特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の現状と今後日系企業の経営状況が大きく改善(ラオス)
2023年3月20日
ジェトロは2022年8~9月、北東アジア5カ国・地域、ASEAN9カ国、南西アジア4カ国、オセアニア2カ国の計20カ国・地域に進出する日系企業に対し、現地での活動実態に関するアンケート調査[2022年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)]を1万4,290調査対象企業に実施し4,392社から回答を得た(有効回答率30.7%)。ラオスでは82調査対象企業のうち22社から回答を得た(有効回答率26.8%)。本稿では、本調査のデータを用い、特に2022年の在ラオス日系企業の経営状況およびその要因、また脱炭素への対応につき分析を行った。
2022年は企業経営が大きく改善し、今後の事業拡大への意向が強い傾向が見られた。為替変動や、コロナ禍からの生産やマーケットの回復によるものであった。脱炭素化では既に取り組んでいるが50%と、比較的進んでいることがわかった。
2022年は経営状態が大きく改善
在ラオス日系企業の2022年の営業利益見込みは「黒字」47.6%、「均衡」19.1%、「赤字」33.3%であった。2021年度調査(「黒字」27.3%、「均衡」22.7%、「赤字」50%)と比較して、黒字企業の割合が赤字企業を上回る状況に改善した。アジア・オセアニア地域(以下、地域)内ではインドに次いで2番目に黒字企業の割合が高くなった。また、2021年と比較した2022年の営業利益見込みは「改善」61.9%、「横ばい」23.8%、「悪化」14.3%(図1参照)となり、地域全体(「改善」40.8%、「横ばい」32.3%、「悪化」27.0%)と比較して、「改善」と回答した企業の割合が高くなった。とりわけ、製造業で72.7%が「改善」と回答した。2023年の営業利益見通しも同様に61.9%が「改善」と回答しており、地域内ではパキスタンに次いで高い割合となった。また、今後の事業展開の方向性については、54.2%が「拡大」と回答しており、地域全体(44.4%)を上回った(図2参照)。2022年から2023年にかけて、在ラオス日系企業の経営状況は多くが良好な見通しで事業拡大への意向も強いと言える。
図1:在ラオス日系企業の前年度と比較した2022年の営業利益見込み
出所:ジェトロ「2022年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」
2022年に営業利益が「改善」と回答した企業の理由を複数回答で得たところ、「為替変動」が46.2%を占め、次いで「新型コロナに起因する行動制限の緩和」(38.5%)、「稼働率の改善」(30.8%)、「輸出量の増加による売り上げ増加」(30.8%)となった(図3参照)。とりわけ「為替変動」では、2022年を通して現地通貨キープが対ドルで35.4%下落(対円では26.5%下落)したため、賃金が外貨ベースで割安となったこと、また外貨ベースの売り上げが黒字化に貢献したと思われる。また、製造業のみでみた場合、「為替変動」(50.0%)、「新型コロナに起因する行動制限の緩和」(50.0%)、「稼働率の改善」(37.5%)、「輸出量の増加による売り上げ増加」(37.5%)となった。先述の現地通貨の下落のほかにも、特に2022年下半期からコロナ規制が緩和され生産が軌道に乗ったこと、海外マーケットの回復が、製造業では、より改善に寄与したと思われる。一方、非製造業では「為替変動」(40.0%)、「新型コロナに起因する行動制限の緩和」(20.0%)、「新型コロナに起因する反動増」(20.0%)のほかに、「単価の引き上げによる売り上げ増加」(20%)、「販路拡大による売り上げ増加」(20.0%)など様々な理由が挙げられた。
一方、2022年の営業利益見込みが「悪化」した理由(複数回答)では、「ウクライナ情勢に起因するコスト増」(66.7%)、「新型コロナに起因するコスト増」(66.7%)が最も多くなった(図4参照)。製造業では新型コロナに起因するコスト上昇(100%)。管理費・燃料費の上昇(100%)となり、非製造業ではウクライナ情勢に起因するコスト上昇(100%)が高くなった。ウクライナ情勢のラオスへの影響では、世界的なガソリン価格や食糧価格の上昇に加え、現地通貨安も重なることで急激なインフレを招いた。2022年のラオスの平均インフレ率は23%に達した。現地市場の購買力低下にも大きく影響を与えた。
人件費のメリットが突出
前述のように為替変動が2022年の営業利益改善の大きな理由となった点について、ここでは特に製造業において深堀りしたい。日本を100とした場合の現地での製造原価はラオスが48.8%と、地域全体で最少となり、前回調査(2019年)の61.8%からも大きく減少した(図5参照)。中国(81.4%)、タイ(80.2%)、ベトナム(72.6%)と比較しても著しく低いコストでの生産が行われていることがわかる。
また、製造原価に占める人件費、材料費の比率をみると、ラオスは人件費の割合が33.5%と地域で最大であった(図6参照)。ラオスは、カンボジアやミャンマーなどと同様に労働集約的な産業クラスターが中心であると同時に、低賃金が製造コストの削減に大きく寄与していると考えられる。ラオスにおける賃金は、2021年調査と比較すると、2022年の現地通貨キープの下落によりドルベースでみると大きく下がり(表参照)、地域中で最低レベルとなっている。そして、これは先述したように経営状況の改善に大きな貢献をしたとみられる。
ただし、為替変動による低賃金の状態は、長期的に維持することは難しいと考えられる。ラオスでは、2022年12月にはインフレ率が39%に達した。このような高インフレの中で、生活の維持が困難になった従業員からの増額要求が高まっているためである。日系企業の中では、2023年初頭の賃金改正時に、現地通貨ベースで2022年の平均インフレ率(23%)相当の昇給を行う企業も出ている。今後、さらに通貨の下落やインフレの上昇が続く場合には、再調整も必要となるであろう。
図5:日本の製造原価を100とした場合の現地での製造原価(主な国別)(%)
注:周辺国を中心に一部の国を抜粋。
出所:図1に同じ
項目 | 2021年調査 | 2022年調査 |
---|---|---|
月額基本給平均(製造業・作業員) | 145ドル | 97ドル |
月額基本給平均(製造業・マネージャー) | 1,300ドル | 611ドル |
月額基本給平均(非製造業・スタッフ) | 479ドル | 422ドル |
月額基本給平均(非製造業・マネージャー) | 1,506ドル | 1,151ドル |
平均賞与(製造業・作業員) | 0.7ヵ月 | 0.7ヵ月 |
平均賞与(非製造業・スタッフ) | 1.6ヵ月 | 1.8ヵ月 |
出所:図1に同じ
脱炭素では比較優位に
2022年調査で設けられた脱炭素化への取り組み状況に関する設問では、ラオスは「すでに取り組んでいる」が50%と、地域全体(37.1%)から見てもその取り組みが比較的進んでいる結果となった(図7参照)。これは後述するが、ラオスが特にスコープ1,2(注1)の脱炭素に取り組みやすい環境下にあるためと考えられる。
脱炭素化への具体的な取り組みについては、スコープ1と2に該当する項目では、エネルギー源の電力化が地域平均(18.8%)を大きく上回り41.2%に達した。ラオスでは、ガソリンや重油は税率も高いため比較的高コストであるが、一方で、電力価格が安い(注2)ことから、当初からエネルギー源として電力を導入する企業が多かったことが理由とみられる。また、2021年のエネルギー鉱山省のデータによると、ラオスのエネルギー源は全発電量の74.2%が水力、25.6%が火力で、バイオマスと太陽光がそれぞれ0.1%と、再エネ・新エネ電力の比率が非常に高い状況にある。にもかかわらず、再エネ・新エネ電力の調達に対する回答が35.3%にとどまったのは、大規模水力を再エネと定義するかどうかの判断の差や省エネ電力を利用者側で選択購入できる制度がないことによるものと考えられる。一方で、スコープ3に該当する項目では、グリーン調達(調達先への脱炭素の要請)を除いて、地域平均を大きく下回った。自社のみでは完結しない物流における低炭素化や環境に配慮した新製品開発は、取り組みが比較的遅れており、中長期的な課題として残されている。
- 注1:
- スコープ: GHGプロトコルにおいて規定される、温室効果ガスの排出量を測定する範囲で、1,2,3に分類されている。スコープ1は、自社の燃料やプロセスにおける直接的な排出、スコープ2は、自社が購入したエネルギーの使用に伴う間接的な排出、スコープ3は、調達や物流、販売などのバリューチェーンで発生する他社の排出を指す。
- 注2:
- 2022年末のガソリン価格は1.17ドル/リットル、業務用電気料金は0.04~0.05ドル/キロワット時。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう) - 2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員