中国EV・車載電池企業の海外戦略競争激化する世界最大の新エネ車市場、知能化・自動運転の取り組み進む

2023年12月4日

中国は世界最大の新エネルギー自動車(以下、新エネ車)市場であり、その競争環境は激化している。中国資本(以下、中資)系メーカーは新エネ車製品のラインナップを非常に速いスピードでそろえ、駆動部分だけでなく知能化(スマート化)や自動運転に関する開発を加速している。大きく変化する中国自動車市場と競争力が高まっている中資系メーカー各社の取り組み状況について報告する。

世界最大の新エネ車市場

2022年の世界における、バッテリー電気自動車(以下、BEV)とプラグインハイブリッド(以下、PHEV)を合わせた電気自動車(EV)の総販売台数は、初めて1,000万台を超え、前年比55%増の1,020万台となった。このうち、中国における販売台数は590万台(前年比80%増)となり、世界全体の60%近くを占めた。また、また保有台数をみても、中国が世界の約半数以上を占めており、世界最大の市場となっている(2023年4月28日付ビジネス短信参照)。

中国においては、BEV、PHEV、燃料電池車(以下、FCV)を「新エネ車(NEV)」と位置付けているが、新エネ車市場は2020年からの3年間で約5倍に成長し、2022年は販売台数が約688万7,000台、中国自動車販売台数の25.7%を占めた(図1参照)。2022年の新エネ車販売台数のうち、BEVは536万5,000台で新エネ車販売台数の約78%、PHEVは151万8,000台で約22%を占めており、BEVが中心となっている。

2023年に入り、新エネ車市場の拡大の流れは加速している。1~8月の新エネ車販売台数は537万4,000台となっており、自動車販売台数の29.5%を占めた。うちBEVは71.3%、PHEVは28.5%という割合となっている。引き続きBEVが大半を占めるが、2023年に入りPHEVの割合が拡大する傾向をみせている。

中国政府は2023年における新エネ車の販売目標を900万台としており、自動車販売台数の目標として掲げる約2,700万台(前年比約3%増)のうち、約33%を新エネ車が占めることになる(2023年9月8日付ビジネス短信参照)。

図1:中国自動車販売台数に占める新エネ車の割合の推移
2020年は販売台数2531万台であり、うち、新エネ車販売台数は137万台、非新エネ車は2395万台であり、販売台数に占める新エネ車の割合は5.4%。2021年は販売台数2627万台であり、うち、新エネ車販売台数は352万台、非新エネ車は2275万台であり、販売台数に占める新エネ車の割合は13.4%。2022年は販売台数2686万台であり、うち、新エネ車販売台数は689万台、非新エネ車は1997万台であり、販売台数に占める新エネ車の割合は25.7%。2023年1-8月は販売台数1821万台であり、うち、新エネ車販売台数は537万台、非新エネ車は1284万台であり、販売台数に占める新エネ車の割合は29.5%。

出所:中国自動車工業会

2020年からの3年間で、中国の自動車市場構造は大きく変化している。2020年の年間自動車販売台数は2,531万台、2022年は2,686万台で、この間の自動車市場は155万台増加した。内訳をみると、新エネ車の年間販売台数が約550万台増加した一方で、内燃機関車の販売台数は約400万台減少した。また、市場全体では外資メーカーが約5割を占めるのに対し、新エネ車市場は全体の3分の2以上を中資系メーカーが占めており、中資系メーカーの競争力が高い市場に大きく変化しつつある(2023年8月3日付地域・分析レポート参照)。

新エネ車市場における競争は激化

中国自動車流通協会自動車市場研究分会(乗用車市場情報聯席会)の分析では、2023年1~8月期において販売台数の多い新エネ車メーカーは、1位BYD、2位テスラ、3位広汽埃安(AION)、4位吉利汽車、5位長安汽車となっている(表1参照)。BYDは2022年と比較してシェア、販売台数ともに伸ばし、2023年8月までで2022年通年の販売台数に迫り、伸び率でも前年同期比83%増となっている。また、広汽埃安(AION)、長安汽車、理想汽車(Li Auto)は前年同期比がそれぞれ約2倍、約2.2倍、約2.8倍の販売台数で、好調だ。一方で、2022年の販売台数が2位だった上海汽車通用五菱は同47.8%減と大きく減少しており、拡大する中国の新エネ車市場において、各メーカーは激しい競争環境に置かれている。

表1:新エネルギー乗用車の販売台数上位10社(2022年と2023年1~8月)

2022年(通年)(△はマイナス値)
順位 企業名 販売台数
(万台)
前年比
(%)
シェア
(%)
1 BYD 180.0 208.2 31.7
2 上海汽車通用五菱 44.2 2.5 7.8
3 テスラ(中国) 44.0 37.1 7.8
4 吉利汽車 30.5 277.9 5.4
5 広汽埃安(AION) 27.4 115.6 4.8
6 奇瑞汽車 22.1 126.5 3.9
7 長安汽車 21.2 177.6 3.7
8 哪吒汽車 14.9 113.4 2.6
9 理想汽車(Li Auto) 13.3 47.2 2.3
10 長城汽車 12.4 △ 7.5 2.2
2023年(1~8月)(△はマイナス値)
順位 企業名 販売台数
(万台)
前年同期比
(%)
シェア
(%)
1 BYD 178.3 83.0 35.1
2 テスラ(中国) 62.5 56.3 12.3
3 広汽埃安(AION) 29.9 96.6 5.9
4 吉利汽車 24.6 37.4 4.9
5 長安汽車 23.6 120.9 4.6
6 理想汽車(Li Auto) 20.8 176.1 4.1
7 上海汽車乗用車 20.6 66.5 4.1
8 上海汽車通用五菱 18.0 △ 47.8 3.6
9 長城汽車 14.8 71.3 2.9
10 蔚来汽車(NIO) 9.4 31.9 1.9

出所:中国自動車流通協会自動車市場研究分会(乗用車市場情報聯席会)

中資系の新エネ車メーカー各社は、拡大する新エネ車市場の中で、投入車種を非常に速いスピードで増やしており、また価格設定や知能化など、他社との差別化に力を入れている。

BYDは、2022年3月からガソリン車の生産を停止し、BEVとPHEVの生産・販売のみにシフトした(2022年4月12日付ビジネス短信参照)。Dynasty(王朝)シリーズの秦(Qin)・宋(Song)・元(Yuan)とOcean(海洋)シリーズのDolphin(海豚)などのセダンやSUV(スポーツ用多目的車)タイプが主力製品であるが、2023年4月にコンパクトEVで低価格のSeagull(海鴎)を発表し、9月の新車販売では上位にランキングするなど好調な販売を記録している。2023年1月には、新たな高級ブランド「仰望(Yangwan)」を立ち上げ、100万元(約2,000万円、1元=約20円)を超えるスーパーカーを発表した。BYDとメルセデス・ベンツの合弁会社である騰勢(Denza)でも、複数の新モデルを発表している。BEVとPEHVそれぞれにおいて、小型車、セダン、SUV、ミニバン、スポーツカーなど非常に多くのラインナップをそろえている。また、BYDが製造する車載電池(リン酸リチウムイオン電池であるブレードバッテリー)は自社の新エネ車だけでなく、テスラやトヨタ自動車、フォードなど他の完成車メーカーにも採用されている。

広汽埃安(AION)は、広州汽車集団のBEVブランドであり、電動化とインターネットコネクティッドビークル(ICV)の開発をする子会社として2017年に設立。主力の販売車種には、SUVタイプの「AION Y」 やセダンタイプの「AION S」がある。2023年5月には、滴滴(didi)自動運転会社と提携し、無人運転が可能となるレベル4の自動運転NEVを量産する計画を発表するなど、ICVの取り組みを強化している(2023年5月18日付ビジネス短信参照)。

吉利汽車は、新エネ車ブランドの幾何(Geometry)や極氦(Zeeker)だけでなく、これまでガソリン車ブランドであった吉利(Geely)、ボルボ 、領克汽車(Lynk&Co)にも新エネ車の車種を投入している。吉利汽車は2017年に自動車向けソフトウェアおよびハードウェアを提供するEcarXを設立しているが、2020年にはBaidu(百度)からも投資を受け、開発を強化している。2022年7月にはスマートフォンメーカーの珠海市魅族科技(メイズ)の株式を取得し、車載用ソフトウェアの開発を強化している。メイズは2022年10月に車載ソフトウェア「FlymeAuto」を発表し、「Lynk&Co」などにも搭載されている。さらに、2023年2月には中国の電子商取引(EC)大手のアリババグループと自動運転車両などに関する戦略協定を締結し、自動運転可能なEVの開発で連携するとしている。

上海汽車は、自主ブラントのMG、栄威(Roewe)、新エネ車ブランドとしては、2020年に中国IT大手のアリババなどと共同で設立したスマートEVブランドの智己汽車(IM Moter)、2021年に立ち上げた飛凡汽車(Rising Auto)を持つ。飛凡汽車は2022年10月に、上海汽車で初となるバッテリー交換型の車種を販売し、バッテリー交換サービスを展開した。また、上海汽車は2021年3月に自動運転スタートアップ企業のMomentaに出資し、智己汽車ブランドにMomentaの自動運転技術を搭載している。また、アリババとともにBanmaを設立し、車載OSである「AliOS」を開発して上海汽車の自主ブランドに搭載するなど、コネクティッドカー開発に関して戦略的連携を行っている。上海汽車は2023年4月に公表した新エネ車に関する年行動計画の中で、2025年までにNEV年間販売台数を2022年比で2.5倍の350万台、うち自社ブランド比率を70%に引き上げる目標を掲げている。

理想汽車(Li Auto)は、2002年に創業した新興の新エネ車メーカーであるが、「L9」などPHEVのSUVタイプの3車種を主に販売し、SUVタイプのレンジエクステンダー式電気自動車(EV)を販売している。レンジエクステンダー式EVは内燃機関を使って発電するため、ガソリンでの走行も可能で、寒冷地やインフラが整っていない地域での利用も可能となっている。2023年4月には、10分間の充電で400キロメーターの航続距離を実現する800Vスーパー充電ソリューションを発表した。また、2025年までにフラグシップモデル1モデル、レンジエクステンダーBEV5モデル、高圧BEV 5モデルの11車種を投入する計画を発表しており、ファミリー向けラインナップを増やすとしている。

外資メーカーも中国市場向け開発を強化

中国自動車市場で急速に新エネ車が拡大していること、中資系メーカーが大きく台頭していることに伴い、外資メーカーが中資系メーカーとの連携を強化する動きもみられる。

ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)は、2023年8月に中国の新興EVメーカーの小鵬(Xpeng)に約7億ドル出資し、2026年までにVWブランドとして中国市場でBEVを販売すると発表した(2023年8月3日付ビジネス短信参照)。さらに、VWは2023年4月に安徽省合肥市にICV関連会社を設立すると発表しており、その中で、中国市場の発展の速さを意識し、自社のソフトを含む開発工程の能力向上、R&D(研究開発)システムの自主決断力の強化、決断プロセスの短縮、ローカル化の更なる推進に向けた対応であると説明している(2023年4月25日付ビジネス短信参照)。

アウディは、2023年7月に上海汽車と新エネ車の開発を加速するために提携することを発表した。

トヨタ自動車は、2019年からBYDと合弁で研究開発会社(BYD TOYOTA EV TECHNOLOGYカンパニー有限会社)を設立している。2022年10月にはトヨタ・BYD・一汽汽車との共同開発による「TOYOTA bZ3」を発売し市場投入している。さらにトヨタは、2023年8月に中国トヨタ最大のR&D拠点「トヨタ自動車研究開発センター(中国)有限会社」の社名を「トヨタ知能電動車研究開発センター(中国)有限公司(IEM by TOYOTA)」に改名するとともに、電動化・知能化技術の現地化強化に取り組むと発表している。

外資メーカーも中資系メーカーをうまく活用しつつ、大きく変化する中国市場に対応した製品の開発と現地化を強化する方針も打ち出している。

都市部ではBEV中心に拡大

中国自動車流通協会が2023年10月に公表した自動車市場調査会社WAYの分析では、2023年8月の都市別販売台数では、1位上海市(3万548台)、2位広州市(2万3,423台)、3位北京市(2万2,111台)、4位成都市(2万569台)、5位杭州市(1万9,970台)となっている。上位10都市の新エネ車販売台数は中国市場全体の約3割を占めており、上海市では新エネ車の92.4%がBEVとなるなど、都市部を中心に特にBEVの割合が高くなっている(図2参照)。今後、新エネ車の販売は都市部から地方都市にまで広がり、新エネ車市場が拡大することが予想される。

図2:都市別の新エネ車販売台数(2023年8月)
上海市30548台、広州市23423台、北京市22111台、成都市20569台、杭州市19970台、天津市17173台、鄭州市16857台、重慶市15813台、深セン市15631台、武漢市14306台。

出所:中国自動車流通協会(自動車市場調査会社WAY)

表2:都市別の新エネ車販売台数(2023年8月)
市名 新エネ車販売台数(台) BEVの割合 PHEVの割合 普及率(注)
上海市 30,548 92.4% 7.1% 46.6%
広州市 23,423 73.5% 26.5% 47.3%
北京市 22,111 81.1% 18.9% 37.8%
成都市 20,569 68.8% 31.2% 37.8%
杭州市 19,970 76.4% 23.6% 47.0%
天津市 17,173 66.7% 33.3% 47.0%
鄭州市 16,857 63.3% 36.7% 39.4%
重慶市 15,813 63.1% 36.9% 41.6%
深セン市 15,631 64.1% 35.9% 46.5%
武漢市 14,306 71.3% 28.7% 40.0%

注:新車販売台数に占める割合。
出所:中国自動車流通協会(自動車市場調査会社WAY)

新エネ車市場拡大の支援策を発表、今後は地方都市や農村部での普及がカギ

中国政府は、消費支援策として2014年以降実施している自動車購入税免税措置を継続実施するとともに(2023年6月26日付ビジネス短信参照)、2023年9月に発表した「自動車産業の着実な発展に関する作業プラン(2023~2024年)」においては、公共車両の電動化や農村部への電動車普及、バッテリー交換型車両の開発促進を図ることなどが示された。このほか、輸出促進策や中古車消費の拡大、充電インフラ設備の構築と運営の強化も実施していくことが示され、市場全体を拡大させるとの目標が示されている(2023年9月8日付ビジネス短信参照)。

政府は新エネ車消費支援策や農村部への普及促進策も打ち出しており、EV業界の独立系シンクタンク中国電気自動車百人会は、将来的に農村部の新エネ車ニーズを満たせば5,000億元(約10兆円)規模の自動車市場を動かすことになると分析しており、今後、地方都市、農村部への普及が販売台数増加の鍵となると考えられる(2023年5月23日付ビジネス短信参照)。

政府支援策の後押しもあり、中国の新エネ車の市場は今後も拡大することが予想される。また、知能化や自動運転化は今後も加速していくと予想され、各メーカーの動向も注視する必要があるだろう。中国国内の競争環境の激化や、中国企業の技術力の向上および世界における優位性が高まることに伴い、海外市場への進出も促進されており、世界の新エネ車市場における中資系メーカーの存在感は高まっていくとみられる。

執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
神野 可奈子(こうの かなこ)
2009年、経済産業省入省。エネルギー・貿易経済協力関係部署を経て2022年9月からジェトロに出向し現職。