輸出されているとみられる(2023年8月3日付地域・分析レポート参照)。
2023年1~8月のBEV輸出台数ではタイ、スペイン、オーストラリア向けは既に2022年の輸出台数を超えて好調である(図2参照)。
2023年1~8月のPHEV輸出台数では、ブラジル、英国、スペイン、カナダ向けは既に2022年の輸出台数を超え好調である(図3参照)。
欧州向けの需要に対応するため、2022年9月以降、欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ国際定期貨物列車「中欧班列」での新エネ車の輸送が開始されており、海上輸送に加えて陸上輸送による輸出も加速するとみられる(2023年3月16日付地域・分析レポート参照)。
企業別ではテスラ、上海汽車乗用車、BYDが好調
2022年の新エネ車の企業別輸出台数は、テスラ、上海汽車乗用車、易捷特新能源汽車(東風eGT)、BYD、吉利汽車の順となっている。特に2023年に入り、BYD、上海汽車乗用車の輸出の伸びは著しいものとなっている(表1参照)。
順位 | 企業名 | 2022年 |
2023年 (1~8月) |
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輸出台数 | 前年比 | 輸出台数 | ||
1 | テスラ | 271,095 | 78% | 228,084 |
2 | 上海汽車乗用車 | 138,345 | 3.6倍 | 153,483 |
3 | 易捷特新能源汽車 | 63,708 | 72% | 39,983 |
4 | BYD | 55,364 | 13.9倍 | 122,728 |
5 | 吉利汽車 | 22, 201 | 20.1倍 | 10,800 |
出所:中国自動車流通協会自動車市場研究分会(乗用車市場情報聯席会)
- テスラ
2019年に設立した上海工場において、「Model3」と「Model Y」を生産し、輸出を行っている。2023年1~8月の輸出台数は約22万8,000万台となり、中国全体の輸出台数の33.5%を占める。テスラの上海ギガファクトリーは現地調達率95%以上、1次サプライヤーは約360社であるといわれており、かなり高い現地化を実現している。また上海工場は、欧州、オーストラリア向けを含めた輸出のハブとなっている。2023年4月にはカナダ向け「Model Y」の生産を開始した、とも報じられており、同社として中国からの初めて北米向けの出荷となる。 - 上海汽車乗用車
上海汽車乗用車の2022年の新エネ車輸出台数は約13万8,000台で、2023年1~8月は約15万3,000台となり、8カ月で2022年通年の実績を上回った。2007年に買収したMGブランドの販売ルートを生かし、欧州での販売が好調である。特に「MG4EV」は、英国、スペイン、イタリア、フランスなどの欧州およびオーストラリアの市場において販売台数の上位に入っている。また、今後は中東、南米を含む80カ国に展開するとの方針が示されている。 - BYD
BYDは、2023年1~8月の8カ月で2022年通年の2倍以上の輸出実績を上げている。2021年にノルウェー、ブラジルなど南米への輸出を開始し、2022年には欧州、アジアを中心に市場進出に力を入れてきたこともあり、2023年に入り急速に輸出が拡大している。現在、世界6大陸、70以上の国・地域に展開しており、日本でも発売されている「ATTO3」[中国名:「元(Yuan)PLUS」]や「唐(Tang) EV」、「漢(Han) EV」を中心に展開している。ドイツでは、2022年10月にレンタカー会社SIXTと協定を締結しレンタカーサービスを展開し始めた。2028年までに10万台の調達がある見込みである(2022年10月18日付ビジネス短信参照)。また、オーストラリアでは、ウーバーと連携して、ライドシェアやフードデリバリー用に「ATTO3」の1万台受注を目指しているとされており、他企業との連携を含め、積極的な海外展開を行っている。 - 易捷特新能源汽車(eGT)
2017年にルノー・日産アライアンスと東風汽車の新エネ車ブランドの合弁会社として設立された易捷特新能源汽車(eGT)は、2022年に約6万3,000台を輸出しており、うち、主力車種であるコンパクトSUV(スポーツ用多目的車)の「Dacia Spring」4万9,000台を欧州向けに輸出した。この2年間で10万台を売り上げたとしている。 - 吉利汽車
吉利汽車は、2010年にスウェーデンの自動車メーカーのボルボを買収し、欧州市場に進出した。吉利汽車の新エネ車ブランドの幾何(Geometory)、極氦(Zeeker)および領克汽車(Lynk&Co)の新エネ車を展開。領克汽車(Lynk&Co)は2020年に欧州戦略を発表し、スウェーデン、ベルギー、ドイツ、イタリアに展開するとともに、2022年からはスペイン、フランスにも展開を始めた、2021年にはアジア太平洋戦略を発表し、イスラエル、サウジアラビア、オマーン、ベトナム、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、カタールなどに展開するとしている。極氦(Zeeker)は、欧州市場に加え、中東に進出しており、2023年9月には、UAE、サウジアラビア、カタール、バーレーンに進出すると発表した。
各社はBEVを中心として、欧州、アジア、オセアニアの市場を中心に輸出を進めており、今後は中東、南米市場にも積極的に展開するとみられている。シンガポールの調査会社カナリスの試算では、中国は世界最大の自動車輸出国となり、2023年の輸出台数は540万台、うちBEVが220万台となるとみられている。2025年の輸出台数は790万台に達し、うちBEVの占める割合は54.9%、約430万台になると予測している。今後もBEV輸出が中国の自動車輸出の拡大を牽引することが予想される。
輸出拡大と並行し、現地生産拠点の設立が加速
近年、中国メーカーは輸出台数の拡大と並行して、現地生産拠点の設立を含めた海外戦略を打ち出している。ASEAN、中東、南米に生産拠点を設け、生産ハブとする計画を打ち出す企業が目立つ(表2参照)。
企業名 | 国名 | 動向 |
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BYD | タイ |
2022年9月、タイでEV組み立て工場を建設すると発表し、2024年までに完工、年産15万台の生産能力を見込んでいる。 タイ政府は約491億ドルの投資を承認、BYD初の中国国外での全額出資工場となるとしている。 タイの生産拠点からアジアと欧州市場向けの車両を生産するとしている。 |
ウズベキスタン |
2023年10月、BYDとウズベキスタン自動車公社(ウズアフトサノアト)の合弁会社が、年産5万台規模の生産を開始すると発表。 BYDが外国パートナーと中国国外で電気自動車を組み立てる最初のプロジェクトとされる。 |
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ブラジル | 2023年7月、ブラジルに生産拠点を建設すると発表。総投資額は約45億元(約900億円)、BEVとPHEVを年産15万台生産する計画。米州市場での展開を見据えた投資と位置付け。 | |
長城汽車 | パキスタン |
2022年9月、パキスタンのノックダウン(KD)方式の工場が正式稼働したと発表。今後はPHEVも生産するとしている。 長城汽車はパキスタンを足掛かりに南アジア市場の販売拡大を狙う。 |
ブラジル |
2021年8月、ドイツ・ダイムラーの工場を買収する形で、ブラジルに進出することを発表。2023年後半に稼働の予定。年産10万台を製造予定で、10年以内にBEV4種類、ハイブリッド車6種類を発売する計画。 今後10年間で115億元(約2,300億円)以上を投資するとしている。 |
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上海汽車乗用車 | タイ |
2023年10月、EV用バッテリー工場が稼働したと発表。2024年に本格稼働する予定。今後は5億バーツ(約21億円)を追加投資し、「ルービックキューブ」バッテリー技術を導入したCTPバッテリー(注1)を生産する計画。 上海汽車乗用車は、タイ国内および海外向け、特にASEAN各国向けの生産ハブとして確立していくとしている。 |
パキスタン |
2021年11月、上海汽車はMGブランドの投入でパキスタン市場に参入し、2021年7月にパキスタン企業JW SEZグループとの合弁で生産を開始。投資金額は13億パキスタン・ルピー (約800万ドル(当時))。今後、パキスタン生産拠点の拡大と自動車部品および関連産業の確立を計画。 2025年までに新型モデルを投入して生産能力を10万台にまで引き上げる計画。 |
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哪吒汽車(Neta) | タイ | 2023年3月、哪吒汽車(Neta)は初の海外工場となるタイ工場の定礎式を行ったと発表。同工場は右ハンドルEVの製造拠点となる。また東南アジアへの輸出も行う計画。年間生産能力は2万台。2024年1月末に生産開始を予定。 |
インドネシア | 2023年8月、哪吒汽車(Neta)は現地パートナーとしてPT Handal Indonesia Motorを選定。両社はCKD車両組み立てで提携し、生産を2023年第2四半期より開始するとの計画を発表。 |
出所:各社発表、報道資料からジェトロ作成
現時点では、各国の自動車市場における新エネ車の割合は低いものの、今後、カーボンニュートラルの推進政策などを背景として、自動車の販売台数に占める新エネ車の割合が高くなることが予測される。同時に、新興国を中心に、投資や生産拠点立地を促進する優遇政策などを打ち出し、地域における輸出ハブを目指す動きも加速するとみられている(2023年6月13日付地域・分析レポート参照)。
世界の新エネ車需要の拡大、中国国内市場の競争激化などを背景に、中国の新エネ車メーカーの輸出および生産現地化は加速し、中国市場に限らず、各国において中国メーカーとの競争が生じることが予測される。既にタイでは、自動車販売台数全体では、日系メーカーが84.9%を占め、圧倒的な地位を占めているものの、BEVに絞れば中国メーカーが79.1%を占めており、プレイヤーが大きく変化している。今後、欧州、アジア、南米などでも自動車市場が新エネ車市場にシフトすることで、タイと同様の構造変化が起き、ゲームチェンジが発生しかねない状況にあるとみられる。
- 注:
- 電池セルや冷却システムを組み込んだ車載電池パックの内部スペース効率を高める技術(Cell to Pack(CTP))を使用し、横置型の電池セルを使用したもの。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
神野 可奈子(こうの かなこ) - 2009年、経済産業省入省。エネルギー・貿易経済協力関係部署を経て2022年9月からジェトロに出向し現職。