中東・アフリカのグリーンビジネスの今アフリカ最大の再エネ発電事業者が語るグリーンビジネス(エジプト)

2023年9月22日

国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)開催国となったエジプトは、太陽光、風力資源に恵まれ、中東・アフリカ地域の中でも再生可能エネルギーによる発電容量が大きい国の1つだ。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の報告では、2022年のエジプトの再エネ発電容量は6,322MW(メガワット)で、中東・アフリカではトルコ(5万5,943MW)、イラン(1万2,399MW)、南アフリカ共和国(1万455MW)に次ぐ規模を誇る。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、2020年時点でエジプトの再エネ発電比率は約12.4%だが、政府は2035年までに再エネ発電比率を42%まで引き上げる計画を打ち出しており、実際に数多くのプロジェクトが発表されている(2022年10月31日付地域・分析レポート参照)。こうしたプロジェクトを牽引するのは日本の豊田通商や住友商事、フランスのエンジー、サウジアラビアのアクワ・パワー、アラブ首長国連邦(UAE)のマスダールなど、外資の電力・再エネ関連大手事業者だが、多くの場合、エジプトの地場企業をパートナーとして事業に参画する。

エジプトの再エネ発電事業者であり、2014年に設立されたインフィニティは、同国南部アスワン近郊に設置した世界最大級の太陽光発電所であるベンバンソーラーパークをはじめ、年間215万kWh(キロワット時)規模の再エネ発電プロジェクトを手掛ける。同社とUAEの政府系企業マスダールとの合弁会社であるインフィニティ・パワーは、両社の経験や実績を生かし、アフリカ大陸全体のエネルギー供給安定化への貢献を目指している。同社の事業は太陽光、風力といった再エネ発電事業の開発・運営、またグリーン水素製造プロジェクト運営まで多岐にわたる(表参照)。

表:インフィニティ・グループによるプロジェクト一覧
No 名称 種類 国名 地域名 規模 稼働状況
1 インフィニティ・ベンバン・パーク太陽光発電所 太陽光発電 エジプト ベンバンソーラーパーク内 50MW 稼働中
2 フェニックス50 太陽光発電 エジプト ベンバンソーラーパーク内 50MW 稼働中
3 インフィニティ50 太陽光発電 エジプト ベンバンソーラーパーク内 50MW 稼働中
4 MMID 30 太陽光発電 エジプト ベンバンソーラーパーク内 30MW 稼働中
5 インフィニティ3 太陽光発電 エジプト ベンバンソーラーパーク内 3MW 稼働中
6 インフィニティ1 太陽光発電 エジプト ベンバンソーラーパーク内 1MW 稼働中
7 インフィニティ・パワーCOP27太陽光発電所 太陽光発電 エジプト シャルム・エル・シェイク 5MW 稼働中
8 コバブ風力発電所 風力発電 南アフリカ 北ケープ州 143MW 稼働中
9 ローリーズ・フォンテイン2 風力発電 南アフリカ 北ケープ州 143MW 稼働中
10 ヌープート風力発電所 風力発電 南アフリカ 北ケープ州 82MW 稼働中
11 カンナス風力発電所 風力発電 南アフリカ 北ケープ州 143MW 稼働中
12 パルデクラール風力発電所 風力発電 南アフリカ 西ケープ州 112.6MW 稼働中
13 西バクル風力発電所 風力発電 エジプト ラス・ガレブ 252MW 稼働中
14 タイバンディアエ風力発電所 風力発電 セネガル タイバンディアエ 158.7MW 稼働中
15 ホサールブーメンPVクラスター 太陽光発電 南アフリカ ノースウエスト州 300MW 開発段階
16 ブルスコップPVクラスター 太陽光発電 南アフリカ 西ケープ州 300MW 開発段階
17 クナブPVクラスター 太陽光発電 南アフリカ 北ケープ州 700MW 開発段階
18 陸上風力発電所 風力発電 エジプト ソハグ 10GW 開発段階
19 ラスガレブ陸上風力発電所 風力発電 エジプト ラス・ガレブ 200MW 開発段階
20 タイバンディアエ蓄電プロジェクト 風力発電 セネガル タイバンディアエ 40MW 開発段階
21 タイバンディアエ風力発電所拡張 風力発電 セネガル タイバンディアエ 100MW 開発段階
22 アイテパ風力発電所 風力発電 ガーナ ガーナ南東部 225MW 開発段階
23 クラドック風力発電所 風力発電 南アフリカ 東ケープ州 720MW 開発段階
24 グリーン水素製造 グリーン水素 エジプト スエズ湾沿岸 2GW 開発段階
25 グリーン水素製造 グリーン水素 モーリタニア ヌアクショット北東 10GW 開発段階

出所:インフィニティ・パワーのウェブサイトからジェトロ作成

インフィニティ・パワーは2023年3月、エジプト、南ア、セネガルなどで風力発電プロジェクトを運営するレケラ・パワーを買収して、アフリカ最大の再エネ発電事業者となった。同社の稼働中のプロジェクトの総発電容量は130万kW(キロワット)に上り、これらのプロジェクトにより、従来の発電方法に比べて年間300万トン以上の二酸化炭素(CO2)排出量を削減しているという。ジェトロは、インフィニティ・パワーのグリーン水素事業開発担当ダイレクターであるムハンマド・シェリフ氏に、同社の事業や戦略、日本への期待について聞いた(取材日:2023年7月26日)。


ムハンマド・シェリフ氏(本人提供)
質問:
インフィニティ・パワーの事業内容は。
答え:
インフィニティ・パワーの事業は、(1)太陽光発電と陸上風力発電、(2)グリーン水素製造と海水淡水化という、再生可能エネルギー2本柱からなっている。これらの取り組みを補完するため、送電網や蓄電池といった関連技術も手掛ける。アフリカで最も先進的な企業として、CO2排出量を着実に削減しながら、アフリカ全域の経済成長、社会発展のためのエネルギーを供給すべく、再エネ活用に取り組んでいる。
質問:
インフィニティ・グループの強みは。
答え:
アフリカ最大の再エネ発電事業者としての経験と能力が当グループの資産だ。アフリカ最大の太陽光発電所であるベンバンソーラーパークでは最初にプロジェクト開発を進めた事業者であり、現在250MWの発電能力を持つ最大規模の出資者だ。エジプト紅海沿岸のラス・ガレブでは200MWの風力発電事業を手掛け、西方砂漠ではマスダール、エジプト建設大手のハッサン・アラムとともにコンソーシアムを組んで10GW(ギガワット)規模の風力発電プロジェクト開発に携わっている。エジプトのみならず、南ア、セネガルでも風力発電事業を展開する。また、グリーン水素については、エジプトおよびモーリタニアにおいて大規模なプロジェクト開発に取り組んでいる。これらの経験から、当グループはプロジェクトのスムーズな遂行に不可欠な、再エネ発電事業のプロセスをよく理解しており、現地政府機関などステークホルダーとも強いつながりを持つ。さらに、欧州復興開発銀行(EBRD)、アフリカ・ファイナンス・コーポレーション(AFC)、マスダールなど、業界に精通した戦略的投資家やパートナーを持っていることも強みだ。
質問:
プロジェクト開発者の立場から、アフリカ、エジプトをどう見ているか。
答え:
アフリカは再エネ発電事業に必要な天然資源には恵まれているが、資本不足が課題となっている。クリーンエネルギービジネスを展開するには開発側からの支援が必要だ。エジプトは、他のアフリカ諸国に比べて送電網などのインフラ整備が進んでいるほか、官民連携(PPP)プロジェクトが数多く進行しており、政府機関も民間との連携に慣れているため、比較的プロジェクトが進めやすいと考えている。
質問:
今後の事業展開は。
答え:
太陽光発電、風力発電事業に続き、グリーン水素プロジェクトが進行中だ。エジプトでは、4GW規模のグリーン水素プラント建設プロジェクトを、マスダールおよびハッサン・アラムとのパートナーシップのもと進めている。また、モーリタニアでは、ドイツのコンジャンクタとのコンソーシアムで10GW規模のグリーン水素プロジェクトを開発中だ。グリーン水素需要が高まると見込まれる欧州をオフテイカーとして想定しており、製造した水素は欧州向け輸出に向ける予定だ。
質問:
協業相手として日本企業に求めるものは。
答え:
当社はJICA(国際協力機構)とプロジェクト開発で協力しているが、優れた技術を持つ日本企業とのパートナーシップ、共同でのプロジェクト開発、日本でのグリーン水素需要の開拓など、日本とのさらなる協業に関心を持っている。日本の技術力への信頼はもちろん高いが、政府系機関の支援や資本力にも期待している。
執筆者紹介
ジェトロ・カイロ事務所
塩川 裕子(しおかわ ゆうこ)
2016年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ富山、企画部(中東担当)を経て2022年7月から現職。

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