特集:エネルギー安全保障の強化に挑む欧州長期的なエネルギー安全保障に向けEDFを国有化し原発建設を推進(フランス)

2022年9月1日

フランス・エコロジー移行省(現エコロジー移行・国土結束省)の2021年9月の資料(フランス語)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(3.9MB)によると、フランスの2020年の一次エネルギー消費量は2,571テラワット時(TWh)となり、新型コロナ禍での移動制限措置の影響などから化石燃料を中心に前年比8.3%減を記録した。一次エネルギー消費量は2005年の3,155TWhをピークに緩やかな縮小を続ける。内訳をみると、原子力が全体の40.0%と最大で、これに石油の28.1%、天然ガスの15.8%が続く(図参照)。石炭と石油の消費量は1990年比で前者が72%減、後者が27%減となった一方、原子力は15%増、天然ガスは44%増となった。化石燃料は46.4%で(石油28.1%、石炭2.5%、天然ガス15.8%の合計)、原子力を上回った。再生可能エネルギーは12.9%で、暖房用木質チップなどの固形バイオマス燃料が全体の4.4%となり、これに水力エネルギーの2.4%が続いた。

図:フランスの2020年の一次エネルギー消費量構成(%)
原子力40.0%、石油28.1%、天然ガス15.8%、石炭2.5%、その他廃棄物0.8%、その他12.9%。その他12.9%の内訳は、固形バイオマス4.4%、水力2.4%、風力1.6%、バイオ燃料とヒートポンプが各々1.3%、その他1.9%。

出所:エコロジー移行省

2020年の一次エネルギー生産量は、前年比8.7%減の1,423TWhだった。うち75%を占める原子力エネルギーの生産量は、原子力発電所のメンテナンス作業の遅れやフッセンハイム原発の閉鎖などを理由に1,072TWhと前年から11.3%減少した。再生可能エネルギーは緩やかな拡大が続き、2020年は322TWhと全体の22.6%を占めた。内訳は、バイオマスが34.2%、水力が19.3%、風力が12.7%、ヒートポンプが10.1%、バイオ燃料が8.4%だった。フランス国内での化石燃料の採掘は2000年代半ばまでにほぼ終了した。

送電系統管理会社RTE(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、フランスの2021年の発電量は522.9TWhとなり、新型コロナ危機の影響やフッセンハイム原発の閉鎖などから急減した2020年の500.6TWhから増加に転じた(表参照)。電源構成をみると、原子力が全体の69%を占め最大だ。次は拡大を続ける再生可能エネルギー(水力発電を含む)で、2021年は23.6%を占めた。再エネでは水力が62.5TWhと最大で、これに風力(36.8TWh)、太陽光(14.3TWh)が続いた。化石エネルギーは7.4%を占め、うち天然ガスが32.9TWh、石炭が3.8TWh、石油が1.9TWhだった。

表:フランスにおける電源別の発電量(輸入を含まない) (単位:TWh、%)
電源 発電量 構成比
2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2021年
化石エネルギー 天然ガス 41.1 31.2 38.5 34.5 32.9 6.3
石炭 9.8 5.8 1.6 1.4 3.8 0.7
石油 3.0 1.8 2.0 1.7 1.9 0.4
原子力 379.1 393.2 379.5 335.4 360.7 69.0
水力 53.5 68.2 60.1 65.5 62.5 12.0
再生可能エネルギー 太陽光 9.2 10.8 12.3 12.7 14.3 2.7
風力 24.0 28.1 33.8 39.7 36.8 7.0
その他 9.5 9.6 9.7 9.6 10.0 1.9
合計 529.2 548.8 537.5 500.6 522.9 100.0

出所:RTE「Bilan Electrique 2021」を基にジェトロ作成

2020年のフランスのエネルギー自給率は55.3%(注1)だった。化石燃料は100%近くを輸入に依存する。エコロジー移行省の前述の資料によれば、2020年の原油の輸入相手国はカザフスタンが530万トンと全体の16%を占め首位で、米国は430万トンで2位、2019年まで首位だったサウジアラビアは輸入量が前年から46%縮小し3位となった。このほか、北アフリカからの輸入は全体の13.1%と前年から4ポイント縮小する一方、北海からの輸入は前年から5ポイント上昇し全体の13.0%を占めた。

2020年の石炭の輸入は、オーストラリアとロシア(それぞれ200万トン強)で計6割、これに米国(120万トン)、南アフリカ共和国(80万トン)、コロンビア(50万トン)が続いた。フランスでは2020年12月時点で4カ所の石炭火力発電所が稼働していたが、2022年3月までに3カ所の発電所が閉鎖され、残る1カ所はバイオマス発電所に転換された。2020年の天然ガスの輸入相手国は、ノルウェーが36%、ロシアが17%、オランダとアルジェリアがそれぞれ8%、ナイジェリアが7%、カタールが2%だった。

エネルギーの消費抑制制度の導入を検討

フランスのロシア産化石燃料への依存度(注2)を見ると、原油が13%(2019年)、天然ガスが17%(2020年)、石炭が30%(2020年)で、ドイツなど他のEU加盟国に比べると小さい。首相府付経済分析評議会は2022年4月時点で、原油と石炭については、天然ガスよりもはるかに容易に、ロシア以外の国からの輸入拡大で対応可と見込んでいた。

フランス石油産業連合(Ufip)のオリビエ・ガンドワ会長は7月12日、ニュース専門局フランスアンフォで、 EUのロシア産原油禁輸措置について「フランスは北米、中東、インドからも原油を輸入する。すでに代替が行われており、調達不足は起こらない」との見解を示した。また、フランスは7月18日、アラブ首長国連邦とエネルギー分野における戦略的パートナーシップの締結に合意した。

石炭については、国内消費量全体の5割(2020年)を占める製鉄業への打撃が懸念される。フランスに40カ所以上の製造拠点を持つ鉄鋼大手アルセロールミタル欧州のバン・ポールブールド社長は、3月22日のブルームバーグ通信社のインタビューで、これまで欧州の製鉄所向け石炭供給のほぼ20%をロシアに依存してきたが、3週間かけて石炭の供給先を再編し、ロシアからの調達を停止した、と述べた。

天然ガスは、エネルギー大手のエンジーがロシア国営石油大手ガスプロムから全体の20%を調達していた。しかし、同社の天然ガス事業子会社GRTガズによれば、ロシア産天然ガスは2022年1~5月に前年同期比で60%以上減少し、6月15日にドイツ経由のパイプラインで調達している天然ガスの供給は途絶えた。

GRTガズは、ノルウェー産液化天然ガス(LNG)の調達を増やすとともに、スペイン経由で調達している天然ガスを1日当たり100GWh(ギガワット時)から220GWhまで増やして対応。2022年1~5月の輸入量は前年同期比で66%増加した。同社は保有する4カ所の液化天然ガスターミナルをフル稼働させているが、さらに輸入量を増やすため、南部フォス・カバウの設備を2022年に11TWh、2023年に13TWh、2024年に30TWhに拡張する計画だ。

また、同社がエコロジー移行・国土結束省、トタルエナジーズなどとルアーブル港に設置予定の浮体式天然ガス貯蔵再ガス化施設(FSRU)については、2023年夏に稼働の予定で、追加で年間45TWhの天然ガスの輸入が可能になるとした。

GDTガスは、2022年6月時点でガスの備蓄率は59%に達しており、冬季の天然ガス供給力については問題ないとしたが、寒波到来によって需給が逼迫した場合は、一部の製造業事業者に対し、補償と引き換えに供給量を縮小する警戒メカニズムを発動する可能性に言及した。

エコロジー移行省の前述の資料によると、フランスでの2019年の天然ガスの消費は住宅向けが全体の31%、製造業向けが28%、電力・熱生産向けが19%、サービス業向けが17%で、天然ガス発電は発電量全体の6.3%を占める。

エリザベット・ボルヌ首相は6月23日、ガス備蓄率を2022年秋までに100%近くに引き上げるため、ガス供給事業者のほか、ガス貯蔵事業者にも備蓄を最大限増やすよう求める方針(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを示した。また、7月7日に閣議決定した緊急家計支援法案の中で、エネルギー安全保障確保に向けてガスの消費抑制制度の導入を検討するとしたほか、冬季の電力不足に備えて3月に閉鎖したモーゼル県のサン・アボール石炭火力発電所を期限付きで再稼働させる措置を盛り込んだ。

エマニュエル・マクロン大統領は7月14日、エネルギー不足を回避するため、集団的にエネルギー節減の努力を始める必要があると発言。これを受けて、アニエス・パニエ=リュナシェ・エネルギー移行相は7月15日、今後2年間でフランス全体の燃料、天然ガス、電気の消費量を10%削減することを目標に、まず公的セクターが模範となり「暖房を19度超、冷房を26度以下に設定しない」「在宅勤務を奨励する」などの省エネ対策を実施しつつ、企業経営者団体、大手小売業者、住宅関連業者などセクター別に具体策を協議すると発表した。

フランス電力を国有化、原発建設を推進

ボルヌ首相は7月6日の施政方針演説で、ウクライナ戦争の影響に対応しつつ、エネルギー安全保障の確保に向けて原子力を推進していく方針を確認した。フランスは原発依存度を2035年までに50%に引き下げる目標を定めており、「再生可能エネルギーと原子力の均衡した電源ミックスの達成を目指す。再生可能エネルギーの普及を加速すると同時に、原子力分野では次世代原子炉の建設と未来の原子炉開発に投資する」と述べた。

そのうえで、フランス電力(EDF)を100%国有化する方針を表明し、「国有化は、EDFが我々のエネルギーの未来に欠かせない野心的なプロジェクトを迅速に実現することを可能にする」と説明した。EDFを国有化することで、マクロン大統領が2022年2月に発表した原子炉建設再開計画を、国家主導で実行に移すことになる。

ボルヌ首相がEDFの国有化を発表した7月6日は、天然ガスと原子力による発電などを持続可能な経済活動に含めるとするEUタクソノミー委任規則案が欧州議会で承認された日と重なった。パニエ=リュナシェ・エネルギー移行相は7月4日付のレゼコー紙に、欧州9カ国のエネルギー担当相と共同で、気候変動に対応し、欧州のエネルギーの自立性を高めるため、原子力を上述の活動に含め大規模な投資を行うことが不可欠な旨を、訴えていた。

政府は別途、ロシア依存からの脱却に向けた代替エネルギーとしてバイオメタンの生産拡大(注3)を打ち出している。エコロジー移行・国土結束省は4月28日、バイオメタンの固定価格買い取り制度および生産証明制度(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの導入を発表した。前者については、2023年末まで3つの期間に分けてバイオメタン製造業者を公募。落札した事業者から、バイオメタンを15年間にわたり固定価格で買い取り、年間1.6TWhの生産量を確保する。

バイオガス生産証明制度は、天然ガスの供給事業者にバイオガス開発への貢献を促すもので、バイオガス製造事業者が発行するバイオガス生産証明書の購入を、大手の天然ガス供給事業者に義務付けた。4月25日付デクレ(政令(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によれば、同措置の対象は天然ガスを年間400GWh超供給する事業者に限られるが、同基準を毎年100GWh引き下げ、拡大する。

車、住宅、製造業の脱炭素化を加速

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、政府が2022年3月16日に発表した経済・社会レジリエンス計画には、車や住宅、製造業の脱炭素化加速に向けた追加措置が盛り込まれた。まず、ガソリン燃料車の電気自動車への移行を推進するため、低公害車購入に関わる補助金(電気自動車6,000ユーロ、プラグインハイブリッド車1,000ユーロ)支給の提供期間を7月1日まで延長した(政府は6月30日、12月31日までの再延長を発表)。さらに、ボルヌ首相は7月6日の施政方針演説で、マクロン大統領が電気自動車の普及について選挙公約した、月額100ユーロの公的リース制度の導入を目指すとした。

住宅の省エネ改築支援制度「マ・プリム・レノブ」について、ガスボイラーをヒートポンプやバイオマスボイラーに買い替えた場合の助成金を2022年4月15日から12月末まで1,000ユーロ増額した。

製造業の脱炭素化については、経済復興策と、その後継策である国家投資計画「フランス2030」に組み込んだ、支援措置(前者12億ユーロ、後者56億ユーロ)の早期実施を目指す。政府は経済復興策の中で、2022年3月までに脱炭素化支援プロジェクトに応募した372件のうち185件に、合わせて10億ユーロを超える補助金を支給した。これらプロジェクトの実現により、製造業におけるガス消費量の7%削減を見込んでいる。

また、政府は3月10日、フランス2030の予算を第4次未来投資計画と統合することで、当初の300億ユーロから540億ユーロに拡大し、このうち50%を環境およびエネルギーの移行に拠出すると発表した。

同予算から1億5,000万ユーロを拠出し、バイオマスボイラーの製造事業や中小・中堅企業による省エネや製造業における脱炭素化プロジェクトを支援する「化石(燃料)ゼロ産業(IZF)(フランス語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」補助金制度を立ち上げ、4月29日にプロジェクトの公募を開始した。今冬に工場における化石燃料の消費を節減するプロジェクトを優先的に選考する。


注1:
ジェトロ計算。前述の一次エネルギー生産量(1,423TWh)を一次エネルギー消費量(2,571TWh)で割った。
注2:
出所は、原油が首相府付経済分析評議会の資料、天然ガスと石炭はエネルギー移行省の資料。
注3:
フランスは、複数年エネルギー計画(2019-2028年)の中で、バイオメタンの年間生産量を2028年までに最大で22TWhまで拡大することを目標に掲げている。政府の4月28日付発表によれば、バイオメタンの導入量は2021年12月末時点で年間6.4TWhと前年から56%増加し、全国365カ所で都市ガス導管への注入が行われている。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
山﨑 あき(やまさき あき)
2000年よりジェトロ・パリ事務所勤務。
フランスの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。

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