特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス電力不足と石炭依存からの脱却目指す(南アフリカ共和国)
民間からの再エネ調達と欧米との連携がカギ

2022年10月31日

気候変動やエネルギー問題は南アフリカ共和国の経済成長を左右する重要な問題だ。例えば、直近の南アの2022年第2四半期(4~6月)の実質GDP成長率(前期比、季節調整済み)はマイナス0.7%だった(2022年9月26日付ビジネス短信参照)が、その要因の1つは4月末に一部地域を襲った記録的な洪水(2022年4月15日付ビジネス短信参照)だった。これによって製造業の工場が生産停止を余儀なくされ、アフリカ随一の貿易港のダーバン港も被害を受けた。さらに、慢性的な電力不足がピークに達し、4月から6月にかけて長時間にわたる計画停電が頻発した。第1四半期(1月~3月)のGDPは新型コロナウイルス感染拡大以前の水準まで回復していた(2022年6月17日付ビジネス短信参照)だけに、これらの事象が経済成長にブレーキをかけたことは明らかだった。気候変動への危機感と電力不足の解消のため、南ア政府はグリーンエネルギーへの転換と、電源構成の多様化を推進している。

石炭依存からの脱却目指す

南アの電力産業は同国の温室効果ガス(GHG)排出量の41%を占める。国営電力公社エスコムに関しては、世界最大規模で二酸化炭素(CO2)を排出している企業と言われ(注)、電源構成の大半を石炭火力発電に依存しているのが現状だ。政府は同社に対し、国家環境管理法で規定している発電所の最低排出基準(MES)を順守するよう求めているが、経営難によって設備投資などは難航している。

鉱物資源エネルギー省が発表した報告書によると、南アの2019年の電源構成は、石炭が83%を占め、揚水6%、ガス/ディーゼルが5%と続く。水素発電や風力発電に限っては、2%以下と非常に小さい(図1参照)。

政府は、2019年10月に、2030年までのエネルギー政策を定めた電力統合資源計画(IRP)を公表し(2019年10月29日付ビジネス短信参照)、石炭の比率を43%に抑え、再生可能エネルギーの比率を約40%まで増やす計画だ(図2参照)。

図1:2019年の電源構成割合
2019年南アフリカの電源構成比は、石炭が83%、揚水 が6%、ガス・ディーゼル5%、原子力4%。水素2%、風力0.2%以下だ。

出所:鉱物資源エネルギー省の報告書からジェトロ作成

図2:2030年における電源構成目標
2030年の電源構成目標は、石炭が43.2%、ガス/ディーゼル15.2%、風力14.6%、太陽光10.2%、水素6%、揚水3.7%、自家発電3.3%、原子力2.3%、集光型太陽光0.8%、そのほか0.6%

出所:鉱物資源エネルギー省の報告書からジェトロ作成

深刻なエネルギー不足が続く

2000年代に入って南アでは、人口増加や経済成長などにより電力需要が高まった。2000年代後半からエスコムは、十分な電力供給ができず、国内では断続的な計画停電が長年発生している。2022年10月現在も、日によって数時間にわたる停電があり、市民生活にも甚大な影響を及ぼしている。

2022年7月、シリル・ラマポーザ大統領は国民演説で深刻な電力不足について説明し、電力不足解決のためにエスコムの改革や、事業免許なしでの民間企業の電力セクター参入を可能にすることなど、新たな取り組みを発表した。現在、南アの電力需要は、ピーク時には3,200万キロワット(kW)程度で、エスコムは約4,600万kWの発電設備を保有するものの、保有する発電所の平均築年数は35年で、各発電所の生産能力は低下している。さらに、老朽化による計画外の停電やメンテナンスのために、総容量に対して60%しか発電できていない。

再エネ含め、民間からの電力調達に注力

政府は発電能力を向上させるため、2010年に再エネ独立発電事業調達計画(REIPPPP)を発表した。同計画は、独立系発電事業者(IPP)から電力調達するための入札を実施し、再エネ普及を推し進める呼び水となっている。

2021年に実施した第5次入札までで合計約900万kWの再エネ調達案件が落札された。91案件のうち76案件が稼働済みだ。最新の進捗は発表されていないが、南ア科学産業研究評議会(CSIR)によると、2018年までにIPPによって太陽光発電で147万9,000kW、風力発電で207万8,000kW、地熱発電で40万kWの生産量になった(図3参照)。2022年は10月3日に第6次新規公募を締め切った。この入札では、風力発電160万kWと太陽光発電100万kWの新規追加調達を見込んでいる。

過去の入札には日系企業も参画している。ただし、応札に当たって、黒人経済力強化政策(BEE)のレベルや、現地調達率などの参加条件が厳しく、南ア企業や外国企業と連携して参加する例が多い。

図3:IPPによる実質電力生産量の推移
IPPによる実質の電力生産量は、2013年には太陽光が210千kw、風力が210kw、2014年は太陽光が960千kw、風力が560千kw、2015年太陽光が1,075千kw、風力が965千kwだった。2016年に入り、太陽光1479千kw、風力1460千kwにあわせて太陽熱が新規で200千kw増えた。2017年太陽光が1479千kw、風力が2078千kw、太陽熱が300千kw。2018年年は太陽光、風力に変化はないが太陽熱だけは400千kwとなった。

出所:科学産業研究評議会の発表を基にジェトロ作成

欧米勢との連携

2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、南アはフランス、ドイツ、英国、米国、EUと「公正なエネルギー移行パートナーシップ」を締結した。ここでは、85億ドルの資金援助が約束され、今後約5年かけて南アがグリーンエネルギーに移行するための研究開発などに充てられる予定だ。南ア政府は「水素社会ロードマップ」の下でグリーン水素の活用促進を積極的に打ち出しており、この資金調達はロードマップ実現への追い風となるはずだ。既にさまざまな実証実験が行われており、製造、貯蔵が可能な施設や国外輸送のための港も建築する計画だ(調査レポート「南アフリカ共和国の水素市場」参照)。

水素をはじめとするグリーンエネルギーへの転換を急ぐ一方で、足元の不安定な電力事情を改善しつつ、いかに経済発展を維持していくか、今後の南ア政府のかじ取りに注目だ。


注:
大気汚染を調査する研究機関クレア(CREA)の2021年10月の発表。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
堀内 千浪(ほりうち ちなみ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部、ジェトロ浜松などを経て、2021年8月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
トラスト・ムブトゥンガイ
ジンバブエ出身。2011年から、ジェトロ・ヨハネスブルク事務所勤務。主に南部アフリカの経済・産業調査に従事。

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