特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス新たな輸出産業としてのグリーンエネルギー開発(中東)

2022年10月31日

湾岸諸国を中心に石油や天然ガスなどのエネルギー資源に恵まれる中東は、世界的なグリーン成長の流れを受け、産業構造の転換に向けて動き出している。本稿では、中東地域におけるグリーンエネルギーの現状を概観し、産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアにおいて現在進んでいる取り組みについて紹介する。

世界のグリーン化を受け、産業転換を図る中東

2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻を受け、石油・天然ガス市場において中東の存在感は強まった。一方、欧州各国を中心に、省エネルギーやエネルギー源の多様化など、グリーンエネルギー転換への動きが加速している。中東の特に産油国において、現状を短期的に見れば、さらなる経済成長の好機が訪れていると言えるが、中長期的な視点で見ると、今後は化石燃料の需要減少が予想されることから、石油・天然ガスの輸出に代わる新たな産業を発展させる必要に迫られている。

しかしながら中東諸国は、広大な国土と豊富な日射量により大容量の太陽光や風力発電に適しているほか、天然ガスも産出されるため、水素やアンモニアといったグリーンエネルギーの供給源としても高い競争力を有している。このような地理的優位性を生かし、近年、産油国を中心に、輸出を見据えたグリーンエネルギーの開発が進んでいる。このような中東におけるグリーンエネルギー開発について、まずはそのポテンシャルを概観していく。

再エネは成長途中、太陽光と水力に強み

図1は、2019年の世界全体と中東のエネルギー源別発電容量を示したものである。中東(注1)は天然ガス(72.2%)と石油(24.8%)による発電が全体の9割以上を占めている。再生可能エネルギーの占める割合は2.4%であり、世界全体(26.6%)と比べて10分の1以下と少ない。

図1:2019年のエネルギー源別発電量(%)
中東は石油が24.8%、天然ガスが72.2%となっており、この2つで全体の95%以上を占めている。世界は石炭が36.7%、天然ガスが23.5%で、この2つが全体の約半分を占める。また、バイオマス・廃棄物、水力、太陽光、風力といった再生可能エネルギーの占める割合は全体の約4分の1である。

出所:国際エネルギー機関(IEA)統計を基にジェトロ作成

しかしながら、非産油国を中心に、再エネへの転換は着実に進んでいる。表で示した通り、中東全体(注2)では2019年から2021年までで、発電容量に占める再エネの割合は0.4ポイント増と微増にとどまっているが、非産油国のヨルダンでは6.7ポイント、イスラエルでは2.1ポイント増と比較的大きな増加がみられる。また、産油国のアラブ首長国連邦(UAE)でも1.4ポイント増加している。

表:中東各国の発電容量および発電量に占める再生可能エネルギーの割合(単位:%)
国・地域名 2019年 2020年 2021年
中東 6.9 7.0 7.3
ヨルダン 27.2 33.3 33.9
イラン 14.3 14.0 13.8
イスラエル 11.0 12.7 13.1
レバノン 7.5 7.5 8.1
アラブ首長国連邦(UAE) 5.8 5.9 7.2
イラク 5.9 5.5 5.3
オマーン 0.5 1.4 1.6
サウジアラビア 0.2 0.1 0.6
クウェート 0.5 0.5 0.5
カタール 0.2 0.2 0.2
バーレーン 0.1 0.1 0.1

出所:国際再生可能エネルギー機関(IRENA)統計を基にジェトロ作成

図2は、中東各国における2021年のエネルギー源別再生可能エネルギー発電容量を示したものである。中東全体では水力が全体の63.0%を占め、太陽光が32.7%となっている。イランは国土内に大型の河川を多く有していることもあり、再エネの94.0%を水力で発電しているが、イスラエル、UAE、ヨルダン、サウジアラビアでは立地を生かした太陽光が主力である。ヨルダンでは風力(28.6%)も存在感を示している。

図2:中東各国の2021年エネルギー源別再生可能エネルギー発電容量(MW)
中東は25,541.8MW、イランは12,969.3MW、イスラエルは2,914.6MW、UAEは2,578.7MW、ヨルダンは2,171.3MW、サウジアラビアは442.6MWの再生可能エネルギー発電容量を有している。中東では水力が全体の半数以上を占めており、太陽光が約30%。イランでは94%が水力である。イスラエル、UAE、ヨルダン、サウジアラビアでは全体の70%から100%弱を太陽光が占める。ヨルダンでは30%弱を風力が占める。

出所:IRENAの統計を基にジェトロ作成

このように、中東地域は世界全体と比較して、再エネの導入についてはその途上にあるが、地理的条件を生かした太陽光や水力による発電を中心に、着実にその割合を伸ばしている。

産油国で水素・アンモニア製造事業が進む

産油国のUAEやサウジアラビアでは、前述の地理的優位性を生かし、輸出を見据えたグリーンエネルギーの開発に国家として取り組んでいる。

UAEは、2021年11月に、2023年に開かれる国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の開催国となることが決定し、2022年9月には、2030年までのGHG(温室効果ガス)排出削減目標を従来の23.5%から31%へ引き上げることを発表する(2022年9月20日付ビジネス短信参照)など、グリーン分野で中東をリードする存在だ。同国は豊富な天然ガス資源を活用した低コストのブルー水素(注3)製造に強みを持っており、アジアをターゲット市場として、日本とも官民一体となった連携が進んでいる(2021年9月1日付地域・分析レポート参照)。また、2022年6月には、地場のペトロリン・ケミーが、韓国電力公社(KEPCO)とサムスン物産、韓国西部発電の3社とグリーン水素・アンモニア事業の共同開発協約を締結し(2022年6月21日付ビジネス短信参照)、韓国初となる海外でのグリーン水素・アンモニア製造プロジェクトが開始するなど、外国との協業も引き続き進んでいる。

サウジアラビアにおいても、水素・アンモニアエネルギーの開発が進んでいる。北西部で建設中の産業都市NEOMでは、2020年7月にNEOM事業会社、海水淡水化事業や再生可能エネルギー事業を手掛ける地場のACWAパワー、米国ガス大手エアープロダクツの3社が、世界最大級のグリーン水素・アンモニア製造施設を建設中であり(2021年6月2日付地域・分析レポート参照)、2026年に稼働予定だ。また、国営石油会社サウジアラムコは、SABICアグリ・ニュートリエンツ・カンパニーと共同で、ドイツの第三者認証機関テュフ・ラインランド(TÜV Rheinland)から世界初となるブルー水素・アンモニア製造の第三者認証を取得し、2030年までに年間最大1,100万トンのブルーアンモニア製造を目指している。

このように中東は、グリーンエネルギーの産出国としても大きなポテンシャルを持っており、化石燃料に代わる輸出産業として、積極的な開発が進んでいる。中東は日本にとって最大の石油輸入相手であるが、今後は石油と同様にグリーンエネルギー分野においても、同様の関係を築いていく必要があると言えるだろう。


注1:
IEAによる定義では、バーレーン、イラン、イラク、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンの12カ国を指す。
注2:
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)による定義では、バーレーン、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、レバノン、オマーン、カタール、サウジアラビア、パレスチナ、シリア、アラブ首長国連邦、イエメンの14カ国を指す。
注3:
ブルー水素は、化石燃料を水素と二酸化炭素(CO2)に分解することで生産される。二酸化炭素を大気排出する前に回収できれば、温室効果ガスは生じない。一方、グリーン水素は、水を電気分解し、水素と酸素に還元することで生産される。副産物の酸素は大気に放出しても、環境に悪影響はないが、別途、二酸化炭素を排出しないためには、再エネの利用が必要となる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中東アフリカ課
久保田 夏帆(くぼた かほ)
2018年、ジェトロ入構。サービス産業部サービス産業課、サービス産業部商務・情報産業課、デジタル貿易・新産業部ECビジネス課、ジェトロ北海道を経て2022年7月から現職。

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