特集:アジア大洋州で加速する電気自動車の普及の取り組み余剰電力活用や化石燃料輸入削減を期して(ラオス)

2022年4月12日

ラオス政府は、2021年10月4日付で、「電気自動車(EV)優遇の承認に関する政府合意(No.08/GOV)」を公布。2025年までに国内で利用される全車両の1%以上、2030年までに30%以上をEVにする目標を掲げた(2021年10月12日付ビジネス短信参照)。また、エネルギー鉱山省を交えて翌11月に開催された党会議では、2022~2025年の間に輸入する全車両の30%をEVにし、その後2030年までの間に50%以上にする方針が提案された。

本稿では、ラオスのEVを取り巻く現状と今後について、政府の振興策、またEV普及に向けた課題などに触れつつ考察する。

動き出しつつあるEV振興策

ラオスは、2019年1月に策定した「国家グリーン成長戦略」の中で、初めてクリーンエネルギーを使用する車両の生産、輸入、利用を奨励する方針を示した。その後、2021年から開始された「第9期・社会経済開発5カ年計画(2021~2025)」でも、エネルギー分野において、クリーンエネルギーの生産と消費の拡大に努め、化石燃料の輸入を減らす観点からEV化にシフトする方向性を示した。そして現在、エネルギー鉱山省、公共事業運輸省、財務省が中心となり、EV推進のための具体的な政策を立案している段階にある。

政府がEV普及を推進する理由としては、(1)国内で生産される余剰電力の有効活用、(2)貿易赤字削減のための化石燃料の輸入削減などが挙げられる。他方、こうした課題の解決だけが理由ではない。ラオスでは、発電に当たっての再生可能エネルギー(再エネ)比率が、水力を含めて既に7割を超えている。これを強みとして、さらなる低炭素社会の実現に向け、取り組みが模索されている。


ビエンチャン・モーターショー(2022年3月)に展示中の中国製EV(ジェトロ撮影)

余剰エネルギーの活用を模索

ラオスは電源開発に長年、注力してきた。2020年末までに、全国の発電所は81カ所〔総発電容量1万328メガワット(MW)〕に拡大。実際の電力生産量でも、3万9,939ギガワット時(GWh)に達した(2020年時点)。

また、発電された電力のうち、8割を超える3万2,3501GWhをタイやベトナムなどの周辺国に輸出している。電力の輸出総額は18億5,856万ドル。全輸出額の30%、GDPの9.7%に相当する。電力は、ラオスの最大の輸出産品なのだ(注1)。

他方、エネルギー鉱山省によると、2020年にラオス国内に供給された電力は、輸入電力を加えて7,684GWhだ。ラオス国内で電力供給を一手に担うのが、ラオス電力公社(EDL)だ。その2019年版年次報告書によると、同年の国内の電力消費量は6,596GWhGwhだった(注2)。ラオス政府は2019年から、電力供給と活用を見直す政策を導入している。現在も相応の余剰電力が供給されていると思われ、その有効活用が急務になっている(2019年6月20日付ビジネス短信参照)。

他方、ラオスの電源構成(発電量ベース)をみると、水力発電が71.2%と大部分を占める。次いで火力発電(褐炭)が28.4%。太陽光発電およびバイオマス発電(注3)が、それぞれ0.2%、0.1%だ(表参照)。さらに、現地報道によると、国内に供給される電力に限れば、電源構成は、水力が91%、火力は3%、太陽光バイオは5%になる(「パサソン」2021年11月10日)。

このように水力が中心とは言え、ラオスで再エネの使用比率は既に高い。そのため、こうしたラオスの電源構成モデルが、低炭素社会実現の観点から世界的に注目されつつある。

ラオスの「電力エネルギー開発戦略」では、2030年までに電源構成を水力75%、火力14%、その他の代替エネルギー11%にする計画が示されている(「パサソン」2022年2月2日)。今後も、再エネ使用率をさらに高めていく考えに立っていることが読み取れる。

表:ラオスの電源構成(2020年)
発電量/構成比 水力 火力(褐炭) 太陽光 バイオマス 合計
ギガワット時(Gwh) 28,453 11,355 79 52 39,939
総発電量比(%) 71.2 28.4 0.2 0.1 100

出所:エネルギー鉱山省統計からジェトロ作成

EV普及で化石燃料輸入の削減を期す

ラオス商工省によると、2020年のガソリンなどの化石燃料の輸入額は6億1,100万ドル。全輸入額の12%を占め、GDPの3.2%に相当する。輸入量(注4)は、13億4,000万リットルだ。このうち、ガソリンは2億9,000万リットル(輸入化石燃料の22%相当)、軽油が9億9,000万リットル(74%相当)に及んだ。

前出の「国家グリーン成長戦略」によると、現状、輸入した化石燃料の80%は、自動車燃料などの輸送用に使用されている。エネルギー鉱山省による試算では、2022~2025年に輸入する車両の30%をEVとすることで、2025年までに化石燃料の輸入量を1億4,000万リットル削減できる可能性がある。これは、金額にして約1億4,000万ドルに相当するという(「ビエンチャンタイムス」2021年11月17日)。

なお、日系自動車メーカーの関係者によると、トラック・バスを除く自動車は、ラオスに年間1万台ほどが輸入されている。仮に、エネルギー鉱山省の計画通り、2025年までに輸入する車両の30%がEVになり、2030年に50%以上になると、2025年のEV年間輸入台数は約3,600台、2030年に約7,700台に及びそうだ(注5)。

減税措置も検討

こうしたなか、政府は、クリーンエネルギーを使用する自動車や二輪車の物品税率(注6)を引き下げた。2022年1月からは、3%になっている。対して、ガソリンや軽油を使用する自動車には、排気量に応じて26~102%、二輪車は10~110%が課されている。

そのほかにも、前出の政府合意(No.08/GOV)で、政府はEV普及のための優遇方針を示した。あわせて担当機関には、早急に必要な法整備を進めることが指示された。例えば、財務省には、国内でのEV生産推進のために、自動車の組み立て工場の設立にかかる優遇制度の構築、充電ステーション拡充にかかる諸税・手数料の軽減が要請された。また、エネルギー鉱山省に対しては、EV充電用の電気料金について、ガソリンや軽油の価格と比較しても、価格競争力を維持できるよう、施策の検討を指示している。

関連して、エネルギー鉱山省・代替エネルギー研究所のチャントー・ミーラッタナサイ所長は2021年11月、政府に提言。EV充電用の電気料金について、(1)乾季は955キープ(約9.6円、1キープ=約0.010円)/キロワット時(kWh)、(2) 雨期(余剰電力が多い)は677キープ/kWhとする案を、提出した(注7)。また、化石燃料を使用する車両の輸入台数を減らすため、(1)輸入関税を現行の35~40%から70%に引き上げること、(2)物品税を5%、付加価値税を10%、それぞれ増税すること、についても働きかけている(「パサソン」2021年11月22日)(注8)。

政府調達でもEV優先

前出の政府合意(No.08/GOV)には、政府調達についても盛り込まれた。公用車を原則EVとするほか、国営企業や公共交通機関で利用車両のEV化を徐々に進めることが規定された。これを受けて、首相府は2021年12月、中国のBYD製EVの調達を決定した。また、ビエンチャン市の都市管理サービス室では、韓国政府の支援の下、中国製のEVごみ収集車4台を2022年2月から試験的に導入。2022年末までに追加で20台を調達する予定だ(「ビエンチャンタイムス」2022年3月7日)。政府合意に先駆けて、EDLは2021年5月から既に中国のGBモーターおよびBYDのEVを5台調達し、試験利用を開始している。

政府のEV活用が加速する中、市民のEVへの関心も徐々に高まっている。2022年3月の「第3回ビエンチャン・モーターショー」で展示されたのは、ガソリン車ばかりではない。加えて、ジャガーやBMWなどの欧米主要ブランドや、中国のBYD、紅旗(ホンチー)、GBモーター、GACモーターなどが競ってEVを紹介。来場者から注目を集めた。また昨今では、ソーシャルメディアなどのインターネット上でも、EVに関する情報が活発に発信されている。

市民のEVに対する関心が高まった背景には、2021年からの原油価格の上昇、現地通貨のキープ安などがある。その結果として、ラオス国内でガソリンや軽油価格が高騰した。2022年3月10日時点で、ガソリン価格は1リットル当たり1万6,380キープ(約167円)、軽油は1万4,510キープ(約148円)。前年同期比でそれぞれ67%、66%値上がりした。

ラオスでは現在、中国製の超小型EVが6,000万キープ(約61万円)ほどの価格で販売されている。当地のEV(セダンタイプ)保有者によると、一般道と高速道路を組み合わせて運転した場合、電力消費量は1キロメートル当たり平均0.14kWだった。電気料金に換算すると、143キープ(約1.5円)に当たる。他方、排気量2,000ccのガソリン車で、同様のルートを走行した場合、ガソリン価格は1キロメートル当たり平均816キープ(約8.3円)。EVは燃費が優れ、大きな節約になるという。

普及に向け、なおも課題山積

国内での本格的なEV普及に向けては、多くの課題が残されている。それらを列挙すると、以下が考えられる。

  • まずは、従来のガソリン車と比較した場合のEVの車体価格の高さだ。現在、ラオスで販売されているEVの多くには、200万円以上の価格帯が設定されている。ラオス人の一般的な購買力を考えると、まずは廉価なEVが求められることは言うまでもない。
  • 国内では、場所によって道路の整備が十分ではない。悪路にも十分に対応できる耐久性や安全性も確保されなければならない。
  • 充電ステーションの拡充も必要。
  • EVの販売に際して、国内制度上、販売店はメーカーと代理店契約を結び、メンテナンスセンターを設立する必要がある。しかし、こうしたメンテナンスサービスの提供体制が整ってない販売店も散見されるのが、現状だ。加えて、使用により劣化したEVバッテリーを安全に処理できる施設も早急に整備する必要がある。
  • 電動バイクについては、これまでに列挙した以前の問題がある。
    まず、販売店舗が少ない。市民の関心も低い。
    ラオスでは、二輪車に複数人乗りすることが多く、荷物の運搬にも多用される。しかし、現時点で販売される電動バイクは、そのために十分な馬力を備えていない。
    さらに、1回の充電で走行できる距離がガソリン車と比べて格段に短い、補修部品の調達への不安が残っている、といった点も挙げられる。

このように、EV普及に向けた課題は多く残されているのも事実だ。だとしても、ラオス政府の積極的なEV普及政策や、市民の関心高まりなどから、EV導入の動きが今後、加速する可能性がある。この点、日系自動車メーカーの関係者は「平均年齢が低く、新しいものに敏感な若者が多いという社会の特性を背景に、EV化が急速に進む可能性もある」と述べる。個別企業の動きを含め、今後のEV普及状況を見極めていくことが大切だろう。


注1:
当段落の内容詳細は、ジェトロ「世界貿易投資動向(ラオス)2021年版」PDFファイル(1.60MB)参照。
注2:
執筆時点(2022年3月)で、EDLは2019年次報告書までしか発表していない。従って、2020年の国内電力消費量は未発表。
注3:
ラオスでのバイオマス発電は、サトウキビ搾りかすの焼却が主。
注4:
当記事で言及した化石燃料の輸入量は、ラオス燃料ガス協会の報告に基づく。
注5:
2021年の車両輸入台数を自動車1万台とし、年間5%で増加すると仮定して算出。
注6:
自動車や二輪車に対する物品税は、輸入時または販売時に課税される。
注7:
一般家庭向けの電力料金は現時点で、月の総電力消費量に応じて算出される。そのkWh単価は、0~25kWhで355キープ、26~150kWhは422キープ、151~300kWhは815キープ、301~500kWhは984キープ、500kWh以上は1,019キープ。
注8:
現行、物品税は26~102%、付加価値税は7%。ラオスでは輸入、国内生産、国内消費される財・サービスに付加価値税(日本の消費税に相当)を課税。また加えて、自動車やバイク、アルコール製品などの特定品目(ぜいたく品・嗜好品)に物品税を課税。
執筆者紹介
ジェトロ・ビエンチャン事務所
山田 健一郎(やまだ けんいちろう)
2015年より、ジェトロ・ビエンチャン事務所員