特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス気候変動対策を国家開発戦略の柱に(コートジボワール)
森林保全と再生エネ転換に注力

2022年11月4日

コートジボワール経済は、新型コロナウイルス感染拡大を受け、一時的に成長が鈍化したものの、2011年から2021年まで毎年6~10%台の高い成長を記録するなど高い経済成長が続く。その間、国内外の企業による投資も増え、中間所得層の拡大とともに生活水準も向上している。一方、活発な産業活動に伴いエネルギー消費量が増え、環境負荷も増大している。海面上昇がもたらす海岸侵食問題や洪水被害など、コートジボワールでも気候変動の影響とみられる事象が多々生じており、気候変動問題への対応は喫緊の課題となっている。国際協定への参画を契機に、気候変動対策の行動計画策定も進み、民間分野を巻き込んだ環境問題への対応に着手し始めている。本稿では、コートジボワールにおける気候変動対策について、国の政策や企業の動きを通じて、今後の動向を探る。

再エネへの転換と森林保全が主要な政策目標

国連気候変動枠組み条約の締約国であるコートジボワールは、パリ協定に基づきNDC(国が決定する貢献)として「2030年までの温室効果ガスの排出量28%削減(注1)」を掲げた。NDCでは、電源構成における再生可能エネルギー比率の引き上げ、農業生産の強化と機械化、森林部門における温室効果ガス(GHG)排出の削減、廃棄物の持続的管理と回収に焦点が充てられている。

NDCは、5年ごとに策定される「2021~2025年国家開発計画」にも盛り込まれている。同計画では、国の発展のための6つの優先戦略が定められており、その1つに「バランスのとれた地域開発・環境保全・気候変動対策」が掲げられている。また、同計画の実現のため「国家気候変動プログラム(NCCP)」が導入された。ここでは、エネルギー、農業、森林、廃棄物の主要分野に注力し、環境技術の適用や各分野における目標が設定されている。

中でも、GHG排出量の多くがエネルギー部門関連であることから、化石燃料に依存する発電が主な要因であるとし、政府は再エネへの転換に注力している。このうち、主な取り組みとしては、電源構成における再エネ比率の拡大が挙げられ、2030年までにバイオマス、太陽光、小水力などの水力による発電容量を、全体の42%にまで引き上げることを目指している。

コートジボワールの「REDD+」国家戦略

コートジボワールは、アフリカ地域で有数の農業国だ。世界最大のカカオ生産国としても知られる。農業生産の増加はこれまで、森林開拓による耕作面積の拡大によってもたらされてきたが、その結果、コートジボワールでは、この100年足らずの間に森林の9割近くが失われた。

政府は、森林を回復させるため、2011年に国際的なREDD+メカニズム(注2)に参加した。また、2030年までに国土の20%以上の森林被覆率(注3)を達成することを目標に掲げ、すべてのステークホルダー(公的機関、民間企業、市民社会組織)を巻き込んだ「国家REDD+戦略」を策定している。この戦略は、経済発展、社会福祉、天然資源の持続可能な管理を組み合わせた包括的なアプローチに国全体がコミットするというもの。主に官民パートナーシップによる森林破壊ゼロの農業、持続可能な森林管理、植林・森林再生、環境に配慮した鉱物資源採掘、生態系サービスへの支払い(PES)スキームの構築など、8つの戦略を支柱にしている。

企業を巻き込んだ気候変動対策、外国機関も積極支援

前述のとおり、コートジボワールは世界最大のカカオの生産・輸出国だ。カカオ産業が森林破壊に与える影響は国内だけでなく、世界のカカオバリューチェーンに関わるすべてのステークホルダーにとっても、依然として大きな懸念事項となっている。コートジボワール当局は、2023/2024耕作年度から、国内で生産されるすべてのカカオを対象に、生産者から輸出業者までの流通過程にトレーサビリティを導入し、森林破壊につながる商品の輸出を監視する。欧州ココア協会(ECA)と欧州チョコレート・ビスケット・菓子産業協会(CAOBISCO)は、この取り組みについて、コートジボワールのコーヒー・カカオ評議会(CCC)へ協力を約束している。

コートジボワールでは、高い経済成長とともに環境対策の導入が進んでいる。緑の気候基金(GCF)(注4)は、持続可能なカカオ農法に1,200万ドルを支援したほか、グローバル・グリーン成長研究所(GGGI)(注5)と共同で建築・住宅基準を強化し、グリーンビルディングの規制・基準を確立するための調査に50万ドルを拠出した。

フランス開発庁(AFD)は、気候変動対応のための金融システム変革プログラムの一環として、コートジボワール国立投資銀行(BNI)と連携し、再エネや低炭素エネルギー、エネルギー効率化、スマート農業技術など気候変動対策に取り組む企業を後押しするため6,000万ユーロの融資枠を設定し、投融資を推進していく構えだ。

ドイツは、コートジボワールとの間で「コンパクト・アフリカ」イニシアティブの下、2国間連携協定を締結しており、ドイツ復興金融公庫(KfW)を通じて、再エネ推進とともに、温室効果ガス排出量削減への取り組みを支援している。

外国企業の技術を用いて低炭素・脱炭素化に取り組む

コートジボワールは原油や天然ガスの産出国であるが、近年は再エネの発電容量増加に取り組んでいる。こうした中、地場企業と外資企業との連携で、低炭素化・脱炭素化の取り組みやグリーンエネルギー開発の事例が見られる。

フランス電力大手EDFはコートジボワール政府との間で、バイオマス発電所のコンセッション契約に調印した。コートジボワールでは、2030年までに電源構成の42%を再エネで賄うことを目標とする「国家再生可能エネルギー行動計画2016-2030(PANER)」を導入しており、当該期に748メガワット(MW)の電力をバイオマスから生産するため15件のバイオマス発電プロジェクトを見込んでいる。このうち、ビオベア・エネルギーによるアブラヤシ廃棄物を使用した容量46MWのバイオマス発電プロジェクトは、2024年に稼働の予定だ。

フランス電力(EDF)、メリディアム、SIFCA傘下のビオカラが事業に参画しており、総額2億3,200万ユーロと見積もられるプロジェクトには、フランス開発庁(AFD)傘下のプロパルコと、民間インフラ開発グループ(PIDG)傘下のエマージング・アフリカ・インフラファンド(EAIF)がそれぞれ1億6,500万ユーロ、1,300万ユーロを融資している。農業廃棄物を燃料とする西アフリカ最大の発電所となる。

また、カカオの廃棄物を利用した世界初となるバイオマス発電所の建設も計画されており、米国貿易開発庁(USTDA)がフィージビリティ調査に100万ドルを融資する。このほか、各地方でも、カカオ、ゴム、綿花などの残渣(ざんさ)を使用したバイオマス発電プロジェクトが計画されており、米国国際開発庁(USAID)がパワーアフリカプログラムを通じてプロジェクト支援を見込んでいる。

西アフリカ諸国へ電力を輸出するコートジボワールでは、環境負荷の大きい通常の火力発電の新規開発を抑制する代わりに、環境面で有利なガスタービンと蒸気タービンを組み合わせたコンバインドサイクルガス発電が積極的に導入されている。フランスERANOVEがコンセッションとして参加する、西アフリカ初の独立系発電事業者(IPP)のCIPRELは、天然ガスを燃料とするコンバインサイクルガス発電技術を採用し、高効率化を図っている。現在の発電能力は556MWで、国内発電能力の3割弱を占める。


CIPRELコンバインドサイクルガス発電所(同社提供)

コートジボワール沖合で大規模油田を発見したイタリアENIは、2023年中の生産開始を目指して開発を加速する中、カーボン・オフセットに取り組んでいる。現在進行中のイニシアティブの中には、2022年6月に始まった、地元で製造され、地元経済に直接影響を与える環境に優しい改良型調理器具の広範囲にわたる配布プログラムや、REDD+の枠組みの中での森林やサバンナの保全、回復、管理のためのプロジェクトが含まれている。

フランスEGISがコンセッションとして参加する、国内最大のアビジャン・フェリックス・ウッフェ・ボワニ国際空港(AERIA)は、温室効果ガスの削減に積極的な姿勢をみせている。同空港は2015年、空港カーボン認証プログラムに参加し、2017年には二酸化炭素(CO2)の排出削減を目的とした「空港カーボン認証(ACA)」制度における最高位の「レベル3+」を獲得した。これは「カーボン・ニュートラル」を達成した国際空港に付与されるもので、AERIAはアフリカで初の空港となった。

グリーンファイナンス導入、企業にESG順守を促す

フランス語圏西アフリカ地域の金融ハブとして機能するコートジボワールは、環境プロジェクトに必要な資金を調達するためのグリーンファイナンスなど、新たなビジネス機会の創出も目指している。政府は今後、気候変動や環境に配慮した投資を支援するためグリーンボンドを組成・発行する予定だ。

アビジャン市内のヨプゴン地区にある大型商業施設「COSMOS」は2021年8月、フランス語圏の西アフリカ地域で初めてグリーンボンドを発行し、1,810万ドルを調達した。グリーンファイナンスによって建設されたこの複合施設は、エネルギー効率の高い電気設備や給排水設備を導入し、国際金融公社(IFC) によるEDGE(効率改善のための優れた設計)と呼ばれる建築物の資源の効率性に関する認証を取得した。民間企業が環境・社会・カバナンス(ESG)への対応を強化する見返りに、譲許的な金利で資金を調達することができる機会となっている。

EDGE認証を受けたショッピングセンター外観(左)と内観(右)(ジェトロ撮影)


注1:
政府は、さらに31%の高みに向け挑戦を続けていくとしている。
注2:
REDD+(Reduction of Emission from Deforestation and forest Degradation)メカニズムは、途上国での森林減少・劣化の抑制や持続可能な森林経営などによって、温室効果ガス排出量を削減あるいは吸収量を増大させる取り組みに排出権などのインセンティブを与える国際的メカニズム。
注3:
国土面積に占める森林面積の割合。
注4:
開発途上国の温室効果ガス削減(緩和)と気候変動の影響への対処(適応)を支援するため、気候変動に関する国際連合枠組み条約(UNFCCC)に基づく資金供与の制度の運営を委託された基金。
注5:
韓国が主導して設立された国際機関で、特に発展途上国のグリーン成長実現に向けた戦略策定を支援する。
執筆者紹介
ジェトロ・アビジャン事務所
渡辺 久美子(わたなべ くみこ)
1990年から、ジェトロ・アビジャン事務所勤務。主にフランス語圏アフリカの経済・産業調査に従事している。

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