今知るべき、アジアの脱炭素など気候変動対策ビジネス規制を商機に、CO2見える化・削減支援のアスエネ(シンガポール)

2023年11月20日

アスエネ(本社:東京都港区)は、法人向けに二酸化炭素(CO2)排出量の算出をサポートする気候テックのグローバル企業だ。東南アジア各国で脱炭素に向けた規制導入の動きが始まる中で2022年11月、シンガポールに進出した。環境分野の企業動向を伝える後編は、Asuene APAC(アスエネ・エイパック)の濱田雅章カントリーマネジャーに、東南アジアで脱炭素に向けた企業が抱える課題やビジネス機会について聞いた(取材日:2023年9月14日)。


Asuene APACの濱田雅章カントリーマネジャー(アスエネ提供)
質問:
シンガポールに進出した理由は。
答え:
日本では、約2年前から上場企業へのサステナビリティー報告書など、CO2排出量の開示義務の規制が強まった。このため、CO2可視化のニーズが(東南アジアと比べると)早めに発生し、その結果、われわれのビジネスが成長した。
シンガポールでも、各種環境規制が強まっており、2年前の日本とほぼ同じ段階にきていると判断した。また、東南アジアの他の国々も、スピード感の違いがあるものの、環境規制が強まっている。(域内で)規制整備が最も進んでいるシンガポールをハブとして、アジア太平洋地域に展開していく。
質問:
アスエネが法人を対象に提供している脱炭素に向けた支援サービスは。
答え:
3つある。1つは、CO2排出量の見える化・削減・報告クラウドサービス「アスエネ」と、サステナビリティートランスフォーメーション(SX、注)のコンサルティングだ。2つ目が、「アスエネESG」というソフトウエアで、企業間のサプライチェーンを国際規格のESGレーティングで評価するクラウドサービス。そして、3つ目は、SBIホールディングスと合弁で設立したカーボンクレジットの排出権取引所「カーボンEX(Carbon EX)」だ。
質問:
東南アジアで脱炭素に向けた取り組みを進めるに当たり、課題となることは。
答え:
まず、世界共通でいえることだが、CO2算定に係わる規制や報告のフレームワークは企業にとって複雑だ。自社で全てのCO2排出量の見える化を行うのは、かなりハードルが高いため、われわれにとってビジネスチャンスとみている。
われわれがビジネスを進める上での課題は、(東南アジアでは)国ごとに規制の内容やスピード感の違いがあることだ。あとは、国独自の規制をつくり始めているところもある。われわれとしても、国ごとの温度感と固有のルールに沿って、CO2算定と報告の支援をしなくてはいけない。
質問:
アスエネがターゲットとする法人顧客は。
答え:
アスエネの顧客は約4,000社と、日本で(競合他社と比べて)多く、ほぼ全ての産業でサービスが導入されている。日本だと製造業の企業比率が高く、CO2の意識や危機感も強い。しかし、建設・建築や、不動産、ロジスティクス分野も排出量も多く、脱炭素化に取り組む企業が増加している。そのため、業種を絞るのではなく、需要のあるところを幅広く対応していきたい。
質問:
シンガポールでの企業の脱炭素に向けた対応状況をどうみているか。
答え:
:シンガポールだと、環境規制自体が新しい課題だ。数カ月ごとに新たな規制の導入や改定があり、義務化の対象も広がっている。このため、企業は情報のキャッチアップに苦労している。
また、CO2算定に当たり、大手企業であれば、常にエクセルで管理している企業が一定数ある。ただ、専門のソフトウエアを導入して効率的にCO2を算定している企業はかなり少ない。今までエクセルを使ってきた大企業は、スコープ1~3(注2)の見える化と、開示の精度を高めるためのツールを検討しているフェーズにある。これまで取り組んでいなかった中小企業の間でも、何かサプライチェーン全体で対策しなくてはいけないという危機感がある。まさしく、転換期を迎えた状況だ。
質問:
CO2の見える化で同様のサービスを提供する企業があるが、どう差別化しているのか。
答え:
差別化のポイントは3つある。1つ目は、日本では先行的なプレーヤーとして、かなり大規模な顧客数がある。そこでの知見やベストプラクティスが積み上がっていることだ。2つ目は、スコープ3も含めたCO2排出量を見える化するソフトウエアと、脱炭素のコンサルティングをセットで提供できる企業は少ないことだ。3つ目は、脱炭素の可視化だけでなく、ESG(環境・社会・ガバナンス)の評価やカーボンクレジットまで、エンドツーエンドで環境ソリューションがそろっているのは、アスエネの強みだ。
質問:
:東南アジアやアジア太平洋地域全体での今後の展開について。
答え:
シンガポールに拠点を置いているため、まずは東南アジアの周辺国(・地域)の需要を見据えて、アプローチしたい。また、東アジア地域では、香港については上場企業のESGレポートに気候変動関連の情報開示などの規制が整備され、企業の報告意識も高い。さらに、台湾、韓国の意識も高まっている。各国(・地域)の規制にいかに対応するか、バランスを考えながら、(サービス対象を)拡大していきたい。 

注1:
サステナビリティートランスフォメーション(SX)とは、企業が持続可能性を重視した経営に転換すること。
注2:
スコープ1は自社が排出した温室効果ガス(GHG)。スコープ2は他社から供給された電気、熱・蒸気を使用したことに伴うGHGの間接排出。スコープ3は自社のサプライチェーンで取引先など他社から排出されるGHG(スコープ1~2以外)。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。