特集:現地発!アジア・オセアニア進出日系企業の現状と今後在インド日系企業7割以上が事業拡大、輸出拠点化の動きも
2023年3月20日
ジェトロが2022年度に実施した「海外進出日系企業実態調査」において、最も意外性を以って調査結果が受け止められた国はインドかもしれない。アジア・オセアニア地域だけではなく、全世界でも、インドの好調さを裏付ける数値が並んだからだ。同結果からは、在インド日系企業による積極的な事業展開の様子が浮かび上がった。
在インド日系企業7割が黒字、今後1~2年で事業拡大を図る
2022年の営業利益見込みとして、「黒字」と答えた日系企業の割合は71.9%であった。これは、インドにおける過去最高値である。営業利益見込みに関する設問において、これまで在インド日系企業の回答は必ずしも奮わず、2010年前後は5割を切る年が続くこともあった(図参照)。近年はアジア・オセアニア地域平均の水準に近づいていたものの、2022年はついに同地域平均(65.6%)を上回った。
また、今後1~2年の事業展開の方向性に関する設問では、在インド日系企業の72.5%が「拡大」と回答した。同比率は前年も70.1%と高水準だったところ、さらに上昇した。この結果、インドはアジア・オセアニア地域平均(44.4%)や全世界平均(45.4%)を大きく上回り、全世界の国別でもトップとなった。
これらの事象は何を意味しているのだろうか。第1に、日系企業にとって、インドが他国と同様に「有力な市場」になりつつあるという点だ。インド経済は過去40年間、新型コロナでマイナス成長に陥った2020年度(2020年4月1日~2021年3月31日)を除き、常にプラス成長を続けてきたものの、多くの日系企業は特殊な市場性や商習慣などから苦戦を強いられてきた。インドにおける黒字企業の増加は、この傾向に変化が生まれていることを示すものといえるだろう。
第2に、グローバル戦略の中でのインドの位置づけが、日系企業にとって相対的に高まっている点が挙げられる。それは、今回の調査結果から、今後の事業拡大先として他国ではなくインドが選ばれている、とみることもできるためだ。新型コロナ以降、グローバルサプライチェーンの混乱やロシアによるウクライナ侵攻などで国際情勢が大きく揺らぐ中、インドはいち早く経済回復に成功した。また、若年層中心の巨大人口や、政治的にも安定している点を踏まえ、日系企業がインドを再評価する動きが徐々に顕在化している。
代表的な課題はコスト上昇と税務関係
それでは、これまで日系企業がインドで苦労してきた各種課題は消滅したのだろうか。その答えは否だ。
在インド日系企業が多くの経営上の課題に直面していることも、今回の調査結果では明らかになっている。主な課題は、コスト面と税務面の2種類に大別できる(表参照)。
順位 | 経営上の問題点 | 回答率 |
---|---|---|
1位 | 従業員の賃金上昇 | 77.2% |
2位 | 調達コストの上昇 | 76.1% |
3位 | 通関等諸手続きが煩雑 | 63.0% |
4位 | 競合相手の台頭(コスト・価格面で競合) | 59.2% |
5位 | 税務(法人税、移転価格課税など)の負担 | 58.6% |
出所:図1に同じ
コスト面の課題に当たる「従業員の賃金上昇」(77.2%)、「調達コストの上昇」(76.1%)、「競合相手の台頭(コスト・価格面で競合)」(59.2%)は、地域共通でも上位にランクインしている項目だ。インド市場は特に価格重視の傾向が強く、製造業企業にとって安価な労働力の確保は重要だ。実際、製造原価に占める人件費の割合はインドが14.5%と、地域平均(20.9%)に比べて低く抑えられている。ただ、それとは裏腹に、人件費の高騰は日系企業にとっての最大の悩みの種だ。2022年の平均昇給率(前年比)は製造業で9.2%、非製造業で8.6%と、物価上昇率を上回る勢いで上昇している。
税務面の代表的な課題としては、例年多くの企業が指摘する「通関等諸手続きが煩雑」(63.0%)がある。インドでは税関職員の権限が強く、通関を巡るトラブルが絶えない。例えば、日本・インド包括的経済連携協定(日印CEPA)などを活用した輸入において、税関当局が輸入者に対して原産地証明書以外の追加書類の提出を求めたり、輸入者が申告する関税分類が適切でないとして、関税率がより高い関税分類の適用を主張したりする事例などが挙げられる。また、「税務(法人税、移転価格課税など)の負担」(58.6%)として、税制の改正や法解釈の変更などを機に、企業が当初想定していなかった追加納税が求められ、税務当局との粘り強い交渉を強いられるケースも多い。
現地人材を活用し、インドを輸出拠点化へ
この魅力と課題を内包するインドにおいて、日系企業が様々な戦略を立てていることが調査結果からも垣間見える。
まず、現地人材の活用だ。インド国内で事業を展開するに当たり、今後1~2年で駐在員数を増やすとした日系企業は23.0%と、現状維持(56.6%)とした回答数を下回った。他方、現地従業員数を増やす予定とした回答は61.0%と、現状維持(29.9%)とした回答数を大きく上回った。事業拡大を進める上で、なるべく現地人材を活用することでコストを抑えようとする企業が多い。
また、今後1~2年に事業拡大をすると答えた日系企業のうち、拡大する機能として販売機能(63.7%)が最も大きな比率を占めたが、生産機能として汎用品(24.9%)よりも高付加価値品(33.5%)を挙げた企業が多かった点も興味深い。2018年の調査実施時の傾向はこの逆で、生産機能の対象として汎用品(31.2%)の比率が高付加価値品(28.5%)よりも高かったからだ。生産拠点において、高付加価値品を重視する傾向は過去5年間で徐々に進んでいるといえる。
加えて、インドを輸出拠点としても活用しようとする動きが出てきている。輸出をしていない(売上高に占める輸出の割合が0%)日系企業の割合は全体の36.2%と、地域平均(29.0%)よりも依然として高いものの、10年前(57.4%)に比べると20ポイント以上も減少した。従来、日系企業はインドの内需向けビジネスが主流であったが、徐々に輸出をも模索するようになっているといえるだろう。
インド政府は現在、「メーク・イン・インディア」や「自立したインド」といったスローガンの下で、製造業振興を図っている。さらに、最近は、「メーク・イン・インディア、メイク・フォー・ザ・ワールド(インドで作ろう、世界のために)」という新しいキャッチフレーズも耳にするようになった。今回の調査結果から、在インド日系企業1,439社(2021年10月時点)のうち約半数を占める製造業企業も、インドからの輸出に本格的に着手し始めていることがうかがえる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ニューデリー事務所
広木 拓(ひろき たく) - 2006年、ジェトロ入構。海外調査部、ジェトロ・ラゴス事務所、ジェトロ・ブリュッセル事務所、企画部、ジェトロ名古屋を経て、2021年8月から現職。