特集:COP27に向けて注目される中東・アフリカのグリーンビジネス循環型炭素経済を目指し、水素事業を推進(サウジアラビア)

2022年11月9日

サウジアラビアは世界第2位の産油国である。国際エネルギー機関(IEA)によると、2019年のサウジアラビアのエネルギー供給量の内訳は、石油が5,624ペタジュール、天然ガスが3,358ペタジュール、風力・太陽光などの再生可能エネルギーは1,557テラジュールだった(注1)。2010年以降、再生可能エネルギーの供給量が増加しつつあるが、石油と天然ガスの供給量が圧倒的に大きいことがわかる(表参照)。

一方、近年は世界中で主要エネルギーの石油など化石燃料からの脱却が加速し、石油ニーズは今後さらに減少していくと見込まれる。世界の潮流に対し、サウジアラビアは石油に代わる環境に配慮した次世代エネルギーを創出する必要が生じている。

表:サウジアラビアのエネルギー供給量の推移 (単位:テラ・ジュール)(-は値なし)
石油 天然ガス 風力・
太陽光等
バイオ燃料・
廃棄物
2009 4,467,802 2,187,996 250
2010 4,835,969 2,507,895 14 250
2011 5,138,903 2,554,338 18 281
2012 5,125,692 2,773,333 86 282
2013 5,051,753 2,802,839 144 282
2014 5,741,228 2,911,321 151 282
2015 6,075,142 2,984,104 464 313
2016 5,887,749 3,105,160 559 313
2017 5,897,357 3,266,096 559 314
2018 5,632,757 3,312,098 559 320
2019 5,624,350 3,357,725 1,557 325

出所:国際エネルギー機関(IEA)の資料からジェトロ作成

2060年カーボンニュートラルに向けた取り組み発表

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は2021年3月、炭素排出量削減への取り組みの一環として、今後数十年でサウジアラビア国内に100億本の植樹を行い、国土の3割以上を保護地域に指定することで、世界全体の4%相当の二酸化炭素(CO2)削減を目指すとした「サウジ・グリーン・イニシアチブ」(2021年10月25日付ビジネス短信参照)を立ち上げ、2030年までに電力の50%を自然エネルギーで賄うとの目標を掲げた。

また、2021年10月23~25日にリヤドで開催された「サウジ・グリーン・イニシアチブ(Saudi Green Initiative:SGI)フォーラム」では、「2060年までに炭素排出量をネットゼロにする」と発表し、2030年までに年間排出量を2億7,800万トンにまで削減し、世界のメタンガス排出量の削減にも協力するという目標を発表した。この目標にはサウジアラビアの石油最大手サウジアラムコも同調、2050年までに温室効果ガス「ネットゼロ」の達成目標を発表している。

地理的優位性を生かし、水素事業に積極的に取り組む

世界的に水素エネルギーの需要が高まっている。IEAによると、2021 年の世界全体の水素需要は、過去最高だった2019 年の9,100 万トンを上回る9,400 万トンに達した。IEAは、世界の水素需要は2030 年までに 1 億 1,500 万トンに増加すると予測している。

循環型炭素経済(注2)を提唱するサウジアラビアは、再生可能エネルギーや水素事業に積極的に取り組む姿勢を打ち出している。広大な砂漠地帯、安い地価、豊富な太陽光熱とガス資源を背景に、特に開発のコスト面で優位性があると言える。

水素やアンモニア分野は2050年までに世界的に数千億ドル規模の市場になると予測されていることから、サウジアラビアは2021年ごろから、各企業との協業案件を立ち上げ、輸出を見据えた試験的プロジェクトを開始している(2021年6月2日付地域・分析レポート参照)。ブルー水素とグリーン水素の両方で2030 年までに年間 290 万トン、2035年までに年間 400 万トンの生産を目標としており、サウジアラビアが開発中のスマートシティNEOMでは、2026年に日量650トンのグリーン水素の生産を開始すると、NEOM工業都市(OXAGON)の最高経営責任者(CEO)がリヤドで開催されたサウジ国際鉄鋼会議で発表している。

アブドゥッラー国王石油調査研究センター(KAPSARC: King Abdullah Petroleum Studies and Research Center)が2022年3月に発行した報告書「サウジアラビアにおける水素生産の経済性と資源ポテンシャル」は、地域的な優位性によってサウジアラビアは、グリーン水素とブルー水素の両方を網羅する幅広い水素戦略を追求することが可能で、製品のコストと生産能力の点で非常に競争力があると示唆している。

石油・ガス生産、精製、化学産業の優れた設備を有す東部地域は、ブルー水素産業の発展を促進するインフラが整備されおり、CO2を地下に貯蔵することが可能な貯留層へのアクセスが容易な点が強みだ。西部地域は、グリーン水素製造のための低コストの電力を生産可能な太陽光や風力などの資源に恵まれている。北西部に位置するNEOMのプロジェクトは太陽光、風力などの再生可能エネルギーから4ギガワット(GW)以上の発電能力を有し、NEOM、Air Products、ACWA Power のコンソーシアムが主に輸出向けとして世界最大級のグリーンアンモニア製造プラントの建設を進めている。2026年の稼働を目指しており、1日当たり650トンの水素を生産するなど、再生可能エネルギーを動力源とする世界最大の実用規模の商用水素生産施設となる。

その他、サウジアラビア公的投資基金が全額出資した5,000億ドル規模のプロジェクトで、豊富な天然資源を強化し、持続的に保全することを目的として2021年3月に設立されたENOWA は、2022年4月に地域初の水素・イノベーション開発センター(HIDC)をNEOMに設立した。HIDCは、クリーンエネルギー産業の新技術の実験場として、水素と循環型炭素経済に特化した研究機関となる。合成燃料(注3)の開発はアラムコと連携し、HIDCのグリーン水素の研究データを活用しながら、合成燃料プログラムの開発を進め、合成燃料の製造可能性の実証を行う。

世界初のブルー認証を取得、日本との連携も

サウジアラムコとSABICアグリ・ニュートリエンツ・カンパニー (以下、SABIC AN) は2022年4月、ドイツに本拠を置く独立の試験・検査・認証機関のテュフ・ラインランド(TÜV Rheinland)から、ブルー水素とアンモニア製造の世界初となる第三者認証を取得した。認証は、東部州ジュベイルを拠点とするSABIC ANが生産する3万7,800トンのブルーアンモニアと、同じくジュべイルにあるアラムコの自社製油所「SASREF」で生産する8,075トンのブルー水素が対象となった。アンモニアと水素のブルー認証には、その生産プロセスで排出するCO2の大部分を回収し、下流の工程で利用する必要がある。アラムコは2030年までに年間最大1,100万トンのブルーアンモニアを生産するという目標を発表し、現在、炭素回収能力と水素製造能力の開発を行っている。

日本との連携も進む。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は2022年10月8日、サウジアラムコと「水素・アンモニア分野における包括協力協定(MOC)」を締結した。JOGMECの前身の石油公団時代を含め、アラムコとの間でのエネルギー開発分野の継続的協力関係の構築は、今回のMOC締結が初となる。カーボンニュートラルに向けた将来の低炭素エネルギーとして期待される水素・燃料アンモニアを対象として、その製造や貯蔵に係るプロジェクト支援・技術開発・人材育成で連携していくことで合意がなされた。


注1:
ジュールはエネルギーの単位で、テラは10の12乗、ペタは10の15乗を表す。
注2:
Reduce(削減)、Reuse(再利用)、Recycle(リサイクル)、Remove(除去)という4つのアプローチによって、炭化水素を利用しながら脱炭素化を図るというコンセプト。サウジアラビアが議長国を務めた2020年のG20首脳会議で発表。
注3:
合成燃料は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料。複数の炭化水素化合物の集合体で、人工的な原油と称される。
執筆者紹介
ジェトロ・リヤド事務所
林 憲忠(はやし のりただ)
2005年、ジェトロ入構。市場開拓部、ジェトロ大阪、ジェトロ・プノンペン事務所、ジェトロ・チェンナイ事務所、農林水産部、国税庁、海外調査部中東アフリカ課を経て、2022年8月から現職。

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