特集:タイ・インドネシア・ベトナムの自動車など主要産業政策と現地動向生産・販売が勢いづくEV産業(インドネシア)

2023年4月25日

2022年に国産の電気自動車(EV)の商業生産が始まったインドネシアでは、富裕層を中心にEVで通勤するなど、首都ジャカルタを中心にEVの普及が始まっている。ASEANで最大の自動車市場であるインドネシアで、EV産業がどのように成長するだろうか。入手可能なマーケットデータに加え、インドネシア政府によるEV奨励策、現地企業へのヒアリングから、現状と今後の展望について報告する。

新型コロナ禍期に大きく変化した低炭素排出車(LCEV)の販売状況

インドネシアのEV販売市場は、新型コロナ禍の間に大きく変化した。ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリー式電気自動車(BEV)を合わせた低炭素排出車(Low Carbon Emission Vehicle:LCEV)の販売台数(卸売り)は、2020年の1,234台から2022年に1万5,437台に増加した。ガソリン車を含む自動車全体の販売台数は104万8,040台(2022年実績、卸売り台数)であることに対して、LCEVが占める割合は約1.5%まで成長した。

特筆すべきは、自動車販売全体に占める日本のシェアが9割超であることに比べて、LCEVでは、中国や韓国の存在感が目立つ点だ。LCEVにおける日本のシェアは、2020年に89.9%だったが、2022年には32.2%まで低下している(図1参照)。日本のメーカーによるLCEV販売台数は2020年の1,100台から2022年に4,976台まで増加したものの、中国メーカーはゼロから8,401台まで急増した。これにより、2022年のLCEV市場における中国のシェアは54.4%、韓国が13.1%となった。

図1:自動車の卸売り台に占める国別シェアの変化
LCEV

2020年
販売台数1,234台に対する日本の割合は89.9%、韓国9.7%、ドイツ0.4%。
2022年
販売台数1万5437台に対する中国の割合54.4%、日本32.2%、韓国13.1%、英国0.2%。

自動車全体(ガソリン車含む)

2020年
販売台数53万2.470台に対する日本の割合は96.7%、中国1.6%、韓国0.3%、その他1.3%。
2022年
販売台数104万8040台に対する日本の割合92.5%、韓国3.2%、中国3.1%、その他1.1%

出所:インドネシア自動車製造者協会(GAIKINDO)から作成

こうした変化の主な要因は、LCEVの現地生産開始だ。インドネシア自動車製造者協会(GAIKINDO)のデータから、2022年のLCEVの生産状況を確認すると、2022年3月に現代自動車が初めてLCEVの国内生産を開始して以降、2023年2月までにスズキ、トヨタ、上汽通用五菱汽車(ウーリン)、東風小康汽車(DFSK)の5社が国内でLCEVの生産を開始した。この結果、2022年のLCEV生産台数は2万3,755台となった。最も生産台数が多かったのはスズキの1万457台(マイルドハイブリッド車)、続いてウーリンが8,827台(BEV、HV)、トヨタが2,604台(HV)、現代が1,865台(BEV)だ。LCEVの月当たり生産台数の推移をみると、2022年3月は80台だったが、各メーカーによる生産開始に伴って毎月増加し、12月には5,249台となった。

中韓の自動車メーカーは、新型コロナ禍前からインドネシアで投資を積極的に拡大する動きをみせてきた。ウーリンは2015年に年産12万台規模の自動車工場設立を開始し、2017年から販売を開始した。同社の初年度の販売台数は約5,000台だったが、2022年には約3万台となった。特に、同年に生産開始した小型EV「エアEV(Air EV)」は年間8,053台を売り上げ、2022年のLCEVの中で最も売れた車種となった。また、現代自動車は2019年11月、同社初となる東南アジアの完成車工場をインドネシアに設立すると発表し、年産15万台規模(最終的に25万台規模)の工場建設を行った。当初からEVの生産を行う計画を発表するなど、積極的な姿勢を見せてきた。


現代自動車のアイオニック5(ジェトロ撮影)

こうした中韓のBEV重視の動きに対して、日本の自動車メーカーは、充電インフラが整っていない黎明(れいめい)期のインドネシアのEV市場に対して、まずHVを中心とした多様な車種の展開を行っている。GAIKINDOのデータによると、2022年に日本の自動車メーカーがインドネシアで販売しているLCEVのモデル数(同車種の別モデルを含む)は19モデルで、うちHV・PHEVが15モデルを占める。販売しているモデル数は韓国メーカー(8モデル)、中国メーカー(5モデル)に対して2倍以上だ。インドネシアでの現地生産に関しては、スズキが2022年6月からマイルドハイブリッド車の「エルティガ・ハイブリッド(Ertiga Hybrid)」、トヨタが2022年11月からHVの「キジャン・イノーバ・ゼニックス(Kijang Innova Zenix)」の生産・販売を開始するなど生産を本格化しつつある。

2023年はEV現地生産の本格化に注目

2023年に注目されるのは、現地生産・販売の本格化だ。格付け会社のフィッチ・レーティングスは2023年2月、政府による付加価値税の減税などの効果で、インドネシア国内のEV販売台数が5万台超になるという見通しを示した。さらに国内販売のみならず、インドネシアから輸出を行う動きにも注目だ。スズキは既にエルティガ・ハイブリッドの輸出販売を開始、トヨタも2023年2月にキジャン・イノーバ・ゼニックスの輸出を開始した。

インドネシア消費者のEVに対する期待の高まりを見るための参考値として、Google Trendsから、「電気自動車」についてのインターネット上での検索量の伸びを確認したところ、インドネシアでは2022年に入って顕著に上昇していた(図2参照)。タイや日本も上昇しているが、直近の盛り上がりはインドネシアの方がやや高いとみられる。この背景として、前述のLCEVの現地生産開始に加え、バリ島でG20サミットにおける交通機関にBEVが使われるなど、話題が多かったことが挙げられる。検索のピークはすでに過ぎたが、その後も検索量は比較的高い状況にある。

図2:電気自動車に関する検索量(指数)の変化

インドネシア
電気自動車に対するインドネシア、タイ、日本の検索量の変化を比べると、インドネシアは2022年の年央に急増し、ピーク後も高い状況が続いている。
タイ
電気自動車に対するインドネシア、タイ、日本の検索量の変化を比べるとタイは2021年末から2022年初めに急増した。ピーク後も比較的高い状況が続いている。
日本
電気自動車に対するインドネシア、タイ、日本の検索量の変化を比べると、日本は2020年の年央にから2022年初頭にかけて増加し、ピーク後も比較的高い状況にある。

注:それぞれ現地語で「電気自動車」についての検索量。2018年4月22日~2023年
4月9日の期間で検索量がピークになった時を100として検索量の変化をみたもの。
出所:Google Trendsから作成

EVの商用利用の観点では、インドネシアの大手ライドシェアやタクシー会社が、脱炭素化の流れの中で、大胆なEV化目標を打ち出している。例えば現地ライドシェア大手のゴジェックは、2030年までに全車両をEV化することを発表している。地場タクシー最大手のブルーバードも、2030年には車両の10%をEVにする目標を掲げている。同社のアクマッド・アクファリ戦略・連携・ベンチャー部門長は2023年3月2日、ジェトロのヒアリングに対して、2030年に自社の二酸化炭素(CO2)排出量を50%削減することをビジョンとしており、EVに加えて車両の23%をCNG車(圧縮天然ガス車)にすると説明した。そのうえで、日本企業に対しては、こうした自社の目標に資する提案を歓迎する意向も示した。

このようにEVへの注目と商用ニーズの高まりなどから、今後さらに多くのメーカーがEV生産に乗り出す見通しだ。例えば、2024年には、三菱自動車が小型の商用EVの生産を開始すると発表している。また、他業種からの新規参入として、地場企業のバクリーグループが2027年をめどに本格参入を目指すほか、台湾のフォックスコン(鴻海精密工業)が地場企業と協業してBEVバスの製造(時期未定)を行うと報道されている(表1参照)。

表1:インドネシアにおけるEVの現地生産開始時期(主なもの)(-は値なし)
国・地域名 メーカー名 種類 生産開始時期 現地生産 生産実績
(2022年)
韓国 現代 EVセダン 2022年 開始済み 1,865
日本 スズキ HV 2022年 開始済み 10,457
中国 SGMW 小型EV 2022年 開始済み 8,422
日本 トヨタ HV MPV 2022年 開始済み 2,604
中国 SGMW HV SUV 2022年 開始済み 405
中国 DFSK 小型商用EV 2023年 開始済み 2
日本 三菱自動車 小型商用EV 2024年
日本 ダイハツ 未定 コンセプトカー発表済
(2022年8月)
地場 バクリー 未定 2027年
台湾 鴻海 EVバス 未定
地場 SMK 小型商用EV 未定

出所:現地報道、GAIKINDOから作成

EVに関する政策とインセンティブ

さて、続いてインドネシアのEV振興政策の概要をみていく。まず生産面では、インドネシア工業省は2019年1月に「自動車産業ロードマップ」を発表し、2035年に国内生産(想定400万台)の30%(120万台)をLCEVにする方針を打ち出した。そのうえで、アグス・カルタサスミタ工業相は2021年7月、「2035年までにBEVの国内生産100万台を目指す」とした。また、同年10月にはエネルギー鉱物資源省が「2050年以降、伝統的な車(エンジン車)は販売されなくなる」と発表するなど、BEV重視の姿勢を鮮明にしている(表2参照)。

EVの国内生産を進めるため、原材料・部品の現地調達率(TKDN)も設定している。2019年8月に公布された、BEVの開発促進に関する大統領規定2019年第55号では、BEV車両に対してTKDNを段階的に設定した。同規定によると、2030年のTKDNは80%以上とされた。さらに工業相規定2020年第27号では、バッテリーやドライブトレインなど複数の部品に対してもTKDNを設定した。なお、現時点ではこうしたTKDNの未達の場合の罰則規定などは設けられていない。

表2:インドネシア政府によるEV目標
四輪車
項目 台数・比率 2020年 2025年 2030年 2035年 2050年
生産 台数 150万台 200万台 300万台 400万台 新車販売は
EVのみ
(注3)
LCEV比率(注1) 10% 20% 25% 30%
LCGC比率(注2) 25% 20% 20% 20%
国内販売 台数 125万台 169万台 210万台 250万台
輸出 台数 25万台 31万台 90万台 150万台

注1:LCEV:Low Carbon Emission Vehicle(低炭素排出車)、BEVのほか、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、燃料電池車を含む。
注2:LCGC:Low Cost Green Car(低価格グリーンカー)。
注3:エネルギー鉱物資源相による発表(2021年6月)。
出所:インドネシア工業省資料、現地報道からジェトロ作成

生産に対する優遇政策では、国内でEV車両やその部品を製造する事業者は、法人税減免(タックスホリデー)の優先対象となっている。2021年2月に施行した投資事業分野に関する大統領規定2021年第10号では、EVの車両やバッテリー、モーター、パワーコントロールユニット(PCU)産業などを、一定期間の法人税減免を優先的に行うプライオリティリストの対象業種とした。対象となる案件は、最低1,000億ルピア(約9億円、1ルピア=約0.009円)の投資額が必要となるものの、タックスホリデー対象に認定された案件は、投資金額に応じて、商業生産の開始年から5~20年の期間、法人税が50~100%減額される(参考参照)。

タックスホリデーについては、投資優遇を取得した企業情報が公開されていないため、詳細は不明ながら、インドネシアの税務関連ニュースサイトであるDDTCニュース(2021年12月27日付記事)において、これまでの実績が報じられている。同記事によると、財務省のデータでは、2007年以降で累計96件がタックスホリデーに登録されたが、実際に活用されているのは14件にとどまるという。登録された96件の主な内訳は、34件が基礎金属産業、29件が電力、ガス等分野としている。こうした点から、EV分野でのタックスホリデーの利用は、現状では限定的とみられる。

参考:EV関連のタックスホリデー制度

対象分野
バッテリー及び電気モーターと統合化された四輪以上の電気自動車産業
四輪以上の自動車の主要部品2以上の製造と統合化された四輪以上の自動車産業
四輪以上の電気自動車用バッテリー産業
四輪以上の電気自動車用電気モーター産業
四輪以上の自動車用のバイオディーゼル100%との互換性のあるフレックスエンジン産業
四輪以上の自動車製造産業と統合型の、ピストン、シリンダーヘッド、シリンダーブロック、カムシャフト、クランクシャフト、コネクティングロッドなど、四輪以上の自動車機器の主要コンポーネントを2以上製造する産業
四輪以上の電気自動車用の電気パワーコントロールユニット(PCU)産業
二輪または三輪の電気自動車用産業
二輪または三輪の電気自動車用のバッテリー産業
二輪または三輪の電気自動車用の電気モーター産業
二輪または三輪の電気自動車用の電気パワーコントロールユニット産業
法人税の減免内容
投資額1,000億ルピア以上5,000億ルピア未満:商業生産開始から5年間50%減額
同5,000億ルピア以上1兆ルピア未満:同5年間100%減額
同1兆~5兆ルピア:同7年間100%減額
同5兆~15兆ルピア:同10年間100%減額
同15兆~30兆ルピア:同15年間100%減額
同30兆ルピア以上:同20年間100%減額

出所:投資調整長官規定に基づきジェトロ作成

販売面に目を移すと、EVを購入する消費者に対する減免税や補助金が注目されている(表3参照)。インドネシアでは、自動車の排気量に応じて、自動車の購入に奢侈(しゃし)税を課している。同奢侈税について財務省は2021年7月、所定のTKDNを達成するBEVと燃料電池車(FCV)の課税率を実質0%(奢侈税は15%だが、課税基礎を販売額の0%と設定)とした。さらに、インドネシア政府は2023年3月29日、財務大臣規定2023年第6号を発出し、BEV購入時の付加価値税の税率を通常の11%から1%に減免することを決定した。対象はTKDNが40%超の車種とし、減税期間は2023年末までとした。なお、電動バイクについては同年3月20日付の工業大臣規定2023年6号で、TKDNが40%超の車種について、今後2年間、1台当たり700万ルピアの補助金支給を決定した。ただし、補助金の対象者は、零細中小事業者などに限られている。

表3:インドネシアの主なEV奨励政策
項目 発表
時期
概要 詳細
方針 2019年 自動車産業ロードマップ 2035年には四輪車の生産台数目標400万台に対し、低炭素排出車(LCEV:BEVのほか、HV、PHEV、燃料電池車も含む)の生産台数目標を30%(120万台)と設定
方針 2019年 BEV開発促進に関する大統領規定 EV関連産業の促進、インセンティブの付与、充電インフラの供給とEV充電の電気料金、EV関連技術の規制、環境保護などを制定
方針 2021年 カーボンニュートラルの達成 2060年のカーボンニュートラル達成。アプローチとしてEVの開発に言及
方針 2021年 ICEの販売禁止方針 2050年以降、伝統的な車(エンジン車)は販売されなくなると発表
方針 2021年 充電ステーション設置目標 2030年までに一般充電ステーション(SPKLU)を3万1,859ユニット、一般バッテリー交換ステーション(SPBKLU)を6万7,000ユニットに増やす
需要 2021年 奢侈税の免税 BEVと燃料電池車(FCV)の課税率を実質0%へ。ただし、LCEVとして優遇税率の適用を受けるには、既定の現地調達率を達成する必要あり。
需要 2022年 政府機関のEV利用促進 中央・地方政府や政府系機関に対し、公用車としてEV利用を加速させることなどを規定。
需要 2022年 購入時の頭金の緩和 ノンバンクには、EVや電動バイク購入者への融資の頭金をゼロにすることを認める。
需要 2023年 EV購入にあたる補助金 所定の現地調達率を満たすEVバイクに対して700万ルピアの購入補助金
需要 2023年 付加価値税の減免 所定の現地調達率を満たすBEVに適用する付加価値税率を通常の11%から1%に引き下げ
供給 2021年 法人税の減免 電気自動車産業を対象にした法人税減免
供給 2020年 現地調達率の設定 BEVに関する国産品化率などの制定

出所:現地報道から作成

EV普及の課題:価格と充電ステーション

今後、インドネシア国内におけるEV普及の課題となってくるのが、車両価格と充電ステーションの数だ。シンガポールの市場調査会社Milieuが2021年に9月に発表した東南アジア主要国における電気自動車の購入意欲に関する調査結果(調査母数は各国1,000人)によると、インドネシアにおいて、次に自動車を購入する際、依然として内燃機関(ICE)車を検討する割合が49%と高かった(表4参照)。HVを検討する割合は47%、BEV・PHEVを検討する割合も同様に47%だが、タイと比べても低い状況だ。同調査によると、インドネシアでBEV・PHEV・HVの購入を検討しない理由は「EVの価格」が47 %と最も高く、続いて「周囲に充電ステーションが少なすぎる」(42%)となった。

表4:電気自動車の購入意欲(2021年9月時点)

次に購入する場合に選ぶ車のタイプ
項目 インドネシア タイ
BEV・PHEV 47% 56%
HV 47% 50%
ICE(ガソリン・ガス) 49% 39%
電気自動車(注)を買わない理由 (上位4つ)
項目 インドネシア タイ
電気自動車の価格 47% 47%
周囲に充電ステーションが少なすぎる 42% 59%
充電時間が給油時間よりも長い 34% 48%
電力切れのリスク、ドライブレンジの短さ 34% 55%
耐久性への懸念(バッテリーの消耗など) 33% 36%

注:電気自動車はBEV、PHEV、HVを指す。
出所:Milieu ("Shaping Southeast Asia’s switch to electric cars" 2021年9月調査)から作成

第1の課題である車両価格について、現地生産されているBEVの価格をみると、例えば、現代自動車のアイオニック5(Prime Standard Range)で7億4,800万ルピアからだ(2022年9月15日付、コンパス紙)。他方で、ガソリン車の主要車種の1つであるトヨタのアバンザ(1.5L G)は約2億5,000万ルピアから3億ルピア未満(2023年4月時点、Oto.com)のため、その差は2.5から3倍程度となる。この点、2022年8月に生産・販売が開始されたウーリンのエアEV(long range)の価格は約3億ルピア(2023年4月時点、Oto.com)と、現地で一般的なガソリン車と同水準の価格帯となっている。実際に、同年のエアEV(long range)販売台数は6,859台(8~12月合計)で、アイオニック5(Signature Extended)の1,517台(5~12月合計)の4倍超となった。

ただし、エアEVは4人乗りの小型車であり、アイオニック5(SUV)やアバンザ(MPV)とはセグメントが異なる。従来、インドネシアでは比較的大人数でも乗ることができるMPVやSUVが主要車種となってきた。今後も小型車であるエアEVの販売が伸びるかどうかは、EV市場のトレンドを見るうえでベンチマークとして注目される。

なお、インドネシアにおける充電料金は、ガソリン価格と比較しても安価と考えられる。電力公社PLNが運営する一般充電ステーション(SPKLU)では、1キロワット時(kWh)当たりの基準価格が2,475ルピアとされている。アイオニック5を例に充電料金を推計すると、バッテリー容量が58kWhかつ最大航続距離は384キロメーター(km)とされていることから、仮に最大航続距離を実現した場合に1kmを走行するために必要な電気代は約373.8ルピアとなる。一方で、ガソリン代は1リットル当たり1万3,050ルピア(油種「Pertamax」ジャカルタ特別州価格、2023年2月時点)だ。ガソリン車の燃費は様々だが、ここでは燃料1リットル当たり走行距離が11kmと計算すると、1kmを走行するために必要な燃料代は約1,186.4ルピアとなる。実際には、充電した電気は走行のための他の用途にも利用されるが、少なくとも試算ベースの充電料金はガソリン代よりも十分に安いと考えられる。

第2の課題である充電ステーションについては、ジャカルタを中心に拡大がみられるが、設置台数は少ないのが現状だ。2022年12月22日のコンパス紙によると、同年11月時点で設置されている充電ステーション(SPKLU)の数は521カ所だった。内訳は最も多いのがPLN(45.7%)、続いて民間企業として最大のEV充電オペレーターであるEV Cuzz(20.0%)、現代自動車(18.0%)となった(表5参照)。

表5:EV充電ステーション(SPKLU)の数(2022年11月時点)
事業者名 2022年11月
設置数 割合
PLN 238 45.7
Evcuzz 104 20.0
Hyundai 94 18.0
Grab 20 3.8
Mitsubishi 16 3.1
Shell 14 2.7
BlueBird 12 2.3
Starvo 5 1.0
Pertamina Retail 5 1.0
BPPT 5 1.0
その他 8 1.5
合計 521 100.0

出所:コンパス紙、2022年12月22日

2023年には、充電ステーションの増加が見通されている。PLNは2023年2月、「現時点で257カ所に588ユニットのSPKLUがある」「2023年には100カ所追加する」と発表した(2023年2月13日WartaEknomi)。EV Cuzzも、2023年中に500ユニットまで増やす目標を掲げている(同社ウェブページ)。この点について、EV Cuzzのラフマン・エリーCEO(最高経営責任者)は2月27日、ジェトロのヒアリングに対して「ジャカルタ首都圏のホテルやモール、オフィスビルで、駐車場にEV充電ステーションを設ける動きが急速に広がっている。今後はこれらの施設に加えて、ジャワ島の高速道路に充電ステーションを設置したい」「自社はスマートフォンのアプリを通じて充電ステーションの場所、EVユーザーの充電履歴などを把握している」と述べた。さらに、今後の事業展開について「事業に出資するビジネスパートナーを探している」と述べた。

なお、エネルギー鉱物資源省は、2030年にEVが約200万台、電動バイクが約1,300万台普及するという想定のもとで、同年のSPKLUを3万1,859ユニット、電動バイク用の一般バッテリー交換ステーション(SPBKLU)を6万7,000ユニット設置することを目標としている。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課 課長代理
山城 武伸(やましろ たけのぶ)
2007年、ジェトロ入構。ジェトロ愛媛、インドネシア大学(語学研修)、展示事業部展示事業課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て調査部アジア大洋州課勤務。