中東・アフリカのグリーンビジネスの今COP27、28開催で環境問題に注目、グリーン成長を模索(中東、アフリカ)

2023年9月29日

2022年11月に国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)がエジプトで開催され、ロシアのウクライナ侵攻によって天然ガス価格が高騰する中、官民の気候変動対策に向けた動きは引き続き活発だった。先進国や国際機関、中東産油国などからの気候変動対策関連の資金を背景として、中東アフリカにおける環境分野の投資も増加傾向だ。2023年11月30日からアラブ首長国連邦(UAE)で開催予定のCOP28に向け、環境問題への関心はさらに高まる(2022年12月26日付2023年1月17日付地域・分析レポート参照)。本稿では、中東アフリカにおける環境問題、気候変動対策に関して、官民の取り組みの現状について報告する。

産業転換のほか、政治・外交の観点でも気候変動がテーマに

中東湾岸諸国などの産油国では、化石燃料が莫大(ばくだい)な収入源となっており、アフリカでも化石燃料を活用して経済成長や工業化を目指す国も多い。一方で、近年、中東諸国には新たな産業として再生可能エネルギー、新エネルギー、環境関連の技術に関心を持つ国もある。アフリカ諸国では、直面する食糧危機や災害、環境汚染、気候変動に関して、経済への影響が強く意識される。特に食料を輸入に依存する国においては、食糧危機や食料価格の高騰は、政治基盤が脆弱(ぜいじゃく)である場合、政権転覆にもつながり得るため、政治・経済においても気候変動対策を重視せざるを得ない。

化石燃料への投資も進めながら、再生可能エネルギーや新エネルギー、特に水素に関して大型の投資を呼び込む国もあり、既存のエネルギーへの投資と気候変動関連の投資を同時に進めているのが、中東アフリカ諸国の特徴だ。COP28の議長に任命された、スルターン・ビン・アフマド・スルターン・アール・ジャーベルUAE産業・先端技術相は、アブダビ国営石油会社(ADNOC)の最高経営責任者(CEO)を務めるとともに、UAEの大手再生可能エネルギー企業、マスダールの創設者・会長でもある。COP27を開催したエジプト、COP28を開催するUAEは、政府が積極的に気候変動対策に関与する姿勢を見せる。

世界有数の産油国のサウジアラビアも、気候変動対策に積極的だ。ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子は、COP27に合わせて開催された「第2回中東グリーン・イニシアチブ(MGI)サミット」(2022年11月9日付ビジネス短信参照)において、MGIに25億ドルの資金提供を表明し、地域における気候変動対策のイニシアチブをうかがう。MGIは、2030年までに排出量を60%以上削減することを目標とし、500億本の植林や、2億ヘクタール相当の土地の再生に取り組むとしている。投資ファンドとクリーンエネルギー事業向けに約104億ドルの確保を目指している。

アフリカ諸国も、環境問題に取り組むための資金を強く求めている。2022年10月、コンゴ民主共和国(DRC)は「プレCOP27」を開催し、DRCのイブ・バザイバ環境相は、アフリカにおける温室効果ガスの排出量は世界全体のわずか4%だが、多くの貧困層が存在すると述べ、開発途上国における石油・ガスを活用した経済成長と気候変動対策の両立のための支援を訴えた。また、ケニアでは2023年9月にアフリカ気候ウィークを開催されるなど、各国で気候変動対策に向けた動きが見られる。

近年、発言力が増すグローバルサウスと呼ばれる国々も、中東アフリカ諸国に限らず、環境問題への関心は高い。国際社会でグローバルサウスの支持を得たい先進国は、気候変動対策分野で支援・協力を積み上げることにより、グローバルサウスとの関係構築を目指す動きもある。日本政府も2022年に開催されたTICAD8(第8回アフリカ開発会議)において、アフリカ・グリーン成長イニシアチブを立ち上げ、約40億ドルの資金を投入してアフリカ諸国における環境問題への取り組みの支援を行う姿勢を示した。

人口増加で化石燃料も増加

世界の人口は80億人に達し、今後も増加が見込まれている中、気候変動や異常気象が農業に影響を与えており、今後どのように食料を確保するのかがCOP27では議論となった。干ばつ、熱波、洪水などに対して脆弱な国々において、飢餓や栄養不足のリスクが増加しており、特に開発途上国における影響が大きい。国連やFAO(国連食糧農業機関)などが支援を表明しているが、東アフリカの「アフリカの角」の地域では、干ばつにより3,700万人が飢餓に直面しているとされており、2022年にはパキスタンでも大洪水により農業に大きな損害が出た。2023年9月にはリビアで大洪水が発生し、多くの人命が失われた。

中東アフリカ諸国は、世界で最も人口増加の著しい地域でもある。増加する人口を養うには、より多くの食料や電力、水資源を必要とし、国境をまたいで水資源を争う問題も発生している(2021年8月17日付地域・分析レポート参照)。特に中東産油国では1人当たりの電力使用量も多い。

人口増加に伴って電力需要が高まる中、石油・天然ガスなどの化石燃料への投資も続いている。2022年には、世界全体で前年比6%増となる9,530億ドルが化石燃料に投資された。中東では、2015年から2020年にかけて、化石燃料に関する探索・開発・インフラ整備・発電施設建設などへの投資が約6,370億ドルと、再生可能エネルギー関連の投資の約28倍になった。アフリカでも、同期間の化石燃料に関する投資は約4,500億ドルで、再生可能エネルギー関連投資の約10倍だった。アフリカではコストの低い化石燃料の需要が高く、産油国ではこうした需要に応えるべく新たな油田の探索などに投資を継続している。

しかし、二酸化炭素(CO2)を排出しながら工業化や経済成長を目指す形は、もはや国際社会から強い批判の的となる。また、欧州において、脱炭素促進のため炭素国境調整メカニズム(CBAM)が導入され、欧州向け輸出などビジネスへも影響を及ぼすようになりつつある。

中東アフリカでグリーン成長の模索

脱炭素などの気候変動対策は、世界共通の大きな課題だ。工業化が遅れている中東アフリカ諸国も例外ではなく、経済成長と脱炭素の二兎(にと)を追う「グリーン成長」を模索する道しか残されていない。険しい道を切り開くには、各国政府が政策を整備して企業の活力を生かす環境整備を行うと同時に、開発途上国に対しては国際機関や金融機関が気候変動に立ち向かうためのファイナンスを提供することが重要だ。各分野の専門家は、気候変動対策や脱炭素に有効なプロジェクトを見いだし、官民あげてその実行に取り組まなければならない。環境分野では、スタートアップの中にも、大手企業にも負けない優れた技術をもつ企業や社会の実情に根差した実装が比較的容易なビジネスプランを持つ企業も現れており、こうした新しいアイディアを積極的に取り入れることも重要だろう。

各国の再生可能エネルギー関連政策などの概況については、ジェトロの地域分析レポート特集「COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス」において報告している。本特集「中東・アフリカのグリーンビジネスの今」では、環境分野における民間企業、特にスタートアップの具体的な活動について報告する。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課 課長代理
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。

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