特集:EPAを強みに海外展開に挑む-日本企業の活用事例からレムノス、日EU・EPAを活用しデザインクロックの欧州販路拡大を目指す(富山県)

2023年4月19日

タカタレムノス(本社:富山県高岡市)は、置き時計や掛け時計の製造・販売を行っている。従業員数は約30人の中小企業だが、北米や欧州、アジアなど世界各国において製品を販売している。欧州事業ならびに日EU経済連携協定(EPA)の利用状況について、同社専務取締役の菊地圭輔氏に聞いた(取材日:2023年3月17日)。

海外展開にあたり、現地パートナーとの関係構築を第一優先に

タカタレムノスは、鋳物による仏具などの製造・販売を行う高田製作所(創業1947年)から、1984年に時計事業部が分離し設立した。海外展開に本格的に取り組み始めたのは2010年だ。それ以前も個々の商品の輸出はしていたが、レムノスというデザインクロック・ブランドとして海外展開したいという思いから、取り組みを本格化させた。

同社が海外展開においてまず優先したのが、現地パートナーの発掘および関係構築だ。当初から海外展示会への出展に関心を持っていたが、すでに海外展開に取り組んでいた他社から、流通やコスト面などで海外からの引き合いをビジネスにつなげる難しさを聞いていたため、まずは土台固めを重視した。デザイン的な哲学やコンセプトを持った商品が多く存在する欧米市場への参入を特に意識していた。北米においては、ジェトロのバイヤー招聘(しょうへい)事業において商談した現地代理店と契約締結した。欧州においては、ビジネスを堅実に手がけ、かつレムノスの思想を理解し、共感してもらえるパートナーを探していたところ、デザイナーからドイツ企業を紹介され契約を締結。現在、これら2社とは10年以上の付き合いになる。現地代理店は販売促進だけでなく、簡単な修理対応などのアフターサービスも行っている。タカタレムノスは、できるだけ長く製品を使用してもらうために、保証期間内外を問わず修理を行っており、この想(おも)いが代理店にも共有されているためだ。このような考え方の共有も代理店と長期的な関係を構築するためには重要だと、菊地氏は語る。


ドイツのショールームにて展示しているデザインクロック(タカタレムノス提供)

2011年からは現地代理店とともに、ドイツのフランクフルトで開催される世界最大規模の国際消費財見本市「アンビエンテ(Ambiente)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(2023年2月16日付ビジネス短信参照)に出展、2019年まで継続出展した。出展を始めた当初は欧州市場において知名度は高くなかったが、出展を重ねるにつれレムノスというブランドを知る人が増えた。継続して出展していることが来場者に安心感を与えており、ブランドを広げるためには、出展の結果がすぐに出なくても継続することが大切であると、菊地氏は語る。またアンビエンテに毎年出展する中で、来場者から欧州市場参入に当たってのアドバイスを受けた。アンビエンテは欧州以外の地域からの来場者も多く、広い地域のバイヤーにアプローチできる一方で、時計の専門見本市ではない。欧州市場参入のためには時計専門見本市へ出展した方がよいのではないか、というものだ。このアドバイスを参考に、2020年にドイツのミュンヘンで開催される時計の専門見本市「インホルゲンタ(Inhorgenta)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」に出展。同展示会で展示されている置き時計・掛け時計はクラシカルなものが多い中で、同社のデザイン性に富んだ製品は来場者の目を引き、手応えを感じた。2021年以降は新型コロナ感染拡大により出展できなかったが、今年(2023年)の来場者数はコロナ禍以前の水準に戻ってきているという情報を現地代理店から得ており、2024年からは出展を再開する計画だ。


インホルゲンタ展示会出展の様子(タカタレムノス提供)

同社製品の特長は、木材や金属など様々な素材を用いて時計を1つずつ手作りしていることだ。多くの企業が、加工しやすい合成樹脂などの素材で大量生産する中で、世界的に見ても珍しいブランドであると、菊地氏は語る。製品開発においては、国内市場の確保を優先しており、日本国内において売れる製品を開発することが大切と考え、海外向けに特化した製品の開発はしていない。国によって時間に対する考え方や、ひいては時計に求めるものが異なる中で、時間に正確である日本人が時計に求めるデザインとすべく、日本人デザイナーとともに製品開発をしている。一方で、海外市場の開拓により様々な情報を得ることができ、製品のバリエーションを増やすことができた。その結果、国内だけでなく海外市場でも売れる製品が増えている。

日EU・EPAを利用し、欧州市場へのさらなる販路拡大を目指す

日EU・EPAの利用は、ドイツの代理店から同EPAの発効直後に利用を勧められたことがきっかけだ。利用開始直後に、原産地に関する申告文の文言に誤りがあったケースや、通関で申告文を見落とされてしまい、特恵関税が適用されなかったケースもあったが、その都度、現地代理店やジェトロ富山に相談し対応を行っている。現地での販売価格の設定は代理店に一任している。関税削減により、代理店が同社製品を輸入しやすくなることで、現地で製品を広げていこうという意欲につながっていると感じている。

欧州における販売先としては、家具や時計などを扱うインテリア専門店などに加えて、英国のテート・モダンやドイツのバウハウスなど著名なミュージアムショップもある。欧米のミュージアムショップは、他のショップが新商品を発掘する際に参考にすることが多く、著名なミュージアムショップとの取引がきっかけになり海外からの引き合いを受けることも多いという。

また、同社はウェブサイトの英語ページを充実させ、海外向けの情報発信にも力を入れている。日本語だけの場合、国内市場のみを対象とする企業だと思われる可能性があるため、海外の人が特に関心を持つと思われるコンテンツとして、製品や企業の歴史、アーカイブ、展開国などについて、現地代理店のアドバイスを受けながらページを作成している。英語ページの開設により海外からの引き合いが増えており、海外展開に取り組む企業には英語ウェブサイトを作成することを勧める、と述べた。


インタビューに応える菊地専務取締役(ジェトロ撮影)

様々な取り組みが実を結び、海外進出から5年目を迎えた頃に事業は軌道に乗り始め、10年を超えた頃から輸出量がさらに増え、海外展開におけるステージが上がったことを感じた、と言う。同社は多数の国と取引をしているため、1カ国とのビジネス環境に変化があっても、海外事業全体に対しては大きな影響は受けづらく、リスク分散につながっている。今後も海外展開を太く長く行っていきたいと考えており、欧州市場もドイツの代理店と協力しながら強化する予定だ。そのためには、海外市場への攻めだけでなく、受注量が増えた場合も遅滞なく対応ができるよう、国内側の受ける体制の強化を図っていく考えだ。

執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
牧野 彩(まきの あや)
2011年、ジェトロ入構。企画部情報システム課、ジェトロ福島、ジェトロ・ロンドン事務所を経て、2022年5月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課
平井 美咲(ひらい みさき)
2022年11月から海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。

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