中東・アフリカのグリーンビジネスの今政府は高い再エネ目標を設定、民間では太陽光発電など推進(イラン)

2023年9月22日

イラン・エネルギー省が発表した年次統計報告書によると、2022年度(2022年3月21日~2023年3月20日)のエネルギー別発電容量は、複合火力発電が3万5,559メガワット(MW、構成比39.2%、前年度比8.0%増)で最も多く、次にガス火力発電が2万2,628MW(同24.9%、5.8%増)、石油などによる火力発電が1万5,829MW(同17.4%、増減なし)で、火力発電が8割超を占める。火力発電に次いで、水力発電が1万2,193MW(同13.4%、増減なし)となっている。

再生可能エネルギー(再エネ)は938MWで、全体の1.0%にとどまっている。ただし、エネルギー省の分類は水力発電を再生可能エネルギーに含めておらず、水力発電を合わせると14.4%となる(表1参照)。

表1:2022年度のエネルギー別発電容量(単位:MW、%)
エネルギー 2021年度
発電容量
(MW)
2022年度
発電容量
(MW)
構成比
(%)
対前年度比
(%)
火力(石油など) 15,829 15,829 17.4 0.0
火力(ガス) 21,386 22,628 24.9 5.8
複合火力 32,935 35,559 39.2 8.0
水力 12,193 12,193 13.4 0.0
原子力 1,020 1,020 1.1 0.0
分散型熱電供給 2,181 2,233 2.5 2.4
再生可能エネルギー 836 938 1.0 12.2
ディーゼル 407 407 0.4 0.0
合計 86,787 90,807 100.0 4.6

出所:イラン・エネルギー省の2022年度年次統計報告を基にジェトロ作成

同報告書によると、ピーク時の最大消費需要電力量は6万9,657MWで前年度比3.6%増だった。一方、実際に発電できる最大発電許容量については、火力・原子力が5万6,744MW(前年度比6.3%増)、水力・再生可能エネルギーが1万1,200MW(同5.0%増)で合計6万7,944MW(同6.1%増)なのに対して、実際の電力供給量は5万9,966MW(同8.5%増)と、前年度に続き、最大消費需要に追い付いていない実態が見てとれる(表2参照)。

表2:2022年度のエネルギーごとの最大発電許容量、供給量、最大消費需要

最大発電許容量 (単位:MW、%)
項目 2021年度(MW) 2022年度(MW) 対前年度比(%)
火力・原子力 53,371 56,744 6.3
水力・再生可能エネルギー 10,664 11,200 5.0
合計 64,035 67,944 6.1
供給量 (単位:MW、%)
項目 2021年度(MW) 2022年度(MW) 対前年度比(%)
供給量 55,279 59,966 8.5
最大消費需要(単位:MW、%)
項目 2021年度(MW) 2022年度(MW) 対前年度比(%)
ピーク時の最大消費需要 67,205 69,657 3.6

出所:イラン・エネルギー省の2022年度年次統計報告を基にジェトロ作成

政府の第6次経済開発5カ年計画(2017年度~2021年度)(注1)では、再生可能エネルギーと環境に優しい技術の商用化を行い、国家の電力生産能力における再生可能エネルギー割合を上げるとしていた。また、電力などの分野に外資導入を図り、具体的には、2021年度までに火力発電による発電容量を2万MW、再生可能エネルギーによる発電容量を5,000MW増やすとしていた。しかし、2021年度の再生可能エネルギー(水力を除く)の発電容量は938MWとなっていることから、第6次5カ年計画の目標は達成できなかったものと考えられる。

原稿執筆時にイラン国会で審議中の第7次経済開発5カ年計画(2024年度~2028年度)の法案でも、再生可能エネルギーの発電容量を2028年度までに2022年度実績の約10倍の1万MWに上げるとしているが(表3参照)、現在、世界的に注目を集めているグリーン・ブルー水素やアンモニアなどのエネルギーについての言及はない。

表3:第7次経済開発5カ年計画法案における最終年度(2028年度)の測定可能なエネルギーパフォーマンスの定量的目標(△はマイナス値、-は値なし)
項目 単位 計画実行最終年度(2028年度)の定量目標 2022年度実績
設置済み公称発電容量合計 MW 124,485 90,807
設置済み再生可能エネルギー発電容量 MW 10,000 938
火力発電による総発電量 100万kWh 489,295 369,759
再生可能エネルギーによる総発電量 100万kWh 17,500 2,300
発電効率 44 39
送配電ロス率 12 15
近隣諸国との電力融通 100万kWh 20,000
ピーク負荷時の最大の発電能力 MW 87,140 67,944
ピーク負荷時の最大の電力消費量 MW 85,508 59,396
ピーク負荷時の電力バランス MW 1,632 △11,000

注:原稿執筆時点で第7次経済開発5カ年計画は国会で審議中のため、最終年度の目標値は変更の可能性がある。
出所:第7次経済開発5カ年計画の法案およびイラン再生可能エネルギー協会へのヒアリングを基にジェトロ作成

このように、現状では火力発電が8割超を占め、電力不足が続く中、政府は高い再生可能エネルギーの導入目標を設定している。ジェトロは、イランにおける再生可能エネルギー分野の発展に取り組む3団体の会長らに、各団体の取り組みやイランの再エネ分野の現状や課題ついて話を聞いた。

6月28日に再生可能エネルギー製品・サービス製造および販売業者協会のハミドレザ・サレヒ会長にインタビューを行った。


再生可能エネルギー製品・サービス製造および販売業者協会のハミドレザ・サレヒ会長(本人提供)
質問:
協会について。
答え:
約5年前に、再生可能エネルギー分野の製品、サービスを提供しているイラン商工会議所のメンバー200社以上で設立した協会。我々の協会の目的は、再生可能エネルギー分野の問題点などについて情報交換などを行い、必要があれば政府に申し入れを行うことである。COP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議、2023年末)にも当協会から代表団を送り、各国の企業の取り組みについて情報収集し、ネットワーキングに参加する予定だ。
質問:
力を入れている分野は。
答え:
当協会は、気候技術センター・ネットワーク(CTCN、注2)から、新しい技術、特に太陽光発電についての技術協力を受けている。イランでは、石油・ガスの値段が安く、また電気代も安いため、こうした分野で「節約をしよう」という発想が生まれにくいことが問題と考えている。最近になってようやく、政府関係者からも「グリーン」を意識した発言が聞こえるようになった程度だ。ただ、イランには砂漠地帯も多く、日照時間も長い土地が多いことから、イランは太陽光発電に適していると考えており、特に太陽光発電に力を入れたい。
質問:
具体的な取り組みは。
答え:
太陽光発電において、特に、製鉄所の冷却水用のため池に、フローティング型の太陽光発電設備を設置したいと考えている。気温が高い夏場はため池からの水の蒸発も激しいので、フローティング型の太陽光パネルを設置し、少しでも蒸発を食い止め、同時に発電を行い、発電された電力は製鉄所で使用するという考え方だ。
質問:
イランでのビジネスチャンスは。
答え:
そもそも資源コストが安い我が国において、再生可能エネルギー分野の技術は遅れていると言ってよい。また、米国による経済制裁の影響もあり、海外の新しい技術が入って来ないため、独自に開発した技術で何とか前に進めているという状況だ。制裁が緩和されてからになると思うが、日本企業には特に、現在我々が取り組んでいる太陽光発電分野での技術協力をお願いしたい。

6月26日にグリーンマネジメント協会のモハンマドハサン・エマーミ会長にインタビューを行った。


グリーンマネジメント協会のモハンマドハサン・エマーミ会長(本人提供)
質問:
協会について。
答え:
グリーンマネジメント協会は、2008年に設立された非政府組織である。当協会はイラン商工会議所にも所属している。当協会には約3,000社以上のメンバーがいる。当協会として様々なことに取り組んでいるが、例えば、環境改善につながるような活動をしている会員に「グリーン証明書」を発行して表彰したり、環境改善型ビジネスモデルを普及するための情報発信を行ったりしている。
質問:
具体的な取り組みは。
答え:
当協会が独自にビジネスを行っているわけではないが、我々の取り組みの1つに、企業活動の消費エネルギーの分析、企業や人間(従業員など)の行動分析を通じた省エネ・アドバイスがある。日本で言えば、スマートビルディングを作るためのアドバイスをしているようなものかもしれない。1つの企業を1つのビルとすると、どのように活動するのか、それぞれの従業員の動線をどうすれば効率的なエネルギー消費につながるのかを分析し提言することにより、国全体の省エネにつなげていきたいと考えている。
質問:
日本企業との協業の可能性は。
答え:
日本は、以前から省エネ、再エネ分野に力を入れている。特に、我々はグリーンマネジメントという観点から、そうした日本の省エネ技術を学びたいと考えている。制裁緩和後になるとは思うが、例えば日本から専門家を招き、あるいは、デリゲーションを日本に送り、企業活動に伴うエネルギーコストの削減についての日本の知識・技術を学びたいと考えている。

8月8日にイラン再生可能エネルギー協会のモハンマドアミーン・ザンゲネ事務総長にインタビューを行った。


イラン再生可能エネルギー協会のモハンマドアミーン・ザンゲネ事務総長(本人提供)
質問:
協会について。
答え:
当協会には約70社の再生可能エネルギー関連企業が参加しており、政府が既存のエネルギー分野への補助金を削減する方向にある中、再生可能エネルギーに関する情報交換や投資誘致などを行っている。
質問:
イランの再生可能エネルギーの現状について。
答え:
産油・産ガス国であるイランでは、電気代とガス代はかなり安価なため、再生可能エネルギー分野のスタートアップなどは他国と比して数も少なく、レベルについても高いとはいえない。そうした中、政府や企業は、現在使われている技術や機械のリバイスを優先している。ガスや電気の無駄をなくすことが、イランの課題となっている。
一方で、同僚のトルカシュバンド氏が前回のインタビューで申し上げたとおり(2022年11月11日付地域・分析レポート参照)、政府も再生可能エネルギー発電の買い取り保証額を決めたり、次期経済開発5カ年計画で再生可能エネルギーによる発電容量目標を1万MWに設定したりする取り組みを行っている。最近では、風力によって発電された電気の買い取り価格決定のプロセスも進んでいる。
質問:
日本企業に期待することは。
答え:
現在、イランは米国の経済制裁の対象となっているため、投資や共同事業は難しいと思うが、研修や勉強会での協力にとても関心をもっている。エネルギー価格の安いイランでは、なかなか取り組みが進まず、再生可能エネルギーについての情報が少ないため、こうした点で日本企業や専門家のアドバイスが有効だ。

注1:
2023年9月13日、第6次経済開発5カ年計画を2023年度末まで延長することが、国会で承認された。
注2:
開発途上国への気候変動対策技術の移転を促進するための実施機関として、COP16(2010年)において設立された国際機関。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所
マティン・バリネジャド
2018年からジェトロ・テヘラン事務所勤務。ビジネス短信や各種調査、展示会などを担当。

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