特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス国内で電力不足が問題に、政府は再エネ導入に意欲(イラン)

2022年11月11日

イランは、世界第2位の天然ガス埋蔵量、世界第4位の石油埋蔵量(2020年)を誇る世界有数の資源国だ。しかし、増加する国内のエネルギー需要に対し、欧米による経済制裁の影響もあり、設備の老朽化などから、電力不足が問題となっている。政府は電力不足解消などのため、エネルギー効率を高めると同時に、再生可能エネルギー導入を進めるとしている。

本稿では、イランの最新のエネルギー事情と、再生可能エネルギーの導入に向けた取り組みと課題についてのインタビューを紹介する。

火力発電が8割超、国内では電力不足

イランのエネルギー省が発表した年次統計報告書によると、2021年度(2021年3月21日~2022年3月20日)のエネルギー別発電容量は、複合火力発電が3万3,132メガワット(MW、構成比37.7%、対前年度6.3%増)で一番多く、次にガス火力発電が2万1,904MW(同24.9%、0.3%減)、石油などによる火力発電が1万5,829MW(同18.0%、増減なし)で、火力発電が8割超を占める。火力発電に次いで、水力発電が1万2,543MW(同14.3%、2.9%増)となっている。

再生可能エネルギーは933MWで、全体の1.1%にとどまっている。ただし、エネルギー省の分類は水力発電を再生可能エネルギーに含めておらず〔小水力発電(注1)は含む〕、水力発電を合わせると15.4%となる(表1参照)。

表1:2021年度のエネルギー別発電容量(単位:MW、%)(△はマイナス値)
エネルギー 発電容量(MW) 構成比
(%)
対前年度比(%)
火力(石油など) 15,829 18.0 0.0
火力(ガス) 21,904 24.9 △ 0.3
複合火力 33,132 37.7 6.3
水力 12,543 14.3 2.9
原子力 1,020 1.2 0.0
分散型熱電供給 2,168 2.5 7.2
再生可能エネルギー 933 1.1 11.8
ディーゼル 407 0.5 △ 7.3
合計 87,936 100 2.9

出所:イラン・エネルギー省の2021年度年次統計報告を基にジェトロ作成

同報告書によると、ピーク時の最大消費需要電力量(2021年6月18日午後2時27分時点)は6万7,205MWで、対前年度比4.9%増だった。一方、実際に発電できる最大発電許容量については、火力・原子力が5万3,371MW(対前年度比1.1%増)、水力・再生可能エネルギーが1万664MW(同8.4%減)で合計6万4,035MW、実際の電力供給量は5万5,279MW(同5.4%減)と、最大消費需要に追い付いていない実態が見てとれる(表2参照)。

表2:2021年度のエネルギーごとの最大発電許容量、供給量、最大消費需要

最大発電許容量(単位:MW、%)(△はマイナス値)
項目 (MW) 対前年度比(%)
火力・原子力 53,371 1.1
水力・再生可能エネルギー 10,664 △ 8.4
合計 64,035 △ 0.6
供給量(単位:MW、%)(△はマイナス値)
項目 (MW) 対前年度比(%)
供給量
(2021年6月18日14時10分)
55,279 △ 5.4
最大消費需要(単位:MW、%)(△はマイナス値)
項目 (MW) 対前年度比(%)
ピーク時の最大消費需要
(2021年6月18日午後2時27分)
67,205 4.9

出所:イラン・エネルギー省の2021年度年次統計報告を基にジェトロ作成

再エネ目標は未達も、2021年度の発電容量は前年度比11.8%増

イランの第6次経済開発5カ年計画(2016年度~2020年度、注2)では、エネルギー分野の目標と戦略として、国家のエネルギー選択の経済的多様化を図るため、再生可能エネルギーと環境に優しい技術の商用化を行い、国家の電力生産能力における再生可能エネルギー割合を上げるとしていた。また、電力などの分野に外資導入を図り、具体的には、2020年度までに火力発電による発電容量を2万MW、再生可能エネルギーによる発電容量を5,000MW増やすとしていた。しかし、2021年度の再生可能エネルギー(水力を除く)の発電容量は933MWとなっていることから、第6次5カ年計画の目標は達成できなかったことがうかがえる。

同報告によると、再生可能エネルギーのうち最大の発電容量があるものは太陽光発電で、2021年度に484.24MW(前年度410.06MW)、次に風力が324.18MW(同302.86MW)、小水力が100.62MW(同100.62MW)となっている(表3参照)。前述のとおり、再生可能エネルギーが発電容量に占める割合は依然少ないものの、対前年度の増加率は11.8%増と伸びている。

表3:2021年度の再生可能エネルギーの種類別発電容量(単位:MW、%)
エネルギー 2020年度 2021年度 対前年度比
(%)
風力 302.86 324.18 7.0%
太陽光 410.06 484.24 18.1%
小水力 100.62 100.62 0.0%
バイオマス 11.42 14.42 26.3%
廃熱発電 9.60 9.60 0.0%
合計 834.56 933.06 11.8%

出所:イラン・エネルギー省の2021年度年次統計報告を基にジェトロ作成

政府は再エネに意欲、太陽光・風力で計画進む

ここまで見てきたように、イランでは現状、電力の供給量が最大消費需要電力量を賄えていない中で、再生可能エネルギーの促進が期待される。ジェトロは、イラン商工会議所が設立したNGOのイラン再生可能エネルギー協会のベフナム・トルカシュバンド副会長に、イランの再生可能エネルギーの現状や課題について話を聞いた(2022年10月12日)。


イラン再生可能エネルギー協会副会長のベフナム・トルカシュバンド氏(本人提供)
質問:
協会について。
答え:
当協会には約70社の再生可能エネルギー関連企業が参加しており、再生可能エネルギーに関する情報交換や投資誘致などを行っている。産油・産ガス国であるイランで再生可能エネルギーというと、誰もが疑問を感じると思うが、政府は既存のエネルギー分野への補助金を削減する方向にある。われわれは再生可能エネルギーの重要性は今後ますます高まると考えている。
質問:
イランの再生可能エネルギーの現状について。
答え:
当協会では、イランには8万MWの再生可能エネルギー発電のキャパシティーがあると考えている。また、政府も再生可能エネルギーによる発電に力を入れており、買い取り保証額などを決定して、再生可能エネルギーによる発電容量を1万MWにする計画を持っている。このうち7,000MWについては計画が動き始めており、4,000MWが太陽光発電、3,000MWが風力発電になる予定だ。特に太陽光発電部分の4,000MWのうち1,400MWについては、具体的に動き始めている。
質問:
老朽化している既存のガス採掘施設や輸送施設、発電施設などの効率化などの課題は。
答え:
ご指摘のとおり、特にガス関連の施設の老朽化は問題だと認識しており、採掘や輸送、発電といった各施設の効率化が重要な点は否定できない。ただし、それぞれの施設を効率化するには多額の費用と時間がかかる。われわれとしては、まずは再生可能エネルギー分野である程度、電力需要を賄いながら、既存施設の効率化を図っていくほうが効率的と考えている。
質問:
日本企業に期待することは。
答え:
イランでは、政府も積極的に再生可能エネルギーでの発電に取り組み始めており、今がビジネスに参加するチャンスだ。私自身も太陽光発電の会社を経営しているが、実際に外国の投資も受け入れており、広く外国からの投資に期待している。イランは米国による経済制裁下にあるので、なかなか難しいとは思うが、ぜひ日本企業にも参入してほしい。

注1:
一般河川や用水路などを利用した小規模な水力発電。
注2:
本原稿執筆時点で、第7次経済開発5カ年計画は策定中。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所長
鈴木 隆之(すずき たかゆき)
1997年、ジェトロ入構。展示事業部、産業技術部、アジア経済研究所、ジェトロ高知、ジェトロ愛媛などを経て2020年から現職。海外はラゴス(ナイジェリア)、ロンドンに駐在。
執筆者紹介
ジェトロ・テヘラン事務所
マティン・バリネジャド
2018年からジェトロ・テヘラン事務所勤務。ビジネス短信や各種調査、展示会などを担当。

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